太宰治『新ハムレット』の詳しいあらすじ

太宰治作『新ハムレット』の詳しいあらすじを紹介します。ネタバレ内容を含みます。

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はしがき

 この作品は『ハムレット』の注釈書でも新解釈でもなく、作者の創造の遊戯に過ぎないということ、戯曲のつもりで書いたのではなく、あくまで小説だと思ってもらいたいこと、坪内博士の「ハムレット」と、浦口文治の新評註ハムレットを一通り読み、四ヶ月かけてこれを書き上げたことが、作者からの注釈として書かれています。

一 エルシノア王城 城内の大広間

 二ヶ月前に突然先王が亡くなったデンマーク王国では、その弟であるクローヂヤスが王となり、先王の妻であったガーツルードと結婚しました。
 城内の大広間では、初めての謁見式が行われることとなり、クローヂヤスは、いつノルウェーとの戦争が起きるかわからないデンマークの王位を空けておくことができなかったために、自分が跡を継ぎ、ガーツルードと結婚することになったのだと皆に向けて説明しています。

 その王に、宰相ポローニヤスの息子レヤチーズが、フランスへもう一度留学させて欲しいと頼みます。先王が死んだためにデンマークへ帰って来ていたレヤチーズは、父親にフランスへ帰して欲しいとうるさく頼み、クローヂヤスにお願いしてみるようにと言われていたのでした。
 先王の息子ハムレットは、父の死から憂鬱な日々を過ごし、その日の謁見式も喪服で出席していました。彼もまたフランスへの遊学を望んでいましたが、クローヂヤスは、いずれ自分の王位を継ぐことになるので国内で少しずつ政治を学んでほしいと、遊学に懸念を示しました。

 ハムレットの母ガーツルードは、自分の身の上を嘆くハムレットは、二十三歳にもなって甘えているだけであり、いたわらないで叱ってやるようにと、クローヂヤスに頼みました。
 クローヂヤスはガーツルードをなだめながら、ハムレットの感傷は純粋なものであり、それを自分たちの生活に同化させるのは罪なことだと語り、彼と二人きりで話そうと試みました。

 クローヂヤスは、ハムレットと二人きりになると、腹蔵なく話し合うことを提案しました。
 ハムレットは、叔父としてのクローヂヤスのことは好いていたものの、父親としては嫌いなのだと告白しました。
 クローヂヤスもまた、以前はハムレットのことを可愛い甥として心から愛していたものの、我が子として思うことはできないのだと語りました。しかしデンマーク王国のために自分たちの心が離れたままにはしておけないため、臣下の見ている前だけでも、自分と仲のよいふりをし、父と呼んでもらうことを望んでいました。
 ハムレットは、その望みには答えず、ウイッタンバーグの大学に行かせてほしいと頼みました。
 クローヂヤスは、その願いは自分に反抗するための口実に過ぎないだろうと邪推し、自分の放埒な大学生活を例に挙げてハムレットの落ちてみたいという情熱を否定し、国王の子としての自覚を深めてほしいと促しました。
 ハムレットが返答を言い淀んでいると、クローヂヤスは、ハムレットの大学の友人のホレーショーをもうすでに呼んであるのだと打ち明けました。
 ハムレットは、礼を言いました。

 一人になったハムレットは、放埒な生活をしていた叔父がどれだけ神妙な顔つきをしても、王になる資格はないのだと考えました。しかしクローヂヤスがホレーショーを呼んだことは、友人に聞いてもらいたいことのあるハムレットの望みでもありました。
 ハムレットは一人考え込み、父が死んでから生活は滅茶滅茶になり、母ガーツルードもクローヂヤスの味方になってしまったため自分は狂ってしまったのだと嘆き、逃れる方法は自殺だけだとつぶやきました。

二 ポローニヤス邸の一室

 荷造りを終えたレヤチーズは、妹のオフィリヤに留守の間の父ポローニヤスの世話を頼んでいます。
 ニヒリストで道楽者のハムレットを嫌っていたレヤチーズは、オフィリヤがハムレットに恋をしていることに気づいており、良い青年を見つけてあげるので、今の恋を諦めるようにと忠告しました。
 ポローニヤスがやってきて、学校の成績を気にかけないこと、落第しないこと、一学年上の学生をひとり友人にすること、同学年の秀才と親交を結ぶこと、金銭の貸し借りをしないこと、飲酒は適度に行うこと、酒の席での約束をしないこと、女の誘惑に遭っても自惚れないことといった、これまでにも何度も聞かせている遊学の心得をレヤチーズに与えました。
 その忠告は、息子がすべて心得ている大人であることを知りながら、自分の行く末をひどく心配している者が一人いるということが堕落を防ぐという考えから行ったものでした。
 レヤチーズが旅立って行くと、ポローニヤスは、息子を立派にさせるために散々小言を言ってきたものの、教育というものはそのような心の駆け引きだけのものではないことが分かってきたと語りました。オフィリヤは、それがレヤチーズではなく、自分に向けられた叱責であることに気づきました。
 ポローニヤスは、自分の駆け引きをすぐに見破ってしまったオフィリヤに、心の内を何もかもを打ち明けてほしいと頼み、なせレヤチーズから小言を言われていたのかと聞きました。
 オフィリヤは、何もかもを知っていながらハムレットとのことを聞き出そうとする父を非難し、泣きだしました。
 ポローニヤスは、ハムレットの評判が落ちた今になってこのような噂が広まってしまっては、二人が結ばれるにはもう遅いだろうと、自分に隠し立てをしながらハムレットと会っていた娘を責めました。

三 高台

 ホレーショーと再会したハムレットは、ウィッタンバーグ大学の様子を聞きました。

 ホレーショーは、大学の人々がハムレットの乱心を噂していると答えました。ハムレットは、そのような噂を流したのがクローヂヤスだと信じて疑いませんでした。しかしホレーショーは、クローヂヤスの手紙にはハムレットの話し相手になってほしいと書かれていただけだと答えました。
 またホレーショーは、このごろエルシノア城に幽霊がでるというデンマーク中の噂を伝えました。ハムレットは、この噂を笑い飛ばしました。
 ホレーショーは、クローヂヤスの人柄を信じているかと聞きました。ハムレットは、信じているかどうかについて答えかねたものの、気が弱いのに王位についたことは気の毒でもあり、悪い人ではないと考えていると告白しました。その言葉を聞いたホレーショーは、これからもクローヂヤスを変わらず信じてあげてほしいと頼みました。
 ハムレットは、幽霊が出るという噂についてホレーショーに聞きました。
 ホレーショーによると、先王の幽霊が毎晩ハムレットの枕元に現れ、ガーツルードに恋慕したクローヂヤスに、寝ている間に耳に毒液を注がれて殺されたと訴え、仇をとってほしいと頼んでいるという噂が広まっているようでした。
 その話を聞いたハムレットは、幽霊が自分のもとへ現れるという噂は真実であると打ち明け、父のためだけでなく、根も歯もない噂を立てられて民から嘲笑されている叔父や母のためにも、その根拠を見つけてみせると誓い、ホレーショーにその手助けを求めました。
 ホレーショーは、クローヂヤスに直接尋ねても、いたずらに苦しめるだけだと助言し、いずれまたこの件に関して相談したいと申し出ました。
 ハムレットは、もう一つ苦しい秘密があるのだと打ち明けました。二人はまた翌日、落ち着いてから語り合うことを約束しました。

四 王妃の居間

 王妃の居間で、ガーツルードとホレーショーが話し合っています。ここでクローヂヤスに頼んでホレーショーを呼び出したのはガーツルードであったことが明かされます。
 ガーツルードは、ハムレットが取り止めのないことばかりを口走り、すぐにクローヂヤスに食ってかかることを嘆き、大好きであった父親が「心臓病」で死んだことや、自分が「デンマークのために」クローヂヤスと結婚したことで、息子がどのようにすればよいか分からなくなったのだろうと語りました。
 ホレーショーは、ハムレットが自分の尊敬する唯一の人物であり、もっと彼を大事にしてあげてほしいとガーツルードに頼みました。
 これを指図ととったガーツルードは、気を悪くしながら、ハムレットが何を言っていたかと聞きました。
 ホレーショーは怯えながらも、ハムレットはガーツルードが疑うような口止めをするような男ではないと請け合い、王と王妃たちのことを気の毒がっていたことを正直に語りました。
 しかしガーツルードはなおもホレーショーに詰め寄りました。するとホレーショーは、叔父の愛情を信じようとしているハムレットの気持ちを何もわかっていないガーツルードのことが気の毒なのであり、ハムレットの気質は高潔で明快なのだと答えました。
 ガーツルードは、それでもハムレットのことを信じられず、ホレーショーが彼をかばって何か隠しているのではないかと疑い、ハムレットが何で苦しんでいるのかと聞きました。
 ホレーショーは、ハムレットには内心の苦悩があることに気づいたものの、その原因が何であるのか分からなかったのだと正直に答え、幽霊の噂を打ち明けたことで、家庭に火をつけてしまったと悔み、自分が皆を裏切ってしまったユダであると泣きながら嘆きました。
 ガーツルードは、ホレーショーに下がってもよいと指示しました。

 そこへクローヂヤスがやってきて、退室しようとするホレーショーを引き止め、ハムレットが苛々しているのは、オフィリヤが妊娠していたためであったと伝えました。ポローニヤスは、これをクローヂヤスに伝え、辞表を出したようでした。
 クローヂヤスは、ハムレットが悲しみに耐えきれずにオフィリヤに慰みを求めたに過ぎないだろうと考え、彼女をしばらく田舎に引き籠らせれば、すぐに二人は別れるだろうと語り、ホレーショーにハムレットとよく話して、その本音を聞いてみてほしいと頼みました。

五 廊下

 廊下でポローニヤスがハムレットに話しかけ、今朝辞表を出したことを伝え、城内に広まっている噂のせいで、自分たちの一家は田舎に引きこもって貧乏な百姓として一生を送らなければならなくなったと非難しました。それはオフィリアの妊娠についての話でしたが、ハムレットは、それが自分の乱心に関する話であると勘違いし、その噂を知らなかったポローニヤスを迂闊だったという発言を行いました。
 二人は諍いとなり、ハムレットはポローニヤスの頬を殴りました。
 しかしやがてハムレットは、自分が早合点をしたことに気づき、叔父や母とうまく行かないことを相談しようと思っていた相手がポローニヤスであったと打ち明け、殴ったことを謝りました。そして自分はオフィリヤと結婚すると誓い、噂の真相を確かめるまではクローヂヤスとガーツルードに打ち明けることがどうしてもできないので、今はそっとしておいてほしいと頼みました。

 ポローニヤスは、若いハムレットを信用することはできませんでしたが、オフィリヤが一時の慰み者ではなかったことだけは理解し、彼に協力することを約束する代わりに、もう少ししっかりしてほしいと頼みました。
 ポローニヤスは、娘の幸福のために思いついたことがあるので、力を貸してほしいとハムレットに頼みました。

 そこへホレーショーがやってきて、二人の会話は途切れました。
 ホレーショーによると、ハムレットのオフィリヤへの気持ちは冷たくなっているとクローヂヤスは考えており、オフィリヤを田舎に引き篭もらせて万事を解決すると言っていたようでした。
 これを聞いたポローニヤスは、この王の処置が分かっていたからこそ、自分は計画を立てたのであり、ハムレットのためだと思って、これから話すことに協力してほしいとホレーショーに頼みました。
ホレーショーは、ポローニヤスの頼み通り、他言しないことを約束しました。
 ポローニヤスは、先王の幽霊の噂についてクローヂヤスに相談した時のことを語りました。その時クローヂヤスの顔は曇っており、ポローニヤスは相談を躊躇しました。それ以来、これが杞憂であってくれたらよいと考えながら、彼は少しずつ王を疑うようになり、やがて娘が不憫のあまり、噂の真相を確かめることが人間の義務であると考えるようになりました。
 これらのことを語り終えたポローニヤスは、王を試してみようと言って、ハムレットとホレーショーにある計画を持ちかけました。

六 庭園

 ガーツルードは、オフィリヤに体の調子を尋ねました。オフィリヤは、今朝になってようやく体が軽くなり、ものの匂いも平気になったと語りました。ガーツルードは、自分が相談相手になれるだろうと語りました。
 ガーツルードは、この二ヶ月間で先王の頃の平和は去り、城内では意地の悪い噂が蔓延っているのに、ハムレットはオフィリヤにうつつを抜かし、臆病者であるのに無鉄砲なことばかりやらかし、後の始末ができずに泣きべそをかき、自分たちに始末をしてくれるのをすねながら待っているだけの甘えっ子の男なのだと語り、この世を知っているレヤチーズを褒めました。オフィリヤは、レヤチーズもまた本心では他人の思惑を気にしており、そのような兄を嫌いではないけれども、なんでも打ち明けて語ろうという気持ちにはなれないのだ、そしてその気持ちは父親に対しても同じなのだと語りました。
 オフィリヤは、自分がガーツルードのことを母親と呼んで甘えることができるのではないかという淡い期待を抱きながら懸命に慕い、ハムレットとの関係を結んだに過ぎないのだと語りました。
 ガーツルードは、オフィリヤのその気持ちは自分の身分に憧れているに過ぎず、ハムレットの身分に気を取られて彼を拒まなかったのだろうと言いました。
 しかしオフィリヤは、自分はガーツルードを本当に慕っていたのであり、その気持ち故に打算なくハムレットの子を授かったのだと主張しました。
 彼女は、自分を悲劇の主人公にしたがるハムレットのことを好きではあっても、夢中になったわけでは決してなく、ガーツルードの孫を産み、育てることだけが今後の楽しみでありながら、謝ることが白々しい気がして、できないのだと語りました。
 ガーツルードは、その言葉に涙しながら、正直なオフィリヤに比べ、自分は汚く、いやらしいと、許しを乞い始めました。
 オフィリヤは、ガーツルードを落ち着かせるために腰掛けに座らせました。その腰掛けは先王の臨終の時のものであり、オフィリヤはその時悲しみに打ちひしがれたことを語りました。
 するとガーツルードは、自分は間違ったことをしたと嘆き、これからは気を付けて生きるようにとオフィリヤに忠告を与えました。

七 城内の一室

 ハムレットは城内の一室で、遊ぶことばかり考えている自分は馬鹿だと独りつぶやき、あれこれと刺激を求めて歩き続けた結果、オフィリヤにひっかかり、やがて父親になるというのも奇想天外なものだと語りました。
 ポローニヤスは、自分が花嫁役となって、イギリスの女流詩人の作品を三人でやろうと言いだしたようでした。その内容は、クローヂヤスとガーツルードにとっては手痛いはずであり、劇の進行中に二人がどのような顔をするか見てみようというので、ハムレットはポローニヤスに追従し、ホレーショーとともにその提案に乗ったのでした。
 ハムレットは、自分があらゆる女を手に入れたい、あらゆる人間から畏敬されたいと考えていながら、人から軽蔑され、それを敬意か愛情の現れだと勘違いして有頂天になってしまうことや、ホレーショーやポローニヤスも皆可哀想だと考えながら、その気持ちを言葉で表すどころか、まるで反対の行動を取ってしまう自分は大馬鹿野郎であると嘆きました。

 そこへポローニヤスが現れました。ハムレットは、生きている人間は皆可哀想だと語り、叔父が悪いことをしているという証拠を得て何になるだろうとポローニヤスに問い、正義を振りかざすのはやめようと提案しました。
 ポローニヤスは、ハムレットの大袈裟なのを責め、淡白で無邪気に張り切って劇の練習に取りかかったホレーショーを見習うべきだと諭しました。

 そこへ、クローヂヤス、ガーツルードとホレーショーが現れました。

 クローヂヤスは、楽しみがなくなってしまったこの時期に、ポローニヤスがこのような催しを開いたことを喜んでいました。ガーツルードは、朗読劇をなぜ始めることにしたのか、合点が行かない様子を見せました。
 その朗読劇は、イギリスの女流作家の傑作である『迎え火』という劇作を演出したもので、ホレーショーは花婿の役を、ポローニヤスは花嫁の役を、ハムレットは亡霊の役を演じることになっていました。
 花嫁役のポローニヤスは、森の陰から自分の迎え火がやってきたので、しっかりと抱いていてほしいと恋人の花婿役のホレーショーに頼みます。花婿役のホレーショーは、森では星がまたたいていふだけだと花嫁を慰め、抱いてやります。その花嫁に、亡霊役のハムレットが話しかけ、「自分を忘れた筈はあるまい」と一緒に来るようにいざないます。
 花嫁は、それがふとした迷いから結んだ昔の約束を絶えず囁いてくる死んだ過去の恋人の影であると気づき、しっかりと抱いていてほしいと花婿に再び頼みます。
 しかしなおもその亡霊は、自分たちは昔の誓いを果たすのだと、花嫁を連れて行こうとします。花嫁は観念し、亡霊に連れて行かれる前に自分を忘れないでほしいと花婿に頼みます。
 しかし亡霊は、花婿は三日で花嫁のことを忘れるであろう、そして花嫁は新しい花婿の女への嫉妬に苦しみ、自分と同じ苦しみを舐めることになるだろうと語り、花嫁を連れ去ろうとします。

 ガーツルードは、この演技に気を悪くして、出て行きました。
 クローヂヤスは、表向きはその演技を褒め、あとで自分の居間に来るようにポローニヤスに命じました。

八 王の居間

 クローヂヤスは、ポローニヤスがハムレットやホレーショーをそそのかして行った朗読劇を裏切りだとし、オフィリヤの失態を庇うためであれば自分に相談するべきであったと非難し、なぜあのような無礼で馬鹿な真似をしたのかと聞きました。
 ポローニヤスは、王に食ってかかり、オフィリヤを田舎にやって堕胎させ、レヤチーズの遊学も中止となり、一族は没落することが分かっているにもかかわらず、自分は正義のためにあのような芝居を打ったのだと語り、先王の死についての城内の噂についてどう思うのかとクローヂヤスに問いただしました。
 クローヂヤスはとぼけながら、そのような噂があることは承知しており、取り締まるべきだと考えており、いずれポローニヤスに相談しようとしていたと弁解しました。
 ポローニヤスは、このような噂は揉み消そうとするほどに広がるものだと考えていたために、自分が軽率に騒ぎ立て、若い人たちに興醒めさせようと仕組んだものの、ハムレットやホレーショーを反対に熱狂させてしまったのだと語りました。
 クローヂヤスは、そのような馬鹿げた弁解を信じず、ポローニヤスがガーツルードに想いを寄せていたので、嫉妬のあまり癇癪をぶつけたくて、あのようなことをしでかしたのだろうと言いました。
 ポローニヤスは、クローヂヤスこそ自分のような老人にすら嫉妬しなければならないのだろうと返答しました。

 怒ったクローヂヤスは、免職、入牢を命じ、イギリスの姫との結婚を断り、オフィリヤとハムレットとの結婚を認めてあげるつもりであったのに、もはや許すことはできないと言いました。

 ポローニヤスは退出を命じられながらも、クローヂヤスのこの言葉が嘘に違いなく、この二ヶ月、自分の失脚を狙っていたのだろうと喚き立てました。彼はこれまではクローヂヤスの意向に逆らわないように気をつけており、レヤチーズも穿鑿の目から逃れさせるために遊学させたものの、オフィリヤの妊娠の発覚により観念し、忠誠の置き土産をしようと、先王の死因の噂を突き止めようとするハムレットの目を覚まそうとしてきたものの、自ら墓穴を掘ったのだと語りました。

 怒ったクローヂヤスは、ポローニヤスに下がるよう再び命じました。それでもポローニヤスは引き下がらず、自分は失脚させられようとしているのを知っていたため、城から追い出される覚悟をしていたのだと語り、二ヶ月前、先王が庭に出た時に見たことを語ろうとしました。するとクローヂヤスは、短剣でポローニヤスを突き刺しました。
 するとその場に隠れていたガーツルードが逃げ出しました。

九 城の大広間

 城の大広間で、ハムレットは、姿を見せなくなったポローニヤスの消息をオフィリヤに尋ねました。
 演技を終えたハムレットは、今回の朗読劇後の騒ぎが、実はクローヂヤスとポローニヤスによる、自分たちの目を先王の殺害から逸らそうという目的を持って共謀した芝居であったと考え、大人たちによる心理の駆け引きに嫌気がさしていました。

 昨日ガーツルードから優しい言葉をもらい、すっかり元気になっていたオフィリヤは、気の弱い父をハムレットが非難することを悲しみ、もう少し父のことを信頼してほしいと願いました。
 彼女は、クローヂヤスもポローニヤスも、ガーツルードも、平和になごやかに暮らしているだけなのに、ハムレット一人が自分の空想で彼らを悪人にし、苦しめているのに過ぎないのではないかとたしなめました。
 それに対してハムレットは、自分は詭弁家ではなくリアリストであり、自分の悪徳を知っている分、人の後ろ暗さにも敏感で、大人たちの悪徳もいち早く鍵つけることができるのだと語り、自分は大人たちを尊敬し、愛しているのに、彼らは自分を警戒し、求められている愛情を与えず、最終的には裏切るのだろうと主張しました。
 オフィリヤは、自分を嘲るくせを直し、せめて自分の愛を信じなくても、ガーツルードの愛だけは信じてあげてほしいと頼みました。
 ハムレットは、オフィリヤがガーツルードから悪知恵をつけられて、妙に自信を得たのだろうと考え、愛情の言葉を口に出そうとしない母親に、愛は言葉であり、言葉がなければ愛情もなくなるのだと伝えてあげるとよいと語りました。
 オフィリヤは、神は言葉に表すこともないまま、皆を愛していると、ハムレットの意見に反駁しました。
 そこへ、クローヂヤスが多くの侍者を連れてやってきたため、ハムレットは、オフィリヤを逃がしました。

 クローヂヤスは、レヤチーズの船がノルウェーの軍艦に襲われ、交戦の末沈められ、戦争が始まったことをハムレットに伝えました。
 ハムレットは、互いに好いてはいなかったものの、同い年で竹馬の友でもあったレヤチーズの死を悼み、ポローニヤスの胸中も悲痛であろうと語りました。
 クローヂヤスは、詳しくは語らないまでも、ポローニヤスが不忠の臣であり、今はこの城にいないということ、ガーツルードもどこかへ姿を消していることをハムレットに伝えました。
 何か隠し事があるということに気づいたハムレットに対し、クローヂヤスは、自分が先王に殺意を持っていたことを認めながら、先王を自分が殺したという噂は誤りで、急に病気で死んだのだと、なおも嘘をつき、自分の罪を隠し続けました。
 しかしすべてを悟ったハムレットは、裏切り者のなかで暮らし、果ては殺されるに至った父親のことを憐れみ、「裏切者は、この、とおり!」と言って、切先をクローヂヤスに向けながら、突然その短剣で自分の左の頬を引き裂きました。
 クローヂヤスは、ハムレットの気が狂ったのだと考え、傷の手当てを命じました。

 そこへホレーショーがやってきて、ガーツルードが庭園の小川に身を投げて死んだことを伝えました。
 クローヂヤスは、汚辱の中にいながら、耐え忍んで生き、恋も虚栄も忘れて宿命をまっとうすることを自分に誓い、腹の底では泣いているのだとハムレットに語りました。
 ハムレットは、それでもクローヂヤスのことを信じられず、この疑惑は自分が死ぬまで持ち続けるだろうと語りました。