エドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊』の登場人物、あらすじ、感想

エドガー・アラン・ポーの代表作『アッシャー家の崩壊』の詳しいあらすじ、登場人物を紹介するページです。作品の概要や管理人の感想も。

『アッシャー家の崩壊』の登場人物

わたし
この小説の書き手。昔の親友であるロデリック・アッシャーから手紙をもらい、屋敷を訪れる。

ロデリック・アッシャー
神経錯乱の症状がうかがわれる手紙を、わたしに送る。最愛の妹であるマデラインを亡くす。

マデライン
不治の病にかかったアッシャーの最愛の妹。

『アッシャー家の崩壊』のあらすじ

 少年時代の親友の一人のロデリック・アッシャーから、わたしに手紙が届きました。その文章は明らかに神経錯乱の症状を呈しており、ひどく切迫した様子なので、わたしは直接出向くことにしました。わたしはアッシャー家を一瞥するやいなや、暗い気分になりましたた。アッシャーは、暖かく迎えましたが、神経錯乱を抑えようとしており、ふるまいに首尾一貫していない感じをわたしは受けました。これは五感が研ぎ澄まされ、神経がたかぶる、一族に伝わる病なのだと言います。彼は不治の病にかかる最愛の妹マデラインと同居していました。しかし、わたしが到着して間もなくマデラインが死んだため、アッシャーの憂鬱症には、拍車がかかっていました。
 わたしはアッシャーの憂鬱症を癒すため、二人で絵を描いたり読書したりして過ごしました。
 妹の亡骸は棺に入れ、二週間ばかり保存するといいます。
 そのうちに、わたしも徐々にアッシャーに感化され、恐怖の感情に支配され、眠れなくなっていきました。わたしがこの状況から抜け出そうと部屋の中を歩き回っていると、アッシャーがやってきました。アッシャーは唐突に、君はあれを見ていないのかね?と聞いて、嵐に向けて窓を開け放ちました。
 わたしはアッシャーを窓からひきはなし、アッシャーお気に入りの伝奇小説を読んでやりました。それはサー・ランスット・キャニングの『狂気の遭遇』という小説でした。
 物語の主人公であるエセルレッドが、隠遁者の家に力ずくで突入しようとする場面に差し掛かると、小説の描写どおりの、扉を叩き割り引き裂く轟音が聞こえてきました。
 エセルレッドが宮殿を警護している龍を倒し、龍が恐ろしい悲鳴をあげる場面になると、遠くから異常な叫びが聞こえてきました。
 エセルレッドが壁にかかった盾にかかった魔法を取り払い、盾がころげおちた場面に来ると、金属の落ちる鈍い音が響き渡りました。
 わたしが動揺してアッシャーのもとへ駆け寄ると、アッシャーもずっとこの音を聞いていたと言います。アッシャーは、マデラインを棺に入れた時、生きていることに気が付いたものの、そのまま蓋を閉じてしまったようでした。エセルレッドが隠遁者の扉を開けたところはマデラインの棺が反響した音、龍の叫び声は地下牢の鋼鉄の蝶番が軋んだ音、盾が落ちた音はマデラインが地下の銅製のアーチ道をよじ登って来る音だと言います。ほどなく経帷子に包まれた血だらけのマデラインが現れ、うなり声をあげながらアッシャーを押し倒して命を奪いました。わたしが屋敷から逃げ出すと、屋敷は裂け目から崩壊し、沼に飲み込まれていきました。

作品の概要と管理人の感想

 『アッシャー家の崩壊』(The Fall of the House of Usher)は、1839年に発表されたエドガー・アラン・ポーの代表作の一つです。恐怖小説、推理小説、SF小説といった様々なジャンルで後世に多大な影響を及ぼしたポー独特の世界観が随所に見られる短編小説です。

 この作品は、病気を患いながら、人里離れた陰鬱な邸に暮らすロデリック・アッシャーを、書き手である「わたし」が訪れるところから始まります。

 冒頭で描写される、黒く不気味な沼のほとりに佇む屋敷は、暗く陰鬱な雰囲気をたたえており、「わたし」の心を沈ませます。
 そしてそこに佇む古ぼけた屋敷に住む男ロデリック・アッシャーは、アッシャー家に代々伝わる、神経が高ぶる病気を患っており、その神経の興奮を抑えつけようという無駄な努力のために、書き手はどこか気味の悪い印象を受けます。
 「わたし」が到着して間もなく、アッシャーの最愛の妹であるマデラインが病で死に、その遺体は二週間ほど、屋敷内の穴倉の中に安置されることとなります。
 嵐の夜、アッシャーの好きな本を読んでやることにした「私」は、その本に描写されているのと同じ音が、部屋の外から聞こえてくることに気が付きます。それらは、実は生きていたマデラインが、棺をこじ開けて、もがきながら地下からよじ登ってくる音でした。血だらけになりながら二人のいる部屋に姿を現したマデラインは、アッシャーを殺してしまいます。
 結末では、「私」が部屋を逃げ出すと、屋敷全体が真っ二つに崩れ落ち、深い沼の中へ呑み込まれます。

 陰鬱な雰囲気の屋敷、精神錯乱の男、その男の妹の亡骸といった要素を序盤から散りばめ、少しずつこの屋敷の異常性を描写し、その後のクライマックスで、読んでいる本の通りの音が部屋の外から聞こえてくるという、否が応でも恐怖を搔き立てる演出を施し、あっと驚くような結末を用意する。
 そのままCGを用いた現代のホラー映画にもできてしまいそうな作品を、19世紀の序盤で書いてしまったエドガー・アラン・ポーの頭の中にはどのような世界が広がっていたのでしょう?エドガー・アラン・ポーの作品は、その独特な世界観のためか、どれを読んでも全く古さを感じさせることがありませんが、この『アッシャー家の崩壊』は、特にその超時代性が際立っており、むしろ未来的とすら感じてしまう何かがあると思います。