アントン・チェーホフ『三人姉妹』の詳しいあらすじ

アントン・チェーホフ作『三人姉妹』のあらすじを詳しく紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

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第一幕

 ロシアのある田舎町にあるプローゾロフ家の客間で、三女イリーナの名の日の祝い(誕生日の代わりに、自分と同じ名前の聖者の命日を祝う正教徒の習慣)が行われようとしています。町の中学教師の長女オーリガは、女学校の青い制服を着て生徒のノートを直しています。次女マーシャは黒い服を着て本を読み、イリーナは白い服を着て立って考え込んでいます。

 そこへイリーナを祝うため、この町に駐屯している士官の陸軍中尉トゥーゼンバフ男爵、軍医チェブトイキン、陸軍二等大尉ソリョーヌイが現れます。

 オーリガは、ちょうど一年前に死んだ父親を回想しています。十一年前に旅団長になった父は、オーリガ、マーシャ、イリーナを連れてモスクワを発ち、この田舎町へ赴任してきました。オーリガはその後、この土地で中学校の教師になりましたが、この四年間は働き詰めで、自分から力や若さが抜け、モスクワへ帰りたいと言う空想だけが強まってきていることを感じていました。二人の妹は綺麗になったのに、彼女は二十八歳になっても嫁に行くことができず、学校で娘たちに癇癪を起こすために、自分が痩せて老けてしまったのだと思っています。

 トゥーゼンバフは、自分たちの隊の新しい指揮官ヴェルシーニンが挨拶に来るはずだと言いました。オーリガとイリーナはそれがどのような男かと聞きました。トゥーゼンバフによると、ヴェルシーニンは二人の娘を持つ立派な人物で、妻は哲学じみたことをしょっちゅう言って、たまに自殺を企てるようでした。

 この地と手を切ってモスクワへ帰りたいというオーリガの意見に賛同していたイリーナは、その日の朝、晴れ晴れとした気持ちで目を覚ますと同時に、人間は額に汗して働かなくてはならないということを悟ったのだと語りました。

 イリーナに想いを寄せていたトゥーゼンバフは、ペテルブルクの裕福な家庭で育ち、生まれて一度も働いたことのなかったものの、皆が働くようになるであろうこれからの社会では、怠慢や倦怠が一掃されると考え、自分も働こうと言い始めました。

 プローゾロフ家に長い間親しみ、六十歳になるチェブトイキンは、大学を出てから本一冊読み通したことがなく、働こうとは考えようともしていませんでした。

 浮かない顔で歌を歌っていたマーシャは、将校が何十人もやってきた昔日の名の日の祝いを思い出し、今の静かなことにメランコリーを感じて泣き笑いし、その態度をソリョーヌイに揶揄されて怒り始めました。

 そこへ乳母の老婆アンフィーサと、パイをさげた市会の守衛の老人のフェラポントが登場しました。アンフィーサは、市会のプロトポーポフから祝いのパイが届いたとイリーナに差し出しました。しかしイリーナのお礼を言って欲しいという言葉をフェラポントは聞き取れず、アンフィーサとともに出て行きました。

 幼い頃からイリーナのことを非常に可愛がっていたチェブトイキンは、用意していた銀のサモワールを差し出し、六十歳になる自分にとって三人の姉妹はただ一つの生き甲斐であり、死んだ母親のことも大好きであったのだと言いました。
 イリーナは喜ぶことなく、高価なプレゼントを買ったことを叱りました。するとチェブトイキンは腹立たしげに、従卒にサモワールを下げさせました。

 そこへモスクワから赴任してきた町の新しい指揮官ヴェルシーニンがやってきました。彼は、モスクワで姉妹たちの父親と同じ旅団にいたことがあり、プローゾロフ家を訪れたこともあるようでした。そのため、まだ小さかった三人の姉妹を覚えており、彼女たちとの再会を喜びながら、時の経つのが早いことに驚きました。
マーシャは、ヴェルシーニンが恋をしていたために、『恋の少佐』と呼ばれていたことを思い出し、思いがけなく同郷の人と巡り会えたために泣き始めました。
 モスクワに埋葬した彼女たちの母親を知っていたヴェルシーニンは、母親の顔を忘れかけていると語るマーシャに対し、自分たちにとって重要に思われることも、いつかは忘れられ、些細なことに思われるもので、将来何が高尚で重大なものと考えられ、何がちっぽけな笑うべきものと見做されるだろうかは、今はまだ見当がつかないのだと語りました。
 そのようなヴェルシーニンの言葉に、ソリョーヌイは横槍を入れ、座を白けさせました。

 三姉妹の兄弟アンドレイの弾くバイオリンの音が聞こえてきました。アンドレイは父親の希望で、軍人ではなく、学問で身を立てることを決め、大学教授になろうとしていました。彼は町のナターシャという娘に恋をしていたものの、三姉妹はその女のことが気に入らないようでした。
 アンドレイがやって来ると、オーリガは、彼をヴェルシーニンに紹介しました。アンドレイは、額縁をつくったり、バイオリンを弾いたり、いろいろな細工をつくったりと、さまざまな才能を持っており、この夏は、英語の本を一冊訳すことを試みていました。姉妹たちに恋をしていることをからかわれながらも、彼は昨夜は四時まで本を読み、その後も一睡も眠れなかったと語りました。
 アンドレイに違わず、三人の姉妹たちも複数の外国語を知っており、マーシャはこの町で三カ国後も知っているのは無用の長物だと自嘲しました。
 ヴェルシーニンは、そのような人物が段々と増えてくることで、何百年後には素晴らしい地上の生活が訪れることになるだろうと語りました。
 トゥーゼンバフは、ヴェルシーニンに賛同し、何世紀も先に訪れる素晴らしい地上の生活に、自分たちは遠くから参加するために働かなくてはならないのだと言いました。

 そこへ燕尾服を着たマーシャの夫の中学教師クルイギンが現れ、イリーナへの祝福の言葉を述べ、自分の書いた中学の五十年史をプレゼントとして渡しました。イリーナが復活祭の時もその本をもらったと言うと、彼はそれをヴェルシーニンに渡そうとしました。ヴェルシーニンはその申し出を辞去し、それまでイリーナの名の日であったことを知らなかったことを詫び、広間の方へ去って行きました。
 クルイギンは、これから自分達夫妻が校長の主催する園遊会に行き、夜まで過ごすつもりだと伝えました。彼は朝から夜まで働き詰めになりながら、自分とマーシャが愛し合っていると思い込んでいたために幸福でした。
そのような鈍者の夫に幻滅を感じていたマーシャは、一晩中校長のところで退屈をするのが嫌で、怒りながらその計画に背こうとし、このような生活をやり切れないと言って広間の方へと出て行きました。

 ソリョーヌイ、クルイギン、ヴェルーシーニンがマーシャについて出ていくと、あとには、イリーナとトゥーゼンバフだけが残りました。
 イリーナは、馬鹿のことばかり言っているソリョーヌイが嫌いだと訴えました。トゥーゼンバフは、ソリョーヌイが頭も愛想も良い男であるものの、はにかみ屋であるために、人前ではがさつに振る舞ってしまう男なのだと言いました。
 トゥーゼンバフは、イリーナが美しい女性なので、人生が美しいものに思えてくると、彼女への愛を告白しました。
 イリーナは、自分たち三人姉妹には美しい人生などはまだ訪れていないと涙を流しながら、人生を暗いものとしか見ることがなくなるように、自分は働かなくてはいけないのだと言いました。
 そこへ、アンドレイの許嫁のナターシャが、バラ色のドレスに緑色のバンドという衣装で現れ、イリーナに祝いの言葉を述べました。
 陸軍少尉のフェドーチクとローデは大きな花かごをかかえて登場し、イリーナに祝いの言葉を述べました。
ナターシャは、オーリガに緑色のバンドを馬鹿にされ、またチェブトイキンにもからかわれました。皆に笑いものにされ、広間から客間へと走り出て両手で顔を覆うナターシャに、アンドレイは、周囲から見えない窓の方へ来るようにと呼びかけ、自分の妻になってほしいと告白しました。
 アンドレイとナターシャがキスをしているところに、二人の将校が登場し、驚いて立ち止まりました。

第二幕

 第一幕から三年後、ナターシャとアンドレイは結婚し、二人の間にはボービクという名の子供ができています。アンドレイは、プロトポーポフが議長をしている市会の書記として働くようになっているものの、大学教授になるという夢が潰え、賭博で負け続ける日々を送っています。
 オーリガは教員として働き続け、イリーナは電信局で働き始めています。

 屋敷では謝肉祭の祝宴が開かれようとしていましたが、ナターシャは、昨日熱があったボービクのことを心配し、仮想踊りの人々を中に入れたくないとアンドレイに相談し、さらに暖かいイリーナの部屋を使わせてもらいたいと言い始めました。

 議長からの帳面や書類を持ってフェラポントがアンドレイを訪れました。アンドレイは、自分が市会の議長になるという希望を抱いているということをフェラポントに語りました。彼はここでは自分がよそ者のように感じており、妻には理解されず、姉や妹には笑いものにされる気がするので、耳の遠いフェラポントを選んでそれを語ったのでした。

 そこへマーシャとヴェルシーニンがやって来ます。
 マーシャは十八歳で結婚した時、自分が女学校を出たばかりで、教師であった夫を立派な人物であるように感じていたものの、今では幻滅を感じ、文官の中にいるがさつで無愛想な人を見ると腹が立ってくるようでした。彼女はこの町で品性が高く、教養のあるのは、軍人なのだと感じるようになっていました。
 この話を聞いたヴェルシーニンは、文官も武官も同じようなものだと言いました。彼はその日、妻とは喧嘩して家を飛び出してきたようで、娘の具合が悪く取り乱していました。そしてこのような愚痴を言えるのはあなただけだと言って、マーシャの手にキスをし、愛を告げました。
 マーシャは、小声で笑って二度とそのような話をしないでほしいと頼みながら、ヴェルシーニンの愛を受け入れるそぶりを見せました。

 そこへ、イリーナとトゥーゼンバフが広間を通ってやって来ました。
 トゥーゼンバフは、毎晩イリーナを電信局への通勤の送り迎えをしていました。イリーナは、詩的でもなく、思想もない今の仕事は自分に向いていないと嘆き、他の勤めを探さなければならないと語りました。

 そこへチェブトイキンが寝床から起き出した様子でやってきて、まるで自分の家であるかのように座り、イリーナを呼びました。イリーナは、チェブトイキンの机でトランプの一人占いの札を並べ始めました。
 ヴェルシーニンとトゥーゼンバフは、二百年後の人々の生活の予想について語り始めました。
 トゥーゼンバフは、人々はさまざまな発明をするものの、生活は依然として難しく、生きるのが辛いと嘆きながら、死を恐れ続けるだろうと予想しました。一方、ヴェルシーニンは、いずれ新たな幸福な生活を送る二百年後の人々のために今自分達が生きているのであり、自分達には幸福などあるはずもなく、その取り分はずっと後の子孫の世代のものになるであろうとマーシャに向かって語りました。
 トゥーゼンバフは、自分達が幸福を夢見ることすらできないというヴェルシーニンの考えに反駁しました。マーシャは、人間は信念を求め、何のために生きるのかということを知らないと、生活が空虚になってしまうのだと言いました。

 フェドーチク、ローデ、トゥーゼンバフ、ソリョーヌイ、ヴェルシーニン、チェブトイキンらの軍人たちに、ナターシャは食卓の世話を焼き始めます。
 マーシャは、フェドーチクの占いではモスクワに行けないようでした。ヴェルシーニンは、二、三日前に、フランスの大臣が獄中から眺めた小鳥について書いた日記を読んだことを語り、マーシャも住み着いてみれば、モスクワなど目につかなくなるだろうと言いました。

 ヴェルシーニンは、妻がまた毒を飲んだという娘からの手紙を受け取り、こっそり帰ることをマーシャに伝え、彼女の片手にキスをして帰って行きました。マーシャが腹立ちまぎれにアンフィーサに当たると、ナターシャはマーシャのそのような口を聞き方に苦言を呈し、子供の鳴き声を聞いて去って行きました。

 トゥーゼンバフは、コニャックを持ってソリョーヌイのところへ行きました。ソリョーヌイは、人中に出ると愚にもつかないことを話してしまうだけであり、本当の自分は普通の人間で、潔白で品位もあるということを話しました。トゥーゼンバフは、ソリョーヌイが自分にしょっちゅう突っかかってくることに腹を立てることはあっても、なぜか憎めない人だと言ってコニャックを勧めました。ソリョーヌイは、トゥーゼンバフと杯をあげました。
 トゥーゼンバフは、五年迷った挙句決心がつき、辞表を出して軍人を辞め、文人として働き始める決心を語りました。

 するとアンドレイが静かにやって来て、蝋燭のそばに腰を下ろしました。トゥーゼンバフは、アンドレイを飲みに誘いました。ソリョーヌイは、再びおかしなことを言い始め、周囲の不満を感じとり、出て行きました。
トゥーゼンバフがピアノに向かってワルツを弾き始めると、マーシャは一人でワルツを踊りました。

 チェブトイキンは、ナターシャから仮想踊りを呼ぶのを取りやめたことを聞き、トゥーゼンバフとともに去っていこうとしました。
 イリーナが彼らを引き止めると、アンドレイは、ボービクが病気なので、仮想踊りは来ないことを打ち明けました。イリーナは、病気なのはナターシャだと言って憤慨しました。
 フェドーチクとローデは、会がお開きになったことを残念がりました。

 アンドレイの母親に惚れ込んでいたチェブトイキンは、生涯が早く過ぎ去っていったため、結婚する暇がなかったのだと言い、この後に待ち構える孤独を懸念していました。
 結婚は退屈で、不必要なものであると考えていたアンドレイは、妻に止められないようにチェブトイキンを急かし、賭け事の勝負の見物にでかけました。

 そこへソリョーヌイがやって来て、自分を理解してくれるのはあなただけだと言って、イリーナに愛を告白しました。しかしイリーナは冷ややかに、その愛を拒絶しました。ソリョーヌイは競争者がいたとしたら、その男を殺してやると言いました。

 ナターシャが蝋燭を持ってやって来て、ボービクの部屋が寒くてじめじめしているので、子供部屋にうってつけの部屋に住んでいるイリーナに、オーリガの部屋に移ってほしいと頼みました。
 そこへ小間使いがやってきて、プロトポーポフがナターシャをトロイカでのドライブに誘っていることを伝えました。ナターシャは、そのドライブに行くために出かける準備を始めました。

 イリーナは座ったまま考え込み、そこへパーティーが続いていると思っていたクルイギンとオーリガとヴェルシーニンがやってきました。
 校長が病気で、その代理をしていたオーリガは、会議が今しがた終わったところで、へとへとに疲れながら、アンドレイがカードで二百ルーブル負けたことは町中の評判になっていることを伝えました。
 ヴェルシーニンは、妻の服毒自殺は未遂に終わったものの、家にはとてもいられないため、クルイギンを誘い、どこかへ行こうと言いました。しかしクルイギンは、明日も明後日も休めることを喜びながら家へと帰りました。
 ヴェルシーニンは一人で行くことを決め、出て行きました。
 オーリガもまた明日が休みであることを喜びながら、寝に行きました。
 ナターシャがプロトポーポフとのドライブに出て行くと、一人残されたイリーナは、物思いにふけりながら、モスクワへの思いを募らせました。

第三幕

 イリーナはオーリガの部屋に移り、衝立で仕切られたベッドに寝ることとなりました。
 キルサーノフ横町では火事が起きており、家を焼かれそうになったヴェルシーニンの家の人たちがやって来ています。
 フェドーチクの家は丸焼けで、何一つ残らなかったようです。
 八十歳になるアンフィーサは、家を出さないでほしいとオーリガに頼みました。

 ナターシャは、罹災者の救済会を作らなければならないという話が出ていることを立派な考えだと評しながら、ボービクとソーフォチカが部屋で寝ていて、大勢の人が押しかけてインフルエンザをうつされないかと心配していました。さらに彼女は、仕事をせずに座り込んでいるだけのアンフィーサを退出させ、どうしてあのような役に立たない老いぼれを家に置いておくのかとオーリガに聞きました。オーリガは面食らい、ナターシャに謝りました。寝ていたマーシャは、ナターシャの心ない言葉に怒りながら部屋を出ていきました。
 心を乱されたオーリガにナターシャは謝りながらも、三十年も家にいる使用人を追い出すことはできないという反駁も聞き入れず、働くことのできないアンフィーサを田舎に帰すべきだと主張しました。

 クルイギンがやってきて、火事が下火になったことを伝えました。

 チェブトイキンは、ある女の治療ができずに死なせてしまったことを嘆いていました。以前と比べて医者としての知識も落ちていた彼は、その女の死が自分の責任の様な気がして、まるでシェイクスピアやヴォルテールを読んだことのあるように話をする自分に、まるで人間のふりをしているだけの存在であるかのような欺瞞を感じ、長らく辞めていた酒を再び飲むようになっていました。

 そこへイリーナ、ヴェルシーニン、トゥーゼンバフがやって来ます。
 罹災者救済の音楽会を開くことを周囲から期待されていたトゥーゼンバフは、三年もピアノを弾いていないマーシャに演奏させることについてクルイギンと相談しました。

 ヴェルシーニンは、自分達の旅団が遠方へ移される予定であることを話しました。トゥーゼンバフは、この町が空っぽになってしまうと言いました。
 チェブトイキンは死んだイリーナの母の時計を落として壊しました。皆が心痛の面持ちを見せる中、物事の存在自体に欺瞞を感じていた彼は、その時計は壊したのではなく、壊したように見えるだけのことなのかもしれないと語りました。
 ヴェルシーニンは、家は無事だったものの、二人の娘の驚愕と恐怖の表情を見ると、この娘たちがまたこの先どのような目に遭うだろうという考えが頭から離れなくなりました。その光景は、以前の戦争で敵が侵入してきた時のことを思い出させました。彼は、これからの人々の生活がどのようなものになるのだろうと空想し、あと何世代も先には、皆が三人姉妹のように生活する時代が来て、そのような人もいずれ古くなり、優秀な人々がどんどんと生まれることだろうと言いました。
 すべてが焼けてしまったフェドーチクは、踊りながら笑いました。
 ソリョーヌイがやってくると、イリーナは向こうへ行ってほしいと言いました。ソリョーヌイは、トゥーゼンバフと違う待遇を受けたことに納得がいかないまま、ヴェルシーニンに付き添われて広間へ去っていきました。

 寝ていたトゥーゼンバフはイリーナに起こされると、これから自分は煉瓦工場で働くので、一緒に行って働こうと彼女を誘いました。そしてイリーナが名の日の祝いに労働の喜びについて語っていた時の幸福が今はもうなくなってしまったことを嘆きながら、マーシャに促されて出ていきました。

 クルイギンは、マーシャがヴェルシーニンに惹かれていることを知りながら、以前と変わらず彼女のことを愛し続けてきました。しかしマーシャはその愛を受け取ることはもはやなく、この屋敷を抵当に入れて金を妻に渡したアンドレイへの憤懣を口にし、クルイギンが借金まみれのアンドレイに首をつっこまないほうがよいと忠告しても怒りを抑えることができませんでした。クルイギンは、自分は昼間は中学校で働き、個人教授もやっているので、困る身分ではないとマーシャに優しい言葉をかけ、「自分は満足だ」と言いながら出て行きました。

 イリーナは、ナターシャにかかずりあって、プロトポーポフが議長を勤める郡会の理事になれたと喜ぶアンドレイを堕落したものだと評し、彼が火事場へ駆けつけず、自分の部屋にこもってバイオリンを弾いていることに我慢がならないと泣き出しました。彼女は、働きに出てだいぶ経つものの、市役所で回ってくる仕事がばかばかしく感じられ、二十四歳になって器量も落ちていくにも関わらず、モスクワへ行くこともできす、心の満足を得られないまま深い淵へでも沈み込んでいく気がしていました。

 オーリガは、イリーナを慰め、醜男でも折り目の正しい純潔なトゥーゼンバフ男爵のところへ行くよう、助言を与えました。イリーナは、モスクワに行けば恋人に会えるかもしれないという空想をしていたことを、馬鹿げたことだったのだと振り返りました。

 その二人の姉妹のところへやって来たマーシャは、始めヴェルシーニンのことを変な人だと思い、それから可哀想になって、そのうちに彼の不幸せな暮らしや二人の女の子も含めて恋してしまったことを懺悔し始めました。

 フェラポントは、川に出るのに庭を抜けさせてもらいたいと消防の人たちが言っていることを伝えました。アンドレイはそれを許可し、なくしてしまった戸棚の鍵のありかをオーリガに聞きました。オーリガは不満気な態度で、鍵を無言のまま渡しました。
 アンドレイは、オーリガ、マーシャ、イリーナに向かい、自分に何の不服があるのかと聞きました。マーシャは、その話を聞こうとせずに去って行きました。
 アンドレイは、ナターシャが立派で潔白な人間であること、そして自分が市会議員という今の職に満足していることを自分で信じ込もうとしながら、姉妹たちも自分と同じようにナターシャを尊敬するようにと要求しましたが、やがて結婚当初に思い描いていた幸福が現実にならなかったことに涙を流し、姉妹たちに「自分の言うことを信じないでほしい」と言いました。

 クルイギンは、ドアから覗き込み、マーシャがいないことに狼狽しました。

 イリーナは、トゥーゼンバフのところに嫁に行くことを決意し、一緒にモスクワへ行こうとオーリガを誘いました。

第四幕

 砲兵中隊がポーランドへ移ることとなり、プロゾーロフ家の古い庭で、チェブトイキン、イリーナ、クルイギン、トゥーゼンバフがテラスに立ち、フェドーチクとローデを見送っています。二人の兵隊は、もう会う機会はないだろう一家の人々との別れを惜しみました、
 翌日発つことになっていたチェブトイキンは、恩給がつくまでの一年辛抱してから退職し、戻ってきて余生を送り、生活を変え、行儀の良い人間になるつもりでした。
 イリーナは、昨日広小路であったことが何だったのかチェブトイキンに聞きました。チェブトイキンはつまらないことだと言って新聞を読みました。クルイギンが聞いた噂によると、イリーナを恋しているソリョーヌイがトゥーゼンバフにからみ、広小路の劇場で争いになったようでした。

 オーリガは校長になり、忙しくて学校に寝泊まりするようになっていました。イリーナは、オーリガのいない家で一人で暮らすのが辛く感じられ、トゥーゼンバフに申し込まれた結婚を決めました。彼女は女教員の試験に受かっており、トゥーゼンバフと明日式を挙げて、煉瓦工場へ向けて旅立ち、明後日には小学校に着任する予定で、新しい生活を始めるという希望に満ち溢れていました。

 チェブトイキンは、昨日劇場でソリョーヌイがトゥーゼンバフに決闘を申し込んだということをアンドレイに伝えました。ソリョーヌイにとっては三度目の決闘で、そろそろその時刻となるようでした。
 マーシャは、その決闘をやめさせなければならないと言いました。
 チェブトイキンは、われわれは存在しているような気がしていて存在しておらず、この世には何もなく、どのようなことが起きても同じことなのだと言いました。
 マーシャは、飛んでいく渡り鳥を羨みながら去って行きました。

 アンドレイは、軍人たちが行ってしまい、チェブトイキンが発ち、イリーナは嫁に行き、残されるのは自分一人だと嘆きました。潔白で善良な女であひながら、時たま人間に見えないような妙な一面を覗かせるナターシャに、アンドレイは俗悪さを感じて途方に暮れてしまうときがあるとチェブトイキンに打ち明けました。チェブトイキンは、この場所を出ていくとよいと忠告を与えました。
 ソリョーヌイがやって来て約束の時間であると告げ、チェブトイキンと連れ立ってトゥーゼンバフと決闘をしに行きました。

 トゥーゼンバフは、五年間イリーナに恋をしていたものの、まだこの幸福に馴染めていませんでした。彼は町に用事があるので、戻ってきたら二人で発ち、働いて、金持ちになることを約束しました。彼は、イリーナが自分を愛していないことを知っていました。生まれてから一度も愛を味わったことのないイリーナは、自分が愛せないのはどうにもならないものの、忠実で従順な妻になることを誓いました。
 トゥーゼンバフは、晴れ晴れとした気分になり、もし自分が死んでも、何らかの形で人生の仲間入りをして行くような気がすると言って、イリーナに別れを告げました。

 乳母車を押していたアンドレイは、若くて快活で頭がよかった自分の過去はいったいどこへ行ってしまったのか、そして自分たちは、なぜ退屈で不幸せな人間になってしまったのだろうと自問し、この町の俗悪な親たちは皆、子供たちを毒し、彼らの神々しいひらめきを失くしていくことになるのだと嘆きました。彼が大事な姉妹たちを思って涙声で感慨に浸っていると、窓からナターシャが話しかけ、子供たちのために大きな声を出さないようにと注意しました。

 旅の音楽師がバイオリンとハープを合奏し、家の中から出てきたヴェルシーニン、オーリガ、アンフィーサがその音色に聴き入り、イリーナが歩いてやってきました。
 アンフィーサは音楽師たちに恵みを与えました。彼女は女学校の宿舎にオーリガと一緒に入ることとなり、寝台付きの一部屋が与えられることとなりました。

 この町の滞在で、すっかり姉妹たちに馴染んでいたヴェルシーニンは、あと二ヶ月ほどこの町に残っている妻と子供たちに何事かが起きた場合は力添えをもらうことを頼みました。
 校長になったためにモスクワへ行く夢を絶たれたオーリガは、ヴェルシーニンとの別れを惜しんで涙をぬぐいました。
 そこへマーシャが現れ、ヴェルシーニンに長いキスをして、はげしく咽び泣きました。発たねばならない時刻になると、ヴェルシーニンは、オーリガの両手にキスをし、マーシャを抱きしめ、去って行きました。
 そこへクルイギンがやってきて、むせび泣くマーシャをそのまま泣かせておき、どんなことがあろうと自分は幸せであり、不平を言わず、責めもしないので、元の通りの生活を始めようと言いました。
 オーリガに落ち着かせられたマーシャは、これ以上泣かないことを誓いながら、自分の人生は失敗であったと嘆きました。

 遥か遠くで銃声が聞こえました。

 マーシャやオーリガが自分達の家に帰ろうとすると、チェブトイキンがやってきて、オーリガに耳打ちし、トゥーゼンバフが決闘で殺されたことを伝えました。
 婚約相手が死んだことをオーリガから知らされると、イリーナは静かに泣きました。
 チェブトイキンは、ベンチに腰掛け、どうだって同じことさと独りつぶやきました。

 マーシャは、自分達はここへ残り、自分達だけの生活をしなければならないと語りました。
 イリーナは、やがて時が来れば、何のためにこのような苦しみがあるのか分かるようになるだろうと語り、その日が来るまでは働いて生きていかなければならないと考え、翌日は一人で発ち、学校で子供たちを教えて、自分の一生を捧げることを誓いました。

 オーリガは、二人の妹を抱きしめ、やがて自分達は、死んで忘れられるであろうけれども、自分達の苦しみは、後に残る人々の喜びに変わり、幸福がこの世を満たし、人々が自分たちを祝福する日が来るだろうと語り、これからも自分たちは生きて行こうと妹たちと誓い合いました。