フランツ・カフカ『変身』の詳しいあらすじ

フランツ・カフカ作『変身』の章ごとの詳しいあらすじを紹介するページです。


変身 (角川文庫)
目次

 ある朝、外交販売員のグレーゴル・ザムザは、自分が巨大な虫に変わっているのを発見しました。
 時刻は六時半でした。五時に起きて仕事に行かなければならなかったグレーゴルは、このまま出勤しても社長に怒られるだろうと考えました。母親が部屋をノックし、グレーゴルは返事をしようとしましたが、自分がいつもの声を出せなくなっていることに気がつきました。
 グレーゴルは部屋に鍵をかけていたため、家族にその姿を見られることはありませんでした。ともかく服を着て、朝食を食べようと考えましたが、身体の自由が聞かず、起き上がることすらできませんでした。会社から人がやってくる前に寝床を出なければならないと思ったグレーゴルは、体を揺すりながら寝台を降りようと考えました。

 自分が出社していないことに気づいた支配人が訪ねてきたため、グレーゴルは力をふり絞って寝台から転げ落ちました。両親と支配人が扉の外へやってきましたが、グレーゴルは鍵を開けることができませんでした。訪ねて
 支配人は、扉を開けようとしないグレーゴルに、首が飛ぶかもしれないと警告を与えました。グレーゴルは、気分が悪かったと偽って、八時の汽車で出社することを部屋の中から伝えようとしました。しかし支配人も両親も彼が何を言っているのか聞き取れず、母は妹に医者を呼ばせ、父は女中に錠前屋を呼びにやらせました。
 両親と支配人は茶の間で何やら相談をしているようでした。グレーゴルは口から褐色の液体を吐き出しながら、顎を使って鍵を回しました。全身の力を振り絞ってようやく鍵を開けると、支配人と両親は彼の姿を見て言葉を失いました。グレーゴルはすぐに出社すると伝えようとしましたが、支配人はその言葉を理解することなく、逃げ帰ってしまいました。母親は大声をあげ、父親の腕の中に倒れ込みました。
 父親は、グレーゴルを元の部屋に追い立てました。グレーゴルは必死の思いで方向転換をして部屋の中に戻ろうとしましたが、胴体の片側がドアに挟まれて持ち上がり、身動きが取れなくなりました。父親がその身体を一押しし、グレーゴルは血だらけになりながら部屋の奥へと入りました。その途端、ドアは外側から閉められてしまいました。

2

 日が暮れる頃に目を覚ますと、ドアのところに白パンの浮いている牛乳が入った鉢が置かれていました。グレーゴルはそれを喜んで飲みましたが、好物だった牛乳を少しも美味しいと思えませんでした。
 グレーゴルは寝椅子の下に入り込み、下手に騒がず家の者たちを不快にさせないようにしようと決めました。

 早朝になり、妹のグレーテが部屋のドアを開けました。グレーゴルが牛乳を飲んでいないのを見たグレーテは、それを雑巾で持ち上げて部屋を出て、兄の嗜好を知るためにさまざまなものを持ってきました。グレーゴルは妹が持ってきたチーズを気に入りました。グレーゴルが言葉を理解していることを知らなかったグレーテは、話しかけようとはしませんでしたが、兄のために食事を運び、食べ残しを掃除するようになりました。グレーテ以外の家族のものたちは、グレーゴルの部屋を訪れることはありませんでした。女中はこのことを他言しないと約束し、家を出て行きました。

 隣の部屋からは、グレーゴルについて相談する声が毎日のように聞こえました。父親は五年前に破産していましたが、その中から救い出した金を金庫に入れて保管していました。破産以来、父親が一文無しになったと思っていたグレーゴルは、苦労して外交販売員にのし上がり、一家を支える金を稼ぐことができるようになっていました。働けなくなった今になって、金庫に幾ばくかの金があり、自分が家に入れていた金も貯蓄されていたことを知り、グレーゴルの心は慰められました。
 とはいえ、父親は五年も働いていなかったため、太って体の自由が効かなくなっていたし、母親は喘息持ちで、グレーテもまだ十七歳であったので、一家に残された金が、一二年で尽きてしまうことは明らかでした。グレーゴルはこの状況に胸を痛めました。

 虫になってひと月が経ったある日、グレーゴルが窓から外を眺めていると、グレーテが入ってきて、兄の姿を見るとすぐに出て行きました。いつも妹が入ってくる時には、グレーゴルは寝椅子の下に身を潜めていましたが、体の一部は妹の目に触れてしまうのでした。グレーゴルは、グレーテが自分の姿を見るのに耐えられないのだと感じ、麻布を寝椅子の上に被せることにしました。

 グレーゴルは天井にへばりつくことに開放感と幸福を感じるようになっていました。それに気づいた妹は、グレーゴルが動きやすいように、家具を取り除けようとしましたが、その仕事は重労働に思えたため、母親を呼びました。二人は家具を片付けようとしましたが、家具を部屋からなくしてしまうことは、グレーゴルが人間に戻ることを諦めてしまっているようだと母親は言い始めました。動きやすくなるように、この部屋が空っぽになればいいと思っていたグレーゴルは、自分が人間の心を失っているのだと悟りました。結局、ガランとした部屋に一人でいるグレーゴルに尽くしたいと思う妹の意見により、家具は持ち去られてしまいました。
 グレーゴルは、壁面にかかっていた婦人像だけは持っていかれまいとして、二人がいない隙にその上に覆いかぶさりました。そこへ入ってきた母親は、壁にへばりついているグレーゴルを見ると気を失いました。
 気つけ薬を探しはじめたグレーテを手伝おうと、グレーゴルは隣室に入りましたが、何の役に立つこともできず、グレーテが落とした小壜に顔を傷つけられ、その中の薬品は彼の身体を腐食しました。自責と不安の念にかられ、天井を這い回ったグレーゴルは、天井からテーブルの上に落ちてしまいました。
 帰ってきた父親は、母親がグレーゴルによって気絶したことを知り、逃げていくグレーゴルに向かって林檎を投げつけました。母親が飛び出してきて父親を制しましたが、投げつけられた林檎のうちの一つが背中に突き刺さり、グレーゴルは気絶してしまいました。

3

 ひと月経っても、その林檎は背中にめり込んだままでした。グレーゴルはその傷のせいで自由に動くことができなくなってしまいました。家族はグレーゴルの存在をただ耐え忍ぶようになりました。母親とグレーテは服飾品を売りました。もう少し手狭な家に引っ越す必要がありましたが、自分たちが不幸に見舞われているという理由により、引っ越しには踏み込むことはできませんでした。妹は次第にグレーゴルの部屋の掃除をぞんざいに行うようになり、部屋は汚物でいっぱいになりました。
 新しい骨太の手伝い女の婆さんは、グレーゴルのことを全く怖がらず、からかうような様子すらみせました。家の中の一部屋には三人の下宿人が入り、そのために締め出された荷物を手伝い女が持ってきて、グレーゴルの部屋をどんどんと汚していきました。
 グレーゴルは、家の者たちが食べる音を聞き、歯がなければ食べれないものを食べるのは嫌だと考えるようになり、ほとんど何も食べなくなりました。

 ある日、下宿人の勧めで、妹がヴァイオリンを弾きはじめました。下宿人たちは妹の演奏に幻滅し、しぶしぶ聞いているにすぎませんでした。しかしグレーゴルは、妹が美しい演奏をしていると思い、その音に惹かれて部屋の中へ這い出して行きました。
 三人の下宿人はグレーゴルの姿を見つけました。父親はグレーゴルから遠ざけるように、三人を押しのけ始めました。三人の紳士はこれに腹を立て、下宿の契約を解除しようとしました。グレーテは、グレーゴルのことを指して、この「けだもの」を処分しなければならないと言い放ち、父親もそれに同意しました。
 グレーゴルは衰弱で身動きが取れずにいましたが、なんとか部屋に這い戻りました。その途端、妹がグレーゴルの部屋の扉を閉め、外側から閂(かんぬき)をかけました。

 グレーゴルはもうまったく動けなくなっていました。

 朝早く部屋に入ってきた手伝い女が、グレーゴルが死んでいるのを見つけました。
 痩せて干からびたグレーゴルの体を見て、家族は神に感謝しました。三人の下宿人が朝食をとりに部屋から出てくると、妻と娘に支えられた父親は、彼ら三人に立ち退きを要求しました。
 三人はその日を休息と散策に当てることを決めました。手伝い女がグレーゴルの死体を片付けたと報告すると、母とグレーテは再び心をかき乱され、抱き合いました。父親は手伝い女にも暇を出すことにしました。
 三人は電車に乗って郊外へ出ました。新しい家に住み始める計画について話し合ううちに、生き生きとしていく娘を見て、両親は彼女が美しい女に成長していたことに気づき、結婚相手を探してやらなければならないと考えました。グレーテは両親にとって新しい夢のように映りました。