宮沢賢治『注文の多い料理店』の作品紹介

宮沢賢治作『注文の多い料理店』のあらすじ、概要を紹介します。

『注文の多い料理店』の登場人物

二人の若い紳士
猟をするために山奥を歩いている。イギリスの兵隊の格好をしている。

『注文の多い料理店』のあらすじ

※ネタバレ内容を含みます。

 二人の若い紳士が山奥を歩いていました。あまりに山奥だったので、案内してきた鉄砲撃ちもどこかへ行ってしまい、連れてきた二匹の白熊のような犬もめまいを起こして死んでしまいました。二人は戻ろうとしました。腹を減らして歩いていると、山猫軒という西洋料理屋を見つけました。硝子戸の開き戸には、金文字で
「どなたもお入りください。決してご遠慮はありません」
と書かれていました。二人は喜んで中に入りました。
硝子戸の裏側には
「ことに肥ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」
と書かれていました。二人は大喜びしました。廊下を進むと、水色のペンキ塗りの戸に
「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」
とあり、その裏には
「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
とありました。二人はこの西洋料理屋が意外に流行っていて、注文が多くて手間取ってもごめんくださいということだと思いました。

 二人が部屋を進んでいくと、そのたびに扉があり、
「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、それからはきものの泥を落してください。」
「鉄砲と弾丸をここへ置いてください。」
「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」
「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
と書いてありました。二人はこの西洋料理屋が格式高いので、身だしなみを整えなければならず、料理に電気を使うので、金属類ははずさなければならないのだと思い、その注文に従いました。

 そのうちに「壺のなかのクリームを顔や手足にすっかり塗ってください」と扉に書いてある扉にぶつかりました。二人は外の寒さに対して部屋が暖かいとひびが入るから、その予防だと思い、クリームを塗りました。扉の裏側には、「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」と書かれてありました。
 次の戸には、
「料理はもうすぐできます。
 十五分とお待たせはいたしません。
 すぐたべられます。
 早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」
と書かれていました。香水をかけると酢のような匂いがしたので、下女が香水を間違えたのだろうと二人は考えました。

 最後の注文は
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。
 もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさん
 よくもみ込んでください。」
というものでした。二人はやっとおかしいと思い始め、たくさんの注文というのはこちらに向けられたもので、来た人を西洋料理にして食べる家だったことに気づきました。もと来た扉はもう開きませんでした。次の扉には
「いや、わざわざご苦労です。
 大へん結構にできました。
 さあさあおなかにおはいりください。」
と書かれていて、鍵穴からは二つの青い目玉がこちらを覗いていました。その得体の知れないものは二人を扉の中に呼びました。

 二人が泣いていると、二匹の白熊のような犬がやってきて、扉の向こうへ飛び込んでいきました。扉の向こうから「にゃあお、くゎあ、ごろごろ。」という声が聞こえると、部屋は煙のように消え、二人は草の中に立っていました。そこへ専門の猟師がやってきて二人は助かりました。二人は山鳥を買って東京に帰りましたが、泣いたときに紙くずのようになった顔は、もと通りにはなりませんでした。

作品の概要

 『注文の多い料理店』は、一九二四年に発表された短編集『イーハトブ童話 注文の多い料理店』(イーハトーブは宮沢賢治が作った架空の地名)の表題作で、宮沢賢治の作品としては生前に発表された唯一の作品です。
 この短編集は出身校である盛岡高等農林学校の後輩であった近森善一が発行人となり、近森の同級生で出版業を手伝っていた及川四郎の協力を経て、自費出版の形で発行されました。今でこそ国民的作家と言われる宮沢寛治ですが、当時は全く無名の存在で、本は全く売れず、出版された千部のうち二百部を賢治自身が買い取ったと言われています。
 宮沢賢治の死後、数々の作品が世に知られるようになると、『注文の多い料理店』は代表作として知られるようになりました。
 この短編集には表題作の本作を含む以下の作品が収録されています。
『どんぐりと山猫』
『狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)』
『注文の多い料理店』
『烏の北斗七星』
『水仙月の四日』
『山男の四月』
『かしわばやしの夜』
『月夜のでんしんばしら』
『鹿踊りのはじまり』
 どれも不思議な世界に巻き込まれていくような、非常に魅力的な作品となっています。