モリエール『人間嫌い』の詳しいあらすじ

モリエール作『人間嫌い』または『孤客(ミザントロオプ)』の詳しいあらすじを紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

※簡単なあらすじ、登場人物紹介、管理人の感想はこちら(『人間ぎらい』トップページ)

第一幕

第一場

 どのような場面でも自分の心の奥底をそのまま言葉に表さなければならないと考えている貴族の青年アルセストは、親友のフィラントが通りがかりの男に臆面もなく愛想良く振る舞い、接吻したり抱きついたりしたあとで、その男がどこの馬の骨ともわからないと言ったのを許せず、今日かぎり親友付き合いはよしてもらおうと言いました。

 フィラントは、誰かがお辞儀をしてきたら、相応の返事はするべきであり、親切には親切を、約束には約束を立てるのが人間の道だと答えました。
 アルセストは、人間は人間らしい名誉を持って誠実な行動をするべきであり、情が厚そうに大袈裟な物言いを好み、誰にでも漠然とした礼儀を振りまく社交界のふるまい方を批判しました。
 フィラントは、そのような態度のアルセストに、率直は時として人から笑われるもので、心を押し隠す方が良い時もあるのだと忠告を与えました。
 しかしアルセストはフィラントの言葉を認めず、たとえ人々から自分の言動を冷やかされても、阿諛追従ばかり並べ立てる全人類に反抗してかかることを宣言しました。

 アルセストは、うまく立ち回って社交界に出入りするようになった訴訟相手がおり、そのような男が皆から容赦されているのを見ると、人間と絶縁したくなると語りました。
 フィラントは、そう簡単に怒りを顔で現そうとせず、もう少し寛大な心を持って人の欠点を見るようにしてはどうかと提案し、その訴訟事件がどのようになっているのかと聞きました。
 アルセストは、自分に不審な点はまるでないので、何の奔走もあえてせず、公明正大な裁判に期待すると答えました。そして強敵が陰謀を巡らしてくるかもしれないというフィラントの警鐘にも耳を貸さず、法廷の弁論で、非道な一般大衆が自分に不正の名を着せるのを拝むことにするのだと宣言しました。

 アルセストは、セリメーヌという若い未亡人に恋をしていました。セリメーヌは、時代かぶれな言動をする女で、アルセストの否定する人間のうちの一人でした。しかしアルセストは、セリメーヌが自分のことを愛していると思いながらも、競争者のことでやきもきし、セリメーヌのそのような欠点が見えた上で、時代の悪習慣に染まった彼女を非難し、自分の恋の力で洗い清めてやるつもりでした。
 フィラントは、アルセストがそのようなセリメーヌを愛していることを不思議がり、アルセストのことを慕っている固くて気一本の女性エリアントのことを彼に勧めました。エリアントとセリメーヌは従姉妹の関係にありました。
 アルセストは、理性の上ではエリアントと結ばれるべきだとしながらも、恋は理性ではどうにもならないのだと答えました。フィラントは、アルセストがそこまで思いつめているのが心配になりました。

第二場

 セリメーヌに恋する男オロントがアルセストに話しかけ、しきりに褒め上げた挙句、親しい友人になりたいと申し出ました。
 しかしアルセストは、友情を結ぶ前に自分たちはもう少しお互いによく知り合わなくてはならないものだと、その望みを退けました。
 オロントは、その言葉に納得しながら、自分の創ったソネットを世間に公表する許しを得て、その詩を詠み上げました。フィラントは、その詩がよくできていると褒めましたが、アルセストは、そのハイカラで形容の多い詩が、単なる悪趣味な言葉の遊戯であり、机の中にしまいこんで置くべきものだと酷評しました。
 オロントは、その詩を認めてくれる人がいると反論を始めましたが、アルセストは、その人たちが心にもないことを言う術を心得ているだけだと言い放ちました。
 オロントとアルセストは、言い争いになり、フィランドは二人の間に仲裁に入りました。オロントは、自分の非を謝り、その場を引き取りました。

第三場

 フィラントは、お世辞を欲していたオロントに対するアルセストのひどい態度に苦言を呈しながらも、彼のことを見捨てない意志を示しました。

第二幕

第一場

 セリメーヌを家まで送ったアルセストは、彼女が誰にでも愛想良く、満更でもない態度を振りまくのを非難し、ほかの男たちには無愛想な態度をとってほしいと要求しました。
 セリメーヌは、アルセストのことを愛していると語りながら、好きで訪ねてきてくれ、自分の抱える訴訟沙汰の味方になってくれる友達を追い払うわけにはいかないのだと答えました。
 しかし自分の僻みがセリメーヌを辟易とさせていることに気づいていながら、彼女に対する恐ろしい執着を断ち切ることができないアルセストは、近づいてくる男たちを相手にせず、訴訟に負けるよう要求しました。

第二場

 そこへ、侯爵アカストの来訪が知らされました。

第三場

 セリメーヌは、アカストが宮中で口利きの、口数の多い男であり、会いたくないような素振りを見せると一生根に持つ人なので、彼とは喧嘩はしたくないのだと言い訳をしながら、部屋に通しました。
 アルセストは、どのような客でも理屈をつけて愛想を振りまこうとするセリメーヌを非難しました。

第四場

 さらに侯爵クリタンドルの到来が告げられると、とうとうアルセストは怒りだし、セリメーヌが引き止めるのも構わず、帰ることを宣言しました。

第五場

 エリアントが、二人の侯爵アカストとクリタンドルをともなってやって来ました。
 結局帰ることのなかったアルセストは、客の味方をするのか、自分の味方をするのかとセリメーヌに詰め寄りました。
 クリタンドルとアカストは、次々に他人の悪口を捲し立て、セリメーヌはそれらの話を大袈裟に話し、彼らは話に花を咲かせました。
 アルセストは、セリメーヌにお世辞を言って悪口を言うように焚きつけたアカストとクリタンドルを非難しました。
 フィラントとセリメーヌは、アルセストが終始他人の意見に反抗し、喧嘩腰になっているに過ぎないのだと指摘し、彼が人の非難にも賞賛にも耐えられないような顔つきをすることを咎めました。
 するとアルセストは、本来不条理な人間には、喧嘩腰になるのが適当なのだと言い放ちました。
 クリタンドルとアカストが、セリメーヌに対し何一つ欠点など見出せないと褒め上げると、アルセストは、本物の恋とは、相手の欠点を仮借しない場合に現れるもので、愛するほどに追従などは言わなくなるものだと語りました。
 セリメーヌは、アルセストの語る恋をするには、やさしい仕向をすることなく、相手に小言をならべればならないと言い返しました。
 またエリアントが、恋をする者は、相手のよくないところなどは目に入らなくなるもので、相手の欠点までも愛するのだと主張すると、アルセストは、返答につまってしまいました。

第六場

 そこへ、アルセストに会いたいという人が来ているとバスクが取り次いできました。
 セリメーヌは、その男をこの場に通すように指示しました。

第七場

 それはオロントとの喧嘩の調停をするため、元帥法廷からの出頭命令を伝えにやってきた元帥法廷警主でした。
 アルセストは、オロントの詩が下等であるという発言を取り下げるつもりがないまま、出頭命令に従って出ていきました。

第三幕

第一場

 アカストは、財産があり、若く、家柄もよく、勇敢に決闘をやってのけたこともあり、器用で容貌も良い自分の運命に満足しており、セリメーヌのことも手に入れられるだろうと語りました。クリタンドルは、なぜその甲斐もなくセリメーヌに恋をしているのかと聞き、自惚によって何も見えなくなっているだけだと忠告しました。
 するとアカストは、本当はそのことに気づいると語り、実はセリメーヌからあしらわれていることを告白しました。
 クリタンドルとアカストは、自分達のどちらかがセリメーヌの心を靡かせたという証拠を見せることができれば、もう一人はその勝利者にセリメーヌを譲り、きっぱりと勝負を諦めることを約束し合いました。

第二場

 そこへセリメーヌがやってきて、馬車の入る音が聞こえました。

第三場

 アルシノエがやってきたとバスクが取り次ぎました。
 セリメーヌは、アルシノエが大の猫かぶりで、淑女らしく振る舞いながら、他の女に終始嫉妬していること、そしてアルセストに想いを寄せていて、自分に対する恨みの顔を隠しきれないのだと二人の侯爵に語りました。

第四場

 アルシノエがやって来ると、セリメーヌは、さも嬉しそうに出迎えました。
 しかしアルシノエは、昨日ある徳のある人の家に遊びに行ったところ、誰にでもちやほやするセリメーヌを非難する人が沢山いたということを語り、世間の評判を落とさないためにも、身持ちが悪いと言われるような行いは避けるようにした方が良いと忠告しました。
 するとセリメーヌは、アルシノエの貞淑な振る舞いや信心深い様子が、世間の手本になるようなものだろうかという話題になったことを語り、少しでも淫らな話になるとどなりつけ、お高く止まって誰をも見下し、罪も汚れもないものを責めあげるところがいっせいに非難の的になり、他人を責める前にまずは自分のことを見つめ直すべきだと忠告しました。
 二人は非難の応酬となり、セリメーヌは、若いうちから淑やかな振る舞いをするのは見当はずれであり、男の人が自分に言い寄るのは自分のせいではないのだと主張すると、アルシノエは、セリメーヌが男を引き寄せているのは、そのように仕向けているだけであり、誰にでもできることなので、自分の器量を鼻にかけて人をあしらうのはやめたほうが良いと返しました。
 結局セリメーヌは、アルシノエの馬車が来るまでの間の相手をアルセストに務めさせ、その場を出て行きました。

第五場

 アルセストと二人きりになると、アルシノエは、アルセストには人の心を惹きつける深い力を持っていると褒めちぎり、もっと宮中で良い待遇に恵まれるために自分の口利きの人に頼むこともできるだろうと語りました。
 しかし宮中から遠ざかりたいアルセストは、国家のために何一つしていない自分にそのようなことを要求することはできないと語り、自分には口先で人を誤魔化す心得がなく、胸にあることを包み隠さず話してしまう性分であるために、宮中ではとてもいられないだろうと答えました。
 アルシノエは、アルセストがセリメーヌに恋していることを残念だと語り、表面だけは優しく振る舞うセリメーヌに騙されているのだと忠告しました。
 これに対し、はっきりとした忠告でなければ言ってほしくないとアルセストが言うと、アルシノエは、セリメーヌが不実な心の持ち主であるという証拠を見せようと言って、彼を自宅に招きました。

第四幕

第一場

 フィラントは、考えを曲げないアルセストに苦労しながら、なんとかオロントと和解させたことをエリアントに語りました。
 フィラントは、アルセストがなぜセリメーヌへの恋に身をやつすのかを不思議がりながら、セリメーヌの心はアルセストに向けられているのかを聞きました。しかしそれはエリアントにもわかりませんでした。
 フィラントは、アルセストがいずれ苦しい目に遭うだろうと、彼の将来を悲観しました。
 アルセストの雄々しいところに惹かれていたエリアントは、彼のセリメーヌへの想いが届かなくなったときになれば、自分が彼の心をいただく決心をしてもよいのではないかとフィラントに言いました。
 これに対し、フィラントは、もしもアルセストがセリメーヌと結婚してしまったならば、自分が誠意を持って、エリアントのアルセストへの親切な心を受けたいと、恋心を彼女に伝えました。

第二場

 アルセストは、セリメーヌがオロントに宛てた手紙を読み、彼女が自分を欺いていたことに気づきました。
 彼はこのことをエリアントに訴え、エリアントに自分の心を捧げることによってセリメーヌに復讐を果たしたいのだと言いました。
 エリアントは、そのアルセストの心をおろそかにしないと約束しながらも、アルセストの復讐心は、いつか消えてなくなるものだろうと助言しました。
 セリメーヌがやってくると、アルセストは自分の受けた侮辱は忘れることができないと責め立て、今の恋心から解放された心をエリアントのところへ持って行くつもりだと言いました。

第三場

 アルセストは、セリメーヌがオロントに書いた手紙を見せつけ、その不実を責めました。
 しかしセリメーヌは、その手紙が女に宛てて書いたものだと主張しました。
 アルセストは、嫉妬で気がおかしくなり、それが女に書かれたものであるという証拠を見せて欲しいと躍起になり、しまいには再び真剣にセリメーヌを愛するより他に道はないと言い始めました。
 そこへアルセストの使用人のデュ・ボワがやってきました。

第四場

 デュ・ボワによると、黒服を着た怪しい男が台所に入り込んで紙切れを残したようでした。その紙切れに書き殴られた文字はとても読めるものではありませんでした。それから一時間ほど後、アルセストの友人がやってきて、主人の身が危ないのでパリから逃亡するようにと忠告し、紙に一言書き残しました。そのためデュ・ボワは、パリを退却しなければならないとアルセストに伝えるためにやってきたのでした。デュ・ボワがその紙切れを机の上に置き忘れて来たので、アルセストは必ず戻ってくるとセリメーヌに宣言し、腹を立てながら家へと戻りました。

第五幕

第一場

 アルセストの訴訟相手は、法廷で自分の悪行を美しく塗り替える発言を行い、オロントはその相手の肩を持ちました。その結果、アルセストは訴訟に負け、二万フランを費用として請求されました。彼はこうなった以上、不公平な人間社会との交際を絶ってしまうことを決心しました。
 フィラントは、他人の不正には耐え忍び、思い止まるよう、アルセストを説得しようとしました。
 しかしアルセストの決心は変わらず、セリメーヌにある計画を語ろうとし、彼女のことを待ちました。
 フィラントは、助けを求め、エリアントを呼びに向かいました。

第二場

 オロントは、セリメーヌに自分との結婚の意思があるのかを聞き、自分かアルセストのどちらかを選んでほしいとセリメーヌに要求しました。
 そこへアルセストがやってきて、オロントと同じようにセリメーヌに選択を迫りました。
 セリメーヌは、自分の答えは決まっているものの、それを面と向かって言うことには気が引けるので、自分への想いが届かないと思った方に、それとなく悟ってほしいと言いました。
 それでもオロントとアルセストは、そのような曖昧な物言いは無用だと言って、はっきりとした答えをセリメーヌに求めました。
 そこへエリアントがやってきたので、セリメーヌは彼女に意見を求めました。

第三場

 アルセストのことを好いているエリアントは、自分に助けを求めるのは見当違いだとセリメーヌをあしらいました。セリメーヌは黙っていることしかできなくなりました。

第四場

 そこへアカストとクリタンドルが、アルシノエを誘ってやって来ました。
 アカストとクリタンドルは、お互いに届いたセリメーヌからの恋文を読み上げました。セリメーヌは、いかにも美しい情があるように見せかけて、数々の男たちに心を誓い、その手紙の中で他の男たちをこき下ろしていたのでした。
 二人はこの手紙を世間に吹聴することをセリメーヌに向けて宣言しました。
 オロントは、セリメーヌの正体を知って幻滅し、これ以上アルセストの恋の邪魔はしないと言いました。
 アルシノエは、このようなセリメーヌの行為に憤慨し、セリメーヌを愛していたアルセストにも愛想を尽かして出て行きました。
 セリメーヌは、自分がアルセストに酷いことをしたと白状し、自分を憎んでもらってもかまわないと言いました。
 しかし、アルセストは、どれだけ憎もうとしても憎むことができないと言って、一切の人間から離れるためにこれから行くつもりである人里離れたところへ、自分と一緒に行くことが、その罪を償われる方法だとセリメーヌに迫りました。
 しかし、世間から離れることができないセリメーヌは、その申し出を拒否し、去って行きました。
 アルセストは、エリアントに向かい、自分の乱れた心を差し出して、エリアントの心を傷つけるわけにはいかないと言いました。
 しかしすでにエリアントはすでにフィラントに心変わりをしており、アルセストが自分に心変わりをする必要はないと言いました。
 アルセストは、一人で人里離れたところへ行き、名誉を重んじる人間として生きることを宣言して去って行きました。
 フィラントは、エリアントと共に、アルセストを連れ戻すことを決意しました。