ロバート・ルイス・スティーヴンソン『宝島』の詳しいあらすじ

ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』(Treasure Island)の章ごとのあらすじを紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

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目次

第一部 老海賊

第一章 ベンボウ提督邸の老水夫

 一七××年、少年ジム・ホーキンズの父親が経営する宿屋であるベンボウ提督邸に、頬に刀傷のある日焼けした老水夫がやってきました。
 その男は、上背のあるがっしりとした赤銅色の男で、タールで固めた弁髪を垂らし、傷だらけのごつい手と、割れた黒い爪を持ち、船員用の私物箱を手押し車を後ろから運ばせながら、古い船乗りの歌を歌い、ぞんざいにラム酒を頼みました。
 男は、客が少ないこの宿屋が手頃だと考えて停泊を決め、自分を船長と呼ぶようにと命じ、三、四枚の金貨を敷居に放り投げました。
 船長は、昼間は真鍮の望遠鏡を片手に入江をうろつき、夜は談話室の隅に座りながらラム酒を飲みました。ひどく無口で、話しかけられても鼻息を立てるだけだったので、じきにジムたちはこの男を放っておくようになりました。
 船長は他の船乗りを避けたいらしく、毎日散歩から帰ってくると、船乗りが街道を通らなかったかと聞きました。とくに一本脚の船乗りが来たらすぐに知らせるようにとジムに命じ、その代わりに一日四ペンスを支払いました。
 船長は時折悪酔いし、横暴になりました。そのような時、彼は
「死人の箱には十五人
ヨー、ホー、ホー、それからラムがひと壜だ
残りは酒と悪魔が片づけた
ヨー、ホー、ホー、それからラムがひと壜だ」
と古い船乗りの歌を歌い、むりやり自分の昔話を聞かせたり、人々に合唱させたりして、自分が眠るまでは誰一人帰ることを許しませんでした。
 船長は、極めつきの悪党の中で暮らしていたようで、その残虐な昔話を聞いた村の人々は、みな震え上がりました。一方で、退屈な田舎での日々に格好の刺激を与えてくれる存在でもあり、一部の人々は彼のことを賞賛しました。
 船長は、最初の金がなくなった後も逗留を続け、父が勇気を振り絞って料金を請求しても、睨みつけて退散させ、ベンボウ提督亭を破産寸前へと追い込みました。

 ジムの父親は肺病を患っていて、村の医師であるリヴジーに診察されていました。そのリヴジーが訪れてきて一服していたとき、船長が不意に船乗りの歌を歌い出しました。リヴジーは、その歌に眉をしかめました。やがて船長とリヴジーは口争いになり、船長はナイフを取り出しました。リヴジーは落ち着き払ったまま、ナイフをしまわなければ次の巡回裁判で縛り首にすると宣言しました。
 二人はしばらく睨み合ったあと、船長は降参してナイフをしまい、腰を下ろしました。
 医師のほかに治安判事もやっていたリヴジーは、今後船長が何か問題を起こしたら、しかるべき措置で捕らえ、この町から放り出すと宣言して帰って行きました。
 船長は、それからしばらくは大人しく暮らしました。

第二章 黒犬、あらわれて去る

 その冬、父親は日毎に衰弱し、ジムと母親は忙しい日々を過ごしました。
 ある一月の早朝のこと、早起きした船長が浜へ出て行かけている間に、青白い顔の、左手の指が二本欠け、カトラスを帯びた男が談話室に入ってきました。
 男は、ラムを注文した後、そこに用意していた食事が、自分の仲間の「ビル」のものかと聞きました。ジムは、そのビルのことは知らない、うちに泊まっているお客さんは船長と呼ばれていると答えました。
 その男によると、ビルという男には右の頬に傷があるようでした。それが船長の風貌と一致していたことから、ジムは船長は散歩に出ているがまもなく帰ってくるはずだと答えました。
船長が談話室に入ってきてドアを閉めると、男は「ビル」と声をかけました。船長は真っ青な顔になり、「黒犬!」と言いました。

 船長は、用件を聞くために黒犬と向かい合って食卓の両側に腰を下ろし、ドアを開けたままにさせ、盗み聞きをしないようにジムに命じました。二人はひそひそ声で話した後、お互いに悪態をつき始め、やがて刃物を打ち合わせる音が聞こえ始めました。
 黒犬は左肩に傷を負って逃げ出し、船長はその後を追いながら斬りかかりましたが、刃がベンボウ提督の看板にぶつかったため、しとめることはできませんでした。
 船長は、ここから出ていかなければならないと言いましたが、ジムが動転しながら命じられたラムを取りに行っている間に、卒中を起こして倒れてしまいました。

 同じ時ジムの父の診察にやって来ていたリヴジーは、船長の命を救うため、静脈を開いて血を抜きました。船長の腕には、「ビリー・ボーンズのお気に入り」と刺青で書かれていました。
 船長が目を覚ますと、リヴジー先生は、ボーンズと呼びかけました。船長は自分の名前がビリー・ボーンズであることを否定しました。リヴジーは、ラムをやめない限り、必ず死ぬことになると忠告を与えました。ジムとリヴジーは、船長を支えながら二階へと連れて行きました。リヴジーは、次に卒中を起こしたら、船長は死ぬだろうと言いました。

第三章 黒丸

 正午ごろジムが部屋を覗くと、船長は起きていて、衰弱しながらも興奮しているようでした。
 船長は、自分はラムで生きてきたので、飲まないと発作を起こすのだと言いながら、提供することを躊躇するジムを買収しようとしました。船長が興奮してくるので、ジムは安静を必要としていた父のことが気にかかり、買収には乗らないと宣言しながら一杯だけラムを持ってきてやりました。
 船長はフリントという海賊の船に乗っていた一等航海士でした。フリントの船に乗っていた男たちの中には、黒犬をけしかけたもっと悪い男がいて、船長の私物箱を狙っているようでした。船長は一週間の安静が必要でしたが、その男たちが「黒丸」と呼ばれる呼出状を持ってくる前に、ここを移る必要がありました。
取り止めのないことを言い続けた船長は、ジムに渡された薬を飲むと、深い眠りに落ちました。

 その晩、父親が急死し、近隣の人々の弔問や葬式の手配で、ジムは船長のことを考える暇もありませんでした。
 翌朝には船長は階下へ降りて、やはりラムを飲みました。リヴジーは他の患者にかかりきりになり、船長はますます衰弱しながら、不安のためにそれまでにも増して乱暴になり、周囲を気にかけず、ぼんやりとすることが増えました。
 葬儀の翌朝、ジムが父の思い出に浸っていると、ある一人の男が街道をやって来るのが見えました。男は目と鼻の上に緑色の大きな目隠しをした盲人で、背中が大きく曲がり、頭巾付きの大きな古い船員マントをまとう異様な姿でした。
 男はここがどこなのかと大声で聞きました。ジムはブラックヒル入江のベンボウ提督亭の前だと教えてやりました。男は手を引いて中へ連れて行ってほしいと頼みました。ジムが男に手を差し出すと、男はその手を強い力で掴み、船長のところへ連れていけと脅しました。
 ジムは怖気付き、ラムで朦朧としている船長のいる談話室へ、その男を連れて行きました。
 船長はその男を見ると、すぐに酔いが覚め、死んだような顔つきになりました。
 男は、船長の左手を自分の右手のそばへ持ってくるようにとジムに命じました。ジムと船長は男に命じられた通りにしました。すると男はなにかを船長の手のひらに手渡し、船長はすぐにそれを握りしめました。男は驚くほどの速さで外へと出て行きました。
 船長はしばらく呆然とした後、手渡されたものを見ました。そして「十時か!六時間。まだだし抜ける」と叫び、立ち上がると、その途端によろけ、うつ伏せに倒れました。
 船長は激しい脳溢血を起こして死んでいました。
 ジムは船長のことを好きではなかったのにもかかわらず、彼が死んだと分かったとたんに涙を流しました。

第四章 船員衣類箱

 ジムはこれまでの経緯を母に話しました。黒犬と盲目の乞食はいつ訪れてくるかわからず、厄介で危険な立場に立たされていることは明らかでした。ジムと母は、近くの村に助けを求めようと思いつきました。
 しかし村に着いて苦境を訴えても、船長が部下として働いていたフリントの名に皆が怖気付き、ベンボウ提督亭までついて来てくれようとする者は一人もいませんでした。
 母は怒り、ジムと二人で宿へ戻ると言いました。人々は二人の無鉄砲をたしなめながら、ピストルを貸してくれ、リヴジーのところに武装した助けを求めに馬を走らせてくれることを約束しました。
 ジムと母は、恐怖を感じながらベンボウ提督亭に戻りました。
 船長は仰向けに倒れていました。宿泊費を滞納されていたジムと母は、船長の持っている鍵を見つけなければならないと考えました。時刻は六時で、まだ時間の猶予はありそうでした。
 ジムは、母の言いつけに従って、船長の首にかけていた紐にぶら下がっていた鍵を見つけて手に入れ、船長の部屋に入り、蓋に「B」という頭文字が焼きごてで押された箱に鍵を差し込み、錠を開けました。
 箱の中からは、雑多のものの下に、油布でくるんだ包みと、金貨の入った帆布製の袋が入っていました。
 母親は、自分が正直者であることを悪党たちに示すため、金貨の中から、船長の宿泊費に当たる分だけを取り出そうと、勘定を始めました。
 半分ほどその作業を行ったところで、あの盲人の杖の音が近づいてくる音が聞こえました。その盲人は、宿の前までやってくるとかんぬきをかけたドアを開けようとガタガタと音をたて、再びゆっくりと遠ざかって行きました。
 ジムは全部持っていこうと急かしましたが、母親は、自分の取り分だけをもらうことにこだわりました。やがて、丘の上から呼子が鳴らされる音がしたため、母は自分たちの袋に入れた分だけを持って立ち上がりました。 ジムは自分の取り分として、油布の包みをつかむと、霧の中に身を隠しながら一目散に逃げ出しました。
 やがてこちらに向かってくる足音がいくつも聞こえてきて、一味の持っているランタンの光が近づいてくるのが分かりました。
 ジムがなんとか母を堤の淵まで連れて行くと、母親は倒れ込んでしまいました。ジムは母親を堤の下に引き下ろし、その全身を橋の下に入れることができないまま、宿屋から声の届くところでじっとしていることしかできませんでした。

第五章 盲人の最期

 恐怖に好奇心が優ったジムは、エニシダの影に顔を隠しながら、家の方をうかがいました。七、八人の男の中には盲人の乞食がいて、ドアをぶち破れと叫びました。
 ドアが開いていることに気づいた悪党たちは、驚いている様子で家の中に入り、船長が死んでいるのを発見しました。
 彼らはピューと呼ばれる盲人の乞食の命令に従って、船長の私物箱を漁り始め、箱の中身がなくなっていることに気づきました。
 ピューは、フリントの書きつけを目的としているようでした。船長の遺体を探っても何も残っていないことが分かると、ジムが持ち出したことに気づき、手分けして探すように仲間に命じました。
 海賊たちは、家中を壊しながらジムたちのことを探しまわりましたが、やがて危険を知らせる呼子が聞こえてくると、ピューを除く悪党たちは、手に入れた金貨だけで満足し、ジムたちを探すのを諦めようとしました。
 ついにピューと仲間たちは仲違いを始め、その騒ぎが続いている間に、村の方から馬の蹄の音が聞こえてきました。
 海賊たちは一目散に逃げ出し、ピューだけが見捨てられました。ピューは、仲間の名前を呼びながら溝に転げ落ち、すぐに立ち上がって駆け出し、走ってくる馬に踏みつけられて倒れ、そのまま動かなくなりました。
 馬に乗った男たちは、村からリヴジーのところに駆けつけようとした若者と、その若者が道中で出会った密輸監視官たちでした。密輸監視官のダンスのところに、入り江に帆掛船がいるという知らせが入り、ジムたちの宿の方に馬を走らせてきていたところだったのでした。
 ダンスたちが入江のところまで行くと、海賊たちの乗った帆掛船は既に岸を離れ、岬を回って姿を消しました。
 ジムはダンスとともに、破壊されたベンボウ提督亭に戻りました。ダンスは、海賊たちが金を持って行ったにも関わらず、ベンボウ提督亭を荒らし回ったことを不思議がりました。ジムは、おそらく彼らが探していたものは自分の胸ポケットにあり、それをリヴジーに預けたいと申し出ました。するとダンスは部下のドガーの馬にジムを乗せ、リヴジーの家に連れて行くように命じました。

第六章 船長の書類

 リヴジーは家におらず、郷士のトリローニのところで食事をしていました。
 ジムは、ダンスたちと共に、トリローニの屋敷へと向かいました。
 トリローニとリヴジーは、これまでのいきさつを聞いて興奮し、ダンスがピューを馬で踏み潰したことや、ジムの勇敢さを褒め称えました。
 ジムは、油布の包みをリヴジーに渡しました。
 トリローニによると、フリントは悪名高いイギリス人の海賊で、スペイン人にひどく恐れられていたようでした。油布の包みが、もしフリントが財宝を埋めた場所の手がかりであるとしたら、大変な額になることは間違いありませんでした。
 二人の紳士は、ジムの許しを得て、その包みを開きました。中には帳面と、封をした書類が入っていました。
 帳面の初めの方は、日付や金額、十字の印が並んだ不可解な書き入れや、各国の貨幣の換算票が続いていました。トリローニは、それが沈めた船や略奪した町の名前、分け前などが書かれた出納簿なのだと説明しました。
 もう一つの書類には、一つの島の地図が、その島の緯度や経度などの情報と共に書かれていました。その島は縦九マイル、横五マイルほどで、中には赤インクで三つの十字が書かれていて、そのうちの一つには「宝の大半はここ」と記されていました。
裏側には同じ筆跡で、
「遠眼鏡の肩、高い木、北北東より一度北の方角
骸骨島。東南東微東に
十フィート
銀の延べ棒は北の隠し場所に。東の小山の斜面、黒い岩に向かい南へ十尋のところにあり。
武器は北の入り江の岬の北端、東から四分の一北の方角の砂丘にて、容易に見つかる。
J・F」
と書かれていました。
 これを見たリヴジーとトリローニは大喜びしました。トリローニは、明日すぐにブリストルに発ち、イギリスで最高の船を手に入れ、選りすぐりの乗組員を集め、自分が提督になり、ジムをキャビンボーイとして、リヴジーを船医として雇い、使用人のレッドルース、ジョイス、ハンターも連れて行くと言いました。
 リヴジーは、この地図のことは宿を襲った連中も知っているので、沈黙を守り、海に出るまで絶対に一人になってはならず、誰にも言わないようにしなければならないと、おしゃべりなトリローニに忠告を与えました。
トリローニは、沈黙を守ることを約束しました。

第二部 船の料理番

第七章 ブリストルへ行く

 ジムたちは出航の準備に取りかかりました。
 リヴジーは留守を任せる医師を探しにロンドンへ、トリローニは船員を集めにブリストルへ行きました。
 ジムはリヴジーの邸で、猟番のレッドルース老人に預けられ、細部まで覚え込んだ地図の島について考えながら過ごしました。
 数週間後、本人不在の場合はレッドルースかホーキンズ少年が開封すべしと書かれた一通の手紙が、リヴジー宛に届きました。
 ジムはその手紙を開封しました。それはトリローニからのもので、ヒスパニオーラ号という名の優秀な船を旧友から購入し、いつでも出航できる状態にあることが書かれていました。
 またその手紙によると、ブリストルで乗組員を探していたトリローニは、元水夫で居酒屋を営み、近所の船乗りは皆知っており、陸で健康を損ねたので料理番として海に出たいという片脚の男と偶然に話をすることになりました。その男はジョン・シルヴァーと呼ばれており、軍務についていた時に片脚を失ったと言いました。資産家でもあったシルヴァーは、店の方は黒人の妻に任せておくことができ、頼もしい熟練の乗組員を集めてくれたようでした。
 ヒスパニオーラ号の売り手のブランドリーは、航海長を見つけてくれ、さらに八月まで自分たちが帰らない場合には、捜索船を派遣してくれることを約束しました。
 トリローニは、リヴジーにレッドルースとジムを連れて大至急ブリストルに来るようにと誘いました。

 翌日、ジムはレッドルースに連れられて、トリローニによって修繕されたベンボウ提督亭に行きました。母親は達者にやっていましたが、自分の代わりに付き添うことになった気の利かない手伝いの少年を見たジムは、涙を流しました。
 翌日、昼食を済ませると、レッドルースとジムはベンボウ提督亭に別れを告げ、夕暮れ時から馬車に乗りこみました。間もなくジムは眠りに落ち、目覚めるとブリストルに到着していました。
 トリローニは、スクーナー作業を監督するため、波止場の奥まったところにある宿屋に住んでいました。
 さまざまな国籍の船を見ながらトリローニのいる宿に向かったジムは、自分自身も彼らと同じように、未知の島へ向けて、埋蔵された財宝を探しに旅に出るのだいう夢に浸りながら歩きました。
 リヴジーも昨夜ロンドンから到着しており、出帆は翌日のようでした。

第八章 遠眼鏡亭にて

 ジムはトリローニから手紙を託され、遠眼鏡亭にいるジョン・シルヴァーに届けてくれと言われました。ジムはその酒場へ入り、左脚のないのっぽの男を見つけ、一目でそれがシルヴァーであることがわかりました。シルヴァーは利口そうな顔をしたがっしりとした男で、撞木杖を器用に操り、店内を跳ね回っていました。
 トリローニからの手紙でシルヴァーのことを知った時から、それが船長が恐れていた一本脚の船乗りではないかと不安に思っていたジムは、海賊とは思えないシルヴァーの風貌に安心し、話しかけました。
 そのとき、店の向こうにいた客が不意に立ち上がり、戸口から出て行きました。ジムはその男が黒犬であることに気づきました。シルヴァーは、黒犬を捕まえてくるよう部下に命じ、黒犬と一緒に飲んでいたトム・モーガンという男に、黒犬と飲むのは初めてかと聞き、海賊とつきあっているとしたら自分の店には二度と入れないと言いました。
 シルヴァーは、以前黒犬が盲目の乞食と一緒に来ていたことに気づいており、ジムは、その乞食がピューという名であることを教えました。
 まもなくシルヴァーの部下が戻ってきて、黒犬を取り逃したことを伝えると、シルヴァーは心から悔しがる様子を見せました。
 ジムはすぐにシルヴァーと打ち解け、二人でトリローニのところへ向かいました。道中、シルヴァーは岸壁から見かける様々な船の国籍や航海用語を教えてくれ、ジムは船乗り仲間として最高の男と一緒にいるのだと思い始めました。
 宿屋に戻ると、トリローニとリヴジーは、ヒスパニオーラ号の検分に行こうとしていました。トリローニは、翌日の午後四時までには全員乗船しているようにと伝え、シルヴァーを帰しました。

第九章 火薬と武器

 ジムは、トリローニとリヴジーと、沖に停泊しているヒスパニオーラ号を見に行きました。
 ボートを横づけすると、ジムたちは、シルヴァーがブリストルで見つけた航海士のアローに敬礼を受けて迎えられました。アローとトリローニは、親しげで打ち解けた様子でした。
 船長のスモレットは、険しい顔つきの男で、この航海に携わる水夫や航海士が気に入らないとトリローニに訴えました。
 リヴジーは、この航海のどのような点が気に入らないのかとスモレットに聞きました。スモレットは、この船が宝探しに行くことを知らなかったようでした。彼は宝探しというもの自体が、生きるか死ぬかの物騒な仕事であるにも関わらず、自分を除いた水夫たちにその秘密が言いふらされていること、また、孤独を保つべき航海士のアローが、平水夫と馴れ馴れしくしていることも気に入らないようでした。
 船長は、乗組員たちが前部船倉に入れた火薬と武器を船尾船室に移し、ジムたちに船室のそばの寝棚を使わせることを提案しました。
 また、トリローニが宝のある島の位置を喋っていないにも関わらず、水夫たちはそれを知っていることをスモレットは指摘し、その秘密を自分を含めた全ての人に明かさないようにと要求しました。
 それは、スモレットがこの船と乗組員の安全に責任を置いているためであり、信用に足らない可能性のある人物に対する予防措置を取るためでした。トリローニは、彼のこの発言に腹を立てましたが、リヴジーは、彼のことを率直な人物と評しました。
 スモレットの言う通り、船尾に六つの寝棚が作られ、そこにジムとレッドルース、ハンター、ジョイス、リヴジー、トリローニが寝ることになり、スモレットとアローは、甲板の昇降口で寝ることになりました。
 スモレットは、船内ではえこ贔屓をしないことを宣言し、ジムをキャビンボーイとして扱い、シルヴァーの手伝いをするようにと命じました。
 ジムはトリローニの意見に同調し、スモレットのことを嫌いになりました。

第十章 航海

 その晩は、皆が大忙しに働きました。まもなく出航の準備が整い、ジムが仮眠を取るために横になると、ヒスパニオーラ号は航海を始めました。
 航海が始まると間もなく、航海士のアローがスモレットの恐れていた以上にだらしない男であることがわかりました。彼はどこから手に入れたか分からない酒を飲み、酩酊して甲板に現れました。航海士としては全く役に立たず、水夫たちも彼の命令を全く聞こうとはしませんでした。
 出港後間もなくアローは海に落ちましたが、誰もそのことに驚かず、残念にも思いませんでした。
 アローの代わりには、甲板長のジョブ・アンダーソンが航海士の仕事をするようになりました。
 海に出たことのあるトリローニは、知識もあり、天候が穏やかな時は当直を買って出たため、とても役に立ちました。
 艇長のイズレイル・ハンズは、注意深い老練の船員で、緊急時にはあらゆることを任せられました。
 ハンズの友であったシルヴァーは、水夫たちからは焼肉番と呼ばれました。彼は船上では杖を首から下げ、その杖を隔壁にあてがって、そこに体を預けて料理をしました。荒天時でも、補助のロープと杖を使い、皆と変わらぬほど素早く歩くことができました。彼はフリントと名づけられた鸚鵡を飼っていて、その鸚鵡は話しかけると、「八レアル銀貨!」と繰り返し喋りました。シルヴァーによると、この鸚鵡は二百歳くらいで、大海賊エドワード・イングランドの船に乗っていて、各地の海を渡ってきたようでした。
 ハンズによると、シルヴァーは若い頃は学校にも行き、恐れを知らない水夫だったようで、乗組員はみな、彼のことを尊敬し、従いました。シルヴァーはジムにはいつも親切でした。
 スモレットは、乗組員の中には優秀な人間もいることを認め、船を気に入ってもいるようでしたが、この航海自体を気に入らないと主張し続けました。トリローニは、そのような船長に我慢ならない様子でした。
トリローニは、水夫たちによく水割りラムやプディングを振る舞い、船の中央甲板には誰でも好きに食べられる林檎の入った樽が置かれました。
 スモレットは、平水夫を甘やかすと悪魔になると言う考えをリヴジーに伝えました。
 ヒスパニオーラ号の往路の最終日と思われる日の日没直後、ジムは林檎が食べたくなり、甲板に出て林檎樽の中に体ごと入り、そのまま眠り込んでしまいました。
 すると、その樽に背中をもたせながら男が腰を下ろし、喋り始めました。それはシルヴァーの声でした。

第十一章 林檎樽の中で聞いた話

 シルヴァーは、若い船乗り相手に自分の経歴を話し始めました。
 彼は始めイングランドの船に乗り、次に操舵手としてフリントの船に乗りました。その時すでに片舷斉射で片脚を失っており、同じ攻撃でピューも盲目となっていました。
 シルヴァーは、イングランドの船で九百ポンドを、フリントの船で二千ポンドを貯め、それをしっかりと貯金していました。ピューは眼をやられてやけくそになり、年に千二百ポンドを使い、物乞いや盗みや殺しをやり、その挙げ句に飢え死にしかけたこともあるようでした。
 今では五十歳になるシルヴァーは、怪しまれないように少しずつ色々なところに金を預けており、この航海が終われば本物の紳士になるつもりでした。航海の前に銀行にあった金を預けていた黒人の妻には、遠眼鏡亭を売り払わせ、どこかで落ち合うことになっているようでした。
 彼は海賊のことを「冒険紳士」と呼び、言葉巧みにディックという若い水夫を堕落させようとしていました。ディックは、シルヴァーに協力することを約束しました。
 そこへハンズがやってきて、いつスモレットの船室からワインを略奪するのかと聞きました。リヴジーやトリローニが持っている地図がどこにあるのか分からず、一流の船長スモレットが船を操縦している間は、宝を船に積み込ませるのを待つのが得策だと考えていたシルヴァーは、自分が命じるまでは、しらふでいるようにとハンズに命じました。
 そして本当は帰りの貿易風に乗れる目星がつくまでは船を奪うのを控えたかったものの、酔っ払うまでは満足することのない仲間たちのために、仕方なくスモレットやトリローニたちを島に置き去りにするつもりだと言いました。
 ディックは、スモレットたちに刃向かうとき、どうするつもりなのかと聞きました。シルヴァーは、今は「待て」が命令ではあるが、時が来たら殺してしまうようにと命じ、トリローニだけは自分の手で殺したいと言いました。
 ディックに林檎をとってほしいとシルヴァーが頼むと、樽の中にいたジムは恐怖のあまり手脚がいうことを聞かず、飛び出すことができませんでした。しかしハンズがラムを飲もうと言い出したおかげで、ジムの存在が気づかれることはありませんでした。
 ジムは、アローが彼らの秘密を知って消されたに違いないと考えました。
 ディック、イズレイル、シルヴァーは、順にコップをまわしてラムを飲みました。その時、見張りが陸の発見を叫ぶ声が聞こえました。

第十二章 戦争会議

 船室や水夫部屋から皆が駆け上がるのが聞こえると、ジムは樽から飛び出し、甲板で出会ったリヴジーやハンターと共に船首へ走りました。
 スモレットは、その島の南側の小島の奥が錨地であることをシルヴァーに確認しました。シルヴァーは、この島を知っていることを隠そうともせず、島の名が骸骨島と言って、海賊たちにとって重要な場所であったこと、三つあるうちの中央にある山は、海賊が見張りを置いたために遠眼鏡山と呼ばれていたことをスモレットに伝えました。
 スモレットは、地図を見せ、場所が合っているかを確認させました。その地図は宝の場所を隠した写しでしたが、シルヴァーは自制心によって失望を表しませんでした。
 ジムは機会を伺い、何か口実を作ってスモレットとトリローニと共に話をする機会を与えてほしいとリヴジーに頼みました。
 その話を聞いたスモレットは、号笛で皆を甲板に集合させ、気前の良いトリローニの発案で、皆の健康と幸運のために乾杯をすることになったと伝え、ラムの配給を許しました。そしてリヴジーとトリローニと共に船室に降り、ジムを呼び出しました。

 船室に入ったジムは、シルヴァーたちの会話の内容を伝えました。
 三人は、ジムの幸運と勇気を称えました。トリローニは、自分の間違いを認め、スモレットの命令を聞くことを誓いました。
 はっきりと味方だと分かるのは、二十六人のうちジム、トリローニ、リヴジー、スモレットに、トリローニの使用人のハンター、ジョイス、レッドルースの七人しかいませんでした。
 スモレットは、シルヴァーたちが決起しないように船をこのまま前進させ、好機が訪れるのを待ち、敵が油断している時に襲い掛かるという計画を立てました。

第三部 私の海岸の冒険

第十三章 どうして海岸の冒険を始めたか

 翌朝、ヒスパニオーラ号は、島の南東三マイルのところで、大洋のうねりによって大きく横揺れしていました。風が吹いてくる気配がなく、ボートを下ろして船を曳航し、狭い水路に入らなければなりませんでした。
乗組員たちは島を前にして気分が緩み、作業のことで激しく不平をこぼしました。
 水路に入ったヒスパニオーラ号が投錨した森の中は、水に浸かった枯れ葉と腐った幹の匂いがしており、リヴジーはここに熱病があることを断言しました。
 船内には不穏な空気が漂い、ジムは反乱が迫っていることを感じました。シルヴァーもまた危険を感じ取っており、集団にしきりに忠告を与え、自身は笑顔を絶やしませんでした。
 ジムたちは船室で会議を開きました。スモレットは、あと少しでも命令を出せば敵は襲いかかってくるであろうと語り、自分達と同じくらいに事態を鎮静させたがっているシルヴァーを利用することを考えつき、午後に乗組員の上陸を許可しました。全員が島に行けば自分達が船を掌握できるだろうと考え、一部が行けば、その連中をシルヴァーが大人しくさせるだろうと考えたためでした。
 信頼できる仲間たちに装填したピストルが渡され、ハンターとジョイスとレッドルースには秘密が明かされました。
 スモレットは、上陸隊の編成をシルヴァーに任せました。ハンズら六人が船に残り、シルヴァーを含む十三人が二艘のボートに乗り込み始めました。
 ジムは、六人が船に残るのであれば、味方が船を掌握できないことや、船室の人が自分の助力を必要としないことを考え、島に上陸することを思いつきました。そしてシルヴァーとは違うボートに乗り込み、岸辺から木にぶら下がって手近の茂みに飛び降り、一目散に走り始めました。

第十四章 第一撃

 シルヴァーをまいて気をよくしたジムは、探検の喜びを覚えながら島を歩き回りました。沼沢地を超えて樫の茂みにやってくると、乗組員たちがこちらへ近づいてくる音が聞こえ始めました。
 ジムは樫の陰に隠れながら、彼らがやってくるのを待ちました。
 シルヴァーたちは、喧嘩腰に話し合っている様子でしたが、やがて腰を下ろしてひと休みしたようで、静かになりました。
 ジムは、彼らの話を盗み聞きすることが義務であると考え、四つん這いになりながら彼らの方へとゆっくりと近づいて行きました。
 やがて頭を上げてみると、シルヴァーと一人の乗組員が向き合ったまま話しているのが見えました。シルヴァーは、相手のトムという男に、自分達の仲間に入るように勧めているようでした。
 そこへ、湿地のはるか奥の方から、断末魔の叫び声が聞こえました。
 その悲鳴を上げた男が誰であるかをシルヴァーが知っていたため、トムはシルヴァーがその殺人を計画したのだと見破り、自分が殺されようと務めをまっとうすることを宣言し、浜の方へと歩き出しました。するとシルヴァーは杖をトムの背中めがけて投げつけて背骨を折り、ナイフを突き刺して殺しました。
 ジムはしばらくの間呆然とし、気がついた時にはシルヴァーはトムの遺体の傍らでナイフを草の葉で拭っていました。
 やがてシルヴァーが笛を吹き、仲間たちを呼び寄せ始めると、ジムは半狂乱になって逃げ出しました。

第十五章 島の男

 ジムが石だらけの急な山肌にたどり着くと、ボロ着をまとい日焼けした男が目の前に立ちはだかりました。ジムは意を決して男の方へと歩いて行き、何者なのかと尋ねました。
 男はベン・ガンと名乗りました。彼はもともとフリントの船に乗っていました。以前この島に着いた時、フリントは六人の屈強な船乗りと共にこの島に一週間ほど滞在し、宝を埋め、ほかの六人を皆殺しにして船に戻りました。その時船に残っていたのが、ベンボウ提督亭に船長と名乗り宿泊していた、当時航海士のビリー・ボーンズと、操舵手のジョン・シルヴァーでした。ビリーとジョンが宝の在処を尋ねると、上陸しても構わないが、船の方はもっと稼ぎに行くとフリントは答えました。
 そして三年前、ベンは他の船でこの島の付近を通った時に、フリントの宝があることを皆に知らせたものの、十二日間見つからず、宝を探し続けるようにと言われ、結局一人でこの島に置き去りにされました。以来ベンは、一人で母親のことを思い出すにつれて改心し、神を敬うようになりました。彼は宝の在処を既に知っているようでした。
 ベンがシルヴァーのことを恐れているのを知り、ジムはこれまでの経緯を話して聞かせ、船に戻ればチーズがどっさりとあることを伝えました。するとベンは味方につきたいという意思を示し、自分が平水夫ではなかったこと、三年の間に改心したことをトリローニに伝えてくれと頼みました。さらにベンには自作のボートもあるようで、船に戻る時は使うようにと申し出てくれました。

 そのとき、一発の銃声が聞こえました。争いが始まったことを察したジムは、停泊地の方に走り出しました。ベンはその後をついてきて、道を教えながら走りました。
 その後、小火器の一斉射撃の音が聞こえ、ユニオンジャックが前方の森の上にひるがえるのが見えました。

第四部 砦

第十六章 先生がつづけた物語ーーどうして船を捨てたか

 一方、二艘のボートがヒスパニオーラ号から岸に向かった後、スモレットとトリローニとリヴジーはさまざまなことを相談していました。するとジムがボートに乗り込んで上陸してしまったことをハンターが伝えにやってきました。
 リヴジーはジムの安否を心配しました。
 残された六人の悪党たちは、前甲板で帆の下に座り込んでぶつぶつ話していました。
待つのが耐え難くなり、ハンターとリヴジーは、シルヴァーたちとは別のところに小型艇で上陸し、砦に辿り着きました。
 その砦は、小山の頂上に湧き水があり、その湧き水を囲むようにして堅固な丸太小屋が組んであり、四方の壁には銃眼があいており、しっかりとした見張りがいれば外から攻め入る敵に対して有利のようでした。
 突然、人間の断末魔の悲鳴が島に響き渡りました。ジムがやられたと考えたリヴジーは、海岸に戻って小型艇に飛び乗りました。
 船に戻ると、リヴジーはスモレットと相談し、レッドルースとハンターに船の見張りをさせ、自身はジョイスとともに必要なものを積み込みにかかりました。
 トリローニともとに甲板にとどまったスモレットはハンズに話しかけ、自分達は二挺ずつピストルを持っているので、誰かがなんらかの合図をすれば、その男を撃つと言い、六人の水夫たちを大人しくさせました。
 その間にリヴジーとジョイスは小型艇に積めるだけの荷を積み込み、優秀な漕ぎ手であるハンターとともに岸へ向かい、前回と同じ場所に上陸し、丸太小屋に物資を運び込み始めました。
 そしてジョイスが見張りに残り、ハンターとリヴジーは、もう一度荷を担いで全ての荷を丸太小屋に運び込みました。
 リヴジーは再び船へと戻り、食糧や火薬を必死に積み込み、レッドルースとリヴジーとトリローニが鉄砲一挺とカトラス一本を持ち、残りの武器と火薬を海に放り込みました。
 一同がボートに降り、そのボートが船尾の張出部にまわされると、スモレットは敵に寝返ったエイブラハム・グレイに話しかけ、三十秒の猶予の間に改心して自分たちの味方に戻り、一緒に来るようにと諭しました。
 するとグレイは、他の者たちと殴り合いをしながら飛び出してきました。リヴジーたちは、スモレットとグレイをボートに乗せ、本船から逃れました。

第十七章 先生がつづけた物語ーー小型艇の最後の航行

 トリローニ、レッドルース、スモレット、リヴジー、グレイの五人が乗り込んだため、ボートは積載量を超えており、水を被りながら進みました。また潮が引き始めていたために流れが変わり、本来の上陸地点から離されていき、一行は流れに逆らいながら進まなければなりませんでした。
 ハンズらの敵が船尾に残る九ポンド砲を此方に向けてようとしているのが見えました。射撃の最も得意なトリローニが撃つと、そのうちの一発が悪党のうちの一人に当たり、叫び声を上げました。
 その叫び声は海岸にいる悪党たちに聞こえ、海賊たちは林の中から出てきて、ボートに飛び乗るのが見えました。
 大型艇がこちらにやってくるのが見え、船長は全力で漕ぐよう、レッドルースに叫びました。大型艇は、先ほどまでリヴジーたちの進路を妨げていた流れによって進行を妨げられているようでした。
 ハンズたちは砲丸を発射し、その砲丸はリヴジーたちの頭上を超えて行き、その煽り風によって、ボートは沈み始めました。スモレット、リヴジー、トリローニ、レッドルース、グレイは海に飛び込み、泳いで浜へ上がりました。銃を含む物資の大部分が沈み、使える銃が二挺だけとなり、さらに海岸沿いの林を近づいてくる人声が聞こえたため、彼らは大急ぎで浜へと上がり、ハンターとジョイスの残る砦へと向かいました。

第十八章 先生がつづけた物語ーー第一日の戦闘の終わり

 リヴジーたちが砦の柵にたどり着いたのと同時に、甲板長のジョブ・アンダーソンを先頭に七人の敵が現れました。トリローニとリヴジー、さらに砦の中からも発泡があり、敵の一人が倒れ、残りは林に飛び込みました。その直後、藪の中から発射された弾丸がレッドルースに当たりました。一同は彼を丸太小屋に運びました。
 これまでどんな命令にも頑固に従ってきたレッドルースの手に、トリローニは泣きながら口づけし、赦しを乞いました。レッドルースは、もちろんだと答えると、祈りを唱えてほしいと頼み、それ以上は何も言わずに息を引き取りました。
 スモレットは、ポケットからイギリス国旗を取り出し、屋根に登って結びつけ、掲揚しました。それから彼はレッドルースの亡骸の上に国旗を広げ、トリローニを元気づけました。
 敵は砲丸をこちらのイギリス国旗に向けて撃ってきましたが、スモレットはその国旗を下ろそうとはせず、砲丸が命中することもありませんでした。
 敵は夜まで撃ち続け、そのうちの一発は、小屋の屋根を突き破りましたが、リヴジーたちは砲丸の音に慣れてしまい、じきに気にしなくなりました。
 食糧不足を懸念していたスモレットは、引き潮になって荷が現れたら、ボートに積んだ肉を取ってくる志願者を募りました。グレイとハンターが名乗り出て砦を抜け出したものの、既にそこにはシルヴァーが指揮する四、五人の敵が水の中に沈んだ物資を大型艇に運んでいました。

 スモレットがこれまでのいきさつを航海日誌に書き記していると、ジムが元気に柵を乗り越えてくるのが見えました。

第十九章 ジム・ホーキンズが再び始めた物語ーー砦の守備隊

 スモレットが掲げたイギリス国旗を見かけたジムとベンは、味方が先ほどの銃声を起こした戦いに勝ち、砦に向かったのでした。その途中、ベンは、トリローニかリヴジーに話したいことがあるので、正午から三時ごろに自分たちが初めて会った場所で待っていると伝えるようにジムに頼みました。
 そこへ、大きな砲声が聞こえてきたため、ベンとジムは別々の方向へ逃げました。それからジムは砲声から身を隠しながら森を歩き、海岸沿いの林の中から海賊旗ジョリー・ロジャーがはためくヒスパニオーラ号を眺めました。砦の近くの浜では、敵の男たちが小型艇を破壊しており、河口近くの木々の間には、大きな焚き火が燃え、男たちがラムを飲んでいるのが分かりました。
 停泊地の東側を囲む砂洲から、ジムは白い岩を見つけました。それはベンが語っていたボートの隠し場所でした。それからジムは陸側に戻り、リヴジーたちの砦へ辿り着いたのでした。
 このジムの冒険を聞いたスモレットは、全員を自分の前に呼び集めて二班の当直に分け、リヴジーとグレイとジムが一班、トリローニとハンターとジョイスがもう一班で、二名に薪集め、そして二名にレッドルースの埋葬を命じました。
 ジムたちはレッドルースを埋葬すると、今後の相談を始めました。
 リヴジーは、一週間も経てば、この島の気候のために海賊たちは野営地で寝込んでしまうだろうと断言し、こちらが先にやられなければ、敵はヒスパニオーラ号に逃げ込むだろうという予想を立てました。
 疲れ果てていたジムは、死んだように眠り込みましたが、やがて慌ただしい物音と人声で目を覚まし、シルヴァー本人が休戦旗を持ってやってきたという誰かの声を聞きました。

第二十章 シルヴァーの使命

 シルヴァーは、白旗を振る腹心の男を携え、休戦を宣言しにやってきました。
 スモレットは、それを罠だと考え、自分とリヴジーとグレイと、非番の班に四方を見張らせながら、何の用で来たのかと聞きました。
 シルヴァーは、スモレットが船長としての任務を「放棄した」ために、自分が船長に選ばれたと強調しながら、話がついたら自分達はそれに従う用意があるので、その代わりに自分を無事に帰すことを要求しました。そしてスモレットの許可を得ると、柵を乗り越えて砦のところまで登って来て、ポーチの撃たれない場所に身を隠していたスモレットのところへたどり着き、粋な敬礼をしてみせました。
 シルヴァーは、砂地に腰を下ろし、自分たち一味の中に犠牲者が出たことを伝えました。それがベンの仕業であることにジムは気づきましたが、シルヴァーたちはジムの仲間がしでかしたものだと思い込んでいるようでした。
 シルヴァーは、宝の地図と、ジムたちすべての命を引き換えにするという提案を行いました。スモレットは、その話を断りました。
 するとシルヴァーは、宝の地図をこちらに渡し、自分達と一緒に船に乗り込んで安全な場所でおろすか、食料を人数分だけ分けてこの島に残り、最初に見かけた船に声をかけて、ジムたちを拾いに来させるかを選ばせようとし、この話を断るのであれば、戦闘を起こすと宣言しました。
 スモレットは、シルヴァーたちが一人ずつ武器を持たずにやってくるならば、全員に枷をかけ、イギリスに連れ帰り、公平な裁判を受けさせることを約束し、いやだというならば、シルヴァーたちを一人残らず海の藻屑にすると言い放ちました。
 シルヴァーは、怒りのあまり目の玉が飛び出しそうになり、立つために手を貸すよう怒鳴りました。しかし誰もが手を貸すものがいなかったため、ポーチに捕まって杖をついてようやく立ち上がり、一時間もしないうちにこの小屋を叩き壊しにくると宣言し、去って行きました。

第二十一章 攻撃

 船長は、敵がおそらく一時間もしないうちに襲ってくることを予想し、自分達は数的不利であるものの、隠れ場の中で戦うので、敵をやっつけられるだろうと言いました。
 リヴジー、ハンター、ジョイス、トリローニ、グレイは、砦の各方向を見張り、ジムとスモレットは弾込めと手伝いをすることが決まりました。
 一時間が過ぎ、人影を認めたジョイスが撃ち始めると、四方から銃声が響き始めました。
 硝煙が晴れ、周囲が一時静かになった後、突如大きな喊声とともに海賊たちが飛び出してきて柵に飛びつき、森からは再び射撃が起こりました。
 柵に群がってきた敵たちのうち、トリローニとグレイによって二人が倒されたものの、四人が柵の内側に踏み込んで来ました。
 四人の海賊たちは、小山を駆け上がって砦へと迫り、そのうちの一人がハンターの銃を掴んで銃丸から引き抜き、一撃を浴びせました。
 小屋の中が硝煙で満たされたため、スモレットは外へ出てカトラスで戦うように叫びました。
 ジム、リヴジー、グレイは、戸口から外へ出て戦いました。この戦闘では、甲板長のジョブ・アンダーソンを含む五人の敵を倒しましたが、ハンターとジョイスは絶命し、スモレットも負傷を追うことになりました。

第五部 私の海の冒険

第二十二章 どうして海での冒険を始めたか

 敵が戻ってこなかったので、ジムたちは負傷者の手当てを行い、危険を顧みず外で料理をして昼食をとりました。
 船長は、ジョブ・アンダーソンからの銃撃を受けたものの、命に別状はありませんでした。
 昼食後、リヴジーはトリローニと相談して、ベン・ガンに会うために森へ出かけていきました。
 ジムは、無鉄砲なリヴジーに呆気に取られたものの、遺体の転がっている小屋の中の蒸し暑さに耐えかね、清々しい森を歩いているリヴジーが羨ましくなり、ポケットにビスケットを詰め込んで、一対のピストルを持って脱走を試み、グレイとトリローニが船長の包帯を取り替えている間に砦を抜け出しました。
 木立を抜けて静かな浜へと辿り着くと、砂洲の背に這い上り、ジョリー・ロジャー旗が掲げられたヒスパニオーラ号を眺めました。ヒスパニオーラ号には大型艇が横づけされ、そこにはシルヴァーが座り、本船の船尾から身を乗り出した悪党と談笑しているのが見えました。
 まもなく大型艇は岸を目指して漕ぎ始めました。
 ジムは白い岩の下にある窪みになった緑の草地をみつけ、その真ん中にある山羊皮のテントを見つけました。そのテントの中には、ベン・ガン手製の粗末なボートがありました。
 ジムは、闇に紛れてそのボートでヒスパニオーラ号に近づき、錨策を切って船を座礁させようと考え、日が完全に沈むと、そのボートをかついで海岸へ行き、海へと乗り出しました。

第二十三章 引き潮は流れる

 ジムは、そのボートの扱いに苦労しながら、ヒスパニオーラ号まで漕いでわたり、錨策を掴み、その錨策が張り詰めていない瞬間を見計らって、ナイフでそれを切断し始めました。
 錨策を全て切り終わると、ジムのボートはヒスパニオーラ号の船首にぶつかり、急な流れのせいで船から離れるのが難しくなりました。ジムは船尾に向かい、そこに垂れ下がっていた一本の細いロープを反射的につかみ、船室の窓から中を覗いてやろうという気になりました。かなりの速度で流されながらそのロープをたぐり、窓の下枠から顔を出して船室の中を覗き込むと、イズレイル・ハンズが赤いナイトキャップを被った男と取っ組み合いをしており、互いの首に手をかけて相手を殺そうとしていました。
 やがてヒスパニオーラ号は、潮の流れに巻き込まれて向きを変え始め、ジムの乗っているボートもその潮の流れに乗って、荒波に突っ込みました。ジムは何時間も、大波に叩きつけられながら伏せて待つうちに、疲労によって心が無感覚になる麻痺に襲われて、やがて眠り込んでしまいました。

第二十四章 コラクルの巡航

 翌朝、ジムが眼を覚ますと、ボートは宝島の南西の沖合で波に揺られていました。
 ジムは、宝島に上陸するために、西海岸を北上する大波の流れに乗り、櫂を使って浜辺のある陸の方へと進みました。

 すると前方わずか半マイルのところをヒスパニオーラ号が帆走しているところに出くわしました。その進み方から、船員たちは酔い潰れており、誰も舵を取っていないことが分かりました。ジムは、ハンズらが船を放棄したに違いないと考え、自分が乗り込んで船を取り戻そうとして、全力でヒスパニオーラ号を追いました。やがて風が弱くなり、船が向きを変えてボートの方へと距離を縮め始めると、ジムは跳び上がり、ヒスパニオーラ号へと乗り込みました。その直後、船はボートにぶつかり、退路を断たれたことをジムは悟りました。

第二十五章 海賊旗をおろす

 ジムは船首から甲板に這い上がりました。イズレイル・ハンズと、もう一人の赤帽子をかぶった男オブライエンは相打ちとなったようで、二人とも甲板に血飛沫を撒き散らして倒れていました。
 やがてハンズは呻き声をあげながら起き上がり、ジムが声をかけても、「ブランデー」と言うのがやっとのようでした。ジムは船室に行き、ブランデーの残っている瓶を見つけて、それをハンズに運んでやりました。そして船を占領しにきたと宣言し、海賊旗を下ろして海に放り込み、国王陛下万歳と宣言しました。
 するとハンズは、ジムを船長と呼び、傷を縛るためのスカーフを持ってくる代わりに、船の操り方を教えるという取り引きを持ちかけました。

 ジムが北の入江にそっと乗り上げるつもりだと言うと、ハンズはその提案を飲みました。ジムは母親からもらった絹のハンカチを私物箱から出してきてハンズに渡しました。ハンズはそれで傷口を縛り、ブランデーをあおると、元気を取り戻し、ジムに操縦の仕方を教えました。
 ジムは、ハンズの自分に対する嘲りの気配に気づきながらも、大手柄を挙げたことに有頂天になりながら、船を島の北東に回り込ませました。

第二十六章 イズレイル・ハンズ

 船が北の入江の入り口にやってくると、ジムは船を停止させました。するとハンズは、船室でワインを持ってきてほしいとジムに頼みました。
 その不自然な頼み方に気づいたジムは、その頼みを聞いてやるふりをして、昇降口の階段を駆け下りると、水夫部屋の梯子を使って前の昇降口から顔を出してハンズの様子をうかがいました。
 するとハンズは、うめき声をあげながらも、左舷の排水口の近くにある短剣を取り出して懐に隠し、元の場所に戻って甲板の柵にもたれました。
 ジムは、ハンズが動き回れ、今では武器を持ち、自分を殺そうとしていることを悟りました。
 しかし船を安全な場所に座礁させたいという互いの利益が一致していたため、ジムは、それが済むまでは殺されることはないと考え、ワインを持って再び甲板へと出ていきました。
 ハンズは手渡されたワインを飲みました。彼は水先案内人としては優秀で、その指示に従い、ジムは船を進めました。
 やがて二人は、朽ち果てた船の残骸が見える河口を見つけ、そこへ上陸することを決めました。ハンズの指示で舵を切ると、ヒスパニオーラ号は一気に海岸へ向かいました。その一連の操船に興奮したジムは警戒を忘れ、船から首を出して前方を眺めました。そしてふと振り返ると、ハンズが右手に短刀を持ち、こちらに向かってきているところでした。
 ジムは船首の方へ横ざまに飛んで甲板へ逃げ、ポケットからピストルを撃とうとしましたが、海水で火薬が使えなくなり、音も立てませんでした。
 ジムとハンズが向き合った途端、ヒスパニオーラ号が陸に乗り上げて傾き始め、二人はオブライエンの遺体と共に排水口の上に転げ落ちました。ハンズが死体ともつれあっているうちにジムは身を起こし、マストのクロスツリーまでよじ登り、そこに腰を下ろしました。ジムがピストルの点火薬を交換して弾薬を詰め直すと、ハンズは慌て、迷った挙句に短刀を咥えて、負傷した足でマストを登り始めました。
 ジムはそれ以上進んだら発砲すると脅し、得意になりました。ハンズは協定を結ぼうと提案しながら、油断したジムに短刀を投げつけました。その衝撃で肩をマストに刺されたジムは、凄まじい痛みと驚きでピストルを暴発させました。するとハンズはその弾丸に撃たれ、海へと落ちていきました。

第二十七章 八レアル金貨

 ハンズが息絶えて海に沈んでいくと、ジムは目を閉じて心を落ち着かせました。そして肩をマストに突き刺している短剣を引き抜くことを考えながら身震いし、その身震いによって皮膚がちぎれ、自由になりました。船室に降りてできるだけの手当てをしていると、ヒスパニオーラ号は真横に傾いていきました。ジムは切れた錨鎖に捕まりながら浅瀬に降り、上陸を果たしました。
 船を取り戻したジムは、月明かりを頼りにして意気揚々と進みました。すると前方の木々の間に、真っ赤な光がくすぶっているのが目に入りました。
 砦を囲む空き地の手前までやって来ると、小屋の向こう側に、大きな焚き火が焚かれていました。
 味方が大きな焚き火を行うことはないと思っていたジムは、何か良くないことが起きたのではないかと考え、音を立てないように小屋の角の方に向かうと、見張りはおらず、中からは大きな鼾が聞こえました。
 ジムは味方が寝ているのだと思い込んで安心し、真っ暗な小屋の中へと入りました。
 そして眠っている誰かの脚につまずくと、相手は目を覚まさないまま寝返りを打ちました。すると出し抜けに、「八レアル金貨!」と何度も叫ぶ声が聞こえました。それはシルヴァーの鸚鵡のフリント船長の鳴き声でした。
 寝ていた連中が起き出し、ジムは駆け出したものの敵の腕の中に駆け込んでしまい、捕まえられてしまいました。

第六部 シルヴァー船長

第二十八章 敵の宿営にて

 敵はシルヴァーを筆頭に六人が残っていました。彼らは食糧を手に入れているようで、捕虜の姿はなく、皆が死んでしまったのだと思ったジムを恐怖に陥れました。
 ジムは内心絶望しながらも、気丈にシルヴァーを睨み続けました。
 シルヴァーは、ジムがもう仲間のところへは帰れず、自分達と一緒に海賊の仲間になるしかないと言い、自分たちの仲間になるかどうかを選ばせました。
 「仲間のところへ帰れない」と言われて、味方が生きていることを確信したジムは、選ばなくてはいけないのなら、シルヴァーたちがここにいる理由を聞く理由が自分にはあると主張しました。
 するとシルヴァーは、昨日の朝、リヴジーが休戦旗を持ってやってきて、船がなくなっていることを伝えに来たこと、取引の末、丸太小屋や食糧を手に入れたこと、リヴジーたちがジムに対してひどく怒っていたことを伝えました。
 仲間になるかどうかと迫られたジムは、林檎樽の中に隠れてシルヴァーたちの企みを盗み聞いていたこと、ハンズとオブライエンを殺してヒスパニオーラ号を隠したことを話し、自分を生かしたらシルヴァーたちが海賊の罪で裁かれる時には精一杯助けると約束し、反対に彼らに選択を迫りました。
 シルヴァーたちは、ジムが黒犬を知っていたことや、ビリー・ボーンズの宝の地図をくすねたことなどを挙げ、自分達は始めから終わりまでジムにしてやられたのだと語り合いました。
 モーガンがジムを殺してしまおうとナイフを抜きましたが、ジムの度胸を気に入ったシルヴァーは、もし手出しをすればただではおかないと手下たちを威つけました。
 シルヴァーとその手下たちはしばらく睨み合っていましたが、そのうちに手下の一人が自分達の権利に基づいて会議を開かせてもらうと言うと、次々と外へと出て行きました。
 ジムと二人きりになったシルヴァーは、ヒスパニオーラ号を失くしてから観念していたものの、ジムの演説を聞いてから、この少年の味方になることこそが縛り首から逃れられる最後の切り札であることを悟ったと語り、自分はおそらく放り出されることになるが、敵達の手からジムを守り通すことにしたと約束しました。
 ジムは、自分を助けた暁には絞首刑から救ってくれというシルヴァーの要求を、望みが薄いだろうと考えながら引き受けました。
 シルヴァーは、リヴジーが宝の地図を自分に渡したことを伝え、ジムを驚かせました。

第二十九章 ふたたび黒丸

 海賊たちは戻ってきて、聖書から切り取った紙に書かれた黒丸をシルヴァーに見せました。
 その紙の裏には「解任」と書かれていました。
 手下たちの代表格であったジョージ・メリーは、シルヴァーがこの航海をめちゃめちゃにし、黙って敵を罠から出ていかせ、その敵を自分達に襲わせず、ジムを仲間にしようとしたことを理由に挙げました。
 しかしシルヴァーは、ジョージたちが船長である自分に無理強いさせてこの航海をめちゃめちゃにしたことや、自分たちが絞首刑の目の前に来ていること、頼みの綱であるジムを殺そうとするなどなどもってのほかであることを挙げ、さらにリヴジーから渡された宝の地図を見せ、再び彼らを納得させて解任を免れました。
 シルヴァーは、ジョージを歩哨に立たせて脅しましたが、それ以上のことはしませんでした。
 その夜、ジムは、叛徒たちをまとめ上げながら、自分の命を救おうとしていることシルヴァーに待ち構える危険のことを思い、胸を痛めました。

第三十章 仮釈放

 夜明け前、リヴジーが体調を崩した者たちを診察するために現れました。シルヴァーは、以前と変わらない快活な態度でリヴジーを出迎え、ジムがやってきたことを伝えました。リヴジーは、自分の名誉にかけてでも彼らを生きたまま絞首台に送らなければならないと語りながら患者を診察し、ディックがマラリアに罹っているという診断を下しました。
 リヴジーは往診が終わると、ジムと話をさせてくれと言いました。ジョージがそれを禁じて悪態をつくと、シルヴァーはそれを制し、リヴジーが柵の向こうへ出た後でジムを連れて行くと約束しました。
 リヴジーが出て行くと、海賊たちは、シルヴァーが二股をかけて自分だけが和議を結ぼうとしていると、不満を爆発させました。シルヴァーは、宝探しをする日に協定を反故にはできないだろうと言い放ち、ジムをリヴジーのところへ連れて行きました。
 ジムはシルヴァーに連れられて丸太小屋を出ると、リヴジーと柵越しに対面しました。シルヴァーは、自分がジムを助けたことを語り、希望を与えてほしいと真剣な態度で頼み込むと、話の聞こえないところまで遠ざかりました。
 リヴジーは、ジムを責めることはしなかったものの、スモレットが負傷してから出ていったことを卑怯だと叱りました。ジムは、自業自得なので、死ぬことは仕方ないが、拷問されるのだけは嫌なのだと泣き出しました。
リヴジーは、この柵を飛び越えて逃げようとジムに勧めましたが、ジムはシルヴァーとの約束を守り、人質として丸太小屋に残ることを宣言しました。そしてこれまでの冒険を語り、北の入江の砂浜に船を取り戻したことをリヴジーに伝えました。
 その話を聞いたリヴジーは、自分達の命を助けてくれたジムを救うことを約束しました。ベン・ガンは彼らの仲間になったようでした。
 ジムは、リヴジーたちに何の目的があって宝の地図を渡されたのかをシルヴァーが知らないことを知りました。リヴジーは、自分とジムが二人ともここから出ることができたのであれば、シルヴァーを救うために全力を尽くすと約束し、ジムを終始そばに置き、助けが必要になったら呼ぶようにと忠告を与え、去っていきました。

第三十一章 宝探しーーフリントの目印

 リヴジーが去った後、シルヴァーは、自分達が離れずにいなければならないとジムに言いながらも、船をリヴジーたちが持っていることを皆に明かし、宝を見つけたらその船を探し回ることを約束し、彼らの前ではジムを人質として扱うという狡猾さを見せました。
 リヴジーが宝の地図をシルヴァーに渡した理由もわからず、ジムは不安な気持ちになりながら、腰に巻かれた細縄をシルヴァーに引かれ、海賊たちの後について宝探しに出発しなければなりませんでした。
 一行は二艘の大型艇に乗り、島に沿って漕ぎ始めました。

地図には、
遠眼鏡の肩、高い木、北北東より一度北の方角
骸骨島を東南東微東に十フィート

 と書かれていて、海賊たちはその主要な目印である「高い木」を探しました。
 一行はシルヴァーの指示で遠眼鏡山から流れる川の河口に上陸し、大地を登り始めました。片脚のシルヴァーと、縄で繋がれたジムは協力しながら前進しました。
 大地の上へと出ると、一行は蔓草に絡みつかれて持ち上がった人間の骸骨を発見しました。シルヴァーは、その骸骨が不自然な一直線に横たわり、足はそろって一方を、そして手は反対を真っ直ぐに指していることを指摘しました。その死体は、真っ直ぐに骸骨島を指しており、それは正確に東南東微東でした。その遺体は、シルヴァーやモーガンも知っている男のもののようで、六人の手下を殺したフリントの行った冗談であろうと思われました。
 フリントは水夫のポケットから物を盗る男ではなかったにもかかわらず、その遺体にはナイフも銅貨もたばこ入れも残っていませんでした。
 その不自然な死に方にシルヴァーたちは震え上がり、悪い死に方をしたフリントの幽霊の仕業ではないかと噂し、恐怖を感じながら、ひそひそ話で歩き回ることしかできませんでした。

第三十二章 宝探しーー樹の間の声

 一行は、島を一望できる大地の縁で腰を下ろしました。骸骨に出くわした海賊たちは、腹ごしらえもできずにフリントの噂を囁き声で話しました。
 すると不意に前方の林の奥から、
「死人の箱には十五人
ヨー、ホー、ホー、それからラムがひと壜だ」
と歌声が聞こえました。
 それはフリントがいつも酔いながら歌っていた歌でした。
 六人の海賊たちは、フリントの幽霊の仕業だと怯えました。シルヴァーは青くなりながらも誰かの悪戯だと皆を鼓舞しました。
 しかし次にフリントが死ぬ前の際に発していた言葉で呼ぶ声が聞こると、海賊たちは逃げようと言い始めました。
 シルヴァーは、死んだフリントに怯むことなく、宝を手に入れることを主張しましたが、怯えた海賊たちは、恐怖の幽霊に逆らおうとするシルヴァーを叱り、彼にしがみつきました。
 シルヴァーは、不安を押さえつけながら、その声にこだまがしたので、幽霊ではないだろうと主張し、さらにその声がフリントのものではなく、ベン・ガンのものに似ていることに気づきました。
 すると海賊たちは、ベン・ガンであれば生きていても死んでいても怖くないと、元気を取り戻しました。
 やがて一行は、宝の地図に書かれているらしき大きな木にたどり着き、宝を探し始めました。
 シルヴァーは、リヴジーとの約束のことなど忘れたかのように興奮し、乱暴にジムの縄を引っ張りました。ジムは彼が宝と船を見つけ次第自分達を殺すのではないかと思い始めました。
 ついに一行は茂みのはずれへとやってきて、宝のある場所を探り当てました。しかし七十万ポンドと言われる宝はすでに暴かれており、そこには大きな穴が空いていて、いくつかの板が散らばっているだけでした。そのうちの一つには、フリントの船であったセイウチ号と焼き印が押されていました。

第三十三章 首魁の没落

 六人の男たちは、呆然と立ちすくみました。シルヴァーはいち早く立ち直り、これから起こる争いに備えるよう、ジムにピストルを渡しました。再び友好的になったシルヴァーに、ジムは嫌悪を感じました。海賊たちは穴に飛び降り、地面を手で掘り始めました。それでも宝は見つからず、わずかに二ギニーが落ちているのをメリーが見つけただけでした。
 穴から這い出した五人の男は、シルヴァーと対峙しました。メリーは仲間たちを鼓舞し、シルヴァーとジムに襲い掛かるようにという合図を行いました。
 その時、茂みから三挺の鉄砲が発砲され、メリーともう一人の男に命中しました。他の三人は一目散に逃げていきました。
 シルヴァーは、まだもがいているメリーに二発の弾を撃ち込み、勝利を宣言しました。

 それと同時に、リヴジーとグレイ、ベン・ガンが銃を手にジムたちのところへやってきて、逃げ出した三人をボートまで行かせるなと、駆け足を命じました。
 ジムたちは彼らを追って走り出しましたが、後から追って来たシルヴァーは、彼らが台地の開けた場所を逃げており、それがボートの方角ではないことを指し示しました。

 リヴジーは、ボートのあるところまでゆっくり歩きながら、シルヴァーと久々に会ったベン・ガンの物語を語りました。

 ベンは、島に置き去りにされてから島を歩き回るうちに骸骨を発見し、所持品をくすねました。そして宝のありかを見つけるとそれを全て掘り出し、それらを島の北東にある洞穴に何度も運搬を繰り返しました。
 シルヴァーたちからの襲撃を受けた日の午後、リヴジーはそれをベンから聞き出しました。ベンは塩漬けにした山羊の肉をたっぷり持っていることが分かったので、リヴジーは、翌朝、停泊地から船が消えているのを見ると、シルヴァーのところへ出かけ、宝の地図と食料を全て明け渡し、味方を引き連れて砦からマラリアの心配のない洞窟へ移動しました。
 しかし、ジムが敵に囚われていることがわかると、彼が宝を失った敵たちによって酷い目に遭わされるのを避けるため、トリローニをスモレットの護衛に残し、グレイとベンを連れて宝の在処であった場所に向かいました。シルヴァーたちが先を行っていることが分かると、足の速いベンが先に進み、フリントの真似をして恐怖心を煽りたて、彼らを足止めさせました。そして宝の在処であった場所に着くと、近くの松の木のそばに潜んでいたのでした。
 この話を聞いたシルヴァーは、ジムを連れて歩いていたおかげで命が助かったと言いました。
 一行はボートのところに着くと、海路で北の入江を目指しました。そしてベンの洞穴で待っていたトリローニと共に万歳し、北入江に入ってすぐのところに漂っているヒスパニオーラ号を見つけ、グレイを船の番に向かわせました。
 トリローニは、ジムに脱走のことを何一つ責めず、かしこまった敬礼をしたシルヴァーに対して、その行状を責めながらも起訴はしないと約束しました。
 ジムたちは泉のある洞穴に入り、焚き火のそばに横たわっているスモレットと再会しました。そこには硬貨の山と、四辺形に積み上げられた金の延べ棒が置かれていました。
 スモレットはジムを叱り、「職務に戻った」というシルヴァーを受け入れました。その夜、ジムたちはベンの山羊の塩漬けと、ヒスパニオーラ号から持ってきたワインで夕食を楽しみました。
 シルヴァーは、航海に出た時と同じ、愛想の良い船乗りへと戻りました。

第三十四章 そして結末

 あくる朝早朝から、一行は、大量の黄金を一マイル近くと、そこからさらにヒスパニオーラ号までの三マイルをボートで運びました。
 運搬の役には立つことのできないジムは、フリントの珍しい様々な硬貨の選り分けを行いました。
 彼らは数日間この作業続けました。
 シルヴァーは邪険に扱われながらも、愛想よく皆に取り入ろうとしていました。
 会議が開かれ、三人の逃げて行った海賊たちをこの島に残すことが決まり、いくつかの生活に必要な品や食糧が彼らのために残されました。
 宝をすべて船に運び、食糧も大量に蓄えたジムたちは、ある朝ユニオン・ジャックを掲げたヒスパニオーラ号で出帆しました。
 日没の頃、一行は美しい湾にたどり着き、ジムとリヴジーとトリローニは、街で過ごそうと船を降り、イギリスの軍艦の艦長と出会って話し込み、夜明けまで愉快な時を過ごしました。
 船に戻ると、一人で甲板にいたベン・ガンは、数時間前に小舟でシルヴァーが逃げたことを報告しました。ベンは、味方の命を救うために、一本脚の有名な海賊であるシルヴァーが逃げるのを見て見ぬふりをしたのだと言いました。
 シルヴァーは、壁をくり抜いて、金貨の袋をひとつ持ち去っていました。
 ジムたちは、シルヴァーを安く厄介払いできたことを喜びました。
 その町で彼らは数人の水夫を雇い入れ、ブリストルまでの航海を続けました。
 帰国後、ジムたちは宝を山分けしました。
 その後、スモレットは引退し、航海を辞めました。
 グレイは身を立てるために船乗りの仕事を勉強し、立派な帆船の航海士にして共同所有者になり、結婚して父親になりました。
 ベン・ガンは、千ポンドをもらったものの十九日間で使い切ってしまい、今では門番として、田舎の少年たちの人気者になりながら働き、教会にも通うようになりました。
 シルヴァーの消息は分からずじまいでしたが、おそらく黒人の妻と巡り合い、鸚鵡のフリント船長と暮らしていることでしょう。銀の延べ棒と武器は、今でもフリントの埋めたところに眠っているものと思われましたが、未だに島の悪夢を見るジムは再びあの島に行こうとは決して思うことはありませんでした。