ロバート・ルイス・スティーヴンソン『宝島』の登場人物、あらすじ、感想

 『宝島』は、1881年から1882年にかけて、イギリスの児童向け雑誌に連載され、1883年に単行本として出版されたロバート・ルイス・スティーヴンソンの最初の長編小説です。スティーヴンソンは、『ジーキル博士とハイド氏』などを書いたことでも知られるイギリスの人気作家です。『宝島』は、スコットランドの避暑地ブレーマーでの休暇中に、妻の連れ子と一緒に描いた架空の島の地図からヒントを得て創作され、出版と同時にイギリス中で人気となり、スティーヴンソンの名を一躍知らしめることとなった作品です。以来、児童文学にとどまらず、大人も楽しめる作品として愛され、これまでに世界中で50回以上も映像化されているようです。
 また、この作品に登場する残虐非道の海賊の親玉フリント船長や、額に刀傷のある酒浸りの男ビリー・ボーンズ、鸚鵡を飼っている片脚の抜け目ない大男ジョン・シルヴァーといった海賊たちの描写は、現代における海賊のイメージを決定づけたとも言われており、そのモチーフは、21世紀のさまざまなメディアで採用されています。
 このページではそんな『宝島』の登場人物、あらすじ、感想を紹介します。ネタバレ内容を含みます。

『宝島』の主な登場人物

※詳しい登場人物一覧はこちら

ジム・ホーキンズ
本作の主人公。イングランドの都市ブリストル近郊の入江にある宿屋ベンボウ提督亭の息子。老水夫ビリー・ボーンズの宝の地図を手に入れ、医師のリヴジーや地主のトリローニらとともに航海に出る。

ビリー・ボーンズ
伝説の海賊フリントの船の一等航海士であった老船乗り。片頬に刀傷がある。サヴァナ(アメリカの都市)で死んだフリントから宝の地図を譲り受け、その地図の入った私物箱をベンボウ提督亭に持ち入れ、本名を隠して宿泊する。かつての仲間たちにその地図を狙われており、船乗りの来訪を恐れている。

デイヴィッド・リヴジー
医師。治安判事。肺病を患うジムの父親を診るためにベンボウ提督亭を訪れに来ていた。ビリー・ボーンズの宝の地図をジムが持って来たことで、船医として航海に出ることを決意する。

ジョン・トリローニ
地主。六フィートを超える長身で恰幅がよく、癇癪持ちに見えるものの、口が軽く、軽率にふるまうことがある。射撃の名手。ジムが宝の地図を手に入れたことを知ると、船主に名乗りを上げ、ブリストルで船と船員探しを始める。

アレグザンダー・スモレット
トリローニの旧友が見つけてきたヒスパニオーラ号の船長。船乗りとしての知識と経験が豊富にあり、宝探しという目的が水夫たちに知れ渡っていることや、航海士と水夫が馴れ馴れしく接しているといった、航海に危機をもたらす兆候に警鐘を鳴らす。

ジョン・シルヴァー
片脚のないのっぽの男。撞木杖を器用に操り、普通の人間と同じように軽快に歩くことができる。ブリストルで遠眼鏡亭という居酒屋を営んでいた。船員を探してブリストルの埠頭にやってきたトリローニに話しかけ、陸で健康を損ねたので料理番として海に出たいと名乗り出る。フリントと名づけられた鸚鵡を飼っている。

ベンジャミン・ガン
かつてフリントが骸骨島に宝を埋めた時に、船に乗っていた元海賊。その後別の船で島の付近を通りがかった時に宝があることを主張し、仲間とともに上陸する。しかし宝が見つからず置き去りにされ、以来三年間、山羊肉や牡蠣を食べながら一人で暮らしていた。

『宝島』のあらすじ

※もっと詳しいあらすじはこちら

第一部

 一七××年、イングランド・ブリストル近郊の入江にある宿屋ベンボウ提督亭に、頬に刀傷のある船乗りがやって来ました。男は名前を隠し、自分を船長と呼ぶように命じ、昼間は真鍮の望遠鏡を片手に入江をうろつき、夜は水割りのラム酒を黙って飲みました。酔っ払うと横暴になり、船乗りの歌を大声で歌い、他の客を辟易とさせることもありました。
 船長は、他の船乗りを避けたがっており、この宿の息子ジム・ホーキンズに一日四ペンスを渡し、とりわけ一本脚の船乗りが来たらすぐに知らせるようにと命じました。

 ある冬の日、左手の指が二本欠けた青白い顔の男がベンボウ提督亭にやって来て、船長に「ビル」と声をかけました。船長は、「黒犬!」と叫びました。黒犬と呼ばれる男は、船長と何かの交渉を始め、やがて二人は争いとなりました。船長は黒犬に傷を負わせて退散させましたが、その直後に卒中を起こして倒れました。同じときに肺病のジムの父の診察にやって来ていた医師リヴジーは、瀉血を施して船長の命を救いました。船長の腕には、「ビリー・ボーンズのお気に入り」という文句が刺青で掘られていました。

 ラムをやめないと死ぬことになるだろうという忠告を与えられた船長は、その後もジムに酒を注文し、飲み続けました。船長は、フリントという名高い海賊の航海士で、そのフリントから何らかの重要なものを託され、かつての仲間たちに狙われるようになったようでした。黒犬たちに居場所を知られたことで、船長はこの宿を移る必要性をジムに説きましたが、卒中と瀉血のために動くことはできませんでした。その晩、ジムの父親が急死し、ジムは母親と二人三脚でベンボウ提督亭を切り盛りしなければならなくなりました。

 葬儀の翌朝、ある盲人の男が街道をやって来て、ジムのことを捕まえると、船長のところへ連れて行けと脅しました。盲人の男は、船長のところへ行くと呼び出し状を手渡し、驚くほどの速さで外へと飛び出して行きました。急いで逃げようとした船長は、その途端に脳溢血を起こして倒れ、そのまま息を引き取りました。

 ジムはこれまでの経緯を母に話し、黒犬や盲目の男の襲撃を逃れるため、村に助けを求めました。しかし村の人々はベンボウ提督亭に行くのを渋り、誰も助けに来ようとはしませんでした。ジムと母親は腹を立てながら宿に帰り、滞納されていた宿泊費を取り戻そうと船長の私物箱をあさりました。ジムはその中にあった油布にくるまれた包みを手に入れ、盲目の男らの声が聞こえると母親を引きずり逃げ出しました。
 盲目の男ピューを頭にベンボウ提督亭に押し入った悪党たちは、部屋中を荒らし回り、船長の私物箱をあさり、中身がなくなっていることに気づきました。やがて海賊たちの存在を知らされた密輸監視官たちがやって来ると、海賊たちは一目散に逃げ出しました。一人で取り残された盲目のピューは、仲間たちの名を叫びながら路上へ飛び出し、密輸監視官たちの馬に踏み潰されて絶命しました。
 助け出されたジムは、船長の私物箱の中にあった包みを信頼できる医師リヴジーに預けたいと申し出ました。
リヴジーは、地主のトリローニと食事をしていました。ジムは二人に油布の包みを渡しました。その中には、宝の在処を示す地図が入っていました。トリローニはすぐさまその宝を探し出すことを決め、ブリストルへ行って船を探し、リヴジーを船医として、ジムをキャビンボーイとして船に乗せ、その他の必要な船員を集めることを宣言しました。

第二部

 トリローニが出航の準備を進める間、ジムはリヴジーの邸で、猟番のレッドルース老人に預けられ、島の地図を細部まで覚え込みました。そして数週間後、出航の準備が整ったという知らせが届くと、ジムはレッドルースと共にブリストルへ出かけました。トリローニは、ヒスパニオーラ号という優秀な船を手に入れ、また埠頭で知り合ったジョン・シルヴァーという一本脚の男に、熟練の乗組員を集めてもらっていました。シルヴァーはブリストルで居酒屋を営む資産家で、船乗りとしての経験があり、陸で健康を損ねたので料理番として海に出たいと、自分を売り込んでいたようでした。シルヴァーは、航海の知識をふんだんに持つ頼りがいのある男で、ジムは、船長が言っていた「一本脚の男」が彼なのではないかという懸念をすぐに払拭し、打ち解けました。

 トリローニの友人が見つけ出した船長のスモレットは、この船が物騒な仕事である宝探しに行くにも関わらず、その秘密を船員たちが皆知っていることや、水夫たちが甘やかされ過ぎていることに苦言を呈しました。スモレットのそのような態度は、トリローニを立腹させました。

 ヒスパニオーラ号は、ブリストルを出航すると順調に航海を始めました。しかし往路の最終日と思われる日の日没直後、ジムは林檎の中で眠り込み、そのそばへやって来たジョン・シルヴァーたちの話を盗み聞き、彼らが真っ当だった船員たちを味方に引き入れ、自分たちを殺して宝の地図を奪おうとしていることを知りました。ジムは機会を伺いながらこのことをリヴジーやトリローニ、スモレットに伝えました。

第三部

 船が島に到着すると、スモレットはシルヴァーたちに上陸の許可を与えました。ジムは好奇心に耐えかね、彼らとともに上陸して草陰に隠れ、シルヴァーが自分たちになびこうとしない船員を殺したのを目にして逃げだしました。

 急な山肌にたどり着くと、ジムは、ボロ着をまとい日焼けした男に出会いました。男はベン・ガンという名で、以前はフリントの船に乗っており、三年前に海賊の刑罰によって置き去りにされて以来、一人でこの島に住み続け、すでに宝の在処も知っているようでした。
 ベン・ガンによると、フリントはこの島に六人の屈強な船乗りと共に上陸して宝を埋めた後、自分以外の六人を殺して船に戻りました。その時船に残っていたのが、当時航海士だった「船長」ことビリー・ボーンズと、操舵手のジョン・シルヴァーでした。そして三年前、他の船でこの島の付近を通った時に、ベンはフリントの宝があることを皆に知らせて上陸したものの、十二日間見つからず、結局一人でこの島に置き去りにされたのでした。以来ベンは、母親のことを思い出すにつれてこれまでの行いを悔い改め、神を敬うようになりました。彼は、イギリスへ帰ることを熱望しており、自分が改心した人間であること、そして平水夫ではなかったことをトリローニに伝えてほしいとジムに頼みました。

 やがて一発の銃声が聞こえ、争いが始まったことを察したジムは停泊地の方に走り出しました。

第四部

 一方、ジムが上陸してしまった後、リヴジーたちは船に残っている少数の悪党たちを制圧して自分たちも上陸し、島に造られていた丸太小屋に入り、そこを拠点とすることを決めました。彼らは船からの砲丸に狙われながらも、トリローニの射撃で応戦しながら、船と小屋を往復して荷物を運びました。最後まで船に残ったスモレットは、敵の手中に落ちていた水夫エイブラハム・グレイに呼びかけ、彼を再び味方に引き入れました。
 トリローニ、リヴジー、スモレット、レッドルース、グレイ、使用人のジョイスとハンターが小屋に揃うとまもなく、銃声を聞きつけてやって来たシルヴァーの部下による襲撃が始まりました。一行は、敵の一人を倒したものの、藪の中から発射された銃弾がレッドルースの命を奪いました。戦闘が終わると、スモレットはユニオンジャックを屋根の上に掲げました。

 その頃、銃声を聞いて停泊地の方へ走り出していたジム・ホーキンズは、屋根の上に掲げられたユニオンジャックを見て、味方が先ほどの銃声を起こした戦いに勝ったのだと予想して小屋に入りました。彼はリヴジーたちと再会すると、これまでの自分の冒険について語り、ベン・ガンという男がいることを伝えました。

 やがて慌ただしい物音が起き、ジョン・シルヴァーが休戦旗を持ってやってきました。彼は、ジムたちすべての命を奪わない代わりに、宝の地図をこちらへ寄越すようにと要求しました。スモレットはその話を断り、シルヴァーたちが武器を持たずにやってくるのであれば、イギリスへ連れ帰って公平な裁判を受けさせ、それが嫌ならば海の藻屑にすると言い放ちました。
 シルヴァーは怒り狂い、一時間でこの小屋を潰しに来ると言って去っていきました。

 一時間ほど過ぎると戦闘が始まりました。海賊たちは小屋の柵を乗り越えてこちらへとやって来て、銃眼から中に向けて銃を発射しました。小屋の中が硝煙で満たされたため、ジムたちは小屋の外での戦闘を余儀なくされました。この戦闘では五人の敵を倒したものの、ジョイスとハンターが銃弾に倒れ、スモレットは怪我を負うことになりました。

第五部

 戦闘後、リヴジーはトリローニと相談して、ベン・ガンに会うために森へ出かけていきました。蒸し暑い小屋に耐えかねていたジムは、清々しい森を歩いているリヴジーが羨ましくなり、二度目の脱走を企て、砦を抜け出しました。木立を抜けて浜に着くと、ベン・ガンがこしらえたテントがあり、その中には手製のボートがありました。ジムはそのボートを見つけると、敵の手中にあるヒスパニオーラ号の錨策を切ってしまおうと考えました。そして日が暮れると、そのボートで海に漕ぎ出し、ヒスパニオーラ号の錨策をナイフで切断しました。するとヒスパニオーラ号は潮の流れに巻き込まれて向きを変え始め、ジムの乗っているボートも、荒波に突っ込みました。何時間も大波に叩きつけられたジムは、伏せて待つうちに疲労によって心が無感覚になり、やがて眠り込んでしまいました。

 翌朝、ジムは眼を覚まし、前方わずか半マイルのところを帆走しているヒスパニオーラ号を見つけました。ジムは敵が船を放棄したのだと考え、ヒスパニオーラ号の方に飛び移りました。甲板では、船内で諍いを起こしたシルヴァーの腹心イズレイル・ハンズが、喧嘩相手を殺し、自らも重傷を負って倒れていました。
ジムは動けないハンズに向かって船を占領しに来たと宣言し、海賊旗を下ろして海に放り込みました。ハンズは傷を縛るためのスカーフを持ってくる代わりに、船の操り方を教えるという取り引きを持ちかけました。ジムはその取り引きを受け入れ、船を人目につかない浜辺に座礁させるため、操縦を教わりました。
やがてジムが運転に夢中になっていると、ハンズは手に入れていた短刀でジムに襲い掛かりました。ジムはその攻撃を避け、マストのクロスツリーまで登り、銃に弾を込めました。するとハンズは短刀を投げつけ、その短刀はジムの肩に刺さりました。ジムはその衝撃で銃を暴発させ、その弾丸に撃たれたハンズは、海へと落ちていきました。

 やがてヒスパニオーラ号は座礁して傾いていき、ジムは再び上陸を果たしました。船を取り戻したことに揚々としながら小屋に戻ると、中からは大きな鼾が聞こえました。仲間が寝ていると思い込んだジムは中へと入り、眠っている誰かの足につまずきました。するとシルヴァーの飼っている鸚鵡が騒ぎ出し、ジムは敵に捕らえられ、小屋が占拠されたことを知りました。

第六部

 シルヴァーらはジムを捕らえ、自分たちの仲間になるかどうかという選択を迫りました。シルヴァーによると、前日の朝リヴジーが船がなくなっていることを伝えに来て、この小屋や食糧を明け渡したようでした。
 ジムは、林檎樽の中でシルヴァーの悪巧みを聞いていたことやハンズを倒したこと、ヒスパニオーラ号を隠したことを強がりながら語り、裁判の時には助力になるであろう自分を助けるかどうかの判断を彼らに迫りました。
 その度量に感心したシルヴァーは、縛り首の危機にさらされている自分が助かる道は、この少年の命を救うことだと考え始め、ジムを殺してしまおうと主張する仲間たちの意見を突っぱねました。その結果、他の悪党たちはシルヴァーに解任状を突きつけ、彼らは対立することとなりました。リヴジーが海賊たちの診察のためにやってくると、ジムは密かにヒスパニオーラ号を取り戻したことを伝え、自分を助けようとしているシルヴァーのために砦に残りました。
 リヴジーが去った後、宝の地図を譲り渡されていたシルヴァーらは、腰を細縄で縛りつけたジムを連れて宝探しに出かけ、フリントがこの島で殺した男の骸骨や、フリントが臨終の際に発した声を聞き、恐れ慄きながら歩きました。そしてようやく地図に示されている場所を探りあてると、そこには大きな穴が空いているだけでした。宝がすでに暴かれていることを知った海賊たちは、この冒険をめちゃめちゃにしたシルヴァーとジムを殺してしまおうと、穴を隔てて対峙しました。戦闘開始の合図が出されようとしたその時、茂みに隠れていたリヴジー、グレイ、ベン・ガンがこちらへ向けて発砲し、敵の筆頭格ジョージ・メリーを倒し、残りの悪党たちは一目散に逃げていきました。

 助け出されたジムは、これまでの経緯をリヴジーから聞きました。
 シルヴァーたちの戦闘後、リヴジーはベン・ガンに会いに行き、宝がすでに洞窟に移されていること、塩漬けの山羊肉がたっぷりとあることを知りました。翌朝、停泊地から船が消えているのを見ると、リヴジーたちは宝の地図と食料と小屋を全てシルヴァーに明け渡し、マラリアの心配のない洞窟へ移動しました。
 しかし、ジムが敵に囚われていることがわかると、彼を救うため、リヴジーとグレイとベンは宝の在処であった場所に向かいました。ベンはフリントの声真似をしてシルヴァーを怯えさせて足止めしました。そして三人は先回りをして茂みにひそみ、ジムたちが訪れるのを待っていたのでした。

 ジムはリヴジーに連れられてベンの洞窟へと移動し、フリントの隠した財宝を目の当たりにしました。シルヴァーはジムたちについて来て、スモレットに再会すると「職務に戻った」と言いました。
 翌朝から一行は、大量の黄金をヒスパニオーラ号に運びました。スモレットやトリローニは、邪険に扱われながらも愛想よく取り入ろうとするシルヴァーを受け入れました。

 準備が整うと、ジムたちはユニオンジャックを掲げたヒスパニオーラ号で出帆しました。日没前に一行は美しい湾のある街にたどり着き、船を降りました。
 船に戻ると、一人で甲板にいたベン・ガンは、シルヴァーが壁をくり抜いて金貨の袋を一つ持ち出し、逃げたことを報告しました。

 その後彼らは数人の水夫を雇い入れ、ブリストルへの帰路につきました。
 帰国後、スモレットは船乗りを引退し、グレイは航海士に、ベン・ガンは門番になりました。ジムはその後もシルヴァーの消息を聞くことはありませんでした。

管理人の感想

 スコットランドが生んだ稀代の作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンの代表作『宝島』は、世界中で愛される数少ない文学作品のうちの一つです。1881年の発表以来、世界中で数えきれないほどの映画化、テレビ化、アニメ化、漫画化、舞台化、ゲーム化がなされ、派生作品がコンスタントに次々と生み出されているばかりでなく、「宝島」という言葉自体が人々の探究心や好奇心を喚起させるものとして、オリジナルの作品とは全く違ったところで使われるようにもなっています。

 そのため、『宝島』と聞いて最初にイメージするのがこの小説である人は、文学作品に興味のある一部の人を除けば、けっこう少ないんじゃないかと思います。有名どころでは、雑誌名、焼き肉店、インターネットカフェなど、オリジナルの作品を凌駕するほどに深く人々の心に浸透しているものが多く存在しています。この現象は海外でも同じらしく、アメリカでは『Treasure Island』というホテル、カジノ、ディスカウントストア、食料品店、テーマパークが存在するようです。これほどまでに、一つの作品の名前が一人歩きし、「知らない人まで知っている」といった現象を生み出したのは、『宝島』が偉大な作品であるからに他なりません。

 このように世界中で愛され続けている不朽の名作『宝島』の魅力は、なんといっても個性豊かな登場人物でしょう。『宝島』は、現代における海賊の描写方法を決定づけた作品とも言われており、その後のさまざまなメディアに登場する海賊たちは、この作品に登場する海賊たちがモチーフになっていると言われています。私たちがこれまで様々な映像作品で目にしてきた、海賊たちの鸚鵡を肩にかけた姿、片脚で杖をつく姿、林檎を丸齧りする姿は、ジョン・シルヴァー、ビリー・ボーンズ、フリントらの行動や風貌、伝説が(完全なオリジナルではないようですが)起源となっているようです。

 まず物語の序盤で大きな印象を残してくれるのが、頬にサーベル傷のある老船乗りビリー・ボーンズです。伝説的な海賊フリントのかつての操舵手で、そのフリントが宝を埋め、一緒に上陸した六人を殺した島の地図を受け継ぎ、その地図を入れた箱をベンボウ提督亭に運び込みます。その地図がかつての仲間たちに狙われていて、居場所を見つけられることを怯えながら暮らしています。ラム酒に酔い潰れながら、「ヨーホーヨーホー」という古い船乗りの歌を歌うビリー・ボーンズの姿は、現代の我々が海賊に抱くイメージとぴったりと合致します。

 そんな彼が最も恐れていたのは、一本脚の船乗りでフリントのかつての航海士ジョン・シルヴァーです。彼は如才ない男で、他の仲間たちのように稼いだ金を散財してしまうことなく貯蓄しており、今ではかつての犯罪を隠してブリストルで店を経営しています。乗組員を探しているトリローニがブリストルにやってくると、以前の仲間であった悪党たちを集め、正体を隠したままヒスパニオーラ号に乗り込みます。
彼は海賊稼業をやめて本物の紳士になることを目指しており、安直な行動を取りがちの他の船員たちに比べて非常に強かな印象を与えます。頭も切れる上に度胸も座っており、片脚がないというハンデを補って余りあるような度量のある男です。

 ビリー、ジョンの他にも、異様ないでたちの盲目のピュー、シルヴァーの腹心イズレイル・ハンズ、端役ながらも只者ではない印象を抱かせるジョブ・アンダーソンなど、様々な海賊たちがこの作品を彩っています。

 そして、このはみ出し者の集団を、持ち前の頭の良さと好奇心で次々と出し抜いて行くのが、主人公の勇敢な少年ジム・ホーキンズです。もともと彼は、ビリー・ボーンズの来訪によって事件に巻き込まれた形ですが、宝島の地図を手に入れると非常に能動的に動き回ります。リヴジーやスモレットといった大人たちに従順に従うだけでなく、時に脱走をして迷惑をかけながら、宝を隠し持っていたベン・ガンの存在を見つけ出し、イズレイル・ハンズを倒して船を取り戻し、ジョン・シルヴァーを味方に引き入れることで船を帰還へと導きます。機転と度胸を持ち合わせ、非力ではあっても「少年」であることをうまく利用した奔放な行動は、読んでいて非常に爽快です。結果オーライな要素もありますが、運をも味方につけながら冒険を進めていくその姿は、ロビンソン・クルーソーやレミュエル・ガリヴァー、ドン・キホーテ、トム・ソーヤ、ハックルベリー・フィンといった冒険小説の有名な登場人物に比肩し得る、文学史上屈指のヒーローの一人と言えるでしょう。

 特筆すべき人物や出来事を描き出すのが文学作品の醍醐味であるとすれば、この『宝島』のストーリーと登場人物ほど、「特筆すべき」材料はないでしょう。児童文学としてクローズアップされがちですが、大人も楽しめる要素を数多く抱えている文学作品だと思います。