芥川龍之介『羅生門』ってどんな作品?登場人物、あらすじを詳しく解説

 『羅生門』は、一九一五年、芥川龍之介が東京帝国大学在学中の二十三歳の時に発表されました。初めて芥川龍之介のペンネームを用いて出版された作品です。発表当時は注目されることがなかったものの、次作である『鼻』が夏目漱石に絶賛され、芥川龍之介が一躍文壇の寵児となってからは、代表作として現在まで親しまれています。

 この作品は、平安時代の伝承を集めて作られた『今昔物語』を題材としています。飢饉によって荒廃した平安京が舞台となっていて、その正門である羅城門には、多くの餓死者が打ち捨てられていました。寝床を探すために、その羅城門の楼のうえに上った下人は、遺体に向かって何やら怪しい動きをしている老婆を発見します。その老婆とのやり取りによって変化していく青年の心の様子が、刻々と描かれます。題材の『今昔物語』から、一部脚色はあるようですが、千年も前に編纂された民話が、美しく簡潔な文体で、現代に蘇った作品です。

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羅生門・鼻

『羅生門』の登場人物

下人
四、五日前に主人に暇を出され、行くあてもなく羅生門の下で雨乞いをしている。

老婆
羅生門の上に放置された遺体から髪の毛を抜き、それを鬘にしようとする。

『羅生門』のあらすじ

 ある日の夕方、一人の下人(身分の低いもの)が、羅生門の下で雨を避けていました。天災が続いた京都は寂れており、広い門の下にいるのは、この男だけでした。門を修理するものもおらず、その周りには悪人が住み、引き取り手のない死体が捨てられるという習慣すらついていました。下人は右の頬にできた大きなニキビを気にしながら、雨を眺めていました。彼は長年使われていた主人に暇を出され、行くあてがありませんでした。彼は盗人にならなければ、飢え死にして自分もこの羅生門に捨てられるばかりである身でした。

 彼は寝床を探すために、梯子を使って羅生門の楼の上に出ました。すると門の上で火を灯している者がいるのを発見します。門の上には男女の遺体が数多く転がっていました。

 火を灯しているのは一人の老婆でした。老婆は女の死骸の顔を覗き込むように眺めていました。そしてその死骸の首に手をかけると、その髪の毛を一本ずつ抜き始めました。

 それを見た下人はこの老婆に激しい憎悪を感じ、その憎悪は悪全体に対するものへと変化していきました。

 下人は老婆の前に歩み寄り、逃げようとする老婆を倒し、何をしていたか聞きました。老婆はこの髪を抜いて鬘にしようとしていたようです。この遺体の女も生きるために蛇を干魚だと言って売りさばいていたので、自分も生きるために髪を抜いても大目に見てくれるだろうと老婆は言いました。

 下人はこの話を聞き、先ほどの悪を憎む心とは全く別の勇気が生まれました。そして老婆の襟を掴みながら、自分も生きるためであれば服を剥いでも恨まないのだな、と言って着物を剥ぎ取り、足にしがみつこうとする老婆を死骸の上に蹴倒しました。

 しばらくの後、裸になった老婆が動き出し、羅生門の下を覗き込みましたが、そこには真っ暗な夜があるだけでした。

 下人の行方は誰も知りません。

管理人の感想

 主人公である下人の運命が、おそらく決定づけられてしまう瞬間が描かれた作品です。

 冒頭における下人は、四、五日前に職を失って途方にくれ、盗人になるかどうかで迷っています。この時点では、彼は善にも悪にも転ぶ存在として書かれています。

 彼は羅生門の上に昇り、老婆が死体の髪を抜いているのを見て、その老婆のみならず、悪全体に対する憎悪にかられます。

 老婆の前に飛び出し、死体の髪を抜いている理由を聞くと、老婆は鬘をつくるためであると答えます。遺体の女も蛇を干魚と偽って売っていたのだからと、自分を正当化する発言をする老婆に対し、下人の心は一気に悪へと転び、老婆の衣服を奪います。単行本では、下人の行方は誰にもわからないとなってますが、初出稿では、下人は京都の街へ強盗を働きに行ったという結末になっています。

 十五分ほどで読み終わってしまう短編小説ですが、内容は濃密で、下人の心は中立状態から善へと、そして善から悪へと転んで行きます。しかし善に転んだ場合、餓死することになるということを考えると、下人は死よりも生を選んだということもできるでしょう。もし、老婆が自分の行動を正当化せず、ただ許しを乞うていたら、下人の心はどのように変化していたでしょう。老婆の返答次第では、下人の一生は全く違うものになっていたかもしれません。そのように考えると、人間の心の危うさのようなものが見事に浮き彫りにされた作品だと思います。