芥川龍之介のおすすめ代表作6選

 芥川龍之介の作品は、「人生を銀のピンセットで弄んでいるような」と菊池寛が評したように、冷徹な視点によって人間の内面が描かれます。登場人物たちの複雑な心理変化を克明に伝えているにも関わらず、その文体は簡潔で、非常に読みやすい作品が多いのが特徴です。
 長編小説で著名なものはないものの、古典に題材をとったものや児童向け小説、そして晩年の自殺を意識した作品など、バリエーションに富んだ短編小説を楽しむことができます。
 今回はそんな芥川龍之介の作品の中から、オススメの代表作を紹介します。ネタバレにならない程度の内容と、入門者向けかどうかなどの情報も載せていますので、作品選びの参考にしてください。(随時更新。)

羅生門

 平安時代の伝承を集めた『今昔物語集』を題材に、芥川龍之介のペンネームを用いて初めて書かれた作品です。
 人々の死体が打ち捨てられる荒廃した平安京にあった羅生門が舞台になっています。職を失って途方にくれるひとりの下人の、羅生門の上で死体漁りをしている老婆に対する心境の変化が克明に書かれた作品で、極限の状況における人間のエゴイズムが描き出されています。
 最初期の作品ですが、読みやすくキレのある文体が非常にかっこいいです。芥川龍之介がいかに天賦の才に恵まれていたかがわかる作品だと思います。10分ほどで読めてしまうため、入門書としてもオススメです。

※『羅生門』のネタバレあらすじ、作品紹介はこちら


羅生門・鼻・芋粥 (角川文庫)

 『羅生門』の次作にあたる作品で、こちらもやはり『今昔物語集』を題材にした短編です。この作品が夏目漱石に絶賛されたことで、芥川龍之介は一躍文壇の寵児に上り詰めました。自分の鼻が長いことを気に病んでいた京都の宇治の僧である禅智内供が、ある治療法により短い鼻を手に入れるまでと、その後の心理が巧みに描かれる作品です。
 『羅生門』と同様に簡潔で美しい文体ですが、こちらの主人公の内供はどこか滑稽に書かれており、また違った楽しみ方ができると思います。
 入門書としてもおススメです。

※『鼻』のネタバレあらすじ、作品紹介はこちら


羅生門・鼻 (新潮文庫)

蜘蛛の糸

 芥川龍之介は、多くの児童向けの作品を残した作家でもありました。この『蜘蛛の糸』は初めて書かれた児童向け作品で、芥川龍之介の作品全体を通しても代表作の一つです。
 地獄を見下ろしていた御釈迦様が、極楽へ昇るための蜘蛛の糸を垂らして大悪党を引き上げようとする内容は、おそらく知っている人も多いでしょう。エゴイズムに囚われた人間の末路を描き、教訓を得られる作品でもあります。
 非常に読みやすく、簡易な内容であるため、入門書としても読めるでしょう。しかし管理人個人的には、「自分勝手な行動をとるとその報いを受ける」という解釈以外にも、様々な読み方ができ、「深読み」をすればするほど楽しめる作品だと思っています。『羅生門』、『鼻』、『芋粥』といった最初期の作品を読んだ後で挑戦する方がより楽しめるかもしれません。

※『蜘蛛の糸』のネタバレあらすじ、作品紹介はこちら


蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫)

杜子春

 『蜘蛛の糸』と同様に、児童文学雑誌に掲載された作品です。財産を使い果たした男が、目の前に突然現れた片目眇(すがめ)の老人に導かれて様々な経験を積み、ある境地に達するまでが書かれています。『羅生門』や『蜘蛛の糸』に比べると知名度は低いかもしれませんが、内容はかなり有名なので、読んでいるうちにどこかで聞いたことのある話だと思う人も多いでしょう。さらっと読めてしまいますが、人間として大切なものは一体何なのかということを深く考えさせてくれると同時に、非常に爽やかな感動を与えてくれる作品です。芥川龍之介の入門としてもおすすめですし、これはもう日本文学全体の入門書と言ってもいいと思います。大人から子供まで、幅広い世代が楽しめる作品です。

※『杜子春』のネタバレあらすじ、作品紹介はこちら


鼻 杜子春 (まんが日本の文学)

河童

 河童の世界に迷い込んだ精神病患者が語った内容を通し、人間社会を痛烈に批判する作品です。芥川龍之介の晩年の代表作として、知名度の高い作品でもありますが、一筋縄ではいかない内容で、完全に理解しようとすると、かなりの教養が求められます。知名度の高さで最初にこの作品を選んでしまい、芥川龍之介がとっつきにくい作家だと思ってしまう人も多いのではないでしょうか。入門書としては全くおススメできません。とはいえ、芥川龍之介を理解するためには、避けられない作品でもあります。
 難しい部分は読み飛ばして、不気味ながらも愛らしい河童たちの生態を読むだけでも楽しめる作品だと思います(管理人はこのように読みました)。

※『河童』のネタバレあらすじ、作品紹介はこちら


河童・或阿呆の一生 (新潮文庫)

歯車

 芥川龍之介が自殺する直前に書かれた作品です。死を目前にした人間を、明晰な頭脳を持って表現するとこのようになるのかという、何か体の芯の方から冷たくなるような恐ろしさを感じる作品です。
 「歯車」とは、視界の中にギザギザしたものが現れる現象である閃輝暗点(せんきあんてん)のことを指していると言われます。この現象は、頭痛や吐き気の前兆として現れることも多いようで、恐怖や絶望を暗示しているようでもあります。
 「人生を銀のピンセットで弄んでいる」と評される芥川龍之介の作品ですが、この『歯車』に関しては、心の底から湧き上がる恐怖や絶望が、細工をすることなく書かれているように管理人は感じます。初期の作品からはうかがい知ることのできない、芥川龍之介の底の深さのようなものを感じられる作品です。


歯車―他二篇 (岩波文庫 緑 70-6)