芥川龍之介作『トロッコ』のあらすじ、感想を紹介するページです。作品の概要や管理人の感想も。
『トロッコ』の登場人物
良平
八歳の少年。小田原熱海間の鉄道敷設工事に使われるトロッコの作業に憧れている。
『トロッコ』のあらすじ
小田原熱海間の軽便鉄道敷設工事では、トロッコで土を運搬する作業が行われていました。八歳の良平は、毎日その見物に行きました。
良平はトロッコが動く様を見ながら、土工と一緒にトロッコを押したり、乗ったりしてみたいと思っていました。
二月の初旬のある夕方、良平は二つ下の弟と、弟と同じ年の隣の子供と、トロッコが置いてある村はずれに行きました。土工がいなかったので、三人はトロッコを押して坂を登り、勾配が急になってそれ以上押せなくなると、それに飛び乗りました。良平は有頂天になりました。もう一度トロッコに乗ろうとすると、一人の土工に見つけられて叱られたので、三人は逃げ帰りました。
それから十日ほど経ったころ、若い二人の土工がトロッコを押しているのを見て、良平は、「おじさん。押してやろうか?」と話しかけました。
二人の土工は良平にトロッコを押すのを手伝わせてくれました。
線路が下りになると、土工の一人は「やい、乗れ」と言いました。良平は飛び乗りました。
やがてトロッコが止まると、三人はまたそれを押し始めました。海が見えはじめ、あまりに遠くまで来てしまったことが感じられました。再びトロッコに乗ると、良平はもう帰りたいと思い始めました。
二人の土工はトロッコを押しながら、二度も茶店で茶を飲みました。日が暮れそうになり、良平はさらに不安にかられました。
二人の土工が茶店から出てくると、自分たちは泊まりだからもう帰るように良平に言いました。暗くて長い道のりを一人で帰らなければならないことがわかり、良平は泣きそうになりながら土工たちにお辞儀をして線路伝いに走り出しました。
良平は土工にもらった菓子包が邪魔だと感じてそれを放り出し、板草履を脱ぎ捨てて、羽織を捨てて走りました。
暗くなってから家の門口に駆け込むと、とうとう良平は大声で泣き出しました。家族たちは泣く理由を尋ねましたが、良平は何を言われても泣き続けました。
良平は二十六歳になり、妻子を持って東京の雑誌社で校正の仕事をしています。彼は何の理由もなく、その時のことを思い出すことがあります。今も良平の前には、あの時のような薄暗い一筋の道が続いているようです。
作品の概要と管理人の感想
『トロッコ』は、一九二二年(大正十一年)に発表された短編小説です。主人公の少年、良平の心理描写が巧みに表現されており、国語教育の教材としても頻繁に使われる作品です(この小説を読んだことはあっても、芥川龍之介の作品だと知らない人も多いのではないでしょうか)。
トロッコに憧れを抱いている八歳の少年、良平は、一度でいいからそのトロッコを押してみたいと思っていました。
そんな彼は、二人の優しそうな土工に話しかけ、トロッコを押したり乗ったりして有頂天になります。
しかし家から離れてきたことを考え始めた彼は、不安に襲われ始めます。幼い少年である彼は、帰りたいと口にすることもできず、土工たちが今夜は帰らないということを知ると、絶望に襲われます。
一人で暗い夜道を走り抜け、なんとか家に帰り着いた良平は、安堵して大声で泣き続けます。
憧憬、有頂天、不安、絶望、安堵といった様々な感情が、たかが二十ページの作品の中に詰め込まれ、しかも無理を全く感じさせないところは、さすが天才と言われた芥川龍之介の作品です。
しかもこの作品はこれだけでは終わりません。
大人になって妻子を抱えた良平はなんの理由もないのに、この薄暗い一本道を思い出します。結末はこのように締めくくられます。
塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。…………
『トロッコ』より
少年のとき不安にかられながら走り抜けたこの道とは比べ物にならないほど、良平はこの先の人生で、長い道を走り続けなければならないのです。
「薄暗い藪や坂のある道」とは、人生のネガティブな側面を切り取った一面に過ぎないのかもしれません。しかし、「人生ってそんなものだよな」と、思わず頷いてしまうような結末もまた、この小説の魅力的な所であると思います。