アルベール・カミュ『異邦人』の詳しいあらすじ

アルベール・カミュ作『異邦人』の詳しいあらすじを紹介するページです。

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第一部

 ムルソーは、母親(ママン)が死んだという電報を養老院から受け取り、二日間の休暇を願い出て、アルジェから八十キロのマランゴへとやってきました。彼は、三年前に母親がここに入ってから、日曜日をふいにすることが嫌で、一度も訪れたことはありませんでした。養老院の院長は、そのようなムルソーを遠回しに咎めました。
 遺体のある部屋に案内され、門衛が母親の姿を見せようとすると、ムルソーはそれを引き止めました。門衛がその理由を尋ねると、ムルソーは理由はないと答えました。ムルソーは遺体の棺の前で門衛とおしゃべりをして、煙草を吸い、うたた寝をしました。
 目を覚ますと、養老院の母親の友達が入ってきて、通夜が始まりました。ムルソーは、彼女たちのすすり泣きを聞きながら、一言も話をすることなく、疲れと腰の痛みを感じ、再び眠りにつきました。
 夜が明けると、ムルソーは中庭を歩き、さわやかな空気を満喫しました。最後に母親と別れをするかと院長に聞かれても、彼はそれを断りました。
 葬儀が始まると、ムルソーは教会へと遺体を運ぶ列に加わりました。母親の親友であったトマ・ペレーズは、足を引きずっていたため、その列についていくことができませんでした。暑さや疲労で頭がぼんやりしていたムルソーには、ペレーズの皺に留まっていた大粒の涙などの断片的な記憶しか残りませんでした。葬儀が終わりアルジェに帰ると、彼はゆっくりと休めることを喜びました。

 翌日は土曜日でした。目を覚ましたムルソーは、海に泳ぎに行くことに決めました。海水浴場に着くと、もと事務所のタイピストであったマリイ・カルドナに出会いました。海で泳いだ後、ムルソーはその日の夜の映画にマリイを誘いました。マリイは、ムルソーの母親の葬儀が昨日だったことを知り、少し身を引いたようでしたが、映画が終わるとムルソーの部屋に入りました。
 翌日ムルソーが目を覚ますと、マリイはもういませんでした。彼は部屋を出て、街をぶらつき、カフェへと入り、家に帰って夕食を食べました。母親がもう埋められてしまったことを思い出しましたが、翌日から勤めに戻ることを考え、結局、何も変わったことはなかったのだと思いました。

 翌日、ムルソーは事務所に行って船荷証券を点検し、同じ事務所のエマニュエルと、得意先のセレストと昼食をとりました。仕事が終わって家に戻ると、隣人のサマラノ老人が皮膚病の飼い犬を罵っていました。
 ムルソーはもう一人の隣人であるレエモン・サンテスに誘われ、彼の部屋を訪れました。レエモンは、因縁をつけてきた情婦の兄と喧嘩をしたようでした。彼はその情婦に部屋代や食費を払っていましたが、その女は働こうとせず、さらに金をせびりはじめたので、騙されていると思い始めました。一度その女を殴って追い出しても、まだ懲らし足りない一方で、女の身体にはいまだに未練を感じていました。そのため、女に手紙を書き、戻ってきたら一緒に寝て、その後で唾を吐きかけて追い出そうとして、ムルソーにその手紙の文句を書いてほしいと頼みました。ムルソーはその手紙を書いてやりました。

 一週間が経ち、朝まで一緒に過ごしたマリイに、自分のことを愛しているかと聞かれたムルソーは、恐らく愛していないと思われると答えました。マリイは悲しそうな顔をしました。
 叫び声が聞こえて外へ出ると、踊り場でレエモンが女をひどく殴っていました。巡査がやってきて、レエモンと女が戻っていった家の戸を叩きました。レエモンがとぼけていると、女はレエモンのことを売春の仲介だと言いつけました。
 マリイが帰ると、レエモンがムルソーの家にやってきて、女が自分のことを裏切ったことの証人になってほしいと頼みました。ムルソーはそれを承諾しました。
 レエモンと街へ出かけ、家へ帰ると、サマラノ老人が、犬がいなくなったといって探し回っていました。ムルソーが野犬繋ぎ場の話をすると、サマラノは焦燥した様子を見せました。ムルソーが自分の部屋に戻ると、隣室からは泣き音が聞こえました。

 レエモンがムルソーの事務所に電話をかけてきて、日曜日に友人たちとヴィラで過ごさないかと誘ってきました。
 事務所の主人は、パリに出張所を設け、その場で直接大商社相手の取引をしたいと考えていて、ムルソーにパリで過ごす気はないかと聞きました。パリに行くのも行かないのも自分にとっては同じことだとムルソーが答えると、その野心に欠けた様子に、主人は不満気な表情をしました。
 マリイは、自分と結婚したいかと聞きました。マリイが望むのなら結婚してもよいとムルソーは答えました。結婚が重要なことだと考えているマリイの意見を、ムルソーは否定し、もし他の人に結婚を申し込まれたらどうするかと聞かれると、承諾すると答えました。その変わったところにマリイは惹かれていましたが、いつか同じことでムルソーを嫌いになるかもしれないと言いました。
 サマラノ老人は犬をまだ見つけられないでいました。ムルソーは彼を部屋に呼び、話を聞きました。サマラノは妻が死んだ後、工場の仲間に頼んで子犬を引き取って育てました。昔は毛並みが良かったその犬は、次第に皮膚病になり、サマラノはその犬に毎晩軟膏を塗っていました。ムルソーの母親が家にいるときは、その犬のことをよく可愛がっていたようでした。サマラノは、話を聞いてくれたムルソーに感謝し、たとえ養老院へいれても、ムルソーが母親を愛していたことを知っていると言いました。

 ムルソーとマリイとレエモンは海へと出かけました。その前日、ムルソーは警察に行き、レエモンが女に裏切られたと証言したので、レエモンは警告を受けただけで済みました。しかしその一件以来、レエモンは情婦の兄を含むアラビア人の一団につきまとわれているようでした。
 海に着くと、レエモンは、木造のヴィラに住むマソンという友人とその妻を紹介しました。一同は海へと入り、酒を飲みました。
 ムルソーとレエモンとマソンが海岸を散歩していると、レエモンにつきまとっている二人のアラビア人が向かってきました。一同は争いになり、マソンは相手のうちの一人を殴り倒しましたが、レエモンは匕首で腕と口を切られました。レエモンとマソンは病院に行き、ムルソーはマリイとマソンの妻に事の次第を説明しました。
 マソンとレエモンが帰ってくると、ムルソーはレエモンに付いて散歩に行きました。浜のはずれにくると、岩陰の泉のところに二人のアラビア人が寝ているのを見つけました。レエモンが彼らを撃つ素振りを見せたので、ムルソーはそれを止めようとしてピストルを預かりました。レエモンがアラビア人に向かっていくと、彼らは岩の後ろへと逃げ込みました。
 二人がヴィラへと戻ると、ムルソーは今度は一人で浜を歩き始めました。激しい暑さを感じ、岩陰の泉へと向かうと、先程のアラビア人のうちのレエモンを傷つけた方が、一人で浜辺に寝ていました。焼け付くような光に耐えかねて、ムルソーはポケットの中にある銃を握りしめながら、アラビア人の方に向かいました。アラビア人が匕首を取り出すと、ムルソーは引き金を引き、四発の銃弾を打ち込みました。

第二部

 ムルソーは逮捕され、尋問を受けました。彼は弁護士をつけるつもりはありませんでしたが、法律によって弁護士がつくこととなりました。弁護士は、母親の死に苦痛を感じたのかとムルソーに聞きました。ムルソーは深く母親を愛してはいましたが、自問する習慣がないので、本当のところを説明するのは難しいと答えました。弁護士は、その日に自分の感情を押さえつけていたのかを聞きましたが、ムルソーはそれをきっぱりと否定しました。弁護士は嫌悪の感情を示し、憤慨して出て行きました。
 予審判事の前に呼び出され、尋問が始まりました。ムルソーは殺人当日の話を繰り返しすることに疲れを感じました。彼は、母親を愛していたのかと聞かれ、愛していたと答えました。ピストルの一発目と二発目の間に数秒を開けた理由には答えられませんでした。神を信じるかと聞かれると、信じないと答えました。敬虔なキリスト教徒であった判事は憤慨しましたが、ムルソーは、それは自分と何も関係のないことだと思い、うんざりしました。判事が自分の行為を悔いているか聞くと、ムルソーはうんざりしていると答えました。それから後は、判事は少しずつムルソーに慣れ、打ち解けていきました。
 十一ヶ月が過ぎると、ムルソーは独房に入りました。

 窓から海の見える独房に入ったムルソーは、マリイの訪問を受けました。マリイは、ムルソーが出所したら結婚したいと言いました。ムルソーはマリイに欲望を感じながら、隣で話しているアラビア人たちの話し声が耳に入ってくるのを聞き続けていました。
 海へ行きたいという欲望や、女や煙草に対する欲求を別にすれば、ムルソーは特に不幸を感じませんでした。彼は記憶から様々なことを引き出して日々を過ごしているうちに、ひとりごとを言うようになりました。

 弁論が開かれました。ムルソーの事件は、それほど重要なものではなく、二、三日で終わるだろうと見られていました。
 新聞に載った影響で、法廷は人々で溢れていました。証人には、養老院の院長、門衛、トマ・ペレーズ、レエモン、マソン、サマラノ、マリイ、セレストが呼ばれました。
 尋問が始まり、裁判長はムルソーが母親を養老院に入れたことに触れました。ムルソーはうんざりしながら、その理由を金がなかったからだと答えました。
 検事は、武器を携えて一人でアラビア人のいた泉の方に戻った理由を聞きました。ムルソーは、それは偶然だと答えました。

 午後は証人尋問が行われました。養老院の院長は、葬儀の時にムルソーが母親の顔を見たがらず、冷静であったこと、母親の年齢を知らなかったことに驚いたと話しました。検事は勝ち誇ったようになりました。ムルソーは自分がこれらの人々にどれほど憎まれているかを知り、馬鹿げた気持ちになりました。
 門衛もまた、ムルソーが母親の顔を見ず、煙草を吸い、よく眠ったことを語りました。ムルソーは傍聴席が憤激しているのを感じ、自分が罪人であることを理解しました。
 母親と親しかったトマ・ペレーズは、涙を流さないムルソーの態度に苦痛を感じたと証言しました。

 休みのあとは、被告側の証人の供述が行われました。
 セレストは、事件は不運によってもたらされたものだと繰り返し、ムルソーを擁護しました。ムルソーはセレストを抱きしめたいと思いました。
 マリイは、ムルソーの母親の死の翌日に関係を持ったことを指摘されました。マリイは海水浴に行き、映画を見て、部屋に行ったことを話しました。検事がムルソーを攻撃すると、マリイは泣き出し、裁判長の合図で連れ出されました。
 マソンはムルソーを律儀で誠実な男だと言いました。
 サマラノは犬の件で親切にしてくれたことを話しました。
 レエモンは、被害者が恨みを抱いていたのは自分に対してだと言ってムルソーを庇いました。しかし、ムルソーが情婦への手紙を書いたことが指摘された上、売春の仲介を生業としているレエモンの証言では、有利に働くことはありませんでした。
 検事は、ムルソーが重罪人の心で母親を埋葬したと主張すると、それは法廷に大きな効果を与えました。弁護人は焦りを感じているようでした。ムルソーは自分が不利な状況に立たされたことを知りました。
 法廷は閉じられました。

 検事と弁護士の弁論では、自分について語られているのを、ムルソーは興味深く聴きました。ムルソーは話をする機会を与えられず、自分抜きでこの事件が扱われているように感じました。
 検事は、ムルソーが初めから殺人を行うためにレエモンの情婦を呼び寄せる手紙を書き、アラビア人との争いを扇動し、計画通りに殺しを行なったのだと主張しました。そしてムルソーのことを心の空虚な魂のない人間だと批判し、死刑を要求しました。
 裁判長はムルソーに殺人の動機を聞きました。ムルソーは、それは太陽のせいだ、と答えました。
 弁護士の弁論は、検事のものと比べると、才能に乏しく感じられました。ムルソーは外から聞こえるアイスクリーム売りのラッパの音を聞き、自分が愛していた昔の生活の思い出に襲われ、一刻も早く独房に帰って眠りたいということばかりを願いました。
 マリイは微笑を送りましたが、ムルソーは疲れのせいでそれに応えることができませんでした。
 ムルソーは死刑を言い渡されました。

 ムルソーの独房は変えられました。彼は、自分の父親が、ある死刑執行を見に行き、そのあとで嘔吐したという話を思い出し、人間にとって死刑執行のみが真に興味のある唯一のことなのだということを悟りました。彼は特赦請願のことを考えましたが、人生が生きるに値しないと考えていたので、それを却下しました。
 ムルソーは御用司祭の訪問を断り続けました。すると司祭はいつもと違う時間に突然ムルソーを訪れ、なぜ自分の面会を拒否するのかと聞きました。ムルソーは、神を信じていないと答えました。司祭は、ムルソーが絶望や恐れによってそのような考えになってしまったのだと思い、いずれは神様の方に向かっていくだろうと言いました。ムルソーはうんざりした気持ちになり、司祭からの抱擁を拒否しました。司祭はなおも諦めず、ムルソーのために祈ろうとしました。
 そのとき、ムルソーの中で何かが裂け、司祭に向かってどなり、祈りなどするなと言い、消えてなくならなければ焼き殺すと言いました。そして彼は法衣の襟首をつかみ、自分は自分の人生と、来るべき死について強く自信を持っていて、常に正しいのだと叫び、人間が人間を裁く権利などはなく、皆が死刑囚なのだと罵りました。
 看守によって司祭とムルソーは引き離されました。司祭は涙を流しながら去って行きました。
 ムルソーは平静を取り戻し、独房に横になりました。星々の光を感じて眼を覚ましたムルソーは、世界の優しい無関心に心をひらき、死を眼前にして自分が世界に近しいものになったように感じ、幸福になりました。ムルソーに残された望みは、処刑の日に大勢の見物人が、憎悪の叫びをあげて自分を迎えることだけでした。