スコット・フィツジェラルド『グレート・ギャツビー』の詳しいあらすじ

スコット・フィツジェラルド『グレート・ギャツビー』の章ごとの詳しいあらすじを紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

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※『グレート・ギャツビー』の詳しい登場人物紹介はこちら

第一章

 語り手のニック・キャラウェイが今よりも年若く、傷つきやすかった頃、父親からある忠告を与えられました。

 それは、人を批判したくなったときには、この世の中の人が自分のように恵まれているわけではないということを考えてみよ、というものでした。

 ニックはこの忠告を心の中で反芻して生きてきたおかげで、物事を断定的に割り切ってしまわぬ傾向を持つようになり、そのためにいろいろと珍しい性格の持ち主に出会うこととなりました。そして、一風変わった人々が自分に対して親愛の情を示すようになると、そのような人間の心中を見せつけられた彼はうんざりするようになりました。
 しかし彼は、ジェイ・ギャツビーという男にだけは反撥を感じることがありませんでした。ギャツビーはニックにとって我慢ならないと思われる性格を多数持っていたものの、希望を見出す尋常ではない感受性を持っており、そのような資質は他の誰の中にも見出すことのできないものでした。

 キャラウェイ家は、一八五一年に中西部に移り住み、ニックの祖父の兄が始めた金物類の卸売により、中西部の都会における名家となりました。その家業は、ニックの父が受け継ぎました。

 ニックは一九一五年にイエール大学を卒業し、その後、世界大戦に参加しました。帰国後、中西部に魅力を感じなくなった彼は、父親に金を送ってもらいながら、東部へ行って証券会社の見習いとしての生活を始めました。もう故郷に戻ることはないだろうと彼は考えていました。

 ニューヨークの市から二十マイルほど離れたところにあるロング・アイランドには、イースト・エッグとウェスト・エッグという二つ並んだ卵形の半島がありました。ニックはそのうち比較的地味な方のウェスト・エッグの突端に住み始めました。家の右手には、大理石のプールと四十エーカー以上もある芝生を持つ邸宅がありました。その邸宅に住んでいたのがギャツビーでした。

 対岸の高級住宅地イースト・エッグにはブキャナン夫妻が住んでいました。夫のトムはニックの大学時代の友人で、その妻デイジーは、ニックのまたいとこの子供でした。ニックは戦争から帰った後、シカゴに住んでいた彼らの家に二日ほど泊まったことがありました。
 トムは大学ではフットボールの有名な選手でした。実家は金持ちで、デイジーと結婚後、一年間のフランス生活を経て、イースト・エッグへとやってきました。

 ニックはブキャナン夫妻に呼ばれ、入江に臨む彼らの豪勢な家に車を走らせました。トムは以前と変わらない横柄な態度でニックを迎え、家の中を案内し、デイジーのところへと連れて行きました。
 デイジーは可愛らしい女でしたが、彼女の中で最も際立った印象を与えるのは、歌うかのように甘い声でした。トムとデイジーは、三歳になる子供がいました。

 デイジーは、ルイヴィルでの娘時代からの友人で、その夏の週末を一緒に住むこととなっていたジョーダン・ベイカーをニックに紹介しました。ジョーダンは、気だるさとチャーミングさが同居した、グレーの瞳のほっそりとした女性でした。ジョーダンとニックはお互いに好奇心を抱きました。

 ニックがウェスト・エッグに住んでいると言うと、ジョーダンは、そこに住むギャツビーという男を知っていると言いました。

 一同は、ベランダのテーブルにつきました。まもなく執事に何事かをささやかれたトムは中に入って行きました。デイジーはそれには構わないようなふりをしていましたが、やがて中座を詫びて、家の中に入りました。
 デイジーとトムがいなくなると、ジョーダンは、トムはニューヨークに愛人を囲っていて、その女から電話があったのだろうということを、ニックに教えました。

 夜になると、ジョーダンがスポーツ誌にも載っているゴルフの選手であることに、ニックは気づきました。彼女が寝室に引き上げると、デイジーとトムの間には険悪な雰囲気が漂いました。

 家に着くと、ニックは隣の邸宅の芝生に、一人の男が星空を眺めているのを見かけました。ニックはその男がギャツビーであろうと見当をつけ、ジョーダンのことを口火にして話しかけようとしました。しかし彼が暗い海に向かって、震えながら手を差し伸べているのが見え、ニックは話しかけるのを躊躇しました。その目線の先には、暗い海の向こう岸に緑色の灯火が見えるだけでした。

第二章

 ウェスト・エッグとニューヨークの真ん中あたりには、灰の谷と呼ばれる荒れ果てた土地がありました。そこには、どこかの眼科医が客集めのために作った巨大な看板があり、その看板には巨大な黄色の眼鏡をかけた一対の眼が描かれていました。その眼は、T・J・エクルバーグ博士と呼ばれていました。

 ある日ニックは、トムと一緒に電車に乗ってニューヨークに出かけました。その途中、灰の谷にある跳ね橋があげられて列車が足止めを食うと、トムは、ニックを降車させ、ジョージ・B・ウィルソンという男が経営する自動車修理工場へと連れて行きました。トムはウィルソンに車を売る約束をしていました。ウィルソンの妻のマートルは、肉付きの良い三十歳ほどの女で、トムとは愛人関係にありました。トムは隙を見てマートルに次の列車に乗るように指図し、会う約束を交わしました。その後、トムとニックはニューヨークでマートルと落ち合いました。
 三人は、タクシーをつかまえてくり出しました。
 ニックは帰ろうとしましたが、トムに引き止められ、マートルのために用意されたアパートへと連れて行かれました。

 マートルは、同じアパートの下の部屋に住むマッキー夫妻と、妹のキャサリンを呼び、夜通し飲みました。そのパーティーで、ロング・アイランドのことが話題になり、キャサリンがひと月ほど前にギャツビーのパーティーに行ったことがわかりました。
 そのうちに、トムとマートルの痴話喧嘩ぎが始まったため、ニックはミスター・マッキーとともに外に出て駅に行き、家に帰るために朝四時の列車を待ちました。

第三章

 夏になると、ギャツビーの邸宅では、夜な夜な豪華なパーティーが催され、多くの男女が訪れました。ほとんどの客は、招待されることなくその邸宅に入り込むことができました。

 正式な招待客としそのパーティーに参加し、一人きりで身を持て余していたニックは、ジョーダンを見かけ、声をかけました。彼は、ジョーダンに声をかけてきた二人の娘と、ギャツビーについて話しました。ギャツビーには、人を殺したことがあるとか、ドイツのスパイだったなどという噂があるようでした。それは人々がギャツビーに対してロマンティックな憶測を掻き立てていることの良い証拠でした。
 ジョーダンとニックは、この家の主人であるギャツビーを探してみることにして屋敷の中を歩き回り、庭園にあるテーブルに座りました。戦争中にニックを見かけたことがあるという一人の男が話しかけてきて、最近買ったばかりだというモーターボートの試運転に彼を誘いました。その男が誰であるか知らないまま話していたニックは、彼がこの家の主人で隣人のギャツビーであったことを知り、驚きました。
 ギャツビーは、大理石の階段の上に立ち、満足げな表情で客たちを見回した後、執事を使ってジョーダンを呼びました。

 一人になったニックが、屋内に入り、招待客の観察をしていると、ジョーダンとギャツビーが図書室から出てきました。ジョーダンは、信じられないような話をギャツビーから聞いたようでした。しかし、他言はしないと約束していたらしく、ニックはその話が何であるのか知ることはできませんでした。
 ジョーダンは、自分の連絡先をニックに渡しました。

 ニックは、遅くまでパーティーに残り、ギャツビーに庭園で会ったときに本人と知らずにいたことを詫びました。二人は、翌日のモーターボートの試運転の約束を交わし、ニックは家へと帰りました。

 その頃、ニックは一日のおおかたをニューヨークでの仕事に忙殺されていました。夕食後、彼は投資や有価証券についての勉強をし、気持ちの良い日は散歩をしました。彼は孤独でしたが、刺激のあるニューヨークの街を好きになり始めていました。

 夏の盛りになると、ニックはジョーダンと会うようになりました。ニックは彼女の中にある退屈で尊大な顔の裏に、何かが隠されているという予感を感じ、愛情の混ざった興味を抱くようになりました。まもなくニックは、ジョーダンがさまざまなごまかしをせずにはいられない性格であることを知りました。しかしニックは彼女の中にある不正直な部分を気にすることはありませんでした。
 ジョーダンは、ニックとの関係を前に進めようとしている様子を示し始め、ニックは郷里にいる恋人のような存在の娘との関係を断ち切る必要性を感じました。

第四章

 ある七月の日の朝九時に、ギャツビーは豪奢なクリーム色の車でニックの家を訪ね、ニューヨークでの昼食に付き合ってほしいと頼みました。
 ドライブの途中、ギャツビーは、自分についてのさまざまな間違った噂を信じて欲しくないので、いくつか話しておきたいと語りました。

 ギャツビーが語るところによると、彼は中西部の資産家の息子で、オックスフォードで教育を受けた後、家族全員が死んだために大金を得て、戦争でたくさんの勲章を貰ったようでした。ニックは、その陳腐な話が嘘であると見破りました。しかし、本物と思しきモンテネグロの勲章と、オックスフォードで撮った写真をギャツビーが見せたことで、ニックは彼の言うことを信じる気になりました。

 ギャツビーは、ニックに頼みがあると言いました。しかし彼は自分からその頼みを語らず、今からニックが一緒に食事をするジョーダンにそれを語らせると言いました。

 ニューヨークに着くと、ギャツビーはニックをある地下のレストランに連れて行き、友人の小柄なユダヤ人、マイヤー・ウルムシェイムをニックに紹介しました。
 ギャツビー曰く、ウルムシェイムはワールド・シリーズで八百長を買収したこともあるギャンブラーで、抜け目のない男であるため逮捕されないずにやってきているようでした。
 ニックは、トム・ビュキャナンの姿を見かけて声をかけ、ギャツビーを紹介しました。トムとギャツビーは握手を交わしました。ニックは、ギャツビーの顔に当惑の表情が浮かぶのを見ました。ニックがトムと短い会話をして振り向くと、そこにギャツビーの姿はありませんでした。

 その日の午後、ジョーダンは、プラザ・ホテル・ガーデンからセントラル・パークを歩きながら、ギャツビーとデイジーの過去についてニックに語りました。

 一九一七年の十月のある日、ジョーダンが、結婚前のデイジーの大きな家の前を通りがかると、デイジーは真っ白なロードスターの中で、見たことのない中尉と座っていました。ジョーダンよりも二歳年上のデイジーは当時十八歳で、ルイヴィルの若い娘の中では飛び抜けて若い将校たちに人気がありました。デイジーがジョーダンに話しかけている間、その中尉は、ずっとデイジーを見つめていました。それから四年以上、ジョーダンはその士官を見ることはありませんでした。
 その翌年から、ジョーダンはゴルフの試合に出るようになったため、デイジーに会う機会は減っていきました。
 デイジーは、外地に行く兵隊に別れを告げるためにニューヨークへ向かおうとしているところを母親に阻止されたというひどい噂をたてられ、一度大人しくなったものの、翌年の夏までには、社交界にデビューして再び派手に遊ぶようになりました。そして翌年の六月に、彼女はトムと結婚し、豪勢な結婚式を挙げました。
 結婚前夜の祝宴の半時間前、花嫁の付き添いになったジョーダンがデイジーの部屋に入ると、デイジーは酔っ払っており、結婚を嫌がって泣き始めました。彼女の手には、一通の手紙が握られていました。
 ジョーダンはデイジーに水浴びをさせ、体裁を整えて祝宴に出席させました。
 翌日、デイジーはトムと結婚式を挙げ、三ヶ月の南洋方面への新婚旅行に出かけました。
 その後、ジョーダンがサンタ・バーバラでデイジーと会った時、彼女はトムに惚れ込んでいるように見えました。しかし、ジョーダンがサンタ・バーバラを発って一週間ほど後、トムの乗っていた車が事故に遭い、彼の横に乗っていたホテルのメイドが骨を折ったことが新聞に載りました。
 翌年の春、デイジーは女の子を産み、二人は一年間フランスに行き、その後、シカゴに帰ってきて定住することとなりました。

 ジョーダンがニックと初めて会った時、ウェスト・エッグのギャツビーを知っているという彼女の話を聞いたデイジーは、そのギャツビーの姓を知りたがりました。その後ジョーダンがギャツビーの特徴を伝えると、デイジーはそれが昔付き合っていた人に違いないと言いました。ジョーダンはその時初めて、以前デイジーと白いロードスターに乗っていた男がギャツビーであったことに思い当たりました。
 ジョーダン曰く、おそらくギャツビーはデイジーのいる入江の向こう側に家を買い、彼女がふらふらと自分の家のパーティーに来ることを期待していました。しかしとうとうデイジーは来なかったため、色々な人に彼女を知っているかと訪ねて回り、最初に見つけ出したのがジョーダンでした。
 彼は自宅のパーティーにジョーダンを招いた時、ニックの家でデイジーと会うことができないかと聞きました。ニックが気を悪くすることが怖くて、そのような些細な願いすら面と向かって口に出せなかったようでした。
 ジョーダンは、ギャツビーのためにデイジーをお茶に招待してあげてほしいと、ニックに頼みました。

 ジョーダンの話が終わった時、ニックは彼女にこれまでにない魅力を感じ、自分の近くに抱き寄せました。

第五章

 その夜ニックがウェスト・エッグに帰ると、隣の邸から、ギャツビーが現れました。ニックは、デイジーに電話をかけてお茶に誘うつもりだと言いました。
 ギャツビーは、ニックに迷惑をかけたくないと言いながら、その見返りとなる援助を申し出ました。ニックはその援助をきっぱりと断り、デイジーを呼ぶ日をいつにすればよいか、ギャツビーに相談を始めました。

 翌朝、ニックはデイジーに電話をかけ、トムを同席させないように念を押して、彼女をお茶に招きました。

 約束の日、ギャツビーはニックの家の芝を刈らせ、たくさんの花々を届け、白のフランネルのスーツで現れました。彼は蒼白な顔で、デイジーを迎える準備が整っていることを確認しました。
 三時半ごろ、怖気付いたギャツビーは立ち上がり、帰ると言い出しました。ニックはギャツビーを説得し座らせました。それと同時にデイジーの車がやってきました。
 ニックがデイジーを迎えに行くと、怖気付いたギャツビーは裏口から一旦外へ出て、再び玄関の方に回りノックしました。そしてドアを開けたニックの目の前を無言で通り過ぎ、居間の中に入っていきました。

 ギャツビーとデイジーは、五年と十一ヶ月ぶりに再会を果たしました。ニックは、彼らを二人きりにするため、動揺を抑えようと必死になっているギャツビーを残して立ち上がりました。すると取り残されそうになったギャツビーは、取り乱してあとからついてきました。ニックはいらいらして、デイジーを一人きりにしないようにと忠告しました。その言葉を聞いたギャツビーは、ニックを非難の眼差しで見つめると、部屋の中に姿を消しました。
 ニックは、裏口から外へと出て、半時間ほどギャツビーの邸を見つめ、頃合いを見計らって家に戻りました。

 寝椅子の両端に腰を下ろし、お互いの顔を見合わせているギャツビーとデイジーからは、狼狽の色は消え失せていました。デイジーの顔は涙を流したあとがあり、ギャツビーは輝くばかりの歓喜に溢れていました。
 雨が止んだことを伝えると、ギャツビーは、デイジーとニックを自宅に招きました。デイジーは、ギャツビーの家の全てに感嘆し、賞賛しました。その間、ギャツビーは、デイジーが自分の目の前に現れたことに対する驚異を感じながら、かた時も彼女から目を逸らしませんでした。
 ギャツビーは平静を取り戻すと、デイジーの家の桟橋の突端のところにある緑の灯を眺めていたことを告白し、それまで集めていたデイジーの切り抜きを見せました。

 ニックが別れの挨拶をすると、ギャツビーは困惑したように見えました。しかしデイジーがギャツビーの耳元で何事かを小声で囁くと、彼の顔に感動の色が現れるのにニックは気付きました。
 二人が自分のことなど目に入らないようになったのを見て、ニックは二人を部屋に残したまま立ち去りました。

第六章

 ある朝、ギャツビーの名を耳にして何か引っかかるものを感じた新聞記事が、記事のネタを探しにニューヨークからやってきて、ギャツビーを直撃し、その結果ギャツビーにまつわる様々な悪い憶測が世間に飛び交うようになりました。それらの憶測は、後にニックがギャツビーから聞いたこの真実とは、全く異なったものでした。

 後にニックが、ギャツビーの本当の生い立ちを本人から聞いたところによると、彼はノース・ダコタ州の貧しい農家の出身で、本当の名は、ジェイムス・ギャッツといいました。
 彼は若い頃からスペリオル湖の南岸を移動しながら、さまざまな職を転々として暮らしていました。その間、一度ミネソタ州南部にある小さなルター派の大学に通っていた時期もありましたが、大学が自分の運命に対して無関心であることに失望し、学士を稼ぐためにやれと言われた門衛の仕事を軽蔑していたため、二週間在籍しただけで、スペリオル湖に舞い戻りました。

 ギャツビーが十七歳の頃、ダン・コーディーというヨット乗りの男が、浅瀬に錨を投じるのを見て、手漕ぎボートで近づき、その場所は危険だと忠告しました。その時、彼は初めて自分をジェイ・ギャツビーと名乗りました。
 コーディーは当時五十歳で、鉱山で巨万の富を得た男でした。しかし、精神的に脆いところを様々な女につけ込まれ、その顛末として、エラ・ケイという女新聞記者によって海に送り出され、五年ほども海沿いの土地をうろうろしていました。
 コーディーは、湖上で話しかけてきたギャツビーが、野心に燃えていることを見抜きました。

 数日後、コーディーはギャツビーに船乗りの服を買ってやり、自分の船に乗せました。ギャツビーは、コウディの信頼を得て、給仕から航海士、そして船長まで上りつめました。

 その船は、五年間にわたって大陸の周りを三度巡回しましたが、エラ・ケイがボストンで乗り込んできた一週間後、コウディは死んでしまいました。
 ギャツビーはその財産を相続することになっていましたが、彼本人にもわからない手続きが踏まれた結果、その財産はエラ・ケイの手に渡ることとなりました。

 ギャツビーとデイジーの再会から数週間、ニックはギャツビーに会わず、大抵ニューヨークでジョーダンに会っていました。

 ある日曜の午後、ニックはギャツビーの家へ出かけると、まもなくニックの見知らぬスローンという男が、トム・ビュキャナンと、鳶色の乗馬服を着た美人を連れ、何か飲み物を飲ませて欲しいとやってきました。
 トムはギャツビーのことを覚えてすらいませんでした。ギャツビーは狼狽しながらも、デイジーのことを知っていると話題に出しました。
 やがて落ち着きを取り戻したギャツビーは、トムのことを観察するために、夕食を共にしないかと彼らを誘いました。すると、女は自分の家の晩餐会にニックとギャツビーを誘いました。スローンが自分たちを呼びたがっていないことを察したニックはその誘いを断りましたが、ギャツビーは、トムを観察するためにその夕食に行きたがり、準備にとりかかりました。スローンはギャツビーが車を準備して出ている間に、待ちきれなかったと伝えるようにとニックに言って帰って行きました。

 近頃デイジーが方々に遊びまわっていることを苦々しく思っていたトムは、次の土曜日のギャツビーのパーティーに、デイジーと共にやってきました。
 デイジーとギャツビーは踊り、それから二人でニックの家の玄関の階段に座りました。デイジーは、ウェスト・エッグの人々と肌の合わず、ギャツビーと二人きりでいる時間以外に、楽しみを見出すことはできないようでした。
 トムは、このパーティーを催すギャツビーが、一体何者なのかと訝り、酒の密売屋なのではないかと考えるようになりました。
 デイジーが帰った後、ギャツビーは、デイジーが自分の家のパーティーを楽しんではいなかったことに絶望しました。

 彼が求めているのは、デイジーがトムに、一度も愛したことはないと言うことでした。その願望を聞いたニックは、デイジーにそれほど多くのものを要求しない方がよいと忠告しました。しかしギャツビーは、過去を再現することにこだわり、失われた時間を取り戻してみせると言い放ちました。それから彼は、五年前のある秋の夜、デイジーと口づけを交わした日のことを語りました。
 ニックはあまりに感傷的なその話に不快を感じたものの、忘れかけていた何かを思い出しそうになりました。しかし、彼は結局それが何であるのかわからないまま、永遠に失われていくのを見送ることしかできませんでした。

第七章

 ある土曜日の夜、いつものようにギャツビーの屋敷の明かりがついていないことにニックは気づきました。ニックの家政婦によると、一週間前、ギャツビーは屋敷の使用人に暇を取らせ、新しい使用人を雇い始めたようでした。

 その翌日、ニックはギャツビーからの電話により、頻繁に来るようになったデイジーが以前の口の軽そうな使用人たちに眉をひそめたため、ウルムシェイムの紹介で新しい使用人を入れたことを知りました。ギャツビーは、翌日のデイジーの家で開かれる昼食会にニックを誘いました。そのランチには、ジョーダンも来ることになっているようでした。

 翌日は恐ろしく暑い日でした。ニックはトムの家に着き、ギャツビーやジョーダンと合流しました。
 トムは、車の売買のことでウィルソンと電話で揉めており、彼がわざわざ昼食の時間帯に電話をかけてきたことに腹を立てていました。
 電話を終えたニックが、嫌悪を隠しながら部屋に入ってきて、ニックとギャツビーに挨拶しました。

 不意にギャツビーとデイジーの視線が会い、ふたりはしばらくの間見つめ合いました。その視線をふりきるようにデイジーが下を向いたのをトムは目の当たりにし、デイジーがギャツビーを愛していることに気がついて愕然としました。

 一同は、ニューヨークへと向かうことになりました。トムは、自分たちの車を交換しようと提案し、デイジーをギャツビーの車に乗せようとしました。するとデイジーは、トムの腕から逃れ、自分はギャツビーと行くと主張しました。
 トムは、ニックとジョーダンをギャツビーの車に乗せました。彼は二人が前々から事情を知っていたことに気づき、ニックを睨みました。
 ギャツビーの車にガソリンがないことを思い出したジョーダンは、トムを急かしてガソリンを入れるように言いました。トムはウィルソンの家に寄りました。ウィルソンは、妻の不貞に勘付き、西部へ行こうと考えており、そのために金が必要なようでした。彼はその相手が誰であるのか知らないまま、トムの古い車をどうするのかと聞きました。トムは、自分の車を売ることをウィルソンに約束しました。

 ジョーダンをトムの妻だと思い込みんだマートルが、嫉妬に駆られた目で修理工場の窓からこちらを見ていることに、ニックは気付きました。

 妻と愛人をいっぺんに失おうとしていたトムは、焦燥を感じながら、アクセルを踏み、ギャツビーの運転する車に追いつきました。

 ニック、トム、ギャツビー、デイジー、ジョーダンはニューヨークに着くと、そろってプラザ・ホテルの次の間つきの特別室を取り、その部屋に入りました。
 ギャツビーを不信と軽蔑の目で見ていたトムは、オックスフォードに行ったのはいつだったのかと聞きました。ギャツビーは、休戦のあと、将校はイギリスやフランスのどの大学へも行けた時期があったためオックスフォードにいた時期があるのだと言いました。
 トムは、自分の家にどのような騒動を起こそうとしているのかと単刀直入に聞きました。この発言にデイジーは怒り、トムに自制を促しました。
 ギャツビーは、デイジーがトムを初めから愛しておらず、貧乏な自分を待ちくたびれたために結婚しただけに過ぎないのだと言いました。

 トムは、ギャツビーとの関係をデイジーに問いただしました。
 ギャツビーは、五年前から会えなかったにも関わらず、自分たちが愛し合っていたのだと主張し、自分がトムを愛したことがないと言うようにとデイジーに要求しました。

 デイジーは、ためらいながらも自分はトムを愛したことがないと言いましたが、すぐにギャツビーの要求が大きすぎると嘆き、自分はかつてトムのこともギャツビーのことも愛したことがあると言いました。

 前々からギャツビーを怪しい人物だと睨んでいたトムが調べ上げたところによると、ギャツビーはウルムシェイムと組んで、シカゴの横町のドラッグストアを買収し、エチル・アルコールを売っていたようでした。

 ギャツビーは、トムの言ったことを否定しましたが、それを知ったデイジーは彼への不信を再び引き起こされました。
 デイジーはそこから出ていきたいと懇願すると、勝算を得たトムは、彼女がギャツビーと二人で出ていくことを許しました。
 デイジーとギャツビーは立ち去っていきました。

 折しも、その日はニックの三十歳の誕生日で、彼は前途に不気味な十年があるのを感じました。しかし、自分のそばにジョーダンがいるのを感じ、彼女が固く握りしめてくる手によって、自分が三十になったという衝撃を消し去ることができました。

 その頃、灰の谷のそばでコーヒー食堂を開いていた若いギリシャ人のマイカリスが修理工場にやってくると、ジョージ・ウィルソンは事務室の中で病気になっていました。ジョージは、妻を翌々日まで閉じ込めておき、それから立ち退くのだと言いました。その言葉は四年間も隣り合わせに住んできたウィルソンの言葉とは思えないものでした。
 マイカリスが家に帰ると、七時過ぎにマートルの罵り声が聞こえました。彼女はわめき散らしながら家から飛び出し、ニューヨークの方から現れた車に轢かれて即死しました。

 ニックとトム、ジョーダンがその現場を通りがかると、そこには人だかりができていました。
 店の中からは、ウィルスンの泣き声が聞こえてきました。トム、ニック、ジョーダンはその人だかりの中に進み、マートルの遺体を目にしました。
 一人の黒人が、マートルを轢いたと思われる黄色い車が、自分のそばを猛スピードで通り過ぎたと証言しました。
 トムはウィルスンを慰めましたが、車に戻ると泣き始めました。

 彼らが家に帰ると、デイジーはすでに戻っていました。
 トムは、ニックを家に運ぶためのタクシーを呼ぶために家の中に入りました。ジョーダンは中に入らないかと誘いましたが、ニックは急に彼女にまで幻滅を感じ、一人になりたいと思いました。ジョーダンが家に入り、ニックが庭道を表の方に歩いていくと、茂みのあいだからギャツビーがニックを呼びました。
 ギャツビーは、自分が轢いた女が死んだかどうかをニックに聞きました。ニックはその女が死んだということと、その女は自動車整備工場の亭主の妻であることを伝えました。
 ウィルスンを轢いたときに、車を運転していたのはデイジーでした。ニューヨークを出る時に、取り乱していたデイジーが運転でもすれば落ち着くだろうと考えたギャツビーは、彼女に運転をさせました。そして向こうからやってきた車とすれ違おうとしたときに、マートルが自分たちめがけて駆け出してきました。マートルは、自分たちに何か言いたいことがあって飛び出してきたように見えました。デイジーは、マートルのいる方と反対側へハンドルを切りましたが、すぐに気後れがして、もとに戻してしまったのだとギャツビーは語りました。
 デイジーは、マートルを轢いた後、止まらずに運転し続けました。ギャツビーが急ブレーキをかけると、デイジーは彼の膝に崩れ落ち、ギャツビーが運転をすることになりました。それから彼はウェスト・エッグへ行き、車は自分の家のガレッジに置いてきたようでした。
 ギャツビーそれでもデイジーのことしか考えることができず、トムが今回のことで彼女を虐めないかを見張るために、庭に潜んでいたようでした。

 ニックは、騒ぎが起きていないか確認してくると言って、トムの家のブラインドを下ろした隙間から、中を覗きました。
 家の中で、トムはデイジーに向かってなにかを熱心に話し、片手で彼女の手を包みました。デイジーはトムを見上げ、同意するように頷くのが見えました。
 ニックは、二人が幸福でも不幸でもないものの、自然の親しみが二人の間にあることを見て取りました。
 ニックはギャツビーのところへ引き返し、何も異常はなかったと伝えました。ギャツビーはそれでも、デイジーが寝るまでは監視を続けると言って、家の前に立ち尽くしていました。

第八章

 ニックは眠れない夜を過ごし、ギャツビーがタクシーで帰ってくる音を聞くと、即座に彼の家に向かいました。ギャツビーは何事も起きなかったと力なく言いました。
 ニックは、車が見つかる前にウェスト・エッグを立ち去るように警告しました。しかし最後の希望にすがりついているギャツビーは、ニックの言葉には耳を貸そうともしませんでした。

 自分が演じ続けてきたジェイ・ギャツビーとしての人生が終わったことを悟った彼は、ダン・コーディーとともに過ごした過去のことをニックに話しました。

 ギャツビーにとっては、デイジーは、彼が初めて知った良家の娘でした。ギャツビーは、初めは他の将校たちと一緒に、そのうちに一人で彼女の豪勢な家に通うようになりました。
 彼は軍服を脱げば、自分が一人の無一文の青年に過ぎないことを知っていたため、手に入れられるものであればなんでも手に入れる生活を続けました。そして自分がデイジーと同じような社会層の人間であり、十分に彼女の世話をできる人間であると信じ込ませ、ある十月の夜、彼はデイジーを奪い取りました。
 ギャツビーはデイジーを愛すほどに、自分と彼女とは別々の世界に住んでいることを痛感し、ますます深みにはまっていきました。デイジーは、ギャツビーが大変な物知りだと思い込み、彼のことを愛しました。ひと月の愛の生活のあと、彼は故国を離れ、大戦に向かうことになりました。
 ギャツビーは大戦では武勲をあげ、大尉から少佐に昇進し、機関銃隊の指揮をとりました。しかし休戦後も帰国は叶わず、オックスフォードに送られました。デイジーは、彼がどうして帰れないのかわからず、苛立たしげな手紙をよこすようになりました。
 待ちくたびれたデイジーは、再び豪華絢爛な社交会の世界に戻り、派手な生活を始めました。彼女はそのような生活に明け暮れながらも、自分の生活を固めてくれるものを待ち続けました。
 そのような彼女のもとに現れたのがトムでした。トムは容姿も地位も申し分のないものであり、デイジーの虚栄心を満足させました。

 デイジーは、ギャツビーがオックスフォードにいる間に手紙を送り、二人は別れました。

 ギャツビーがフランスから帰還したとき、トムとデイジーは新婚旅行中でした。彼は軍隊の俸給の残りをはたいて、みじめな思いを抱きながらルイヴィルに帰りました。
 彼はデイジーと過ごした日々を追想しながら一週間ほどルイヴィルの街で過ごしましました。一文なしになった彼は、町を出ていく普通客車のデッキに入り、デイジーが住んでいた町に太陽が沈むのを見て、自分たちの一番若々しく好ましい部分が永久に失われてしまったことを知りました。

 ギャツビーがこれらのことを語るうちに、ニックの仕事に行く時間となりました。ニックはギャツビーと別れがたくなり、電車に乗り遅れました。
 二人は握手をして別れました。別れ際、ニックは、ギャツビーには「あいつら」を一緒にしただけの値打ちがあると叫びました。
 ギャツビーは、微笑みを浮かべました。

 ニックはニューヨークに行き、仕事に取り掛かるうちに眠ってしまいました。正午ごろ、電話の音で目覚めました。電話の主はジョーダンで、彼女はデイジーの家を出たようでした。ニックは、ジョーダンに会わないかと誘われましたが、彼女と話す気にはなれず、その誘いを断りました。
 数分後、ニックはギャツビーに電話をかけましたが、その電話は繋がりませんでした。

 その前の晩、ニックとトムがマートルの遺体のところから立ち去った後、マートルの妹のキャサリンが姿を現しました。彼女はその前から泥酔しており、マートルの死を知ったとたん、気を失ってしまいました。
 マイカリスは、明け方までウィルソンに付き添いました。三時ごろ、ウィルソンは取り乱しながら、妻を轢いた黄色い車が誰のものか見つけ出す方法があると言い始めました。
 マイカリスはウィルソンに促されて、机の引き出しを開けました。その中には、トムがマートルに買ってやった犬の綱が入っていました。ウィルソンは、マートルがそれをティッシュペーパーにくるんで、机の上に置いてあったことで、自分が裏切られていたことに気づいたようでした。

 ウィルソンは、マートルが車の持ち主に話があって飛び出したものの、中にいた男が車を停めなかったのだと主張しました。

 朝になり、マイカリスはウィルソンが落ち着いたのを見届けて家に帰りました。四時間後、眠りから覚めたマイカリスが、ウィルソンの家に行ってみると、彼はいなくなっていました。
 ウィルスンは、徒歩でウェスト・エッグに行き、何らかの方法で、ギャツビーが黄色い車を持っていることを知りました。

 その頃ギャツビーは、自分の車をいかなる理由があっても外に出してはいけないと命じ、自宅のプールに出て、電話がかかってきたら用件を伝えてくれと言いました。
 ウィルソンは、ギャツビーの家に向かい、プールにいた彼を撃ち殺し、自殺しました。運転手が銃声を聞き、プールへと直行すると、ギャツビーは撃たれており、少し離れた柴草の中には、ウィルソンの遺体がありました。

第九章

 その後二日間にわたり、ギャツビーの邸宅には警官やカメラマンや新聞記者が出入りしました。

 キャサリンは、姉がギャツビーと会ったことは一度もなく、夫と幸福に暮らしていたと断言したため、ウィルスンは、悲しみのあまり気が触れた男として落ち着きました。

 ニックはギャツビーを発見して三十分後、デイジーに電話をかけました。しかしデイジーとトムは、その日の午後早くに、行く先を告げずに外出していました。

 ニックはギャツビーのために、誰かを連れてきたいと思い、彼の机の中を探し回りましたが、両親がいるかすらわかりませんでした。

 翌朝、ニックはウルムシェイムへの手紙を持たせてニューヨークに使いを出しました。ウルムシェイムは、自分はその事件に関わり合いになるわけには行かないため、こちらに来ることができないという手紙だけをよこしました。彼もギャツビーの家庭については何も知りませんでした。

 ヘンリー・C・ギャッツと署名した電報がミネソタのある町から届きました。その電報には、自分が行くまでは葬式を延期するようにと書かれていました。それはギャツビーの死を新聞で知った父親でした。
 父親は、ギャツビーの遺体と対面し、彼が頭の良い男であったと嘆きました。

 ニックは、ギャツビーの葬儀に一人の友人も集めることができず、彼に対して恥ずかしくなりました。

 葬式の朝、ニックは、マイヤー・ウルムシェイムを呼ぶためにニューヨークに行きました。ウルムシェイムは、悲しみにたえないと神妙な声で言い、ギャツビーと初めて会ったときのことを語りました。当時、ギャツビーは、従軍中に獲得した勲章を一面につけた若い少佐でした。ウルムシェイムは、彼がオックスフォードの卒業生だと聞き、在郷軍人会(アメリカン・リージョン)に入会させました。彼はいつもそこで重要な地位を占め、ウルムシェイムとさまざまな共同事業を行ったようでした。
 ニックはウルムシェイムに、葬式に来てくれるかと聞きました。ウルムシェイムは、涙を溜めながら、人が殺されている場合に関わり合いになることはできないのだと言いました。

 誰も葬儀に呼ぶことができなかったニックは、ギャッツ氏と語りました。ギャツビーは、一文なしで家を飛び出したものの、成功してからは父親に良くしていたようで、二年前には家を買ってやったようでした。
 父は、ギャツビーが残したメモをニックに見せました。そのメモによると、若い頃ギャツビーは自分を厳しく律し、秩序ある生活を心がけていたようでした。父親は、ギャツビーが出世するようにできていたのだと語りました。

 三時前に牧師が到着しました。ニックと父親は人が来るのを待っていましたが、誰ひとり来る者はいませんでした。
 ギャツビーを葬るために墓地へ行くと、雨の中を、ギャツビーのパーティーで見かけたふくろうのような眼鏡の男がやってきました。ニックはその男の名前を知らず、どうして彼の死を知ったのかわかりませんでした。彼はギャツビーのために祈り、何百という人が来ていた自宅の方には誰も来なかったことを知り、ギャツビーを憐れみました。

 ニックの鮮やかな記憶の一つに、クリスマスの頃、高等学校や大学から西部に帰省したときの情景がありました。
 冬の夜、列車が雪の降るウィスコンシン州を走る頃になると、あたりの空気の中に、野生的な鋭い厳しさがただよってきました。その空気を深々と吸い込み、自分たちがこの地方と一体なのだということを意識し、その地方の中に溶け込んでいくのをニックはいつも感じてました。

 ニックは、西部人である自分やギャツビー、デイジーやジョーダンには、東部の生活には適合できないなにか共通の欠陥があるのだと考えました。ギャツビーの死後、東部は、怪奇な夢の情景のようにニックの目に映るようになり、彼は西部に帰ることを決意しました。

 ニックは東部を去る前にジョーダンに会い、自分の身に起こったことを語り尽くしました。
 ニックの話を聞いていたジョーダンは、すべてを聞き終わると、ある男と婚約したと言いました。ニックはそれが嘘ではないかと思いましたが、驚いたふりをしました。
 ジョーダンは、たとえ婚約したのが自分でも、ニックが自分を捨てたのだと言いました。彼女は、ニックのことを正直で率直な人で、それを誇りにしているように見えたのだと言いました。
 ニックは、自分に嘘をついて、それを名誉と称するには年を取り過ぎているのだと言って、彼女の元を去って行きました。

 十月のある日、ニックはトムの姿を見かけました。ニックは、トムからの握手に応えず、事件の日の午後、ウィルスンに何を言ったのかと聞きました。トムは一言も口を聞かずに睨んできたため、ニックは自分の推測が当たっていることを確信しました。
 トムによると、その日ウィルスンは逆上しながらやってきて、妻を轢き殺した車を誰が運転していたのかと聞きました。
 ギャツビーがマートルを轢いたのだと思っていたトムは、その車がギャツビーのものだとウィルスンに伝えたようでした。
 ニックは、トムが自分の行ったことを正しいと思っていることを知り、彼らのことを、他人の人生をめちゃめちゃにしておきながら、その後片付けを他人にさせる不注意な人間だと思いました。ニックは子供と話しているような気分になり、トムと握手をして別れました。

 最後の夜、ニックは空き家になったギャツビー邸の庭を眺めた後、浜辺に歩いて行き、砂浜の上に寝そべりました。彼は、かつてオランダの船乗りが、初めてこの島を見て感じたであろう恍惚と、ギャツビーがデイジーの家の桟橋の突端に輝く緑の光を見つけた時の驚きを重ね合わせました。ギャツビーはその緑の光を見て、自分の進む未来を信じたはずでした。しかし、彼が抱いたその夢は、既にその時には過ぎ去ってしまった後であったのだろうとニックは考えました。