SFの父と呼ばれる作家ジュール・ヴェルヌの代表作『十五少年漂流記』(または『二年間の休暇』)のあらすじ、登場人物を詳しく解説します。作品の概要や管理人の感想も。
『十五少年漂流記』の主な登場人物
ブリアン
十三歳のフランス人。少年たちのリーダーのような役割を務める。
ドノバン
十三歳のイギリス人。猟が得意。フランス人のブリアンに対抗意識を燃やす。
ゴードン
十四歳のアメリカ人。思慮深い性格で、少年たちの初代の大統領に選ばれる。
ジャック
ブリアンの弟。もともと活発でいたずら好きな少年であったが、遭難してから何かを気に病んでいる様子。
『十五少年漂流記』のあらすじ
ニュージーランドのオークランドにあるチェアマン寄宿学校に在籍する十四人の少年と、一人の黒人の少年は、夏休みを利用して、六週間のニュージーランド沿岸をめぐる旅に出る予定でした。
出発が待ちきれずに一日前にスルギ号に乗り込んだ彼らでしたが、船を港につないでいた艫綱(ともづな)がほどけ、遭難してしまいました。嵐にマストをへし折られながら、少年たちはある島に漂着し、チェアマン島と名付けたその無人島での生活を始めました。
少年たちは、島内の探検を行って住居となる洞穴を発見し、オークランドに帰るための船に助け出される方法を模索しました。その中でもフランス人の年上の少年ブリアンは、リーダー格を務め、生活の向上に心を尽くしました。しかしイギリス人の年上の少年ドノバンは、そのようなブリアンのことが気に入らず、対抗意識を燃やしました。彼らはことあるごとに衝突を繰り返し、そのたびにアメリカ人の最年長の少年ゴードンが二人をなだめました。
少年たちはゴードンを島内の初代大統領に選出し、規律を作り、年少の少年たちには教育を授けました。猟を行い、家畜を飼いならし、島内の植物を採取して食糧を確保し、様々な道具を考案して困難に対処しました。
ブリアンの弟であるジャックは、もともと活発ないたずらっ子でしたが、スルギ号が遭難してからというもの、少年たちの輪に加わらずに何かを思い悩んでいる様子でした。そのような弟の姿を見て心を痛めていたブリアンは、島の東海岸の遠征にジャックを連れていき、何に心を悩ませているのかを問いただしました。ジャックは、スルギ号の艫綱をほどいて遭難の原因を作ったことを打ち明けました。それ以来ジャックは自ら危険な任務を進んで行うようになりました。
ゴードン大統領の任期が切れると、少年たちは選挙を行い、ブリアンが新しい大統領に選出されました。しかしそれが気にくわないドノバンは、仲間たちを連れて洞穴を出ていくことに決めました。仲間たちと袂を分かったことを後悔しながらも、島の反対側の岸にたどり着いた彼らは、島に打ち上げられて気絶している水夫を発見し、恐怖のあまり逃げ出しました。
その頃、ブリアンたちは森の中で倒れている女性ケートを発見し、自分たちの住居へ連れ帰り、献身的な看護を行いました。息を吹き返したケートは、自分がアメリカ船セバーン号の船客であり、航海の途中で謀反を起こした水夫ワルストンらとともにこの島に打ち上げられたことを少年たちに伝えました。ワルストンの上陸によってドノバンたちに危険が迫っていることを知ったブリアンは、黒人の少年モーコーとともに島を捜索し、ジャガーに襲われているドノバンを救出しました。ブリアンのこの行為により、ドノバンはこれまでの心を改め、二人の少年は固い握手を交わしました。
もしワルストンたちが少年たちの存在に気づけば、掠奪を受けることは間違いありませんでした。しかし数日が経っても彼らが攻めてくる気配がなかったため、ブリアンは夜間に巨大な凧を上げ、その凧に乗り込んでワルストンたちの存在を確認することを提案しました。ブリアンが凧に乗る者を募ると、ジャックが名乗りを上げました。敢えて危険を冒そうとする理由を聞くと、ジャックはスルギ号の艫綱を外したことを皆に打ち明けました。これまでジャックが自分たちのために様々な危険を冒してきたので、もうその罪は消えているとドノバンが真っ先に伝え、ジャックは許されました。凧にはブリアンが乗り、ワルストンたちの存在を確認しました。
ケートとともにセバーン号で生かされていた二等航海士イバンスが、ワルストンたちの追手を交わして少年たちの洞穴に逃げ込みました。イバンスは、ワルストンたちが少年の存在に気付いていることを語り、まもなく彼らが攻めてくるだろうと予想を立てました。少年たちとイバンスは、襲撃前に捕らえたワルストン一味のホーブスから供述を取って綿密な計画を練り、一人も欠けることなく一味全員を撃退することに成功しました。
イバンスはワルストンたちが乗ってきたボートを改修し、彼らはそのボートを使って故郷へと帰りました。少年たちの帰還は、世界中から大きな反響を集めることになりました。
作品の概要と管理人の感想
『十五少年漂流記』(または『二年間の休暇』、Deux Ans de Vacances)は、SFの父と呼ばれるフランス人作家ジュール・ヴェルヌによって、1888年に発表された作品です。日本においても古くから親しまれており、小学校や中学校で頻繁に推薦される作品の一つです。
ニュージーランドのオークランドにあるチェアマン寄宿学校の十四人の生徒と一人の黒人の少年が、遭難の末に無人島に辿り着き、様々な困難を乗り越えて帰還するまでが書かれています。仲違いをしながらも成長し、ついには心を一つにして、悪人の水夫ワルストン一味を撃退する少年たちの姿には感動させられます。
少年たちがオークランドに帰ることができたのは、様々な幸運に恵まれていたと言えるでしょう。もし彼らがあと一歳ずつ若ければ、十分な知恵を働かせることができなかったかもしれません。ブリアンやゴードンがメンバーにいなくては、生活の秩序は作れなかったでしょう。途中まで「お殿様」キャラとして秩序を乱していたドノバンも、最後にはかっこいい役回りを演じます。ドノバンが命を呈してまでブリアンを助けるほどの友情を育めたのは、序盤の対立はむしろ不可欠であったのかもしれません。ケートやイバンスの存在も忘れてはいけません。
それぞれのエピソードを吟味すればするほどに、全ての要素が奇跡的に組み合わさり、少年たちは無事に帰還できたのだということがわかってきます。もし現実で同じようなことがあったとしても、無人島に漂着した十五人の少年たちが、一人も欠けることなく、悪人の水夫たちを撃退して帰ってくるなんてことは、まず有り得ないと言っていいでしょう。
エミール・ゾラやモーパッサンといった、当時フランスで円熟期を迎えていた自然主義の巨匠たちと同じ時代を生きながら、ジュール・ヴェルヌがこのような「非現実的」な小説を書き続けたことは、とても大きな意味があると思います。自然主義を信奉する人々からは、「人間の良い面だけにしかスポットライトを当てておらず、リアリティーのない作品」と言われてしまいそうですが、全員がしっかりと帰還するという非現実な結末であるからこそ、この作品は私たちに勇気を与えてくれるのではないでしょうか。人間の心を精密に解剖するのも文学の醍醐味ですが、その心に勇気を与えてくれるのも文学の醍醐味です。この『十五少年漂流記』が現在まで多くの人に読まれ続けていることは、その良い証拠であると思います。