ギ・ド・モーパッサン『脂肪の塊』の詳しいあらすじ

ギ・ド・モーパッサン作『脂肪の塊』の詳しいあらすじを紹介するページです。


脂肪のかたまり (岩波文庫)

※ネタバレ内容を含みます。

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 普仏戦争で敗残したフランスの部隊がルーアンの町を敗走し、その翌日、プロシア軍が町を通り抜けて行きました。住民たちはその様子を家の中からこっそり観察し、自分たちの生活が蹂躙されるであろうことに狼狽しました。敵兵はそれぞれの家に入り、住民たちは彼らの顔色を伺い、愛想良く振る舞いました。しばらくしてプロシアの士官たちが住民たちの食卓に居座るようになると、町は平静を取り戻しました。
 プロシア兵がそれほど残虐でないことを見てとると、数人の商人たちは、仏軍占領下のル・アーヴルに行くために、プロシアの将校に許可を得て、大きな乗合馬車を用意し、十名に及ぶ参加者を集めました。
朝四時半にホテルの中庭に集合した一行は、寒さに震えながら出発を待ちました。
 この馬車の上等席を占めていたのが、葡萄酒卸売商人のロワゾー夫妻、製糸工場を三つ持っている県会議員のカレ・ラマドン夫妻、ノルマンディ屈指の名門で多額の不動産による財産をもつ県会議員のユーベール・ド・ブレヴィル伯夫妻でした。
 上等席の隣には、二人の修道女、民主主義者のコルニュデという男、そしてブール・ド・スイフ(脂肪の塊)と呼ばれる有名な娼婦でした。ブール・ド・スイフは全身がはちきれそうなほどに太っていましたが、不思議な魅力があり、男がよくつきました。
 女たちはブール・ド・スイフを蔑む気持ちにより、男たちは金持ちの身であるということにより、三組の夫婦はお互いに結束を深めました。

 馬車の歩みは遅く、そのうちに雪溜まりにめりこんで動けなくなり、出すのに二時間もかかりました。あたりの商店はプロシア軍を恐れて全て閉まっており、一行はパン一つ得ることができませんでした。午後二時になると、皆が空腹を感じました。
 三時になると、ブール・ド・スイフは、大きな籠を取り出し、準備してあった豪勢な料理を食べ始めました。ロワゾーが話しかけ、その食べ物を分けてもらいました。ブール・ド・スイフはさらに修道女たちにも食べ物を勧め、コルニュデもそれを食べ始めました。カレ・ラマドン夫人は、その様子を見て空腹に耐えかね気絶してしまいました。ブール・ド・スイフは、上流の人々に自分の食べ物を勧めるのを遠慮していただけのようで、これをきっかけに一同はブール・ド・スイフの料理を全て食べ尽くしました。
 婦人たちは、食べ物をもらっておきながら話さないわけにはいかないと、ブール・ド・スイフに愛想の良いところを見せました。
 ブール・ド・スイフは愛国心が強く、家に入ってきたプロシア兵を絞め殺そうとした話をすると、一同は大いに感心しました。共和制に憎悪を抱き、派手で専制的な政府に愛情を抱いていたブレヴィル伯爵夫人やカレ・ラマドン夫人は、ブール・ド・スイフに親愛を感じるようになりました。

 一行は十四時間かけてトートの宿に着きました。馬車の扉が開くと、ドイツの士官が馬車を降りるように命令しました。一行は宿屋の広間に通され、移動許可証を提出しました。
 ほっと一息ついた旅人たちは、夕飯を支度させました。
 フォランヴィという宿屋の亭主が現れ、エリザベット・ルーセという名の女がドイツ士官から呼び出されていることを伝えました。それはブール・ド・スイフの本名でした。
 ブール・ド・スイフはいやいやドイツの士官のところへ行き、十分ほどして悪態をつきながら戻ってきました。一行がその理由を聞いても、彼女は答えようとしませんでした。

 ロワゾーが部屋に入り、鍵穴から外を覗いていると、外ではブール・ド・スイフがコルニュデに口説かれていました。ブール・ド・スイフは、敵のいるところでは肌を許さないと言う心意気により、コルニュデの申し込みを断りました。

 翌日、出発するために一同は大広間に集まりましたが、馭者は、出発させてはならないと士官から命令を受けており、一同は足止めをくらいました。ブレヴィル伯爵、カレ・ラマドン、ロワゾーは、士官の部屋に行き、宿を出発したいと申し立てましたが、士官は「そうさせたくないので」と言って出発を禁じました。
 一同は、なぜ出発できないのかを考え、自分たちに身代金がかけられているのではないかと思いました。しかし士官との連絡係であるフォランヴィがやってきて、ブール・ド・スイフに「考え直したか」というプロシアの士官からの言葉を伝えたので、一行は自分たちが足止めされている理由を理解しました。ブール・ド・スイフは憤怒のあまり、ものすごい声で断りました。一同は、プロシアの士官に対して怒りをあらわにし、一致団結して抵抗することを誓いました。

 しかし、一夜明けると、一同は口には出さないものの、ブール・ド・スイフが士官のところへ行かなかったことを段々と恨むようになっていきました。
 退屈になったため、三人の男と四人の女は散歩に出かけました。ロワゾーははっきりとブール・ド・スイフに苦言を呈しました。ブレヴィル伯爵は、こちらからブール・ド・スイフに強いることはできないと言いましたが、フランス軍が反撃に出ると、ここトートは激戦区になるだろうという予想をカレ・ラマドンが立てると、皆は早く出発しなければならないという思いに駆られました。宿に帰っても、皆することがなく、険悪な雰囲気となり、眠って時間を潰すしかありませんでした。

 翌朝になると、一同はいかにも疲れたような顔つきでした。洗礼の音が聞こえてくると、ブール・ド・スイフは農家に預けてある子供が急に懐かしくなり、その洗礼の式を見に出かけました。
 ブレヴィル伯爵は、ブール・ド・スイフが自分から動くように仕向けなければならないと言い、一同はそのための策略を巡らせました。コルニュデだけは一同の話し合いに加わりませんでした。

 ブール・ド・スイフが帰ってくると、一同は、犠牲について語り合いました。天然痘に罹った兵士たちを看護するために呼ばれていた二人の修道女は、動機さえ立派であれば、どんな行いでも許されるという話を語りました。一同は、この話を利用してブール・ド・スイフに士官のところへ行くように諭しにかかりました。

 翌朝になると、ブレヴィル伯爵夫人は散歩することを提案し、ブレヴィル伯爵だけがブール・ド・スイフの腕をとって宿に残りました。
 伯爵は、自分たちを助けるために一肌脱いで欲しいと説得にかかりました。ブール・ド・スイフは伯爵の話に何も答えることはありませんでした。

 その日の夕飯に、ブール・ド・スイフは現れませんでした。一座は自分たちの作戦がうまくいったのだと思い、飲み騒ぎました。一座は、プロシア兵への怒りの言葉を吐きながら、内心怒っているものは誰もいませんでした。コルニュデ一人だけが、深刻な顔をして黙り込んでおり、恐ろしい剣幕になって一座のしたことを責め立てて去っていきました。ロワゾーは、コルニュデがブール・ド・スイフに振られたことを披露し、一同は笑いに包まれました。

 一夜が明けると、一同はブール・ド・スイフから遠ざかり、挨拶をされてもろくに返事もしませんでした。ブール・ド・スイフは、彼らのような人々の言いなりになって、プロシア兵に抱かれたことが悔しくて堪らず、黙り続けていました。
 三時間ほど走った後、各自は弁当を広げました。急いで出てきたので昼食を用意する暇のなかったブール・ド・スイフは、皆が弁当を食べているのを見て、悔しさのあまりすすり泣きを始めました。
 ブレヴィル伯爵は、ブール・ド・スイフが泣いていることに気づきましたが、眉を潜めて、自分の知ったことではないという表情を作りました。
 ロワゾーの妻は、自業自得だとつぶやきました。
 コルニュデはこの光景を見て、面白い悪戯を考えついたような表情を浮かべ、ラ・マルセイエーズを口笛で吹き始めました。
 彼はこの復讐の歌を執拗に口笛で吹き続け、この革命歌を気に入らない一同を苛々とさせました。ブール・ド・スイフのすすり泣きは、その口笛の合間合間にも聞こえ続けました。