ハーマン・メルヴィル『白鯨』の詳しいあらすじ

ハーマン・メルヴィル作『白鯨』(Moby-Dick; or, The Whale)の詳しいあらすじを紹介するページです。


白鯨 モービィ・ディック 上 (講談社文芸文庫)

※簡単なあらすじはこちら(『白鯨』トップ)

※『白鯨』の詳しい登場人物紹介はこちら

※目次を開くとネタバレします!

イシュメールとクイークェグの出会い

 憂鬱な気分になると水夫として船に乗り込むことにしていたイシュメールは、賃金と、きれいな空気、そして巨大な鯨の圧倒的な観念を求め、捕鯨船に乗り込むことを決めました。

 イシュメールはマンハッタンを出て、ニュー・ベッドフォードに着きました。ニュー・ベッドフォードは捕鯨の一大拠点でしたが、イシュメールは、そこから少し離れた場所にある、捕鯨の生まれた町と言われるナンターケットから船に乗り込むことにこだわりました。ナンターケット行きの小型連絡線が出た後だったので、イシュメールはニュー・ベッドフォードに二日滞在することになりました。
 彼は潮吹き亭(スパウダー・イン)という宿の名前に惹かれ、中に入りました。宿は満室でしたが、鯨の銛打ちと同じ毛布でなら寝てもよいと主人に言われ、見知らぬ街を一人で彷徨うよりはましだと考え、泊まることを決意しました。
 宿の主人が言うには、その銛打ちは、香でいぶしたニュージーランド人の頭を売り歩いているようでした。イシュメールがベッドに入ると、その男が部屋に入ってきました。男は紫色の頭をしていて、全身が市松模様で覆われており、その異形な姿にイシュメールは怖気づきました。
 男は小さな木像を取り出し、その木像に向かって何かの儀式を行い、イシュメールが様子を伺っていたベッドに入ってきました。イシュメールは悲鳴をあげ、それに驚いた男もイシュメールのことを殺そうとしましたが、宿の主人が部屋に入ってきたため、騒ぎは収まりました。男はクイークェグという名でした。主人から話を聞いたクイークェグは、イシュメールが布団に入ることに納得しました。
 異教徒であったクイークェグは、変わったところはあるものの、礼儀正しい人物でした。彼は銛打ちらしく、自分の銛で髭をそり、銛を使ってビーフステーキを食べました。イシュメールは、本のページを数える彼の姿から、何かしら高邁なものを感じ取り、心を惹かれました。クイークェグは、自分の持っている銀貨の半分をイシュメールに与え、ヨージョと言われる黒い小さな木像を祈るように勧めました。イシュメールはキリスト教徒でしたが、クイークェグと共にそのヨージョに向かって祈り、二人は心の友になりました。
 クイークェグは、ココヴォコ島という地図に載っていない島の大酋長の息子でした。彼は幼い頃、捕鯨船を見かけるうちに、キリスト教世界をもっと知りたくなり、島をあとにする船にボートで接近して乗り込み、脅されてもその船に居座り、船員となったのでした。ところが鯨捕りたちの蛮行を見るにつれて幻滅し、異教徒としてキリスト教世界に乗り込むことを決心しました。
 彼はキリスト教の汚れが取れるまでは、故郷に戻らないと決意しているようでした。クイークェグは、イシュメールと同じ船に乗り込むことを即座に決め、捕鯨に関しては無知であったイシュメールも、銛打ちとして経験を積んだことのあるクイークェグと同じ船に乗れることを喜びました。
 ふたりはナンターケット行きの小型スクーナーに乗り込みました。

ナンターケット到着からピークオッド号への乗船まで

 海に閉ざされた町ナンターケットに着き、「潮吹き亭」の亭主のいとこが経営する「にこみ亭」に二人はたどり着きました。ベッドに入ると、クイークェグはヨージョから命令を得たと話しました。それはイシュメールに乗り込む船を決めさせよというものでした。捕鯨の経験がないイシュメールは、この命令に反対しましたが、クイークェグは聞く耳を持ちませんでした。結局イシュメールは港に行き、絶滅したインディアンの部族名であるピークオッド号に乗りこむことに決めました。ピークオッド号は、旧式で小型の捕鯨船で、長年船長を務めたピーレグとビルダッドが共同所有者となり、今は株主になっています。
 イシュメールは、商船で四度ほど航海に出た経験を伝え、捕鯨船に乗せてほしいと頼みました。しかしピーレグは、商船に出たくらいでは何の役にも立たないと言い、この船の船長エイハブが、片足を鯨に食いちぎられたことを教えました。イシュメールはそれでも食い下がり、ようやく乗船の許可をもらいました。
 イシュメールはクイークェグをピークオッド号に連れていきました。ピーレグは、クイークェグを人喰い人種だと思い、洗礼証明書がないと乗船させないと言いました。しかし、クイークェグが、海に浮かぶタールの雫を、宣言通りに銛で撃ちぬいたのを見て、即座に採用を決めました。イシュメールはエイハブに会わないまま出航することに一抹の不安を覚えました。
 ピークオッド号は出港しました。ピーレグとビルダッドは、水先案内料を節約するために自ら船に乗り込み、沖合に出ると、二人は並走していた船に乗って帰って行きました。

捕鯨船の航海士と銛打ちたち

 この捕鯨船で狙うのは、マッコウ鯨の脳油でした。海の王者と言われるマッコウ鯨は、荘厳な容貌を持つ最も凶暴な鯨で、その商品価値もきわめて高く、脳油が得られる唯一の種族です。その脳油は、王や女王の戴冠式にも使われる高級品とされています。

 ピークオッド号には、三人の航海士が乗り込みました。それぞれの航海士は、自分のボートに乗り込む銛打ちを抱えていて、クイークェグは一等航海士スターバックのお抱えとなりました。

 スターバックは、引き締まった体つきのナンターケット生まれのクエイカー教徒です。父と兄は捕鯨業で犠牲になり、またコッド岬には妻子を置いているため、無謀な勇気を抑制し、危険を回避することを最優先にする、冷静な功利主義者です。

 二等航海士のスタッブは、コッド岬の生まれで、楽天的な呑気者で、臆病でも勇敢でもありませんが、どんな危険にも無造作に立ち向かっていきます。命がけの鯨との戦いでも、常にパイプをふかしながら鷹揚に構えます。

 三等航海士のフラスクは、マーサズ・ヴィニャード島のティズベリーの生まれです。ずんぐりした赤ら顔の小柄な若者で、鯨に対しては非常に戦闘的でした。体型が短い角材に似ているため、キング・ポストというあだ名で呼ばれています。

 スタッブのボートの銛打ちタシュテーゴは、マーサズ・ヴィニャード島のゲイ・ヘッド生まれのインディアンで、かつて北米大陸を駆け巡った猟師の血が流れています。

 フラスクの従者として働くダグーは、巨漢の黒人です。若い頃に故郷に停泊中の捕鯨船に乗り込み、長らく豪放な捕鯨生活を送ってきました。

ピークオッド号の船長エイハブ

 これらの異形の荒くれ物を束ねるエイハブは、長いこと甲板に姿を見せませんでしたが、イシュメールはある日、後甲板に立つエイハブを初めて見かけます。
 エイハブは、鉛色の瘢痕が頭の天辺から足先までを貫いていました。威厳があり、彼が甲板に姿を現わすと、船員は不安にかられました。ピークオッド号が温暖な海域に到達すると、彼は毎朝姿を現し、鯨骨で作られた不具の足で音を立てながら、甲板を歩き回りました。

 エイハブはほかの船長と違い、浅薄な忠誠を求めたりせず、ただ黙って即座に命令に従うことだけを求めました。暴君のような本性は普段は隠蔽されていました。

 ある日の朝食後、エイハブは船長室から甲板に姿を現し、右舷の尾びれに三つの穴の空いた白い鯨を見つけたものには一オンス金貨を与えると言いました。
 その白い鯨にモービィ・ディックという名がつけられていることは、皆が知っていました。モービィ・ディックは、その白い身体、高くそびえるこぶ、他のマッコウクジラよりも巨大な体躯によって知られていました。狡猾で残忍で、これまで数々の鯨捕りの手足をもぎ取ったり、殺したと噂されている鯨で、その噂は誇張され、幾多の槍に突き刺されても無傷のまま泳ぎ去ると言われており、船乗りたちの恐怖の対象になっていました。
 かつてエイハブは、三艘のボートに穴を開けられ、短刀をモービィ・ディックに突き刺そうと襲いかかったところで脚をもぎ取られました。その船は、すぐに帰途につくことになり、エイハブはせん妄状態の中、ハンモックで運ばれました。彼はそのうちに凶暴化し、船員たちはエイハブをハンモックで縛りながら航海を続けたと言います。
 それ以来、エイハブはすべての知的、精神的な憤懣をモービィ・ディックのせいにして過ごし、復讐という目的のためだけにピークオッド号に乗り込んだのでした。

 スターバックは、商売の道理にかなわない復讐は、神を冒瀆する行為だとエイハブに反対しました。しかしエイハブは、その猛烈な威厳でスターバックを黙らせ、クイークェグ、タシュテーゴ、ダグーと酒を飲み交わし、白鯨に死をもたらすことを誓わせました。イシュメールらの船員もまた、白鯨を悪の権化として考え、エイハブとともに復讐を果たすことばかりを考えるようになりました。

 エイハブに圧倒されたスターバックは、敗北したことに屈辱を覚えました。しかし自分が好む好まないに関わらず、エイハブに従わざるを得ないことを悟り、ピークオッド号の運命を案じました。
 スタッブもまた、エイハブの狂気に気付きましたが、笑うことが理解不能なことに対するもっとも賢明で簡単な対策であると考え、この事態を笑い飛ばしました。

 エイハブは、自分が白鯨への復讐のみを目的に置いていることが間違っていることを自覚していました。今のところ船員たちは、自分の目的を熱烈に応援していますが、一たび反対分子が生まれれば、自分の立場がまずくなることも承知していました。そのため、彼は本来の業務である捕鯨の慣行に関心を寄せているように見せかけました。

最初の捕鯨(フェダラーたちの登場)

 タシュテーゴがマッコウ鯨の群れを発見すると、これまで見たことのない五人の人物が甲板に姿を現しました。それはターバンを巻いた拝火教徒フェダラーを頭とする五人の異形の者たちでした。エイハブは自らの手で白鯨をしとめるため、自分のボートを一艘所有し、出港直前になって彼らを潜り込ませたのでした。フェダラーは皆の中に溶け込まず、どのような経緯でエイハブに雇われたのか、誰も知りませんでした。

 最初の捕鯨では、イシュメールの所属するスターバックのボートは、鯨の尾の一撃をくらい、ボートの座席が水浸しになりました。壮絶な捕鯨を目の当たりにして怖気づいたイシュメールは、自分の顧問弁護士、遺言執行人、遺言受取人になるようにクイークェグに頼み、破滅の奈落へと飛び込む覚悟を決めました。

アルバトロス号との出会い

 ピークオッド号はインド洋に入り、アルバトロス号という船に邂逅しました。アルバトロス号は苦難の道を辿ってきたようで、船体も乗組員もボロボロの状態でした。エイハブは、アルバトロス号の船員たちに白い鯨を見なかったかと聞きました。しかし返答が聞こえることはなく、船員たちはそれを不吉な兆候だと考えました。

タウン・ホー号の悲劇

 喜望峰周辺で、ピークオッド号はタウン・ホー号に出会いました。その船で起きた、三人の白人船員だけが秘密に共有していた悲劇をタシュテーゴは聞きました。タシュテーゴは、このことを固く口止めされましたが、それを寝言で話してしまったために、この話は皆が知ることとなりました。

(この話は、イシュメールが陸に降りた後、リマにある黄金亭の中庭で、年若い紳士ペドロとセバスチャンに語ったときの語り口で綴られています。)

 ナンターケット籍のタウン・ホー号は、何故かいつもより船艙に水が多く貯まるようになりました。港までまだかなりの距離がありましたが、船長はこれをまださしたる危険ではないと判断し、皆で水をかき出しながら進めば沈没することはあるまいと考えました。

 エリー湖東岸バッファロー生まれの血気盛んな男スティールキルトが水を汲み出す仕事を終えて一息ついていると、ナンターケット生まれの航海士ラドニーが甲板を掃除しろという命令をくだしました。甲板の掃除は見習いの仕事であり、腕っぷしが強く航海業務以外の仕事を免除されていたスティールキルトには、それは侮辱でした。スティールキルトが断ると、ラドニーはハンマーを振り回して威嚇しました。そのハンマーがスティールキルトの頬をかすめると、スティールキルトはラドニーを殴り、ラドニーはハッチの上にたおれました。
 これをきっかけに、船長たちとスティールキルトの仲間たちの間で戦闘が起こりました。スティールキルトは、船首楼に籠城し、この騒ぎを水に流すと約束すれば持ち場に戻ると言いましたが、船長はその要求を拒否しました。しかしそのうちにスティールキルトの仲間たちの降伏が始まり、反乱分子はスティールキルトと残りの二人だけとなりました。残りの二人もスティールキルトを裏切り、猿轡で縛ってしまいました。結局三人とも捉えられ、索具に縛られて鞭打たれました。そこへ怪我から復帰したラドニーが現れ、スティールキルトを殴り、復讐を果たしました。
 船の中には一見平和がもたらされましたが、スティールキルトは鯨を見ても声を上げないことを決め、夜直の時に一人になるラドニーに復讐を行おうと、機会を伺いました。
 ある日、タウン・ホー号は白鯨を見つけました。スティールキルトはラドニーのボートに乗り込んで白鯨を追いました。白鯨はボートに一撃を加え、ラドニーを海に落として殺しました。難を逃れたスティールキルトは、再び白鯨を追いましたが、鯨はその追跡を振り切って姿を消しました。
 タウン・ホー号が岸に着くと、スティールキルトは仲間とともにヤシ林に入り、逃亡しました。船長達は船艙の修理が上手くいかず、島のボートを奪いました。四、五日後、スティールキルトはカヌーに乗って現れ、船長を脅して足止めさせ、その間にタヒチへ行ってフランス船に助け出されました。船長たちもほどなくタヒチに着き、人員を補充して船に戻り、航海を続けました。スティールキルトの行方は誰も知りません。ラドニーの遺族は、今でも海を恨めしそうに眺め暮らしているそうです。

ジェロボーム号との出会い

 その後ピークオッド号は、ナンターケット籍のジェロボーム号と出会いました。ジェロボーム号は伝染病が蔓延していたため、ピークオッド号との面会を断りました。ジェロボーム号に乗っている小柄な漕ぎ手を見て、スタッブはそれがタウン・ホーで噂に聞いたいかさま師であることに気づきました。
 スタッブによると、そのいかさま師は、船に乗った途端に大天使ガブリエルを自称し、船員たちを掌握してしまい、船の中に疫病が流行ると、それをペストだと言い、その病を支配できるのは自分だけだと言い始めたそうです。
 ジェロボーム号は、白鯨により船員を失っていたため、船長は白鯨を追うエイハブを止めようとしましたが、エイハブの決心が揺らぐことはありませんでした。

脳油袋に落ちたタシュテーゴをクイークェグが助ける

 ピークオッド号はマッコウ鯨をしとめ、解体作業に入りました。吊り下げられた鯨に乗りながらの作業は、足場が不安定なうえに滑りやすく、とても危険なものでした。
 タシュテーゴがマッコウ鯨の脳油が詰まった頭部に頭から落ち、その中で暴れたため、鯨の頭部がタシュテーゴを入れたまま船から落ち、海へ没してしまいました。皆がタシュテーゴのことを諦めましたが、クイークェグは、その頭部を追跡し、海中で鯨の頭を引き裂き、タシュテーゴを助けました。

ユングフラウ号との出会い

 ピークオッド号は、ドイツの捕鯨船ユングフラウ号に出会いました。収穫が得られらないユングフラウ号は、油が欲しいと頼みに来ました。ピークオッド号が油を与えると、鯨の群れが現れたため、二つの船は追跡を開始しました。
 ユングフラウ号の船長デリックは、油をもらった恩も忘れ、鯨めがけて全速力でボートを漕ぎました。これに対抗意識を燃やしたスターバック、スタッブ、フラスクは全力でボートを漕ぎ、デリックのボートがもたついている間に、クイークェグ、タシュテーゴ、ダグーの銛が鯨を仕留めました。
 鯨の体内からは、古い銛のほかに、はるか昔に刺さったと思われる石器の槍の穂先が埋まっていました。
 鯨は早々に沈んでいき、船が転覆寸前まで傾いたため、手放さざるを得ませんでした。

マッコウ鯨の群れとの戦い

 ピークオッド号は、スンダ海峡に近づきました。エイハブはここからマッコウ鯨の最盛期に日本近海まで北上し、モービィ・ディックと戦う予定でした。船はマッコウ鯨の大きな群れを発見しました。それと同時に、エイハブはマレー人の海賊に追われていることに気づきました。間も無く船は海賊たちを置き去りにしましたが、鯨に追いつくことはできませんでした。
 何とか追いすがると、鯨たちの群れの一部は大混乱に陥っている様子でした。クイークェグがその中で強大な一頭に狙いをつけ、尾の腱を切るために肉切り包丁を投げると、その包丁についていた綱が鯨に絡まり、その鯨は包丁を振り回しながら群れの中心へと泳ぎました。そのため、群れ全体に大混乱が引き起こされ、スターバックとクイークェグは鯨の上に乗り上げながら逃走しました。なんとか落ち着けるところまで船を移動させ、ピークオッド号は逃げ遅れた鯨を一頭仕留めることとなりました。

「バラのつぼみ」号との出会い

 その捕鯨から一二週間後、ピークオッド号は、悪臭を放つ鯨の死体をくくりつけた「バラのつぼみ号」というフランス船に遭遇しました。その死体の鯨は、スタッブが群れの中で発見し、殺すための重しをつけておいたものでした。その横には、さらにひどい悪臭を放つ鯨の死骸がくくりつけられていました。そのような鯨の内部から、高級な香料「竜涎香」が取れることを知っていたスタッブは、バラのつぼみ号へとボートを漕ぎだしました。
 バラのつぼみ号には、英語の喋れるガーンジー島の水夫がいました。船員たちは悪臭を放つ鯨を解体させられることで、船長に不信感を抱いていたので、スタッブは言葉巧みにこのガーンジー島の水夫を自分の味方に引き入れ、船長に鯨の死骸が原因で疫病が流行りだすと通訳させました。船長は慌ててその鯨を海に放ち、遠ざかっていきました。スタッブはその鯨を手に入れ、悪臭放つその体内から、見事竜涎香を取り出したのでした。

ピップの発狂

 スタッブのボートを漕ぐ男が手に怪我をしたため、黒人の少年ピップにその役割が回ってきました。臆病者のピップは自分の座席の下に、手負い鯨の一撃を受け、驚愕のあまり海に飛び込みました。その結果、鯨を繋いだ綱に絡め取られ、スタッブたちは、その綱を切ることになり、後でピップは叱責を受けることとなりました。
 二度目にピップが鯨に驚いて海に飛び込むと、彼は海に置き去りにされてしまいました。本船によって奇跡的に救助されたピップでしたが、恐怖のあまり白痴となって甲板上をうろつき回り、海に飛び込んだ自分を探し出してほしいと他の船員に頼むようになりました。

主檣の金貨に対する船員の反応

 エイハブは、後甲板の羅針儀台(ピナクル)と、主檣(メインマスト)の間を往復し、主檣に釘づけにされた金貨を眺めるのを習慣としていました。その金貨は、エクアドルから来たものらしく、アンデス山脈と思われる三つの峰が、赤道十二宮に囲まれている図柄でした。ある時、その金貨に刻まれた図柄や文字に興味を覚えたエイハブは、その金貨に描かれた三つの峰の唯我独尊的な様子を自分に例えました。
 スターバックは、この三つの峰をキリスト教の教義である三位一体に重ね合わせ、その谷間に住む人間を輝かせる太陽も、沈んでしまえば無益な慰めにしかならないと考え、この金貨にこだわるのをやめました。
 フラスクは、その金貨を金でできた丸いものとしか思わず、その金銭的な価値しか見出そうとはしませんでした。
 金貨の用途を知らないクイークェグもまた、そこに価値を見出すことはありませんでした。
 拝火教徒のフェダラーは、金貨に描かれた太陽を拝みました。
 白痴となったピップは、その金貨を見て支離滅裂なことを繰り返しました。
 金貨の周りに描かれる赤道十二球を、人間の一生を表したものだと解釈していたスタッブは、ピップの様子を気味悪がり、金貨がマストに釘づけにされていることから、エイハブが白鯨に釘づけにされる不吉な未来を予見しました。

サミュエル・エンダビー号との出会い

 ピークオッド号は、ロンドンのサミュエル・エンダビー号に出会いました。ブーマーという名の船長は、六十歳ほどの、気品のある人物でした。その人物は、白鯨によって片腕を奪われており、鯨骨でできた腕を見せました。エイハブはサミュエル・エンダビー号に乗り込み、どこで白鯨を見たのかと聞きました。
 ブーマーは、船医のバンカーとともに白鯨との格闘の顛末を語り、二度と白鯨に関わりたくないと言いました。片脚を失ってもなお、白鯨がどの方向にいるのか聞きたがるエイハブを、ブーマーは正気ではないと考えました。
 サミュエル・エンダビー号から勢いよくボートに乗り込んだせいで、鯨骨の脚が割れそうな衝撃を受けました。エイハブは、鯨骨でてきた新しい脚を船大工に作らせました。

スターバックとエイハブの争い

 ピークオッド号は、台湾とフィリピンの間を航行していました。船艙から、大量の油が漏れていることがわかり、スターバックは、船艙の樽を蔵出ししなければならないと、エイハブのいる船長室へと報告に行きました。
 エイハブは、白鯨が目撃されている日本近海に急いで向かうことばかりを考えていたため、油が漏れている樽を探し出す作業に一週間も時間を取られることを拒否しました。しかし、漏れだそうとしている油の量は、一年かけて取れる量ほどもあったため、スターバックは引き下がりませんでした。
 エイハブはスターバックに銃口を向けて威嚇しました。スターバックはそれには怖気付かず、白鯨に囚われる自分自身に気をつけるようにという忠告をエイハブに残しました。結局、エイハブは、スターバックの要求を呑み、船艙を探るように指示を出しました。

クイークェグの発病

 油が漏れ出している樽を探す作業をしていたクイークェグは、重い熱病にかかりました。彼がもうすぐ死ぬことは傍目にも明らかでした。彼は自分の遺体をカヌーに乗せ、それを棺として海に流してほしいと希望したため、船大工たちは、船にある木材を使って、カヌーを作り上げました。
 ところが、カヌーの棺桶が出来上がった途端、クイークェグの熱病は治ってしまいました。彼は陸にやり残した仕事を思い出したので、死ぬのはやめたのだ、と言いました。クイークェグはその棺桶を衣類箱として使いました。

エイハブが白鯨を殺すための銛を作らせる

 ピークオッド号は太平洋に出ると、エイハブはもう髭も剃らず、夕食もとらないと宣言し、剃刀を集めて鍛冶屋のパースに渡し、白鯨を射抜くための銛を作らせました。パースは嫌々ながら、その剃刀の鋼を使って銛を作りました。鉄が矢尻の形に加工されると、エイハブはクイークェグ、タシュテーゴ、ダグーの血で鉄を冷やし、銛を完成させました。

バチェラー号との出会い

 ピークオッド号は、船艙を満杯にするほどの成功を収めたナンターケット籍のバチェラー号に出会いました。バチェラー号は、樽だけでは足りず、船の中にある容器という容器に全て脳油が詰め込み、船員たちはポリネシアの女を駆け落ちさせて踊っていました。船長は、エイハブに来船を勧めましたが、エイハブはそれを断りました。

台風との闘い

 船が赤道付近に来ると、エイハブは四分儀を、太陽を侮辱する馬鹿馬鹿しいおもちゃだと言って壊しました。ピークオッド号は、誤差だらけの紐付き測定器で方角を知ることしかできなくなりました。
 間もなくピークオッド号は台風に襲われ、帆は全て引き裂かれてしまいました。スターバックは嵐の追い風を受けて引き返したいと提言しました。しかし白鯨がいると思われる海域はその台風の方にあったため、エイハブは引き返そうとはせず、それどころか、銛を手に取り、自分に反抗するものは刺し殺すと脅しました。
 嵐の勢いが衰え、逆風から追風に変わるとこれを報告しに、スターバックは船長室へと向かいました、彼は部屋の前にあるマスケット銃に目を止め、エイハブを殺して乗組員全員が破滅へ向かうのを防ごうと考えました。エイハブはぐっすりと寝ていて、あとは引き金を引くだけでした。しかし、「後退!モービィ・ディックめ、いよいよ年貢の納めどきだ!」とエイハブが寝言を言うと、スターバックは銃を下ろし、その場を立ち去りました。
 嵐の雷の電気によって紐付き測定器の磁石が壊れ、ピークオッド号は方角を知る方法を失うこととなりました。

レイチェル号との出会い

 船は白鯨の領海に入りました。檣頭に登って見張っていた男が海に落ちて命を落とし、その際に救命ブイも失われたため、スターバックの命令で、クイークェグの棺桶は救命ブイに作り変えられました。

 ピークオッド号はナンターケット籍のレイチェル号に出会いました。白鯨を見たかとエイハブが聞くと、レイチェル号の船長は見たと言います。レイチェル号は、別々の方向に二つのボートを見失っていました。それら二つのボートには船長の息子が一人ずつ乗っており、船長はどちらを追うか、二者択一をせまられていました。レイチェル号の船長は、一方の息子の捜索に協力を要請しましたが、エイハブは頑なにそれを拒み、白鯨を追うよう、スターバックに命令を下しました。

デライト号との出会い

 エイハブとフェダラーは、常に甲板に立ち、全生活を見張りに捧げました。フェダラーは眠る様子も全く見せず、船員たちは彼がほんとうに生身の人間なのかわからなくなりました。そんなフェダラーを、エイハブは何故か恐れている様子でした。

 ピークオッド号は、デライト号(歓喜号)に会いました。デライト号の船員のうちの五人は、白鯨によって殺されていました。この話を聞いてもなお、急発進して白鯨を追おうとするピークオッド号に、デライト号の船長は神のご加護があるようにと祈りました。

モービィ・ディックとの闘い

 ある澄み渡る晴れの日、エイハブは、快活な空気に抱かれ、ひとしずくの涙を落としました。その姿を見たスターバックは、エイハブに近づきました。エイハブは、スターバックに向かい、四十年に渡って海の恐怖と戦い、五十過ぎで若い妻を娶っても、初夜が明けた次の日から船出して妻を未亡人同然にしてしまい、これだけの重荷を背負っているにもかかわらず脚を一本失ってしまったことを嘆きました。そして同じように妻を持つスターバックに、自分が白鯨を追ってボートを下ろしても、船に残るようにと命じました。
 スターバックはその言葉に心打たれ、共にナンターケットに帰ろうと促しました。しかしエイハブは、自分でもわからない不思議なものが、自分を愛や情けから遠ざけ、心を脅迫してくるため、白鯨を追わなければならない運命にあることを語りました。ナンターケットに帰ることが叶わないと悟ったスターバックは、絶望してその場を去りました。

 その夜、エイハブは、鯨が発する独特な匂いを感じ、船員たちを起こし、自らは檣頭に登りました。
 その途端、エイハブとタシュテーゴは、同時に白鯨の潮吹きを発見しました。たちまち全てのボートが降ろされ、追跡が始まりました。白鯨は、最近打ち込まれたと思われる槍の柄を背中に刺したまま、しばらく遠くを泳ぎ、海中に姿を消しました。
 エイハブは再び姿を現すまでの一時間を待つことにしましたが、間も無く白鯨は間近に姿を現し、ボートに襲いかかりました。
 白鯨は、エイハブのボートを口にくわえて真っ二つに切断し、大波を作り、海に落ちたエイハブを弄ぶような仕草を見せました。周りのボートは、自分たちが危険に陥るのを恐れ、傍観することしかできませんでした。本船がエイハブの救助に向かうと、白鯨はしぶしぶ立ち去っていきました。
 救助されたエイハブは、極度の疲労に襲われましたが、強靭な精神力によってすぐに立ち直り、再び白鯨を追い始めました。スタッブは、粉砕されたボートを見て笑い飛ばし、スターバックは悪い予兆だと考えました。

 翌日も白鯨の潮吹きを発見したピークオッド号は、追跡を開始しました。鯨はなかなか姿を現しませんでしたが、突然、本船にほど近い場所でブリーチングを行いました。エイハブは、スターバックに本船を任せ、ボートを下ろしました。何艘ものボートから銛が打ち込まれましたが、白鯨は銛に結わえてある綱を絡ませながらボートに突進し、スタッブとフラスクを海に投げ出したかと思うと、エイハブのボートを下から突き上げ、空中に持ち上げました。結局この日も白鯨を仕留めることはできませんでした。本船は海に落ちた者たちを拾い上げましたが、フェダラーの姿だけは見当たりませんでした。

 追跡の三日目は穏やかな天気でした。遠くに白鯨の潮吹きを認めたエイハブは自分のボートだけを下ろしました。船を降りる時、エイハブは自分が死ぬことを予感してか、スターバックに握手を求めました。スターバックは、涙を流し、行かないでほしいと懇願しましたが、エイハブはおびただしいサメの泳ぐ海を漕いで行きました。
 昨日までに幾多の銛を打ち込まれた白鯨は、怒り狂って姿を現しました。昨日から白鯨の体に巻き付いたままの綱には、フェダラーの死体を巻き込んでいました。エイハブは、フェダラーが運命の先を行くと予言したことを思い出し、自分の死を予感しました。
 ついにボートは白鯨のすぐ近くまで接近し、エイハブは自分の銛を白鯨の奥深くまで差し込みました。白鯨はエイハブのボートを転覆させようとしましたが、エイハブはボートの船べりを掴んで、投げ出されるのを免れました。
 白鯨は、自分を傷つける元凶である本船に突進し、噛み付きました。その様をボートから目のあたりにし、本船が転覆することを悟ったエイハブは、地獄の底からでも追跡すると白鯨に宣言し、銛を投げ込みました。銛が刺さった鯨がボートに向かって急発進すると、エイハブの首に綱が巻きつき、その巻きついた綱もろとも、エイハブは海中へと姿を消しました。

 壊れた本船は大渦に巻き込まれ、沈んでいきました。主檣に上っていたタシュテーゴは、急降下してきたトウゾクカモメを道連れにして、海中に姿を消しました。

その後

 イシュメールは、追跡の三日目にフェダラーの代わりにエイハブのボートに乗り込んでおり、白鯨の最初の一撃で海に放り出されていました。彼は少し離れたところから一部始終を見ていました。危うく本船とともに大渦に巻き込まれるところでしたが、クイークェグの棺桶から作られた救命ブイを発見して捕まり、一昼夜海原を漂い、二日目にレイチェル号に助け出されました。