夏目漱石『それから』の詳しいあらすじ

夏目漱石作『それから』の詳しいあらすじを紹介するページです。


それから ─まんがで読破─

※ネタバレ内容を含みます。

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代助と平岡の再会

 三十歳になる長井代助は、決まった職を持たず、月に一度、本家に金を貰いながら生活していました。一軒家を構え、手伝いの婆さんと書生の門野を家に置き、生活のために働くことを軽蔑していました。彼は自分の肉体の健康と美しさに重きをおく人物で、寝ながら自分の胸の脈を聞き、健全に生きているのを自覚することが習慣となっていました。

 代助は、学生時代からの友人の平岡常次郎から、帰京を知らせる手紙を貰いました。平岡は卒業後に結婚し、自分の勤めている銀行の京阪地方の支店詰になって家を持ちました。代助と平岡は、しばらく手紙のやり取りを続けていたものの、ここ最近は疎遠になっていました。
 平岡からの手紙は、急に転職をすることにしたので、東京に着いたらよろしく頼むという内容でした。代助は、平岡の身に何かしらの急激な変化が起きたことを察しました。

 代助が平岡を訪ねようと思っていると、平岡の方からやってきました。二人が顔を合せるのは三年ぶりでした。仕事を辞めた平岡は、神保町の宿に仮住まいをしていました。地方の赴任中に、部下の男が芸者と関わりを持ち、会社の金を使い込んだので、平岡は借金をしてその金を補填し、責任をとって辞めたのだと言いました。代助は、平岡が自ら会社を辞めたのではなく、支店長に促されて退職に追い込まれたのではないかと推測しましたが、本当のところはわかりませんでした。仕事を探さなければ生きていけない平岡は、生活のために仕事をすることは愚かだと思っている代助に、自分の問題をさらけ出すことを躊躇しているように思われました。
 代助は、自分が結婚を周旋した平岡の妻、三千代について聞きました。二人の間にできた子供が生まれてすぐに死んで以来、三千代は身体の具合が良くないようでした。
 就職の口がないかと尋ねてくる平岡に、兄に聞いてみることを代助は約束しました。

 代助が月に一度金を貰いにいく青山の本家は、父親の長井得(とく)を中心に、父の関係する会社で重要な位置を占める兄の誠吾、その妻の梅子、誠吾と梅子の子である十五歳の誠太郎、誠太郎の三歳違いの妹の縫子が暮らしていました。代助は梅子と仲がよく、誠太郎や縫子にも慕われていましたが、父のことは苦手としていました。維新の時に戦争に加わった父は、度胸が座っていることを美徳としていました。代助は臆病で、父の言う度胸を現代においては野蛮なものとしか見ることができませんでした。代助は若い頃は父とよく衝突していましたが、成長するにつれて刃向かうのをやめました。それを父親は自分の教育が成功した結果だと思い込んでいました。
 代助は本家に呼ばれ、父と対峙しました。父は、代助が働かずにぶらぶらしていることに対し、誠実と熱心が足りないと言って苦言を呈しました。仕事に汚されない時間を過ごすことを大事にしていた代助は、父の言うことに納得することはありませんでした。

 代助の父には、直記という一つ違いの兄がいました。その頃父は得という名ではなく、誠之進という名で通っていました。直記が十八歳の頃、誠之進とともに出かけると、日頃から仲の悪い男に会いました。その男は酒を飲んでおり、直記に向かって斬りつけてきたため、兄弟はその男を返り討ちにしてしまいました。
 侍を斬った二人は、切腹する覚悟で家に帰りました。父親も二人の切腹の準備を進め、出かけていた母親を呼びました。その時二人の母親は、高木という遠縁の名家の家に出かけていました。当時は侍の掟も昔ほど厳しくはなく、二人が斬りつけた相手も有名な悪漢であったため、高木は二人のために家老や藩主を説きつけ、切腹は免れました。
 二人は謹慎の意を表すために家を捨てました。直記は三年後に京都で浪士に殺され、それから五、六年後、誠之進は両親を東京に呼び、結婚して得という名前になりました。
 高木の養子の一人は佐川という多額納税者のところへ嫁に行きました。その娘が、今回父が旅行先の京都から持って帰ってきた代助の見合い相手でした。
 父親は、代助にこの縁談の話を持ち出しませんでしたが、その代わりに梅子が代助に話し、その縁談相手を貰うように勧めました。これまでも代助は様々な縁談の話を受けましたが、それら全てを断っており、今回もその縁談に気乗りがしませんでした。

代助と三千代の再会

 その後、代助は二度平岡を訪ねていましたが、一度は留守で、もう一度は出かけようとする直前で、ろくに話もできませんでした。夫婦の間で諍いが起きていたらしく、久しぶりに会った三千代は、代助を一目見て頬を赤くしました。代助は席に着きづらくなり、平岡の家探しだけを請け合ってそのまま帰りました。
 平岡は、代助が依頼した門野の探した家に住むこととなりました。神経を苛つかせている様子の平岡を見て、代助は宿に取り残されている三千代を思い浮かべました。
 代助が三千代を訪ねてみようか悩んでいると、三千代の方から訪ねてきました。三千代は以前よりも血色が悪くなっていましたが、その潤んだような大きな二重瞼の瞳は以前のままでした。三千代は代助から結婚祝いに送られた指輪を嵌めていました。
 平岡は支店を引き払う際に借金をしていたらしく、三千代は代助に金の工面を頼みました。代助は妻に恥ずかしい思いをさせなければならない平岡を気の毒に思いました。

 翌朝、門野は平岡の引越しを手伝いました。代助が平岡の宿へと行ってみると、平岡は二、三日あまり眠ることができず、眼を血走らせていました。その後、自分も引越しを手伝った代助は、その夜なかなか眠れませんでした。

兄夫婦に金の無心をする代助

 その四日後、代助は、父と誠吾の関係で呼ばれた、麻布のある家の園遊会に行きました。
 誠吾は、忙しい中このような会に呼ばれても不平を言うことなく参加し、その結果年々肥満していきました。彼は主義主張を口にすることもなく、父親と違ってうるさい小言を言うこともなかったため、代助は気楽さを感じていました。
 代助は、誠吾を連れ出して鰻屋に入り、三千代から頼まれた金の件を持ち出しました。しかし誠吾は、そのような場合は放っておけばどうにかなるという断定を下し、金を貸してはくれませんでした。代助は誠吾に金を無心するのを諦めました。
 それから代助は平岡の家へ向かいました。瑣末な平岡の家を見ると、代助は二人のために金を用意してやりたいと思いました。兄に無心を断られたことを言い出すことはできませんでした。
 二人は三千代に酌をさせて酒を飲み、その日の食にありつくために働いている平岡と、食べるための労働は堕落であり、不自由のない人間が好きでやるのでなければ、真面目な労働は成り立たないと主張する代助の間で議論が起きました。

 代助は、三千代が気にかかっていることに気づき始めました。三千代は、菅沼という学友の妹でした。菅沼は学生となった二年目の春、高等女学校を卒業したばかりの三千代を国から連れてきて家を持ちました。代助は菅沼との付き合いの中で三千代と話をするようになり、平岡もまた、代助とともに菅沼の家に通ううちに三千代と懇意になりました。
 代助、平岡、菅沼、三千代は二年ほどこのような関係でしたが、田舎から遊びに来た母がチフスに罹り、さらにそのチフスが菅沼にも伝染して、二人とも死んでしまいました。その後三千代は一度父親に連れられて国へ帰りましたが、その年の秋、平岡は三千代を嫁に貰いました。二人の結婚の間に入って纏めたのは代助でした。
 平岡と三千代は結婚して東京を去りました。父親もある事情で北海道へ移ったため心細い境遇にいる三千代を、代助はなんとか救ってやりたいと考えました。しかし、見栄をはって自分の生活の困窮を語ることをしない平岡の前では、家の詳しい事情を聞くことは不可能に思われました。

 代助は梅子に事情を話し、金を貸してほしいと頼みました。梅子は、頭の良い代助が他人を馬鹿にしているのは悪いことではないけれども、その馬鹿にしている人々に頭を下げなければ友達を救えないだろうと語り、自分で金を稼ぐように代助に勧め、見合いの話を再び持ち出しました。嫁を貰わなければならないのかと代助に聞かれた梅子は、好きな人があるのかと聞きました。代助は答えませんでしたが、三千代という名が頭に浮かびました。

 代助は、倦怠を感じながら四、五日読書に耽りました。期待していた三千代の訪問はありませんでした。寺尾という名の上がらない文学士の同窓生を訪ねて気を紛らわせようとしましたが、代助の倦怠が消えることはありませんでした。
 家に帰ると、梅子からの手紙が届いていました。そこには、金を無心されたときに言った無遠慮なことへの詫びと、二百円の小切手が入っていました。代助は梅子に済まない気持ちになり、感謝の手紙を書きました。
 代助は三千代の家に向かいました。平岡は留守でした。三千代によると、平岡は相変わらず奔走していたようですが、段々と外へ出なくなり、酒を飲んでよく怒るようになったようでした。代助は三千代に金を差し出しました。三千代は礼を言い、平岡が今苦しんでいるのは、自分が病気をしているときに放蕩を始めたせいだということを打ち明けました。代助は、自分のところへ遊びに来るようにと言って三千代を慰めました。

 二日置いて、平岡が訪ねてきました。ハイカラな格好をした平岡は、奔走しても職を得ることができないので、遊んでいると言って笑いました。二人は当たり障りのない話をしていましたが、代助が三千代を訪ねたことを持ち出すと、平岡は冷淡な礼を言いました。平岡は実業を辞め、新聞の業界にある口に挑戦してみようと思っているようでした。代助は平岡と心が離れているのを感じ、この夫婦の結婚の周旋を、なぜ自分が行ったのだろうと考えるようになりました。

家族による結婚の勧めと、三千代に惹きつけられる代助

 代助は再び本家に呼ばれ、父親と対面しました。父の機嫌は悪いようでした。二人はしばらく世間話をしましたが、そのうちに父の長談義が始まりました。今後どうするつもりなのかと聞かれた代助は、怒られるのが面倒で、色々計画もあるので、いずれ相談をするつもりだと答えました。
 父は佐川の娘を貰えば、財産をやろうと言いだしました。佐川の娘を貰う必要があるのかと代助が聞くと、父はついに怒り始めました。父は、子供に嫁を持たせるのは親の義務であり、三十にもなって結婚しない男を世間はどのように見るかを滔々と述べ始め、自分のことだけでなく、家族のことも考えてほしいと頼みました。
 それでも代助は、自分を変えて結婚に踏み切ろうと思うことはありませんでした。

 父に叱られて以来、代助は神経が研ぎ澄まされて外界からの刺激を強く感じるようになり、庭の赤い薔薇を見るたびに、その色が眼を刺すように感じました。そのような時、代助はいつも眠るようにしていました。
 自分が寝ていた間に誰か来なかったかと門野に聞くと、一度三千代が来たと言います。三千代は神楽坂に買い物に行き、それからまた来るようでした。
 三千代が来た時、代助は胸の鼓動を感じました。雨に降られて急ぎ足で来た三千代は、苦しそうに代助の部屋に上がりました。三千代は代助のために百合の花を買ってきました。代助はその甘ったるい香りを嗅ぐに耐えることができませんでした。三千代は、昔代助が自分と兄のために百合の花を買ってきたことを覚えており、いつから百合の花が嫌いになったのかと代助に聞きました。
 平岡は新聞関係の仕事が決まったようでした。借金のことを聞くと、三千代は申し訳なさそうに、工面してもらった金を返済に使わずに、生活に当ててしまったことを言いました。代助はあげた金を何に使おうと自由だと言って、三千代を安心させました。

 代助は散歩をしようとして、何故自分がこんなことをしようとしているのかわからなくなり、自分の活力が充実していないことに気づきました。この活力を取り戻す方法として、彼が考えた唯一の方法は、三千代に会うことでした。
 代助が平岡の家に向かおうとすると、寺尾がやってきました。寺尾は、ある書物の翻訳をする仕事を請け負っており、代助にわからないところを相談しに来たのでした。相談に乗ってやると、寺尾が文学談義を始めたため、代助は平岡の家へ行く機会を失ってしまいました。

 三千代に会えなかった代助はビールを飲み、その翌日、自分の気力が衰えているのを感じ、不愉快になりました。本家から呼び出されて歌舞伎座に誘われたため、彼は梅子と縫子の芝居見物に付き合うことにしました。
 代助はその芝居を観るのが二回目だったため、周りの見物人を眺めていました。兄の誠吾が遅れて来て、廊下で金縁の眼鏡をかけている男と、その連れの若い女と話をしていました。誠吾はその男と若い女を代助に紹介しました。その男は神戸から来た高木で、その連れは高木の姪にあたる佐川の娘でした。兄夫婦の計らいにより、期せずして見合い相手と対面させられた代助は、兄夫婦まで自分の結婚のために策を弄するのであれば、家族から遠ざからなければならないという考えを抱くようになりました。それとともに彼はより三千代に強く惹きつけられていることを実感しました。

 そのうちに代助は、梅子も三千代も恐れるようになりました。娯楽や読書にも興味を失い、自分が怖くなりました。代助は旅行に出る決心をしましたが、どこに行くあてもなく、家へと帰りました。
 誠太郎が父の使いでやってきて、明日の十一時までに来るようにと伝えました。代助は、旅行に出るので行けるかどうかわからないと誠太郎に伝えました。旅行が新しい運命を開いてくれるのを待つつもりであった代助でしたが、その前に一度、三千代を訪れてから東京を出ようと思いました。代助は、買い物に出ようとした門野を止め、旅行を中止したと言って外出しました。
 平岡はいつも帰りが遅いようで、家では三千代が一人で新聞を読んでいました。三千代は、代助が送った指輪を金に換えたようで、代助に謝りました。
 代助は三千代の元を辞すとき、半ば無理やりに金を渡しました。三千代に会った代助は、どれだけ歩いても疲れないような気分になりました。

 翌日、代助が旅行するだろうと誠太郎から聞いた誠吾がやってきました。誠吾は、高木と佐川の娘を呼ぶので、列席しろという父の命令を伝えました。
 代助が行くのを渋ると、誠吾は父をなるべく怒らせないようにしてほしいと言って去って行きました。代助は、関係が発展しそうになった時に改めて断ろうと考え、午餐に出席することに決めました。
 代助は本家に着きました。佐川の娘は、教育を受けたアメリカの婦人の影響で、清教徒のように育ち、芝居や小説は嗜まないようでした。高木も書画骨董に疎く、父と話が合うようには思われませんでした。
 二人が帰ったあとで、父は異存ないだろうと代助に言いました。代助は煮え切らない返事をしました。
 四日ほどしてから、代助は父の命令で、高木の出立を新橋まで見送りました。早くから起こされ、風に吹かれたせいか、代助は風邪を引いたようなら気がして家に帰りました。
 代助は、嫁をもらう気はありませんでした。、しかし怒られるのは迷惑であったし、気がすすまないものをもらうのは馬鹿げていると考え、この、ジレンマに悩まされました。
 彼は無理に結婚を強いようとする父の人格を疑うまでになりました。書物を読むこともできなくなり、安息をすることがもはやできないと考えました。
 代助は、駆け出すように家を出て、当てもなく目に付いた電車に飛び乗り、その夜を待合(芸妓との食事)で過ごしました。翌日、渡した金がどのような結果を夫婦にもたらしたのかを知ろうという口実を作り、三千代に会いに行きました。三千代は、代助がやった指輪を取り戻していました。
 三千代は、代助が金を用立てたことを平岡に話していませんでした。三千代と平岡の関係が悪くなっているのを、代助は見抜きましたが、それが三千代の体のためなのか、子供の死のためなのか、平岡の遊蕩なのか、仕事の失敗と、それによって生じる経済的なものなのかはわかりませんでした。
 代助は、自分が二人の結婚を周旋したことを後悔すると同時に、自分たちの関係が、あと少し踏み出すことで進んでしまう危険に気がつきました。代助は際どいところで踏みとどまり、家へと帰りました。帰り際、三千代は、寂しいのでまた来て欲しいと言いました。
 家に帰る途中、代助は過去の三千代と自分との関係を思い出し、二人が始めから惹かれあっていたであろうことに思い当たり、耐えがたい重いものを感じました。
 その三日後、代助は、三千代のために話をする決心をして、平岡の新聞社を訪ねました。平岡は、代助が借金を取りに来たのだと思い込み、もう少し待って欲しいと言いました。代助が三千代の寂しい気持ちを訴えると、平岡は大丈夫だと言いました。この返答を聞いた代助は、この夫婦の関係が元に戻せないであろうことを悟り、平岡の行動を咎めました。平岡が悪びれることがなかったため、代助は、昔平岡が富や名声を欲していたことを思い出し、今の新聞社で本当に志していたような活動ができるのかと問うと、平岡は新聞社でそれを成し遂げると答えました。結局二人の会話は要領を得ないまま、愚図愚図になって別れました。
翌日、代助は、昨日の会話を反芻し、平岡と喧嘩にもならず、三千代にも被害が及ばないように接していた自分を不甲斐なく思いました。
 代助は、三千代との関係を、社会的な危険を冒して発展させるか、それとも何も知らない昔の状態に戻るかのどちらかしかないと考え、父の勧めた結婚を肯定するかどうかで思い悩みました。そして、自分が既婚者である三千代に対してこのような気持ちを抱くのであれば、自分が既婚者という資格を得たとしても、三千代への想いがなくなる訳はないと考え、縁談を断る決意をしました。

 代助は髪を切って髭を剃り、父の家に向かいました。父は不在でした。家にいた梅子は、代助がいつもと違う様子なのに気がつきました。
 代助は、夫が留守がちな女がいて、その女に他に好きな人がいたらどうすればいいかと、三千代にも聞きました。三千代は、好きな人があるなら、初めからそちらへ行けばいいと言いました。
 代助は縁談を断ることを梅子に伝えました。梅子は、父が困るだろうこと、いつかは嫁を貰わなくてはならないことを上げて、「好きな人でもいれば別であるが、そんなものは日本中探しても見つからないではないか」と言って、代助を説き伏せにかかりました。
 代助は、自分には好きな人がいると告白しました。
 梅子はその女の名を聞きましたが、代助は答えませんでした。なぜその女を貰わないのかと聞かれ、単純に貰えないから貰わないのだと答えました。梅子は泣き、これまでの尽力が無駄になると恨んだり、代助をかわいそうだと同情したりしました。
 梅子は、代助に好きな人がいることを父に話す方が都合がよさそうなら話そうと請け合い、もしこちらから話す機会が持てないようであれば、代助の方から話すようにと言いました。
 代助は家を出て歩き、自分の人生の半分を破壊したのだと思いました。この話が父に伝わるまでには、自分の決心を本物にしておきたいと考えた代助は、すぐにでも三千代に会って想いを伝えなければならないと考えました。
 代助は、三千代の家に向かいましたが、中から平岡の声が聞こえてきたため、引き返しました。

三千代との対面

 代助は家に帰り、翌日三千代にどのように会うかを考えました。平岡の家に出向く気もならず、雨も降っていたため、話したいことがあるから来て欲しいという手紙を三千代に書きました。
 代助はその手紙を門野に持たせました。代助は、「今日初めて自然の昔に帰るんだ」と考え、幸福を感じるとともに、なぜもっと早く帰らなかったのかと思いました。しかしその直後、彼は夢から醒め、苦痛に頭を冒され始めました。彼は買ってきた白百合の刺激的な匂いを嗅ぎ、動悸を感じました。
 門野に連れられてやってきた三千代は、何かを予期しており、恐れと喜びと心配の表情を浮かべました。なかなか切り出すことができない代助は、白百合の花を三千代が持ってきたときに、銀杏返しに髪を結っているのを見て、三千代が初めて東京に出てきたときも髪を銀杏返しに結っていたことを思い出したと語りました。
 代助が非常に親しくしていた三千代の兄は、三千代の趣味に関する教育を、代助に任せているような節があり、そこには代助が三千代を貰うという暗黙の了解のものがありました。しかし三千代の兄の死とともにその思いは葬り去られていました。
 二人は、もし三千代の兄が生きていたら自分たちがどうなっていたかを語り合いました。代助はあの時から自分は何も違わないと話し、ついに「僕の存在には貴方が必要だ。」と告白しました。
 三千代は涙を流し、「余(あんま)りだわ」と言いました。
代助は、この告白が遅すぎたことを後悔し、もっと早くにそれを打ち明けなかったことを詫び、自分が嫁を貰えないということでその罰を受けており、三千代に復讐してもらいたいと言いました。彼は世間的には罪となっても、三千代の前で懺悔することができれば、これほど嬉しいことはないのだと語りました。
 三千代は涙を流しながら笑い、打ち明けてくれなければ、生きていられなくなったかもしれないと告白し、代助の愛を有難いと言いました。
 代助は、三千代が平岡を愛しているのか、平岡が三千代を愛しているのかを聞きました。三千代はそれには答えませんでしたが、決意の表情が読み取れました。代助は覚悟を決めようと言いました。
 しばらくすると三千代はまた泣き出しました。代助はその姿を見るのが忍びなく、肘をついて額を手で覆いながら、喜びと罪とを同時に感じました。

父との対面

 三千代に想いを伝えた代助は、心の平穏を得ました。彼は自らが三千代の運命に責任を負ったことを自覚し、父親との対面に備えました。代助は全てと戦う覚悟を決めました。臆病であった彼は、自分の勇気に驚きました。
 代助は父親に会いに行きました。父親は都合が悪く会えませんでした。梅子は父親の都合の良い日を伝えてくれると約束しました。梅子は代助に、よく考えて来るようにと忠告を与えました。
 父は代助に会うのをわざと避けているようで、それが代助には不愉快でした。彼は父から呼び出されるまでは家に行かないことに決めました。
 代助は数日間、用もないのに家の周りを歩き回り、三日目になって三千代の家に行きました。三千代は落ち着き払った態度でした。二人は一時間ほど話し、代助はまた来ることを約束して帰りました。その夕方、代助は、翌朝来るようにという知らせを父から受けました。
 代助は寺尾の訪問を受けました。寺尾は、この前の翻訳を終わらせていましたが、本屋の都合で出版を秋まで見合わせられたようで、金を得ることができずに困ってきたのでした。代助は、自分もそのうちにこの寺尾のように失脚するだろうと思いながら援助をしてやりました。金をもらった後で、寺尾は本屋から前借りしたものを使ってしまったのだと白状しました。
 代助は、父からの援助がなくなったときに、寺尾のようにしたたかになれるかを考え、眠れずに過ごしました。

 翌朝、代助は父のところに出かけました。梅子は、年寄りに心配をかけないようにしなさいと言いました。
 父は痩せこけて見えました。実業界を退く意思があるようでしたが、自分の経営が不景気のため、これを切り抜けるまでは仕事を辞めるのを辛抱しているようでした。父は実業界を生きる難しさと、地方の大地主の強固な基礎を語り、その上で代助の結婚を成立させようと試みました。
 代助は、父の策略を見抜きながらも、同情を禁じ得ませんでした。しかし、彼は三千代に告白したことを白紙に戻す訳にはいきませんでした。
 代助は、三千代の名前を出すことなく、結婚を断りました。父は、もう世話をすることはないので、勝手にするようにと言いました。

 翌日、父からの援助を断たれた代助は、職業を持たなければならないと考え、今の立場で三千代に対する責任を負うことへの恐れを感じました。
 彼は三千代を訪ねました。自分を信頼し、落ち着いた微笑みを見せる三千代を見て、代助は苛責を感じました。代助は、話したいことがあるから、また来て欲しいと言いました。
 代助は、職業について考え続け、不安な時を過ごしました。

 中二日おいて訪ねてきた三千代は、疲れた様子はなく、生き生きした美しさを感じさせました。
 代助は、自分の身分がこれからどうなるかわからないので、三千代への責任が尽くせないことを心配していると語りました。三千代は、物質的な責任などはいらないと答え、自分は死ぬ覚悟で、代助の言う通りになるつもりだと言い、激しく泣きました。
 代助は、平岡に話をつけることを三千代に約束しました。

平岡との対面

 翌日の朝、代助は平岡に話したいことがあるから、都合を教えてほしいという内容の手紙を書きました。
 返事はなかなか来ませんでした。代助はいつもであれば実家に金をもらいに行く日になっても出かけることはできませんでした。

 五日目になって平岡の会社に行くと、平岡は二、三日出社していないことがわかりました。代助は、門野を使いにやり、平岡が自分の出した手紙に気付いているか聞きにいかせました。帰ってきた門野は、翌日の朝平岡が来ることを知らせました。門野によると、三千代は体調が良くないようでした。
 その夜、梅子からの手紙が届きました。梅子は、代助が実家に金を取りに来ないことを心配し、自分の計らいで金を送りました。代助は梅子に感謝しました。

 翌日、平岡がやってきました。平岡によると三千代は急に卒倒し、神経衰弱による貧血と診断されたようでした。看護をしてから二日目の夜、三千代は、謝らなければならないことがあるから、代助のところへ行くようにと涙を流しながら告げました。平岡は始め、三千代の言葉を本気にしませんでした。しかし三千代が同じことを繰り返し頼むので、代助のもとへ行くことを考えていたところへ、代助からの手紙が届いたのでした。
 平岡は何も気づいていないようで、無邪気にその訳を尋ねました。代助は、自分の想いを話すことを義務として捉えており、最後まで話を聞いてもらいたいと言った上で、これまでの自分と三千代との関係を詳しく語りました。すべて話を聞き終わった平岡は、代助が自分がしたことを悪いと思っていながら、三千代との関係を進めていた矛盾をつきました。代助は、平岡が三千代を愛していなかったことが、三千代の心が平岡から離れていった原因であることを指摘しました。
 平岡は、三年前に代助が結婚を周旋してくれた時、これほど友をありがたいと思った事はなかったと語りました。平岡はなぜその時に泣いたのかと代助に問い詰めました。代助は、その時の自分は、自分の未来を犠牲にしても、平岡の望みを叶えるのが友達の本文であると思ったのだと語りました。代助は、その時に自分の自然の心に逆らい、半端な義侠心を起こした事を後悔していると語り、涙を流しながら手をついて平岡に謝り、三千代をくれないかと頼みました。
 平岡は代助の頼みを承諾しましたが、世間的な夫の立場上、三千代の病気が治るまでは看護する責任を果たしたいと言いました。
 絶縁を宣言された代助は、時々三千代の病態を知りたいと懇願しましたが、それが許される事はありませんでした。混乱した代助は、平岡が三千代の遺体を自分に見せるつもりなのだと解釈し、平岡の肩を掴み、ゆすり始めました。その目に宿る恐ろしい光を見て、平岡は代助を落ち着かせようとしました。代助は、椅子に腰を落とし、両手で顔を抑えました。

 平岡が帰ると、代助は夜の十時頃にこっそり家を出て、平岡の家の前までやってきました。
 翌日も代助は平岡の家の前を度々訪れ、三千代の容態を探ろうとしましたが、医者や下女を捕まえる事はできませんでした。その夜も代助は三千代の門前を訪れました。彼の精神は、三千代の容態が危険であるという錯覚を起こし、平岡の門を叩きたいという衝動に駆られましたが、その度に自分が平岡の家を訪れてはならない立場であることに気づき、恐ろしくなって駆け出しました。

兄との対面

 翌日、代助は混乱した頭を抱えながら兄の訪問を受けました。兄は、平岡から父へと送られた手紙持ってきました。代助はその手紙を読み、その手紙の内容は全て本当であると答えました。
 兄は、代助が一家の社会上の地位を貶めるような行動をとったことを責め、もはや代助のことが理解できないので諦めると言いました。
 代助は苦痛を感じ、三千代以外のものは敵でしかなく、ただ三千代だけが自分のことを理解してくれ、三千代とともに社会から殺されるのを本望だと考えました。
 兄は、大きな声を出して代助を責め、父親が勘当したことを伝え、自分ももう会うことはないだろうと言って去って行きました。
 代助は、しばらく動かずにいましたが、急に立ち上がり、職を探すと門野に言い残して家を飛び出しました。暑い中を早足で歩いているうちに、頭が回転し、火のように熱くなるのを彼は感じました。赤い郵便筒を目にすると、その赤い色が頭の中に入り込んでくるくると回転し始めました。それから目につく赤いものが全て頭の中に吸い込まれるようになり、仕舞いには世の中が真っ赤になり、焔を拭いて回転を始めました。代助は、自分の頭が焼き尽くされるまで、電車に乗って行こうと決心しました。