志賀直哉『清兵衛と瓢箪』ってどんな作品?登場人物やあらすじを紹介

 『清兵衛と瓢箪』は志賀直哉(一八八三年~一九七一年)の小品です。一九一三年発表と、志賀直哉の長いキャリアの中でも比較的初期の作品です。瓢箪に病的に凝っている十二歳の少年(清兵衛)を主人公に寓話のようなストーリーが展開され、最後の数行であっと驚く結末を迎えます。文庫版で十ページ に満たず、簡単に読めてしまうので、ちょっと片手間に志賀直哉の文章が読みたいときに(あまりないですかね。管理人はよくあります。)、おススメの作品になってます。

※ネタバレ内容を含みます。

『清兵衛と瓢箪』の登場人物

清兵衛
十二歳。瓢箪に凝っている。

教員
清兵衛の瓢箪を没収する。

清兵衛の母
瓢箪を没収された教員に注意され、泣く。

清兵衛の父
清兵衛が瓢箪を没収されたという話を聞き、怒って清兵衛の瓢箪を全て壊す。

『清兵衛と瓢箪』概要とあらすじ

 十二歳の清兵衛がこの物語の主人公です。清兵衛は瓢箪(ひょうたん)に凝っていました。彼は小遣いを瓢箪に使い、毎日のように磨いて過ごしています。ある日清兵衛は店でいい瓢箪を見つけ、十銭で買いました。それ以来清兵衛はその瓢箪を離さず、授業中も机の下でそれを磨いて過ごします。しかし受け持ちの教員がそれを見つけ、瓢箪を没収しました。その教員は清兵衛の家を訪ね、母に小言を言いました。それが父に伝わると、父は清兵衛を殴りつけて、瓢箪をすべて割ってしまいました。教員は没収した瓢箪を、小使にやってしまいました。

 さて、小使の手に渡った瓢箪にはどのような未来が待っているでしょう。おどろくようなラストになっていますので是非読んでみてください。

 ちなみに、瓢箪を全て壊された清兵衛は、絵を描くことに熱中し始めたそうです。

管理人の感想

 まず「瓢箪が好きな子供」という設定からして、志賀直哉のセンスに感嘆せざるを得ません。志賀直哉の小説には、独創的な考えを持っていたり、思いもよらない行動を起こす子供がしばしば登場します。子供の無邪気な発想力を描いた作品としては、他に『小僧の神様』などが挙げられるでしょう。管理人の勝手な想像ですが、志賀直哉の想像力が、常人の大人の考えるそれをはるかに超えていて、突飛なアイディアが浮かんだ時に子供を配役させることによって、作品の持つ違和感を中和させているのではないかと思います。この作品でも、もし清兵衛が大人の設定であったら「狂人」扱いされてしまうところを、十二歳という年齢にすることによって、「ちょっと変わった子ども」とイメージさせ、清兵衛にたいする愛着が増すようになっているのではないかと思います。子供の描写一つをとっても、志賀直哉が「小説の神様」と言われる所以が解ります。

 他の解説によく出て来る「本当の価値をわからない大人によって押さえつけられた子供の審美眼」というテーマも、当時、志賀直哉が父親との仲違いをしている最中であっただけに、非常に説得力のあるものです。瓢箪に対する審美眼を押さえつけられてしまったことにはややがっかりしますが、清兵衛は新たに凝り出した絵の世界で成功してくれるのではないかと期待してしまいますね。