スティーヴンソン『ジーキル博士とハイド氏』の詳しいあらすじ

ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『ジーキル博士とハイド氏』のあらすじを詳しく紹介するページです。

※ネタバレ内容を含みます。

※簡単なあらすじ、登場人物紹介、管理人の感想はこちら

戸口の由来

 弁護士のアタスンとその従弟にあたるリチャード・エンフィールドは、固い友情で結ばれており、二人は毎週日曜に散歩に出かける習慣になっていました。

 ある日、彼らはロンドンのとある繁華街の裏道を通りかかりました。路地にある薄気味悪い二階建ての建物にある戸口を見たエンフィールドは、その戸口について、妙な話があると語り始めました。

 冬の明け方三時頃、人気のない通りをエンフィールドが歩いていると、小柄な一人の男と、八つか十くらいの女の子が出会い頭にぶつかってしまったのが見えました。するとその男は平然とその女の子を踏みつけて歩いて行きました。エンフィールドがその男の胸ぐらを掴むと、その男はいやらしい目つきでエンフィールドを見返しました。その女の子は医者を呼ぶために使いに出されていたようで、エンフィールドと医者は、その男に向かってこの事件を大っぴらにしてしまうと脅しました。しかしその男は平然と受け流したまま、いくら払えばいいのかと聞きました。エンフィールドと医者が、女の子への慰謝料として百ポンドを要求すると、その男は、その戸口へと二人を連れて行き、あるとても有名な人の名で小切手を作りました。その小切手の名前が偽物だと思ったエンフィールドでしたが、夜明けになって銀行へと行くと、その小切手は正真正銘本物でした。

 子供を踏みつけた男の名はハイドという名前でした。

 その小切手に記載された有名な人が、ハイドに揺すられていると思ったエンフィールドは、その戸口を調べてみましたが、その戸口に出入りするものは、ハイドだけであるようでした。

 アタスンは、ハイドが確かにその戸口の鍵を持っていたのかを聞きました。その戸口は、古くからの友人のヘンリー・ジーキル博士の実験室のものであると、アタスンは知っていました。

ハイド氏捜索

 アタスンは家に戻ると、ジーキルの遺言状を金庫から取り出しました。その遺言状には、ヘンリー・ジーキル死亡の場合は、その友人であるエドワード・ハイドに全財産を譲渡しなければならないと書かれていました。アタスンはそれまでハイドの正体を知りませんでした。

 彼は友人の名医ラニョン博士に会いに行きました。ラニョンもまたジーキルとは古い友人でしたが、ここ十年ほどジーキルが気違いじみているので、距離を置いているようでした。アタスンは、ハイドという男のことを知っているかと聞きましたが、ラニョンはそのような男の名前は聞いたことがないと答えました。
 アタスンは、そのハイドの世話をしていると思われるジーキルの動機に興味を持ち、ハイドの顔を見てみたいと思いました。

 それ以来アタスンは、ハイドが出入りしている戸口を見張るようになりました。そしてある日、その戸口に入っていくハイドを見つけ、ジーキルの古い友人であると自己紹介しました。ハイドは自分の住所を教え、戸口の中に消えて行きました。アタスンは、やはりハイドの顔から不愉快になる何かを感じ、その悪魔のようなハイドに取り憑かれたと思われるジーキルを不憫に感じました。

 アタスンは、ジーキルの豪華な屋敷に寄ってみました。ジーキルは不在でした。召使のプールにハイドについて効いてみると、プールはハイドの言いつけに従うよう、ジーキルに命令されているようでした。アタスンは、もしハイドが遺言状について知ったら、ジーキルを殺しかねないと考えました。

ジーキル博士の安堵

 それから二週間ほどたって、ジーキルは恒例の晩餐会を催しました。皆が帰った後、アタスンは一人残り、遺言状の内容に賛成できないと伝えました。

 ハイドについての話題を出すと、ジーキルは青ざめ、その話題については、そっとしておいてほしいと言いました。その一方で、もし自分が死んだらハイドの権利を守ってやってほしいとジーキルが頼んだため、アタスンはしぶしぶその願いを聞き入れました。

カルー殺害事件

 それから一年ほど経ったころ、ある一人暮らしの雇われ女が、夜中空想に浸りながら窓の外を見ていました。すると白髪の老紳士と、小柄な男が道の真ん中で落ち合うのが見えました。その小柄な男の方は、彼女の以前の雇い主を訪ねてきたことのあるハイドでした。しばらく彼女がその光景を見ていると、ハイドは突然暴れ出し、老人を踏み殺してしまいました。彼女は一度気を失い、正気に戻ると警官を呼びましたが、犯人は逃げた後でした。殺された男は、アタスン宛の封書を持っていました。

 殺された男は、サー・ダンヴァス・カルーという紳士で、アタスンの顧客でした。現場に残された凶器のステッキは、アタスンからジーキルに贈った商品だったので、アタスンは、警官をハイド氏の家まで連れていく決意をしました。しかし、ハイドは留守にしており、召使いの老婆によると、たまにしかこの家に帰ってこないようでした。

 警視がその家の中を捜索すると、ごく最近に部屋の中を引っ掻き回したようで、小切手帳を燃やした跡がありました。犯人は間違いなくハイドでしたが、親しい付き合いはほとんどなく、家族もいなければ写真も残されていなかったため、人相書を掲示するのは難しいことに思われました。

手紙の出来事

 その日の午後おそく、アタスンはジーキルの邸に行きました。ジーキルはひどくやつれていました。彼はもう二度と、ハイドとの関わりをもたないと誓いました。
 ジーキルは、ハイドからの手紙をアタスンに見せました。その手紙には、ハイドからジーキルに向けた感謝と謝罪の言葉が書かれていました。アタスンはその手紙を読んで、二人の友情が、金銭的な汚い結びつきではなく、ごく普通の友情であるのだと思いました。

 しかし、プールに聞いてみると、その手紙は家に届いたものではなさそうで、ジーキルの実験室の中で書かれたものであるようでした。

 アタスンは自宅で、腹心の主任書記のゲストと顔を突き合わせました。ゲストは、ジーキルの家にも度々行っており、おそらくハイドが博士の家に出入りしていることも知っているであろう人物であったため、アタスンは、今回の殺人事件についての意見を求めました。
 ゲストは筆跡の専門家でもあったため、アタスンは、犯人の書いた書面を見せました。そこへジーキル博士からの手紙が届きました。ゲストはその二つの筆跡をみて、奇妙に似通ったところがあると言いました。アタスンは、ジーキルが犯人であるハイドの手紙を偽造したのだと思い、頭を抱えました。

ラニョン博士の変事

 サー・ダンヴァズの死には多額の懸賞金がかけられましたが、容疑者ハイドは、姿を消してしまいました。それにともなって、ジーキルは友人関係を温め、慈善家、信仰家として有名になってい いきました。

 二ヶ月の間ジーキルは、平和に暮らしました。しかし、その後だんだんとうちにこもって過ごすようになり、何か恐怖を感じているような印象を受けるようになりました。アタスンもラニョンも、ジーキルの死期が近いのだと考えました。

 そのうちに、ジーキルが自分に会おうとしないことで、ラニョンは彼と絶交してしまいました。

 アタスンは、ラニョンとの仲違いの原因を尋ねる手紙をジーキルに書きました。するとその翌日、ジーキルからの手紙が届き、彼が苦痛や恐怖の中におり、徹底した孤独な生活を送るつもりでいることがわかりました。

 それから一週間ほどして、ラニョンは病気で倒れて死んでしまいました。葬儀を済ませた後、アタスンは生前のラニョンからの手紙を受け取りました。封を切ると、その中にもう一つ封が入っていて、ジーキルが死亡または失踪するまでは、開封すべからずと書いてありました。アタスンは封をあけたいという誘惑に打ち勝って、その手紙を開封せずに金庫にしまいました。

 アタスンはジーキル博士を訪ねても会うことができず、そのうちに足が遠のいて行きました。

窓の出来事

 日曜日、アタスンがいつものようにエンフィールドと散歩していました。彼らはジーキル博士の邸の裏口を通りがかり、その邸の窓を眺めてみようと話しました。すると、窓際にジーキルが悲しげな面持ちで風に当たっているのが見えました。アタスンはジーキルが心配になって、外から具合を尋ね、一緒に歩こうと誘いました。しかし、ジーキルは元気のない様子で、降りて来ようとはしませんでした。

 すると突然ジーキルの顔が恐怖と絶望の表情に変わり、窓が閉められてしまいました。アタスンは恐ろしいものを見てしまったような気持ちになりました。

最後の夜

 ある晩のこと、アタスンのところに、慌てふためいたプールが訪れ、自宅へ来てほしいと言いました。恐ろしい予感を感じながらアタスンはジーキルの屋敷に向かいました。邸の中では、召使たちが一塊に集まっていました。

 プールはアタスンを連れて、ジーキルの扉のドアをノックしましたが、中からは開けないでほしいと返事が聞こえました。
 その声は、ジーキルの声とは思えなかったため、ジーキルは殺されて、中にいるのがその犯人であると二人は思いました。
 プールは部屋の中にいる者に、何度となくある薬品を用意させられ、それを用意しても不純だと言われて突き返されることを繰り返していました。
 薬屋に対して書かれた手紙は、ジーキルの筆跡で書かれていましたが、その人物は薬品を取りに来るときに覆面をつけて部屋から出てくるようでした。アタスンは、ジーキルが人相が変わるほどの病気にかかっているのではないかと思いました。二十年もジーキルに奉公しているプールは、その男が決してジーキルではないと主張しました。
 アタスンとプールは、その人物がハイドではないかと考え、部屋の戸をぶち破って、それを確かめようとしました。

 二人が斧で錠前を壊して中に入ると、まだかすかに動いているハイドの死体がありました。そこに薬瓶が落ちていたので、アタスンはハイドが自殺したのだと断定しました。
 ジーキルがハイドに殺されたと思っていた二人は、ジーキルの遺体を探し始めましたが、どこを探しても見つかりませんでした。
 書斎の中では、プールが用意した薬を実験に使った跡や、ジーキルの筆跡で驚くような冒涜の言葉が書き込まれている書物が見つかりました。
 二人は鏡を覗き込み、何のためにジーキルがこの姿見を必要としていたのかを考えました。
 アタスンはジーキルから自分に宛てた封筒を見つけました。その中には、アタスンがジーキルに返した遺言状があり、その中には、もともとハイドに財産を譲渡すると書かれていたものが、アタスンに財産を譲渡するという内容に書き換えられていました。アタスンは驚きのあまり呆気に取られました。
 次の書面には、ジーキル博士が、アタスンに宛てた簡単な手紙があり、その中には、この手紙が読まれる頃には自分はいないだろうことと、ラニョンがアタスンに宛てた手紙を読んで欲しいという内容が書かれていました。
 アタスンは、その封筒の中にあった、もう一通の分厚い包みを手に取りました。彼はその内容を見るのが怖くなり、自分の事務室に帰ってからそれを読むことに決めました。

ラニョン博士の手記

 アタスンは生前のラニョンが書いた手紙を読みました。その手紙によると、ラニョンは、ジーキルから手紙をもらったようでした。ジーキルは、その手紙の中で、あることをラニョンに頼んでいました。それはその手紙を読んですぐに、自分の部屋の書斎の鍵をこじ開け、硝子棚の散薬と薬瓶と手帳が入っている引き出しをそのまま自宅に持って帰って欲しいというものでした。
 そしてもう一つ、夜の十二時に、ラニョンを訪ねるものがあるので、その者に、その引き出しをそのまま与えて欲しいというものでした。
 ラニョンは、ジーキルの気が触れたのだと思いながらも、馬車を走らせてジーキルの家に入り、引き出しの中にあった薬を持ち帰りました。

 十二時になると、ジーキルの使いのものが現れました。ラニョンは初めて見るその男から、何か精神を圧迫するような印象を受けました。男は良い物を着ていましたが、それらは全てサイズが大きいものばかりでした。その男はヒステリーの発作を抑えようとしながら、死に物狂いで引き出しの中にある薬を見つけ、引き出しの中にあったチンキ剤と散薬を混合し、ラニョンにこの顛末を知りたいかと尋ねました。ラニョンは、結末を見ないことには引っ込めないと言うと、その男は混合した薬を飲み干しました。するとその男が苦しみ始め、次第に目鼻立ちが溶け、ジーキルへと変化していきました。

 ジーキルは、それまでの自分の姿が、カルー殺害犯として全国に手配されているハイドという男であることを明かし、悔悟の涙に暮れながら、真実を語りました。

本件に関するヘンリー・ジーキルの詳細な陳述書

 アタスンに宛てられたその陳述書で、ジーキルは自分について語り、これまでの事件の真相を明らかにしていました。

 ヘンリー・ジーキルは一八●●年、ある資産家の家に生まれました。勤勉な性格で、将来を約束されていましたが、享楽を求める心を人知れず隠し持っていました。しかし理想を厳しく求める心のため、それらの欲望は隠蔽され、己の中にある善と悪の精神領域を分離することを試みました。そしてその努力により、ジーキルは、人間が単一ではなく、二元的な心を持っていることに気づきました。

 そのうちに、ジーキルは、自分の中にある善と悪の分離することで、一方は善をなすことに喜びを見出だし、もう一方は悔恨の念なしに欲望を満たすことができるだろうと考え、それを科学の力で実現することに成功しました。

 ハイドとなったジーキルは、もとの十倍も邪悪な人間となったことを悟りましたが、その感覚に喜びを覚えました。それまでのジーキルが悪の面を表に出すことが少なく、消耗も少なかったために、ハイドは体が小さくて弱く、若かったのだろうと、彼は考えました。
 もとの力に戻るための薬も調合することに成功したジーキルは、逸楽にふけりたい気分になるとハイドになり、邪悪な快楽を貪るようになりました。ハイドのためにソーホーの家を手に入れ、自宅にいる召使たちに「ハイドという人物は自分の屋敷で自由に振る舞って良い」と伝え、自分の死後、財産をハイドに渡すという遺言状を作りました。少女を踏みつけたのを、アタスンの親戚であったエンフィールドに見られて大騒ぎになると、ハイドはジーキル名義の小切手で慰謝料を払いました。

 ある朝、ジーキルは自分の姿がハイドになっていることに気づきました。まもなくジーキルは自分の姿に戻りましたが、彼は説明のつかないこのことを恐れました。ハイドになるための薬の量は、その都度で代わり、いつもの三倍もの薬の量を使わなければならないこともありました。しかしそのうちに、ジーキルは徐々に自己を喪失し、ハイドという自己に合体しつつあることに気づきました。

 どちらの自己になるかを選ばなければならない時が来ているようでしたが、ハイドはジーキルに無関心で、ジーキルはハイドになるという誘惑に抗することができませんでした。

 しかし彼は、友人に囲まれて医者ジーキルとして誠実に生きることを選び、二ヶ月間、謹厳な生活を送りました。しかしそのうちに、ハイドになるという誘惑を抑えることができなくなり、ジーキルは薬を飲んでしまいました。そして以前にも増して凶暴な悪へと駆り立てられるのを感じ、歓喜を味わいながらカルーを殴りつけ、殺してしまいました。

 自宅に戻ると、ハイドは一切の書類を焼きました。実験室に戻り、元の姿に戻ったジーキルは、涙を流しながら神に祈りました。罪を得たハイドの姿に戻ることはもはやできなくなり、罪を償いながら生きようと決心しました。彼は人のために尽くし、しばらく平穏な日々を送りました。

 しかし、ある日ジーキルが公園のベンチに腰を下ろしていると、自分の姿がいつのまにかハイドになっているのに気がつきました。
 ハイドは、誰にも見つからずに自分の実験室の書棚にある薬を手に入れるため、ホテルまで馬車を走らせ、ラニョンとプールに手紙を書き、ホテルの部屋に潜みました。

 夜になると、彼はラニョンの家に行き、ラニョンが用意した薬を飲んでジーキルに戻りました。ようやく彼は恐怖と憎悪の気持ちから解放されて家に帰りましたが、その日から、体操のような懸命な努力を続けている間か、薬が効いている間以外はハイドの姿になってしまうようになりました。

 ジーキルは恐怖のあまり不眠になり、衰弱しました。ハイドの姿になると、絞首台の恐怖に駆られ、一時的な自殺をくりかえしました。

 薬の蓄えも底をつき、最初に手に入れていた塩類の不純物によりこの実験に成功したことを知ったジーキルは、もはやハイドの姿から戻ることができなくなるということがわかりました。

 ジーキルは、最後に残った薬の力を借り、この陳述を書き終わろうと思っています。次にハイドに戻ってしまえば、この陳述を破り去り、恐怖に怯えながら戦慄して慟哭することはわかっていたため、彼はこの陳述書の筆を置くと同時に、自分の生涯の幕も閉じることを決心していました。