オノレ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』の詳しいネタバレあらすじ

オノレ・ド・バルザック作『ゴリオ爺さん』(Le Père Goriot)の章ごとの詳しいあらすじを紹介するページです。ストーリー確認用としてお使いください。


ゴリオ爺さん (古典新訳文庫)

※簡単なあらすじはこちら

一 下宿屋

 パリの陰気な地区にある「ヴォケー館」は、ヴォケー婦人が営む古ぼけた下宿屋でした。
 製造業上がりの商人であったゴリオは、事業から手を引いてこの下宿に入りました。当初、彼は立派な衣装を多数持参し、気前よく下宿料を支払いました。彼の国債証書には八千から一万フランほどの年収をもたらすようでした。そのためヴォケー婦人はゴリオの夫人になりたいと望み、衣装に金を使ってめかしこみ、下宿に来る人も選ぶようになりました。しかし、いくら媚態を示しても効き目がなかったため、自尊心を傷つけられると、今度はゴリオを憎むようになりました。
 ゴリオは、始めの年は、週に一、二度は外で食事を取っていました。しかしそのうちに外食の頻度が減り、下宿料の安い三階の部屋に移りたいと言い始め、冬の間も火を起こさないほど倹約し始めました。ある夜、絹のドレスの歩く音がゴリオの部屋に入っていったのを聞き、ヴォケー婦人は彼を変態的な趣味を持った道楽者なのだという噂を広め始めました。ゴリオはその音の主を自分の娘だと言いましたが、下宿の人々はそれを信じませんでした。娘は二人だけでしたが、それが何度も訪ねてくるにつれ、同じ二人の女だと気づかなかった皆は、ゴリオが何人もの女を囲っているのだと思うようになりました。
 三年目になるとゴリオは、下宿を四階に移り、さらに生活費を切り詰め始めました。容姿はやせ衰えて、みすぼらしくなりました。
 そのような彼を見て、下宿の人々は、娘も妻も持ったことのない、悪い遊びにふけりすぎて自ら自分の殻に閉じこもっていった人という決断をくだしました。

 ヴォケー館の三階には、機械人形のような貧乏人ポワレが住んでいました。ポワレは、他人が言う事全てに同意し、自分の意思を持たない老人でした。
 ミショノーは、ヴォケー館の四階に住む老嬢でした。ある子供からも見捨てられた老紳士の面倒を見ていたことで、年千フランの終身年金を得ていましたが、老紳士の相続人からは白い目で見られていました。
 商人上がりの四十歳ほどの男ヴォートランは、ヴォケー館の三階に住んでいました。うわべは親切で陽気でも、どこか胡散臭く、社会に恨みを持っているような男でした。
 二階には、クーチュール夫人とヴィクトリーヌ・タイユフェーユという女が同棲していました。ヴィクトリーヌは、自分を認知しない理由があると思い込んた父親が、引き取りを拒否し、財産も与えなかったため、母親の遠縁にあたるクーチュール夫人に引き取られています。美人でしたが、不幸な境遇から病的な風貌をしていました。クーチュール夫人も裕福ではありませんでしたが、ヴィクトリーヌを養い、信心深い女にしようと教会に通わせていました。二人は、ヴィクトリーヌの父親のところへ行き、母親の遺書を見せ、援助を懇願しましたが、人でなしの父親はその遺書を暖炉の中に投げ捨て、相手にしませんでした。この話を聞いたヴォートランは、そのような父親は懲らしめてやらなければならないと言いました。

 ヴォケー館の若き住人、ラスティニャック・ド・ウージェーヌは、葡萄畑から得られる収益の他に何もない家族が、倹約生活をして自分になけなしの金を送るのを見て、いやが応にも出世欲を掻き立てられました。彼は叔母のマルシアック夫人に頼み、社交界の花形であるボーセアン子爵夫人の舞踏会に招待されました。その舞踏会で、パリでも指折りの素敵な女性と言われていたアナスタジー・ド・レストー伯爵夫人に、彼は惹かれました。
 ウージェーヌが、昨日の舞踏会で会ったアナスタジーの話を始めると、ゴリオは心配そうな顔をして、アナスタジーについて尋ねました。ウージェーヌはゴリオが彼女を囲っているのだと考え、真相を突き止めるために、その翌日アナスタジーのところへ行くことにしました。

 翌日、ウージェーヌがアナスタジーの家に行くと、家から出てくるゴリオとすれ違いました。家に入ると、マクシム・ド・トラーユという横柄な男に出会いました。マクシムはアナスタジーの愛人のようでした。ウージェーヌは、マクシムに惚れ込みながら、ゴリオとも関係を持っていると思われるアナスタジーのことをより深く知りたいと思いました。
 ウージェーヌは、ゴリオがアナスタジーの家から出てきたのを見たことを口に出しました。するとアナスタジーは狼狽した様子を見せ、冷ややかな態度になりました。何やら悪いことをしでかしたことに気づいたウージェーヌは、すぐにその場を後にしました。
 ウージェーヌは、ボーセアン夫人の元へ向かいました。ボーセアン夫人は、三年前から、アジュダ・ピント侯爵というポルトガルの金持ちの貴族と結ばれていました。ところが、アジュダ氏は、ロシュフィード家の令嬢と結婚の約束をしており、ボーセアン夫人は、そのことを何人かの友人から聞いてはいたものの、信じようとはしませんでした。
 ウージェーヌがボーセアン夫人を訪れると、アジュダ氏は、良い機会を得たとばかりに、家を出てしまいました。御者に「ロシュフィード家へ」とアジュダ氏の従僕が伝えたのを聞き、ボーセアン夫人は絶望しました。
 それまで相手にされていなかったウージェーヌでしたが、後ろ楯が欲しいということを伝えると、その野心家らしい態度を見て、ボーセアン夫人はウージェーヌに関心を持ちました。
 ボーセアン夫人の友人のランジェ公爵夫人が訪れました。彼女もまた、ある将軍から捨てられたばかりの女でした。ランジェ公爵夫人は、田舎者のウージェーヌを馬鹿にしながらも、ゴリオがアナスタジーの本物の父親であること、もう一人の下の娘はニュシンゲン男爵という銀行家と結婚したデルフィーヌであること、二人の娘は父親を否認しているのに、ゴリオは気狂いのように娘を可愛がっていることを教えました。その話を聞いたウージェーヌは、ゴリオに同情し、涙を流しました。
 ボーセアン夫人は、ウージェーヌの涙に心を打たれ、彼の出世に力を貸そうという気持ちを起こしました。彼女は、デルフィーヌ・ド・ニュシンゲンが、名門に嫁いだ姉に嫉妬しており、もし自分に紹介されるようなことがあれば、その紹介した男に夢中になるだろうと教えました。そのため、もしゴリオに頼み込んでデルフィーヌを知ることができれば、自分に紹介してもよろしいという許可を与えました。ボーセアン夫人の協力を得ることができるようになったウージェーヌは、出世を心に誓いました。
 ウージェーヌは、自分の部屋に帰り、母親や妹たちにさらなる金を無心する手紙を書き、大学の講義には出席しなくなりました。ボーセアン夫人は、アジュダ氏が結婚するということを知りながらも、関係を続けました。
 アナスタジーに会うことを拒否されたため、デルフィーヌに取り入ろうとしたウージェーヌはゴリオのことを調べ始めました。ゴリオは腕の良い製麺職人でしたが、フランス革命で死んだ主人の家を買い取り、その地区の委員長を務め、パリの穀類が高価になった時に財を成しました。彼は愚鈍で粗野な職人に見えて、抜け目のない商人の才能を持っていました。農家のひとり娘を妻にして、七年後にその妻を失うと、妻に向かっていた熱烈な愛情の全てを、二人の娘に向けるようになったのでした。
 貴族階級に憧れを抱いていたアナスタジーは、その美貌でレストー伯爵からの求愛を受け、金を愛していたデルフィーヌはドイツ出身の銀行家ニュシンゲンと結婚しました。ニュシンゲンは後に神聖ローマ皇帝の男爵となりました。
 ゴリオは製麺業を続けましたが、彼の娘や婿は、自分の親がその商売を続けているのを見て気を悪くしました。そのため、ゴリオ爺さんは製麺業を引退しましたが、娘たちの家が客扱いすることすら嫌がったので、絶望してヴォケー館に移り住んだのでした。

二 社交界への登場

 ウージェーヌの母親は、大金が必要だという息子のことを心配しながらも、金を贈りました。妹たち(ロールとアガト)もまた、大好きな兄の力になれることを喜んで援助しました。ウージェーヌは、なんとしてでも出世しなければならないという思いを強くしました。
 ヴォートランは、ウージェーヌの心の底を見透かしたような態度を取り、その態度に逆上したウージェーヌと、あやうく決闘になるところでした。しかし二人きりになると、社交界で成功するには、家族から得た金などでは全く足りるはずがなく、自分の手を汚さなければパリのライバルたちを押しのけることはできないと忠告しました。
 彼はある提案をウージェーヌにしました。それはウージェーヌに百万フランの持参金を持つ娘を見つけてやる代わりに、そのうちの二十万フランを自分に横流ししてほしいというものでした。その娘とはヴィクトリーヌでした。ヴィクトリーヌの父親は、フレデリック・タイユフェーユ銀行の代表でしたが、一人息子に全財産を渡し、ヴィクトリーヌには一文も渡さないつもりでいるようでした。もし、「神様の思し召し」によって、その息子がいなくなれば、その財産はヴィクトリーヌに回ってくるはずでした。ヴォートランには、一声かければその息子を簡単に殺すことのできる友人がいるようでした。ヴィクトリーヌは、もうすでにウージェーヌに惹かれ始めているので、ヴォートランの計画が成功すれば、ウージェーヌはほとんど何もせずに巨額の持参金を得られるのでした。ヴォートランは、二十万フランを手に入れたあと、アメリカで不自由なく暮らすつもりでした。ウージェーヌはこの恐ろしい計画を聞き、震えあがりました。ヴォートランは、二週間の猶予を与え、この計画を実行に移すかどうか考えさせました。

 一方、ゴリオとウージェーヌは仲良しになっていました。ゴリオは、娘の小間使いのテレーズとコンスタンスから情報を得ており、今度の月曜日にデルフィーヌが舞踏会に出かけるので、そこへ出席して娘の様子を知らせてほしいと頼みました。娘が自分を愛しているのだと信じていたゴリオは、娘が出かけたという情報をもらうと、いつもシャンゼリゼ通りへと向かい、そこを歩いている娘たちを見るのを何よりも喜びとしていました。
 ウージェーヌはボーセアン夫人の家に行きました。ボーセアン夫人は、流行の劇場へ行きたがり、そこへウージェーヌを同行させることにしました。劇場でウージェーヌは、夫人の計らいで、客席の中にいたデルフィーヌに紹介されました。
 ウージェーヌはデルフィーヌに甘い言葉を囁きました。デルフィーヌはド・マルセーという男と関係を持っているようでしたが、ウージェーヌの言葉も喜びながら聞いているようでした。ウージェーヌは首尾よくいったと思い込み、劇場を後にしました。
 下宿に帰ると、ウージェーヌはゴリオの部屋に入りました。ゴリオの部屋のみすぼらしさに、ウージェーヌは驚きました。彼はデルフィーヌが話したことを美化して話してやりました。ゴリオは満足した様子で、自分の娘たちに対する愛を語りました。ウージェーヌはゴリオのことを憐れみました。

 ウージェーヌは、デルフィーヌから劇場の誘いを受け、家を訪れました。デルフィーヌはふさぎこんでいる様子でしたが、その訳を話そうとはしませんでした。
 デルフィーヌは、自分の持っている百フランを渡し、これを賭博場で六千フランにすれば悩みを話すと言いました。賭博をしたことのないウージェーヌは、賭博場へ行くと、自分でもよくわからないままに、七千フラン勝ち、自分の幸運に呆気にとられました。それを持ってデルフィーヌの元へ行くと、彼女は感激して身の上を話し始めました。彼女は七十万フランの持参金を持って結婚したものの、夫は自分に金を与えず、女を囲っているようです。夫人が自由に使える金はほとんど一文もなく、窮地に陥っているときにド・マルセーが援助を申し出たため、愛人になり、その後捨てられたようでした。デルフィーヌは、七千フランのうちの千フランをウージェーヌに返し、残りの六千フランでド・マルセーに借りを返しました。二人は劇場へと出かけ、次の舞踏会でも会う約束をしました。
 ウージェーヌはゴリオに一部始終を話し、デルフィーヌから預かった千フランを渡しました。ゴリオはひどく感動し、ウージェーヌを誠実だと褒め称えました。
 ボーセアン夫人の屋敷の舞踏会では、ウージェーヌはデルフィーヌと二人でサロンを練り歩きました。彼は皆から羨望の眼差しを受け、有頂天になりました。
 それからウージェーヌは、毎日のようにデルフィーヌと夕食をとり、社交界に顔を出しました。始めのうちは自分の方が主導権を握っているつもりでしたが、いつのまにかデルフィーヌの虜になり、賭博で借金を作りました。恋に悶え苦しみ、財産がないことを思い出すと、ヴォートランの計画に思わず惹きつけられていることを感じました。そんなウージェーヌの心を見透かすようにヴォートランは金を貸してきました。
 ウージェーヌは、自分の中でヴォートランの存在が大きくなっていくにつれて不安を覚えましたが、ホイストで勝つと借りていた金を返し、計画には乗らない意思を告げました。

三 不死身の男

 その二日後、ポワレとミショノーが、動植物園のベンチで警視庁保安課長のゴンデュローという人物と話していました。ゴンデュロー氏によると、ヴォートランには『不死身(トランプ・ラ・モール)』と呼ばれる、脱獄した徒刑囚ジャック・コランであるという疑いがあるようです。ジャック・コランは、大胆極まりない犯罪を行い、徒刑囚たちの元金を使って投資し、その金を保管し、脱獄囚やその家族が使えるようにする仕事で稼いでいるようでした。それだけではなく、一万フラン以上の儲けにしか手を出さない窃盗集団の相談役で、そこから出た金も隠匿していると言われていました。ヴォートランと名を変えてパリの小市民になりすますジャック・コランの犯罪を抑えることが悪の根源を絶やすことであると、大臣すら考えているようでした。ゴンデュロー氏は、命に危険はないが卒中のような発作を起こさせる薬をヴォートランに飲ませ、気を失ったところの肩を叩いて、囚人の烙印が浮き上がってくるか見て欲しいとミショノーとポワレに頼んでいるのでした。
 ゴンデュロー氏は、紋章が出れば二千フラン、出なければ五百フランを渡すと言いました。ミショノーは、ヴォートランと話をつけたほうが儲かるかもしれないと考え、紋章が出なければ一文もいらない代わりに、出れば三千フランを要求しました。

 ウージェーヌは、なぜかデルフィーヌに追い出されたため、絶望してヴィクトリーヌに甘い言葉を吐いて誘惑しました。ヴィクトリーヌはその言葉を信じ、幸福に身をまかせました。
 その直後、ゴリオは、ウージェーヌにアパルトマンの一部屋を買ったことを伝えました。これはデルフィーヌとの話し合いで決められたものでした。その上の空き部屋にゴリオ自身も住みはじめ、ウージェーヌが娘に会うために部屋を出入りする音を聞き、自分が娘と繋がっている喜びを得たいようでした。デルフィーヌは、その相談をゴリオとするために、ウージェーヌを追い出したようでした。
 これを聞いたウージェーヌは、ゴリオの提案を受け入れ、新しい家に住み込むことを決めました。とたんにデルフィーヌへの愛を思い出したウージェーヌは、ヴォートランの計画を阻止するために、ヴィクトリーヌの父親タイユフェール氏のところへ行き、決闘で殺されることになっているヴィクトリーヌの兄が外に出ないように言わなければならないと思い始めました。
 ウージェーヌの話を偶然聞いていたヴォートランは、自ら饗宴を開き、ウージェーヌとゴリオが飲む葡萄酒に睡眠薬を混ぜました。息子に危機が迫っていることをタイユフェールに伝えに行こうとしていたウージェーヌは、眠りに入ってしまいました。
 ウージェーヌが眠りに入る直前に、ヴォートランは自分の方が上手であり、自分の計画は予定通り遂行されるであろうと言いました。

 クーチュール夫人とヴィクトリーヌは、ウージェーヌを彼の部屋まで担ぎ上げました。ヴィクトリーヌはクーチュール夫人が見ていない隙を見て、ウージェーヌの額に接吻しました。
 ヴォートランにつくかゴンデュロー氏につくか考えていたミショノーは、「ペール=ラシェーズ(パリにある有名な墓地)のヴィーナス」というあだ名をヴォートランにつけられたため、彼を警察に引き渡す決心をしました。

 翌朝の十一時ごろまで眠っていたウージェーヌは、昨夜なぜ来なかったのかという手紙をデルフィーヌからもらいました。
 ミショノーとポワレは、ゴンデュローにもらった液体を、隙を見てヴォートランのグラスに注ぎました。
 ヴィクトリーヌの兄は、ウージェーヌが寝ている間に殺されたようでした。それがヴォートランの仕業だと知っていたウージェーヌは、怒りにかられ、ヴォートランの思惑通りにならないよう、ヴィクトリーヌと結婚しないことを宣言しました。
 ヴォートランは不敵な笑みを浮かべていましたが、薬が効き始め、その場に倒れました。ヴォートランを彼の部屋まで運んだミショノーとポワレが、服を脱がして肩を平手でたたくと、懲役を意味するT・Fの文字が浮かび上がりました。
ヴォートランが目覚め、ウージェーヌと医学生の下宿人ビアンションも下宿に戻ってきました。以前ミショノーがヴォートランのことを話していたのを聞いていたビアンションは、「不死身」というあだ名の男に見立てていたのが例え話だったと思い込み、そのことをヴォートランに話しました。ヴォートランの正体を知っていて卒倒させたのがミショノーだということが露呈したその時、警察が入ってきて、ヴォートランは逮捕されました。
 連れ出される時もヴォートランは不敵に話しながら、ヴォケー館の皆に別れを告げました。彼は、まだ例の契約は終わっていないことをウージェーヌに伝えました。
 ヴォートランが出て行くと、スパイ行為をしたミショノーを皆は責めました。結局ミショノーはヴォケー館を追われ、ポワレもミショノーについて行くことに決めました。
 そのとき、ヴォケー夫人に一通の手紙が届き、タイユフェールの息子が死に、ヴィクトリーヌが父親の屋敷に住み、その付添人としてクーチュール未亡人もついて行くことになったことが知らされました。
 一度に五人も下宿人を失ったヴォケー夫人は、くずれるように椅子に座り込みました。
 そこへゴリオが入ってきて、新しい家で四年ぶりにニュシンゲン夫人と食事が取れることになったと大喜びで伝え、ウージェーヌを連れて行きました。
 ヴォートランの逮捕劇を見て、自分が同じところに危うく転げこみそうになっていたことを知り、ウージェーヌは良心を刺激されて新しい部屋に住むことに抵抗を覚えました。
 しかしゴリオが年利千三百フランの恒久公債を売って、その金をウージェーヌに貸すことを申し出たので、ウージェーヌは感激してその申し出を受けました。その夕べ、三人でとった晩餐は、歓喜に包まれました。
 真夜中になって帰ったウージェーヌとゴリオが下宿を出て行くことを話すと、さらに二人の下宿人を失ったヴォケー婦人は悲嘆にくれました。
 ウージェーヌは、ボーセアン夫人から大舞踏会の招待を受けました。その手紙には、デルフィーヌも連れてくるように書かれており、それを知ったデルフィーヌは大喜びしました。ウージェーヌは、ようやくデルフィーヌの寝室に入ることに成功しました。デルフィーヌは、その晩餐に来るであろう姉の愛人のトラーユが振り出した手形が十万フランになり、訴えられそうになっていることをウージェーヌに教えました。アナスタジーは母親からもらったダイヤを売ったようでした。それでもきらびやかな衣装でその舞踏会に現れるであろう姉に負けたくないとデルフィーヌは言いました。

四 老人の死

 翌日下宿を引き払う準備を終えたウージェーヌは、デルフィーヌが隣の部屋のゴリオを訪れる音を聞きました。
 ウージェーヌが聞き耳を立てていると、デルフィーヌの夫ニュシンゲンが、財産をある事業に注ぎ込み、破産申告をしなければならなくなり、あと二年間、家計を制限させて欲しいと頼んできたことがわかりました。夫は、土地を買って長期契約で家屋を建てさせ、その家屋を偽装名義人に譲渡した上で偽装破産を行ない、債権をなかったことにするという詐欺を行おうとしていました。そしてデルフィーヌはその偽装名義人にさせられようとしていました。
 そこへアナスタジーが訪れ、マクシム・ド・トラーユの借金の首が回らなくなり、自殺まで考えるようになったので、彼を救うために夫のダイヤモンドを売って金に換えたのが知られてしまったと話しました。彼女はそれにより、夫の要求するときに、財産の売却証書に署名させられることとなってしまいました。
 ゴリオ爺さんは、娘の夫たちに怒り狂いました。ウージェーヌのために家を買ってしまった彼には、残された財産はほとんどありませんでした。そのため、姉妹は口論を始めました。ゴリオ爺さんは絶望し嗚咽にむせびました。
 それを聞いていたウージェーヌは、ヴォートラン宛に振り出した手型を、ゴリオ宛一万二千フランの手形に作り変え、ゴリオたちの部屋に持っていきました。
 アナスタジーは、ウージェーヌに自分の話を聞かれていたことに怒りましたが、結局その手型を受け取りました。ゴリオはウージェーヌにこの上もなく感謝し、眠気を催して眠ってしまいました。ウージェーヌはデルフィーヌを家まで送り、夕食の誘いを断ってヴォケー館に戻りました。ゴリオは目覚めて食卓についていましたが、ビアンションに聞くと卒中の兆候があるようでした。

 その晩、ウージェーヌはデルフィーヌとイタリア座に行きました。デルフィーヌはウージェーヌに愛の言葉を囁き、ウージェーヌもデルフィーヌのことを愛おしく思うようになっていました。デルフィーヌによると、明日国王陛下が、ロシュフィード家令嬢とアジュダ氏の結婚契約に署名することになっているようです。何も知らないボーセアン夫人は、パリ中の人々を集めて大きな舞踏会を開こうとしており、このことはパリ中の人が噂しているようでした。
 ヴォケー館に帰るとゴリオの病気が悪化していました。ウージェーヌが話を聞くとアナスタジーが彼のもとを訪れていたようでした。アナスタジーは舞踏会の衣装代の内金を小間使いに立て替えてもらっていましたが、夫からの信用を失っていたため、小間使いが裁縫師とぐるになって立て替えた金を返さない限りはドレスを渡さないようにしていました。そのためゴリオは食器と留め金を売り、さらに終身年金証書を担保に入れ、金を捻出したようでした。アナスタジーは直接訪れることはなく、メッセンジャーボーイをよこして金を持っていきました。
 デルフィーヌからの手紙が届きました。それによると、ボーセアン夫人が、アジュダ氏の結婚を知ったようでした。パリ中の紳士淑女が集まるボーセアン夫人の舞踏会になんとしてでも参加したいデルフィーヌは、父親を看取るつもりはなく、ウージェーヌを舞踏会へと促しました。ウージェーヌは父親の元へ向かうように言いましたが、デルフィーヌは舞踏会の後で向かうと言い張りました。
 結局デルフィーヌとともに舞踏会に参加したウージェーヌは、ボーセアン夫人がノルマンディーの片田舎で隠遁することを知りました。皆の前で涙を隠すボーセアン夫人にウージェーヌは感動し、夫人の旅立ちを見送りました。

 朝方ウージェーヌはヴォケー館に帰り、ゴリオの看病を始めました。ゴリオは朦朧としながら、娘たちの舞踏会での様子を尋ね、彼女たちが自分の病気のことを聞いたら、すぐに駆けつけるだろうと言いました。ウージェーヌは娘たちを呼ぶよう小間使いのクリストフを出しましたが、アナスタジーはレストー氏と交渉中でこちらに向かうことはできず、デルフィーヌにいたっては、朝まで舞踏会にいたために、会うことすらできなかったようでした。それを聞いたゴリオ爺さんは娘たちが自分を裏切ったことを知り、悲嘆にくれました。彼にはもう一文も残っておらず、これまで苦しみながら金を捻出し、娘を愛し続けてきたにも関わらず、死の間際になってしっぺ返しを食らったことを語りました。ゴリオに深く同情したウージェーヌは、姉妹を連れてくると約束し、家を出ました。
 レストー伯爵は、ゴリオ爺さんが自分の安泰の敵であるとみなしており、生きようが死のうが関係ないと言い、妻との問題が解消しない限り家を出ることを許しませんでした。アナスタジーは、夫の圧制によって打ちひしがれていましたが、子供のことを手に入れられるように決着がつくまでは家を出ないと宣言しました。
 デルフィーヌは、舞踏会の帰りに風邪をひいたようで、ゴリオが死に瀕していることを伝えると、着替えてから向かうとようやく約束しました。
 ウージェーヌがヴォケー館へ帰り、ビアンションとともに新しいシャツを着せてやろうとすると、ゴリオは叫び始めました。アナスタジーとデルフィーヌの刻印がしてあるロケットを胸の上に置いてやると落ち着きましたが、突然起き上がると、ウージェーヌとビアンションのことを二人の娘だと思い込み、「ああ!わたしの天使たち!」と叫びました。
 小間使いのテレーズがやってきて、デルフィーヌが父親のためのお金を夫に要求して拒絶され、悲しみのあまり気絶したことを伝えました。
 アナスタジーがやってきて、もう目覚めないゴリオを見て悲しみにくれました。トラーユはパリに莫大な借金を残していなくなったので、彼女は騙されていたことに気づき、さらに夫には財産を支配されたようでした。
 ゴリオ爺さんは息を引き取りました。アナスタジーは気を失いました。
 下宿の人々は、ゴリオ爺さんの死後ですら、彼のことを嘲笑し続けました。ウージェーヌはそれを咎めました。
 ウージェーヌには、葬儀を行う金がなかったので、二人の娘のもとを訪ねましたが、会うことすら拒否されてしまいました。テレーズに手紙を渡しましたが、それはニュシンゲン男爵によって火にくべられました。結局ウージェーヌのなけなしの金では、お粗末な葬儀しかすることができず、ゴリオは貧民用の棺に入れられました。
 二人の娘は使用人のみを葬儀に送りました。埋葬が済むと、ウージェーヌは墓を見つめて涙を流し、墓地の高みからパリの街を見下ろして「さあ今度は、おれとお前の勝負だ!」という言葉を吐き、デルフィーヌの屋敷に晩餐を取りに出かけました。