オノレ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』ってどんな話?作品の内容を詳しく解説

オノレ・ド・バルザックの代表作『ゴリオ爺さん』の登場人物、あらすじを紹介するページです。作品の概要や管理人の感想も。


ゴリオ爺さん (新潮文庫)

『ゴリオ爺さん』の登場人物

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ウージェーヌ・ド・ラスティニャック
パリで法律を勉強している美青年。ヴォケー館の住人。実家が貧しく、パリの社交界で名をあげようという出世欲に燃えている。

ゴリオ爺さん(ジャン・ジョアシャン・ゴリオ)
製麺を営んでいた六十九歳。愛情の全てを二人の娘のアナスタジーとデルフィーヌに向け、惜しみない援助を行っている。自分の衣食住には金をかけず、ヴォケー館の四階で倹約した生活を送っている。

ヴォートラン
ヴォケー館の三階に住む商人上がりの四十がらみの男。陽気だがどこか胡散臭い。

アナスタジー・ド・レストー伯爵夫人
ゴリオの長女。もともと貴族階級に憧れを抱いていたため、伯爵の夫と結婚する。時折金銭を求めてゴリオのもとを訪ねて来る。賭博狂いのマクシム・ド・トラーユを愛人にしている。

デルフィーヌ・ド・ニュシンゲン男爵夫人
ゴリオ爺さんの二人目の娘。金持ちの夫と結婚したが、名門に嫁いだ姉に嫉妬している。

ヴォケー夫人
四十年前からパリで下宿屋を開いている欲深い老婦人。

クーチュール夫人
ヴォケー館の二階に住む未亡人。遠縁のヴィクトリーヌと暮らしている。

ヴィクトリーヌ・タイユフェール
クーチュール夫人と一緒に暮らしている若い娘。自分を認知しない父親が兄に全財産を渡すことになっている。

ポワレ
ヴォケー館の三階に住む老人。

ミショノー
ヴォケー館の四階に住む老嬢。

オラース・ビアンション
ヴォケー館に住む医学生。ラスティニャックの友人。

ボーセアン子爵夫人
社交界の花形の一人。三年前からポルトガルの金持ちの貴族アジュダ・ピント侯爵と関係を持っているが、アジュダ氏は他の女性との結婚が決まっている。

ゴンデュロー
警視庁保安課長。『不死身(トランプ・ラ・モール)』と呼ばれる、脱獄した徒刑囚を追っている。

『ゴリオ爺さん』のあらすじ

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 パリの陰気な地区でヴォケー夫人が営む下宿屋「ヴォケー館」には、さまざまな人々が住んでいました。その住民ゴリオは、製麺業の事業から手を引いて、この下宿に住み始めました。もともと裕福な私財を持つ上品な男でしたが、段々と倹約生活をするようになったため、ヴォケー館の住人たちは様々な邪推を加えました。美しく着飾った女性が部屋に出入りしていたため、彼女たちに金を貢いで生活している変態であると思われ、「あれは私の娘です。」という彼の言葉を信じる者は誰もいませんでした。やがてゴリオはさらに経費を切りつめるようになり、ヴォケー館に来て四年が経った今では、すっかりみすぼらしい見た目になりました。

 ウージェーヌ・ド・ラスティニャックは、裕福とは言えない領地からヴォケー館に移り住んだ学生で、郷里にいる大家族の将来を一人担っており、出世欲に燃えていました。彼は、昔宮廷に出入りしていた伯母を通して、社交界の花形ボーセアン夫人の舞踏会に招かれ、パリでも指折りの美しさを持つと評判のアナスタジー・ド・レストー伯爵夫人に近づきました。

 出世の後ろ盾になってもらうことを頼みにボーセアン夫人の家に行ったウージェーヌは、アナスタジーがゴリオの本当の娘であることと、ゴリオにはもう一人ニュシンゲン・ド・デルフィーユという娘がいることを知りました。ゴリオは二人の娘のために私財を投げうって細々と暮らしているのにも関わらず、娘たちは父親を否認し、交際仲間から追放したと言います。ウージェーヌはゴリオに同情を覚えました。アナスタジーの前でゴリオの名前を出し、家に入ることを禁じられたウージェーヌは、デルフィーヌの方に接近することを決意し、母親や妹になけなしの金を工面してもらいました。

 出世の糸口をつかんだように見えたウージェーヌでしたが、ヴォケー館の三階の住人ヴォートランは、出世するためには百万フランという膨大な金が必要で、それを工面するためには多額の持参金を持つ娘との結婚を狙うべきだと言いました。そんな娘がどこにいるのかという質問に、ヴォートランは同じ下宿に住むヴィクトリーヌ・タイユフェールが最適であると答えます。彼女の父親は、銀行の代表社員で、息子(ヴィクトリーヌの兄)のほうに全財産を残すつもりでいました。しかし、もしその息子がいなくなれば、父親はヴィクトリーヌの方に財産を渡さざるを得なくなります。ヴィクトリーヌはウージェーヌに好意を持っているようなので、もしウージェーヌが首を縦に振れば、タイユフェーユ家の息子を仲間に殺させるので、手に入れた持参金の一部を自分に横流ししてほしいとヴォートランは言いました。この恐ろしい計画に震え上がるウージェーヌでしたが、伸るか反るかで混乱しました。
 ウージェーヌはデルフィーヌと近づくために、賭博にはまりこみ、両親から工面してもらった金を使い果たすようになりました。デルフィーヌが見せる愛情は偽りであったため、彼は自尊心を傷つけられ、ますますその恋に縛り付けられました。やがて金に困ったウージェーヌは、ヴォートランが保証したヴィクトリーヌとの結婚をも考えるようになり、彼女を誘惑し始めました。ヴォートランはこれに喜び、ヴィクトリーヌの兄は決闘で正式に殺させると言いました。
 ゴリオは、ウージェーヌを友人と見なすようになり、彼と娘がより近しい関係になることを望みました。ウージェーヌは、ヴォートランとゴリオとの間で、板挟みの状態に陥りました。

 そのような時に、ヴォケー館の貧しき住人、ポワレとミショノーは、警視庁保安課長ゴンデュローから、ある依頼を受けていました。ゴンデュローによると、ヴォートランは大胆きわまりないことをやってのけながら、いつも運よく命を落とさないため、<不死身(トランプ・ラ・モール、死のいかさま師)>という異名を持つ脱獄囚ジャック・コランだという疑いがあるようです。警察は、ヴォートランがなかなか尻尾をださないので逮捕できませんでした。そこでゴンデュローはヴォートランに卒中を起こさせる薬を飲ませ、彼が眠った後で、肩にある懲役の烙印を確かめようとしており、同じ下宿に住むポワレとミショノーを雇おうとしたのでした。
 一方ゴリオは、ウージェーヌのために独身者用のアパルトマンを買い、自分はその隣室に住み、ウージェーヌがデルフィーヌに会いに出かける音を聞いて、デルフィーヌとのつながりを感じようとしていました。ゴリオから部屋をあてがわれたウージェーヌは、ヴィクトリーヌとの結婚を思いとどまり、ヴィクトリーヌの兄に危険が迫っていることを知らせに行こうとしました。しかし、全てを見破ったヴォートランが眠り薬の入ったボルドー酒を飲ませ、ウージェーヌが眠っている間にヴィクトリーヌの兄は殺されてしまいました。
 ミショノーは、ヴォートランの気前のよさを当てにして、彼に危険を知らせてやろうとしましたが、「ペール=ラシェーズ(パリの有名な墓地)のヴィーナス」というあだ名をつけられたために、ヴォートランを警察に引き渡す決心をしました。ゴンデュロー氏にもらった薬を朝のコーヒーに混ぜ、ヴォートランに飲ませて気絶させ、肩を叩くと、懲役を意味するT.Fという文字が浮かび上がりました。証拠を掴んだ警察はヴォートランを逮捕しました。密告という裏切りを働いたミショノーとポワレは、下宿人たちの軽蔑と反感を買い、追い出されました。
 ヴォートランの逮捕劇を目の当たりにして良心を刺激されていたウージェーヌは、引っ越すことを躊躇しましたが、結局ゴリオの言う通り、その部屋に住み始めることを決意しました。

 ウージェーヌは、ボーセアン子爵夫人から舞踏会の招待を受けました。その手紙にはデルフィーヌも来るようにと書かれていました。貴族階級との付き合いを喉から手が出るほどに欲しがっていたデルフィーヌは、この知らせを聞いて喜びました。
 下宿を引き払う準備を終えたゴリオのところに、デルフィーヌとアナスタジーが現れました。舞踏会で着飾る資金が必要になった二人の娘は、ゴリオの財産を当てにしてお互いを非難して言い争いました。ウージェーヌに家を買ったために財産がなくなったゴリオは、それを見て苦しみもがきました。この騒ぎを聞いていたウージェーヌがその場を収めましたが、ゴリオはこのショックがもとで寝入ってしまいました。ヴォケー館の住人の医学生ビアンションは、ゴリオが卒中に脅かされていることを見抜き、このことをウージェーヌに伝えました。ウージェーヌはビアンションと共に夜通しでゴリオを看病しました。朝になり、ウージェーヌは、ボーセアン子爵夫人の舞踏会に来てほしいというデルフィーユからの手紙を受け取りました。ウージェーヌはゴリオの容態の話を持ち出しますが、彼女は取り合わず、舞踏会が終わるまでは父親のところに行こうとさえしませんでした。
 ウージェーヌがヴォケー館に帰ると、ゴリオ爺さんはいよいよ最期の時を迎えていました。彼は娘たちをゴリオの元へ連れてこようと奔走しますが、二人とも現れることはありませんでした。娘が自分の死を看取らないことを悟ったゴリオは、絶望しながら息を引き取りました。
 ウージェーヌは、なけなしの金をはたいて葬儀を行いましたが、二人の娘は葬儀にすら現れませんでした。葬儀が終わると、ウージェーヌは墓地の高みからパリの街を見下ろし、「さあ今度は、おれとお前の勝負だ!」と叫び、社会を挑発するためにニュシンゲン夫人の屋敷へ晩餐をとりにでかけました。

作品の概要と管理人の感想

 『ゴリオ爺さん』(Le Père Goriot)は、1835年に発表されたオノレ・ド・バルザックの代表作です。バルザックは、作家としてのキャリアの後半を、『人間喜劇』という作品群を書くことに費やしました。『人間喜劇』は、独立した作品の登場人物を、複数の作品に登場させることにより、当時のパリの社会の全てを浮き彫りにしようという壮大な構想でした。『ゴリオ爺さん』は、この『人間喜劇』の作品群の中の一つであり、ラスティニャックやヴォートランらの登場人物は、その他の作品でも活躍しています。

 この非常に面白い作品の特徴としてあげられるのが、クセの強いヴォケー館の住人たちでしょう。

 この作品の表題にもなっているゴリオは、製麺業者としてかなりの財を成しましたが、その財産のうちのほとんどを娘たちのために使い、自分の持ち物すら売り払い、冬の間も火を起こさないほど倹約します。買収した小間使いから娘が出かけたという情報を得ると、シャンゼリゼ通りへと出向いて、そこを通りがかる娘を眺めるのを楽しみとしたり、デルフィーヌの愛人となったウージェーヌのために部屋を買い、彼が娘に会いに部屋を出入りする音を隣の部屋から聞いて娘とのつながりを感じようとしたりと、偏執的ともとれる愛情を娘たちに注いでいます。

 どこか胡散臭さを感じさせる人物として登場するヴォートランは、財産家の息子を殺し、多額の持参金がつくことになるその息子の妹とウージェーヌと結婚させ、その持参金を横流しさせようとします。ここまで悪どいことを思いつくのもそのはず、彼の正体は『不死身(トランプ・ラ・モール)』と言われる脱獄囚で、ほかの脱獄囚のために投資をしたり、窃盗団の相談役を務める人物でした。逮捕されるときも「不敵」という言葉がぴったりのふてぶてしさを見せるその姿は、文学史上に残る大悪党と言っても過言ではないでしょう。

 ウージェーヌ・ド・ラスティニャックは、出世のためであれば、どんなことでもする美青年として書かれています。彼は、取り入ろうとする女性に都合の良い言葉を吐き、貧しい母や妹に金を無心し、さらに金のためにヴォートランの恐ろしい計画に乗ってしまいそうにすらなります。彼はアナスタジーに取り入ることには失敗しても、徐々に社交界で生きるすべを身につけ、ついにデルフィーヌの愛人になることに成功します。

 まるで一つの作品の主人公であるかのような「濃い」人物が三人も登場し、その上、その三人を含めた個性豊かな登場人物たちが、それぞれの思惑を抱え、騙しあったり協力したりしながら、ストーリーが進んでいきます。そのストーリー展開は、非常に面白いの一言に尽きます。ウージェーヌは、ゴリオの恩知らずな二人の娘と接するにつれ、社交界が欺瞞や偽善に満ちた場所だということがわかるようになっていきます。それにつれて、彼の出世の目的は、自分のためというよりは、パリの社交界に打ち勝つためといった意味合いに変わっていきます(ちなみにウージェーヌは『人間喜劇』の他の作品の中で大臣にまで登りつめます)。そしてゴリオの哀れな死を看取ると、パリの街に向かって、「さあ今度は、おれとお前の勝負だ!」と叫びます。社交界に失望しても、そこから敗走するのではなく、却ってその俗悪な世界で上り詰めていこうというウージェーヌの気概は、この作品の結末を非常に魅力的なものにしています。