太宰治『正義と微笑』の詳しい登場人物紹介

太宰治の中編小説『正義と微笑』の登場人物を詳しく紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。


パンドラの匣 (新潮文庫)

※もっと簡単な登場人物紹介、あらすじはこちら(『正義と微笑』トップ)

芹川進とその家族

僕(芹川進)
十六歳の四月から日記を書き始める。学年の中から唯一、四年生から一高を受験するために勉強をしていた。しかし本当の夢は映画俳優になることで、怠惰な学生生活を送っていたため、一高の試験に落ちる。自活しようとして家出を試みるも連れ戻され、九十九里の別荘で話し合った兄の言葉に従って、R大学に行きながら映画俳優を志す。
自分の実家と嫁ぎ先の鈴岡さんとの馬が合わないと思い込んだ姉が、嫁ぎ先を出て叔母の家に入ると、兄が鈴岡さんと意気投合していることを語り、夫のもとへ戻るように説得する。
R大学では、ライバルと呼べる人間がいないことに幻滅を感じ、本気で俳優を目指したいと考えるようになる。兄の知り合いの津田さんから推薦状を貰い、その先生の斉藤市蔵のもとを訪れる。斎藤氏からはろくに相手もされなかったが、勝手に先生だと決めつけ、勧められた春秋座を受けて合格する。
春秋座に入って大学を辞め、芝居に嫌気がさしながらも稽古に励み、市川菊松という芸名を貰って初舞台を踏む。そのうちに企画部の委員やラジオの担当を任されるようになり、興行旅行帰りに迎えに来た兄を見て、自分がこれまでと異なる世界に住んでいることを実感する。


父が他界した後、大黒柱として一家を支えている。進が心の底では映画俳優になりたいということに気づいている。一高に落ちた進が自分のことを殴って家出したため、九十九里の別荘に連れていき、R大学に通いながら映画俳優を目指すことを勧める。
毎日徹夜で小説を書いており、何度も落第していた帝大の英文科を辞め、本気で小説家を目指すようになる。
姉が鈴岡さんの家を出ると、鈴岡さんと意気投合して飲み歩くようになる。
本気で俳優を目指し始めた進のため、自分のドイツ語の先生である津田さんに相談に行き、斉藤市蔵に提出するための推薦状を貰う。
その後は酒飲みになり、小説も書かなくなったが、進からはいつか傑作を書くと信じ込まれている。


故人。アメリカの大学を出た実業家であったが、晩年に政界に入ると、財産の大半をなくす。


夫が死んで間もなく、麹町の狭い家に引っ越すと脊椎カリエスで倒れ、娘(進の姉)に面倒を見てもらっていた。看護婦に対してはきつく当たり、いつも追い出してしまうが、娘が結婚するため、諦めて杉野さんの世話になっている。何かを口にすると、二言目には「辛抱して」「兄弟なかよく」と言う。
杉野さんを伴って九十九里の別荘へと療養へ向かう。進が俳優に向けて活動していることを知らされていない。


登場時二十六歳。母の看病で青春を終えてしまっていたが、鈴岡家に嫁に入ることが決まっていた。
結婚して一年ほど経つと、進と弟(進の兄)が自分から遠ざかっているように感じ、鈴岡家から出たいと思うようになる。しばらくは叔母(チョッピリ女史)の家に入っていたが、兄が鈴岡さんと意気投合したという話を進から聞き、感動して鈴岡家に戻る。
進が春秋座の新人として新聞に載ると、進と弟を呼び出し、夫婦で祝う。

木島さん
芹川家の書生。家出した進を警察署から連れ戻したり、進がR大学に受かったという報せを寄こしたりと、何かと一家の面倒を見ている。

梅や
芹川家の女中。

杉野さん
進が日記を書き始めた月の前月から芹川家に入り、母親の面倒を見ている看護婦。きつく当たってくる母によく泣かされる。進の兄を慕っていたようで、母が九十九里に療養に行くことが決まると、泣きながら別れを告げる。

シュン
鈴岡さんの遠縁のひょうきんなお婆さん。進の母親が九十九里に行った時に家に入る。

芹川家の親類

チョッピリ女史
四十五、六歳の進の叔母。未婚。お花の大師匠。姉の結婚披露宴のときに、「チョッピリ」お酒を頂くと言ったことで、進の兄からチョッピリ女史というあだ名をつけられる。
自分の財産を教えない鈴岡さんと別れたいと言う姉に同情し、しばらくの間同居する。

慶ちゃん
進のいとこ。商大生。妙に気取った態度をとる。

鎌倉の圭ちゃん
正月に中学時代の進の家に遊びに来る。

新宿のマメちゃん
正月に中学時代の進の家に遊びに来る。

よしちゃん
慶ちゃんの妹。生意気な女学生。

鈴岡家の人々

鈴岡さん
進の姉の結婚相手。四十近い重役で柔道四段。「坊や」などと呼んで兄ぶった態度を取るため、進から敬遠されていた。
結婚して一年経っても自分の財産を妻に教えなかったこともあり、妻が家を出てしまうと、一人で家事を行って過ごす。相談に訪れた進の兄と意気投合し、妻が戻ってくると円満に暮らすようになる。

俊雄君
鈴岡さんの実弟。鈴岡さん夫婦と同居し、慶応の文科に通う。進からは顔がひどいと思われている。

進の中学時代の知人

木村
進の中学の同級生。何度も落第している不良。母親はおらず、父は高位高官。ニーチェなどを読んでいて、陸軍士官学校を受験するつもりでいた。度々家出する。
進が大学に進んだ後も、ギターを抱えて家出を図り、行方不明になる。

金子先生
進の担任の教師。無内容な話ばかりするため、進からは俗物だと思われている。

黒田先生
進の元教師。生徒を愛さない教員室が嫌になり、昨年学校を辞めた。生徒たちが敬愛していた。


進が所属する蹴球部のキャプテン。落第したために年の功でキャプテンを務めている。進の肉体について卑猥なことを言ったために、殴られて泣き出す。その翌日に和解するが、進からは軽蔑を受け続ける。

たぬき
進の中学の数学教師。四年から一高を受ける進を見下げるような態度をとったため、進は文科に進むことを決心することとなる。

佐伯
進、木村の友人。大ブルジョアの子供で、ひょろひょろしている。文学好き。

九十九里の別荘の人々

川越一太郎
芹川家の別荘に住み込む年取った巡査。

キンさん
その妻。

生田繁夫
芹川家の別荘の隣に住む十八歳の中学生。進に勉強を聞きに来て不躾な態度をとる。

R大学の人々

矢部一太
R大学の漢文の教師「友あり遠方より来る。また楽しからずや。」について一時間も講義し、進の感興をそそる。

太田
R大学の誇りと言われる蹴球部のキャプテン。額が広い。モーゼというあだ名で呼ばれる。進のことを勧誘するが、無理強いすることなく、進の感心を買う。

赤沢
進の同級生。同じ中学からR大学に進んだ。

寺内神父
進の大学の教師。聖書の講義を行う。

津田さんと斎藤市蔵氏

津田さん
進の兄の自分の作品を見せている高等学校のドイツ語の先生。本郷に住み、今は自身も小説を書いて生活している。俳優になりたいという進のため、自分の大学時代の先生である斉藤市蔵に推薦状を書くが、その推薦状の文面があまりにも簡単であったため、進と兄は不安を覚える。

斉藤市蔵
津田さんの大学時代の先生。津田さんの推薦状を持って訪れてきた進に、鷗座が劇団員を募集していることを伝える。鷗座に入るのを嫌がった進が再び訪れてくると、「春秋座」と書いた紙きれを渡し、その紙を見た進が渋ると、「ひとりでやれ!」と恫喝する。傲然とした性格で、なかなか進と会おうとせず、ほとんど相手にしていないような態度を取るが、進からは勝手に先生と思われている。

斉藤氏の女中兼秘書の女
推薦状を持ってきた進を斉藤氏に取り次ぐ。斎藤氏が会えないことを笑いながら伝えるため、進からは狂女だと思われるが、進の兄曰く、進に興味がある様子。

鷗座の人々

横沢太郎
鷗座の試験官の一人。横柄な態度の劇作家兼演出家。試験ではファウストを演目にする。進の朗読を気に入り、百点と評する。

上杉新介
鷗座の試験官の一人。俳優。『伯父ワーニャ』を演じて日本一と称賛された。進の才能を認めつつも、生意気な態度を咎め、零点と評する。

伊勢良一
小柄の俳優。筆記試験がないのかと聞く進に、「生意気言うな」と叱責する。

春秋座の人々

滝田輝夫
帝劇女優として有名だった滝田節子の隠し子。故人である父親は財界の巨頭。進とともに春秋座の合格者となる。白痴のようだが演技は素晴らしい。沢村扇之助という芸名がつけられる。

市川菊之助
春秋座の団長。進が慕う。