フローベール『感情教育』の登場人物

ギュスターヴ・フローベール作『感情教育』(L’Éducation sentimentale)の主な登場人物を詳しく紹介するページです。

感情教育(上) (光文社古典新訳文庫)

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フレデリック・モロー
 主人公。一八四〇年にバカロレア(大学入学資格試験)に合格したばかりの青年として登場する。故郷のノジャンへ帰省する船の中でアルヌー夫人と出会い、恋をする。ノジャンでは学生時代の親友であったデローリエとの再会を果たす。パリに戻り、デローリエ、デュサルディエ、ユソネ、マルチノン、ド・シジー、セネカル、ペルランらの友人と、派手な学生生活を送る。またアルヌー夫人の住む、画商の家「工芸美術」の常連となり、夫人とも頻繁に顔を合わせるようになる。アルヌー夫人に送った花束が無下に扱われたため、猛勉強に励み、最終試験に合格する。しかし、帰省すると実家が破産しており、パリに戻ることができずに地元の近くで書記として働くこととなる。幼い隣人のルイーズ嬢との交流に慰められながら、三年間を郷里で過ごす。
 遺言書がないまま伯父が死去したことで多大な遺産が手に入り、パリに戻ると、アルヌー夫人との再会を果たし、やがてアルヌー家の居候のような生活を送る。それと同時に、社交場で出会ったロザネット(マレシャル)にも惹かれていく。
 デローリエの新聞の企画への融資を決めるが、様々なところから借金をしているアルヌーに同情してその金を渡してしまい、デローリエとの交友が途絶え、自己嫌悪に陥り、ルネッサンス史を書こうと試みる。
 アルヌーが経営している工場を訪れ、夫人に想いを伝えるが、受け入れられずに絶望する。アルヌー夫人への想いが遂げられず、マレシャルをものにしようとするも、様々な邪魔が入り、アルヌー夫人を侮辱したド・シジーと決闘騒ぎを起こしたり、ダンブルーズ邸で疎外感を感じるうちに、ルイーズとの結婚話が持ち上がり、実家に帰って結婚の約束をする。
 しかし少しだけ滞在する予定であったパリでアルヌー夫人と出会い、夫人が自分のことを愛するようになったため、幸福な時を過ごすが、やがて恋心に苦しむようになる。改革宴会の暴動の日、アルヌー夫人を連れ込むための家を借りたが、夫人の息子ウージェーヌが病気になり会うことができなかった。
 二月革命が起きると、ダンブルーズ氏の勧めで憲法制定国民議会の選挙に出ることを決めるが、知識人クラブという場での演説で貴族側の人間だと聴衆に非難され、傷ついてクラブを抜け出す。
 ロザネットとの親交を深め、旅行へと出かけるが、故障者リストの中にデュサルディエの名前が載っているのを見て動乱のパリへと戻る。そのうちにロザネットの妊娠が発覚するが、徐々に彼女への想いは冷めていき、それとは対照的に、洗練された趣味と話術を持つ資産家の妻ダンブルーズ夫人に徐々に惹かれていき、不倫の関係となる。ダンブルーズ夫人の夫が病気で亡くなると、アルヌー夫人のことを忘れられないまま、子供を産んだロザネットとダンブルーズ夫人との家を行き来する二重生活に没頭する。二人への愛は冷めていたが、ロザネットへは過去に誰の愛人であったのか詮索する嫉妬心から、ダンブルーズ夫人には社交界でのし上がるための出世欲から関係は続けられた。ロザネットとの子が突然死ぬと、ペルランにその遺体の肖像を描かせる。
 アルヌーが訴えられることになり、パリから逃げ出したという噂を聞くと、ダンブルーズ夫人に本当の理由を言わないまま金を無心し、アルヌー夫人に届けようとするが、その時にはアルヌーの一家はパリを出てしまっていた。
 失意の中、デローリエとダンブルーズ夫人の画策でアルヌー家が差し押さえにあったのを仕組んだと思い込んだロザネットのもとを去り、さらにアルヌー夫人を侮辱するために高値で小箱を落札したダンブルーズ夫人にも幻滅して別れる。
その後は旅に出たり、社交界に出入りして新しい恋を経験しても、アルヌー夫人のことを忘れられずにすごす。
 数年後、突然書斎にアルヌー夫人の訪問を受け、今なお愛し合っていることを語り合い、夫人の髪の毛を一房貰う。
 その後は慎ましく暮らし、デローリエとも和解し、十代の頃に娼家にトルコの女を買いに行き、恐れをなして逃げ出した頃の話をして、あの頃が一番良かったと語り合う。

アルヌー夫人
 シャルトルの中産階級の家庭の出で、アルヌーに見初められて結婚した。
 夫と娘とともにパリから乗った船の上で、フレデリックと初めて出会う。その後の自宅での晩餐にユソネらと共に招いたフレデリックと言葉を交わすようになる。
 病気の母を訪れに、一時シャルトルへ帰省。その後サン=クルーの別荘で霊名祝日の祝宴を開く。帰りは同じ馬車に乗ったフレデリックに手渡された花束を無下に扱う。
 フレデリックが帰省していた三年の間に、ウージェーヌを産み、夫が陶器の工場を持って店をやることになったため、引っ越しを行う。夫が地所を売ろうとしたが買い手が見つからず、陶器の工場を建て、建設費が見積もりを上回って苦しい立場になっていたが、あまり詳しく知らされず、不安を募らせる。また、夫に愛人がいることを知り、言い争いになっていたところをフレデリックに訪問され、慰められる。その後はフレデリックが毎日のように訪ねてくるようになる。夫が支払えなかった約束手形の裏書人ダンブルーズ氏に訴えないでほしいということを伝えてほしいとフレデリックに頼み、それが適えられて窮地を脱する。
 夫の経営する陶器工場に一人で滞在していたところをフレデリックが訪問してきたので、工場内を案内する。その後フレデリックに恋心を打ち明けられるが、貞淑を離れた恋に幸福はないと、身を引くようにとさとし、聞き入れなかった。
 しかしフレデリックがルイーズとの結婚を決めたことをデローリエから聞かされると、それでも自分の別荘を頻繁に訪れて来るようになったフレデリックを愛していることを自覚し始め、恋心に苦しむようになる。
 改革宴会の暴動の日、自分を連れ込むために家を借りていたフレデリックのもとに向かおうとするが、息子のウージェーヌが病気になったため、自分の恋愛を神に捧げ、ウージェーヌのことを看る。
 革命の暴動が終わると、再びフレデリックの訪問を受けるようになる。始めはそっけなく接していたが、そのうちに自分もまだ愛していると打ち明ける。しかし自宅で二人で過ごしているのを、夫に貸した金を取り戻そうとやってきたロザネットに見られ、フレデリックとの関係が再び壊れる。
 そのうちに、譲り受けたある新聞の株を、夫がすぐに金に換えたことで訴えられ、家族でル・アーヴルの方面へと逃げる。
 数年後、突然フレデリックを訪ね、ブルターニュ地方の辺地で借金を返すためにつつましく暮らし、娘はボルドーに嫁ぎ、息子は駐屯部隊に入っていることを報告する。二人は今なお愛し合っていることを語り合うが、身を任せるつもりはなく、自分の髪の毛をひと房切って渡した。
その後は猟騎兵中尉となった息子とともにローマに住む。

ジャック=アルヌー
 モンマルトル大通りにある「工芸美術」という店で絵画の売買を営んみ、アルヌー夫人と一人娘を養っていた。共和政の支持者。鷹揚な性格だが金遣いが荒い。パリから出発する船の中でフレデリックと出会う。
 その後ユソネの紹介によってフレデリックと再会し、夕食に招待する仲となる。
 フレデリックが帰省していた三年の間に息子のウージェーヌが生まれ、陶器の店をやるために引っ越しを行う。陶器の工場を建てようとするが、資金源にしようとしていた地所の買い手が見つからず、建設費が見積もりを上回って苦しい立場になる。
 そのような状況の中でも、パリの高級娼婦ロザネットに夢中になり、通い詰め、夫婦仲が険悪になったため、フレデリックに妻の所へ戻るように諭される。
陶土会社の監査役のひとりとして関係していたが、ある会社の代表者がでっちあげた年間収支決算書を調べもせず承認し、その会社が倒産したため、民事上の責任者として損害賠償の保証を命じられ、三万フランの損失をこうむることになった。
 その後も、様々な男と関係を持ち続けるロザネットに入れあげ、彼女が他の愛人と会うことに嫉妬し、自分が会えない間の世話をフレデリックに頼む。さらに、どうしても金が必要になりフレデリックに一万六千フランを借りたが、約束していた一週間が過ぎても返済しなかったので、フレデリックとその金を融資してもらうはずだったデローリエとの友情を壊す原因になる。
 その後フレデリックが自分とその妻をかばってド・シジーと決闘することになったと思い込み、決闘の中に割り込んで中止にさせる。
 ルジャンバールとともに色々な投資に手を出しながら生活していたが、二月革命が起きると、国民衛兵の任務に就き、フレデリックに歩哨の役割を代わってもらっている間にロザネットと会う。
 暴動が終わると、工場に雇われていたボルドーの女に食い物にされ、工場の操業も行えず、軍帽の製造販売を試みても資金が足りず、家庭もうまくいかなくなる。
 そのうちに宗教に走り、ロザリオの店を始めるも卒中を起こし、みすぼらしくなる。
 ある新聞の株を持っている人物に、次の株主総会で民主主義の観点から、経営者と編集者を一新するために、株を譲り受けたいと申し出て、その株をすぐに金に換え、自分の店の売り物を仕入れたことで訴えられ、家族を連れてパリを出てル・アーヴルへと逃げる。
 結末では亡くなったことが語られる。

マルト
 アルヌー家の娘。

ウージェーヌ
 アルヌー家の息子。フレデリックが帰省している三年間の間に誕生する。フレデリックがアルヌー夫人を家に連れ込もうと画策していた日に、病気になり、アルヌー夫人がフレデリックとの恋を終わらせる決意をすることとなる。

シャルル・デローリエ
 フレデリックの故郷の友人。もと大尉で執達吏の息子。母親を亡くしており、裕福な暮らしではなかった。コレージュ(前期中等教育期間、日本で言う小学六年生から中学三年生)でフレデリックと出会い、意気投合し、二人でパリで生活することを夢見ていた。哲学に入れあげて学校を卒業した後、亡母の遺産を請求したことが父親を怒らせ、仕送りを断たれ、トロワの代訴士の事務所で主任書記として働くことになっていた。ノジャンへ帰郷したフレデリックと二年ぶりの再会を果たす。この頃には哲学よりも社会経済学とフランス大革命に興味を持っていた。トロワで働かなくてはならないためパリに行けないことをフレデリックに伝え、失望させる。
 訴訟の問題に強く、後見人として管理している遺産が十年で自分のものになると思い込んでいた父親から、七千フランの母親の遺産を手に入れ、その資金を使ってパリでフレデリックとの同居生活を始める。
 アルヌー夫人への想いを募らせたフレデリックが目の前で前で泣き出してしたため、彼を慰めようと、アルハンブラという大衆ダンス場へ連れて行き、その帰りに最初に目についたクレマンス・ダヴィウという女に話しかけ、その後愛人にする。オルセーの青年弁護士討論会への入会をみとめられ、フレデリックが実家に戻るとセネカルを家に招き入れた。
 フレデリックが実家に戻っている三年間の間で、教授資格試験に落ち、筆頭書記の仕事も辞していたが、青年弁護士討論会の会合で弁舌をふるい、ある種の名声を博していた。しかし受験に不利な学説を教えるため、復習教師としての評判が落ち、法廷での弁護活動も敗訴になっていた。そこで株式会社としてユソネの手にわたった文芸協会「芸術」の新聞を政治新聞にきりかえて提供し、自説を唱えて世間をあっと言わせようと画策し、そのための投資をフレデリックから受け取る。
 その後新聞の企画からユソネを追い払おうとし、すべての層から期待をよせられるようにするための新聞を作り、パリを意のままにあやつろうとした。そのためにフレデリックの出資を再度必要としたため、説得を試みて一万五千フランの融資を願い出る。しかしフレデリックがそのための金を破産しそうなアルヌーに金を貸してしまったため、友情は途絶えた。
 その後、孤独になったフレデリックが望んだため、デュサルディエの仲裁で仲直りをし、フレデリックのルイーズとの結婚話に賛成する。フレデリックからアルヌーへの借金取り立て状の委任状を持ってアルヌー家に出向き、夫人にデローリエ博士と名乗り、フレデリックが金を催促する気であると嘘をついて夫人を誘惑する。しかしその試みは失敗し、フレデリックが近々結婚すると夫人に伝えた。フレデリックと夫人の仲を疑いながら、夫人を誘惑したいという欲望を持ち続け、実家に帰っているフレデリックに、パリにもどるには及ばないという内容の手紙を書く。
 改革宴会の暴動の日には、地方委員に任命されてパリを離れていた。しかし保守派、社会主義者の両方に取り入ろうとして失敗し罷免され、トロワでの銃の略奪事件の陰謀に加担して捕まり、証拠不十分で釈放された。パリに戻り、偶然会ったフレデリックに職を紹介してもらうかわりに、代議士の座に座れるよう尽力すると約束した。ダンブルーズ邸に出入りするようになり、石炭事業の活性化のために会社を統合することを目指し、独占を気に掛けていたダンブルーズ氏に、団体の原則そのものの侵害にあたると主張すれば良いと助言し、期待を寄せられる。セネカルを秘書に使いながら、連絡を待っていたが、ダンブルーズ氏は亡くなった。
 アルヌーに貸した金を取り戻すために訴えようとするロザネットに助言する一方、娘をフレデリックに嫁がせようとしているロック氏のところへ取り入り、フレデリックは子どもがいて、ロザネットを囲っているとそれとなく伝えた。フレデリックのアルヌー夫人への想いに嫉妬したダンブルーズ夫人からは、姪のセシルのために償還できる債権は清算してやりたいという嘘をつかれ、協力をたのまれたさいに、書類の中からアルヌー夫人の署名がある手形を見つけ、以前夫人から受けた侮辱を思い出し、復讐してやろうとして、回収不能の債権を競売に出すようにダンブルーズ夫人に勧めた。
 その後、知事となり、ルイーズと結婚するが、かけおちされ、仕事に励みすぎて知事の地位があやしくなり、解任され、様々な職を経て、工業会社の訴訟係として雇われている。フレデリックとは再び和解し、トルコ女を買いに行って結局恐れをなして逃げ出した頃の話をして、あの頃が一番良かったと語り合う。
 

デュサルディエ
 ヴァランサール兄弟商会に勤める。私生児。暴動で小柄な男を突き飛ばした警官に挑み掛かり、連行されるが、その現場を見ていたフレデリックとユソネの助力により釈放される。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。
 フレデリックとド・シジーの決闘では介添人を務める。セネカルの出所祝いを自宅で開き、フレデリックにペルランの描いたロザネットの絵を買うように助言する。
 改革宴会では丸二日働き続け、革命の成功に歓喜するが、その後の動乱で負傷し、ヴァトナーズの看護を受ける。そのヴァトナーズから結婚を迫られるが、愛しておらず、彼女の浅ましい行動に嫌気がさす。
 ルイ・ナポレオンのクーデターでは、「共和国万歳」と叫び、警官となったセネカルに刺され、絶命する。

ユソネ
 ファッション関係の新聞の仕事に従事し、「工芸美術」の広告を作っていた。暴動でデュサルディエが乱暴を働く警官に掴みかかり連行されたのを、フレデリックと共に目撃し、釈放を要求する。そのことがきっかけでフレデリックと懇意になり、アルヌーを紹介する。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。
 フレデリックが帰省している三年の間に、「芸術」という文芸協会を株式会社として運用するようになるが、印刷業者への支払いが滞り、フレデリックからの融資を受ける。
 その後も金の融資をフレデリックに頼むが、断られたため、新聞にフレデリックの決闘の様子をこき下ろす記事を書く。
 二月革命では国民衛兵の任務に就き、暴動が終わると当代の名手たちをこきおろす記事を書く。
 その後は劇場や新聞雑誌を手中に収めるまでになる。

ペルラン
 大衆やブルジョワを憎悪する五十過ぎの画家。「工芸美術」の常連。アルヌーに依頼されて描いた絵を安く買われ、反感を持っていた。画家になることを決心したフレデリックに絵の手ほどきをする。美に関して真の理論を発見するためにあらゆる芸術を探求しており、芸術はもっぱら大衆の教化を目的とすべきというセネカルと議論になる。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。
 ロザネットに近づこうという下心を抱くフレデリックの依頼により、ロザネットの肖像を描く。しかしその肖像の出来が悪かったため、フレデリックに法外な値をつけて売りつける。
 二月革命が起きると、芸術に関する利害を討議する一種のセンターの創設を請願し、パリに生まれるであろう芸術発展を記念した建造物の装飾を手がけるつもりでいた。
 フレデリックとロザネットの子が死ぬと、二人の依頼を受けてその遺体の肖像を描く。
 その後は様々な芸術に入れあげたあげく、写真家になる。

ルジャンバール
 画商。シトワイヤン(同士)いうあだ名で呼ばれている。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、皆から煙たがられていたが、「工芸美術」の常連であったため、アルヌー夫人に近づきたいという下心を持つフレデリックとは仲良くなる。予算問題に関心を向ける、陰気で気難しい人間。
 フレデリックとド・シジーの決闘では介添人を務める。アルヌーとともに色々な投資に手を出す。
 二月革命が起きると、新体制を批判し、その後もカフェの前を幽霊のように歩き続ける姿が見られる。

セネカル
 数学の復学教師。共和主義者。職工長の息子としてリヨンに生まれ、革命を目指す秘密結社である家族協会の一員となり、警察に監視されていた。もともとデローリエの友人で、ペルランに絵の手ほどきを受けるフレデリックの家に連れてこられる。芸術はもっぱら大衆の教化を目的とするべきという考えを持ち、美の探求のみを行い続けるペルランと議論になる。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。
 貴族の子息を殴り、寄宿学校を解雇されると、地元に帰ったフレデリックの代わりにデローリエと同居を始める。
 フレデリックが帰省していた三年の間に、学年末の表彰式に反対して、再び寄宿学校を解雇され、デローリエとの同居も解消する。富の配分を求める社会主義の思想を身に着け、貴族の称号を憎悪するようになる。
 その後、アルヌーの経営する陶器工場で働くが、田舎で安月給で雇われていることに不満を漏らす。そのうちにアルヌーと喧嘩して解雇され、フレデリックに勤め先を紹介してほしいと頼むが断られる。
 社会に対する自身の不満に王政にたいする民衆の反感を結びつけ、焼夷弾製造の秘密計画に科学者として加わり、モンマルトルで実験を行うために、火薬をたずさえて向かうところを逮捕された。その後証拠不十分で釈放され、出所祝いをデュサルディエの家で行う。
 二月革命が起こると、死体と汚物まみれの場所に監禁され、流刑になる。その後デローリエの秘書になり、パリから逃げ出したアルヌー家の債権の競売の代理人を務める。
 ルイ・ナポレオンのクーデターで警官となり、共和国万歳と叫ぶデュサルディエを刺す。その後は消息不明となる。

バチスト・マルチノン
 フレデリックの旧友。美男子。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。地方で検事代理に任命され、その後パリの検事局の一員となる。
 二月革命が起きると、司法官の職が終身制ではくなり、検事局を退かなければならなくなる。ダンブルーズ夫人からの好意を受けていたが、ダンブルーズ氏の姪(実はダンブルーズ氏の隠し子)であるセシル嬢と結婚して上院議員となる。

ド・シジー
 フレデリックの大学の友人。名門の子弟で、もともと法律の勉強を行っていたが、ゴシック美術にも熱中していた。物腰は柔らかいが知性が貧弱。フレデリックとデローリエが同居する家を頻繁に訪れ、他の仲間とも懇意になる。フレデリックに頼み込んで、ロザネットとデルマールを紹介してもらい、有頂天になる。その後ロザネットをものにしようと狙い、アルヌー夫人のことを侮辱したためフレデリックからの怒りを買い、決闘をすることとなる。
 決闘ではすっかりおじけづいたものの、アルヌーが割って入ったために中止となる。
 その後はブルターニュで農学者となり、信心深い生涯を送り、八人の子持ちとなって先祖伝来の城に住んでいる。

モロー夫人
 フレデリックの母。貴族の旧家の出。未亡人。バカロレア試験に合格したフレデリックが帰省してくると歓迎する。
 パリで学生生活を送るフレデリックに期待していたが地元の選挙管理人であるロックに頼みもしないのに金を貸され、返済に困って土地を譲渡し、更に銀行が破産したために預金を失い、財産がなくなる。そのため三年間を息子とともに過ごすが、フレデリックの叔父の遺産が入ることとなり、再びフレデリックをパリへと送り出す。
 隣人の金持ちであるロック氏の娘ルイーズとフレデリックの結婚を望んでいたが、フレデリックがロザネットを囲い、子供もいるということを聞くと、憤慨する。

バルテルミー
 フレデリックの伯父。遺言状なく死んだため、二万七千リーヴルの遺産がフレデリックの手に渡った。

ロック
 フレデリックの故郷の選挙管理人。ダンブルーズ氏の資産管理人。フレデリックの母親に頼まれもしないのに金を貸し、ある程度までたまると返済を迫り、土地を譲渡される。妾にしていた女中と結婚し、ルイーズを儲ける。
 ダンブルーズ氏に代わって投資をして、躊躇せずに差し押さえを行い、その後で、抵当財産を買うという法外のことをしていたため、結果的にその資産を持ち主であるダンブルーズ氏の弱みを握ることとなり、娘の結婚相手にと望んでいるフレデリックの好条件の職をダンブルーズ氏に要求していた。
 二月革命が始まると、ルイーズがフレデリックに会いたがり、パリまで同行する。パリに到着すると国民衛兵の一団に身を投じ、セネカルが監禁されていたテラス前の歩哨に立つ。

エレオノール夫人
 ロックの元女中で、パリで妾として囲われていた。ロックの新しい妻となると、ルイーズを産み、病気で亡くなる。

ルイーズ
 ロックが女中のエレオノール夫人に産ませた子。本名はエリザベート=オランプ=ルイーズ・ロック。破産して隣家に帰省してきたフレデリックに惹かれる。
 その後もパリに行ったフレデリックを想い続け、所有していた北仏鉄道株が下落して好条件の結婚が必要になっていたフレデリックとの婚約にこぎつける。しかしフレデリックがアルヌー夫人とばったりと出会い、お互いに愛し合っていることを認識してパリにとどまることになったため、連絡が途絶える。
 二月革命が始まると、フレデリックに会いにパリまでやってくるが、足取りがつかめず、動揺する。
 暴動が終わると、フレデリックを見つけ、自分が帰郷する前にプロポーズをしてほしいと頼むが、時期が早すぎると言われ求婚されることはなかった。そのうちにフレデリックがロザネットと会っていることを知り、泣き崩れる。
 フレデリックに子供がいることを知ると、怒りにかられ、知事になったデローリエと結婚する。

ロザネット(マレシャル)
 マドモアゼル・ローズ=アネット。父親は絹織物工。母親は父が働いて得た金を全て酒代に使ってしまう女だった。十五歳のときに、この母親に売り飛ばされて、ある紳士と関係を持つこととなり、針子の仕事をしていたところをヴァトナーズに救い出され、それ以来パリの高級娼婦として生きてきた。もともとウドリーとアルヌーの愛人であった。自宅で行われる仮想パーティーでフレデリックと初めて出会い、好意を受ける。
 フレデリックによる説得でウドリーと別れ、デルマールに一時期夢中になり、アルヌーから巻き上げた金を貢ぎあげ、同じくデルマールに熱を上げていたヴァトナーズの怒りを買う。
 その後デルマールと別れ、フレデリックを従えて競馬場へ行くが、不躾に振る舞い、偶然居合わせたアルヌー夫人を侮辱する。
 アルヌー夫人に告白して断られた失意のフレデリックが訪れてきたために、身をゆだね、革命が起きたパリを二人で歩く。
 その後もアルヌーと会っていたが、アルヌーか自分のどちらを愛しているのかフレデリックに選ばされ、フレデリックを選んでフォンテーヌブローなどの旅行について行く。
 暴動が終わると、フレデリックと蜜月となる。しかし、ヴァトナーズから支払い拒絶になっている手形が送られてきたため、金を工面しようとアルヌーの家を訪れたところで、アルヌー夫人とフレデリックが会っているところに出くわし、フレデリックから拳を振り上げられる。そこで自分が妊娠していることを告げた。
 趣味の悪さや怠け者の性格が災いして、フレデリックからの愛は冷めていくが、一生フレデリックに身を任せることを決意するまでになる。
 フレデリックがダンブルーズ夫人のところへ通い、結婚の約束までしていたときに出産するが、その子供が突然死んでしまったので、ペルランに遺体の肖像を書かせる。
 訴えられてパリから逃げたアルヌー家の持ち物の競売を仕組んだと思われ、フレデリックに去られる。
 その後、ウドリーと結婚したが、未亡人となり太った。男の子を養子にしている。

マドモアゼル・ヴァトナーズ
 もともと田舎で教師をしていたが、家庭教師をするかたわら、マイナーな新聞に寄稿して身を立てている。デュサルディエと同じ店で働いたことがある。もともとアルヌーの愛人であった。駆け出しのデルマールを拾ってやり、新聞社を駆け回って売り込んだ。ロザネットのことは針子から救った過去があるが、デルマールとロザネットが愛人関係になると、それに嫉妬して憤慨し、二人が別れたあともデルマールに熱を上げ続ける。
 独身だったため、社会に対して復讐の機会をうかがっており、二月革命を歓迎し、社会主義の宣伝活動に没頭しプロレタリアの解放のために不可欠な女性の解放を目指す。動乱によって故障したデュサルディエの看護を行う。
 デルマールとの関係をその後も続けていたが、次第にデュサルディエとの結婚を夢見るようになり、そのための資金としてロザネットに以前貸した金の返済を迫る。

デルマール
 本名はオーギュスト・ドラマール。ヴァトナーズの手引きによって歌手として名をあげ、その後有名な俳優にまで上り詰めたが、ロザネットと愛人関係を結び、ヴァトナーズからの怒りを買う。
 ロザネットと別れた後、フランスきっての名優の仲間入りをする。

ウドリー
 アルヌーの別荘の友人であったが、ロザネットを愛人にしていたため、アルヌーから恨まれる。

ダンブルーズ氏
 本名はアンブルーズ伯爵。一八二五年以来、貴族の身分から距離を置き、実業家になった。レジオンドヌール勲章の四等受勲者、オーブ県の県会議員兼下院議員。ラ・フォルテルの地所を手に入れた。
 自分に取り入ってくるフレデリックを国璽尚書(国璽・御璽の管理を行う官職)に推薦するが、役員になることよりも実業家になることを勧める。いくつかの会社を合併し、労働者の福祉を充実させた収益をあげられるフランス石炭協会なるものの設立を目指しており、そこの事務局長の座をフレデリックに勧める。
 アルヌー夫人が署名した約束手形の裏書人だったため、それを支払わないアルヌーを訴える事もできたが、フレデリックに頼まれて、その訴えを実行に移すことはしなかった。
 これらはすべて、自分の資産管理人であるロック氏が、法外なことをして財産を築いており、結果としてそれが自分の弱みとしてロック氏に握られることとなり、ロック氏が娘のルイーズとフレデリックの結婚を熱望していたために、フレデリックに好条件の職をつけさせようとしていたためであった。
その後、石炭協会の件で呼び出しても訪れなかったり、ロザネットと一緒にいるところを競馬場で目撃したり、爆弾を持ち出して逮捕されたセネカルを擁護する発言をしたりしたフレデリックのことを疑いの目で見るようになる。
 しかし二月革命が起きると代議士に選ばれ、表向きは共和制を支持するが、新体制を恐れ、今回の革命を支持するふりをしながら、自分の力になってくれそうなフレデリックに憲法制定国民議会の選挙に出るように勧める。
 革命の際に暴徒に押しつぶされそうになったのを助けてくれたアルヌーを高く評価する。
 石炭事業の活性化のため、会社を統合することを目指し、独占を気に掛けていたところへ、団体の原則そのものの侵害にあたると主張すれば良いとデローリエに助言され、その役目を一任するための手紙を書く予定になっていたが、病気になって死ぬ。

ダンブルーズ夫人
 ダンブルーズ氏の妻。洗練された趣味と話術を持ち、ロザネットへの愛が冷めていたフレデリックを魅了する。もともとマルチノンのことを愛していたが、次第にフレデリックとの不倫関係に陥るようになり、その関係が社交界で半ば公認のようになる。
 官能面でアルヌー夫人やロザネットに劣っており、使用人や貧者を蔑む態度が見られたため、フレデリックは間もなくその愛から冷めていくが、社交界でのし上がるために関係は続けられた。
 夫が死んでも全く悲しむ様子はなく、むしろ自分が耐えてきたことを滔々とまくして、フレデリックに結婚を申し出る。
 夫に全財産を渡すと言う遺言状を書かせていたため、莫大な財産を持つこととなっていたが、その遺言状はいつの間にか燃やされ、結婚前に書かれていた全財産をセシルに遺贈する遺言書が適用されることになったため、破産する。
 訴えられてパリから離れることになったアルヌー夫人を救おうとしたフレデリックに、本当の理由を隠されたまま一万二千フランを渡す。しかし後にその理由を知ることとなり、アルヌー夫人の署名がある不渡り手形を自分の書類の中から見つけ、姪のセシルのために償還できる債権は清算してやりたいという嘘の口実を設けてデローリエを協力させ、回収不能のアルヌー夫人の債権を競売に出すことを画策する。
 競売ではアルヌー夫人への当てこすりで、フレデリックの思い出によく残っている小箱を高値で落札したため、フレデリックに幻滅され、自分のもとを去られる。
 その後イギリス人と結婚する。

セシル嬢
 ダンブルーズ氏の姪として知られているが、実際は結婚してから五年後に、ダンブルーズ氏が連れてきた隠し子。もともと好いていたマルチノンからの求婚を受け結婚する。

ミス・ジョンソン
 セシル嬢の家庭教師。

クレマンス・ダヴィウ
 軍需品に金の刺繍をしている。
 アルハンブラで女を手に入れられなかったデローリエに往来で話しかけられ、そのまま愛人となるが、その後デローリエが新聞業に夢中になったため、冷たくあしらわれるようになる。