ギュスターブ・フローベール『感情教育』の詳しいあらすじ

ギュスターヴ・フローベール作『感情教育』(L’Éducation sentimentale)の詳しいあらすじを紹介するページです。

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第一部

 1840年、バカロレア(大学入学資格試験)に合格したばかりの青年、フレデリック・モローは、故郷ヘ帰省する船の中でジャック=アルヌーの家族と出会いました。アルヌーは、パリの「工芸美術」という店で絵画の売買を営んでいました。その妻アルヌー夫人の美しさにフレデリックは惹かれましたが、想いを伝えられないまま船を降りました。
 実家に帰ったフレデリックは、母親のモロー夫人はじめ、多くの人に歓迎されました。その中でも、親友のデローリエとの二年ぶりの再会に、フレデリックは歓喜しました。デローリエは三歳年上で、フレデリックとはコレージュ(前期中等教育期間、日本で言う小学六年生から中学三年生)の時に出会い、親友になりました。二人はパリで一緒に暮らしながら勉強することを夢見ていましたが、学校卒業後、デローリエが亡母の遺産を請求したことが父親を怒らせ、仕送りを断たれたため、トロワの代訴士の事務所で主任書記として働くことになっていました。パリで一緒に過ごせないことを知り、フレデリックはがっかりしました。

 デローリエは、パリに戻るフレデリックに、資産家ダンブルーズ家と近づいて、社交界で名をあげるよう助言しました。フレデリックは、近隣の住民でダンブルーズ家の資産管理人であるロックに推薦状をもらいました。

 二か月後、フレデリックはパリに戻り、家を借りました。しばらく単調な日々を過ごし、級友のバチスト・マルチノンやド・シジーと会うも、退屈は埋められませんでした。アルヌー夫人と再会することを夢見て「工芸美術」に通っても、夫人とはなかなか会えませんでした。

 フレデリックは暴動に出くわして、勇敢にも警官に挑み掛かる男を見ました。男はデュサルディエと名乗り、連行されて行きました。警官の方が先に暴力を働いたのを見ていたフレデリックは、一緒にいたユソネという男とデュサルディエの釈放を要求しました。
 その後フレデリックはユソネと昼食をとりました。ユソネはファッション関係の新聞の仕事をしており、アルヌーが経営する工芸美術の広告を作っていました。フレデリックはユソネと懇意になり、アルヌーに紹介されることに成功しました。
 アルヌー家に行くと、様々な人が訪れ、アルヌーは忙しげに働いていました。フレデリックは夫人との繋がりを求めて、一緒に招かれていたペルランという画家や、「工芸美術」の常連ルジャンバールに近づき、やがて店の常連となりました。アルヌーは「喰えない商売」をして儲けており、ペルランも自分の絵を安く買われたことを根に持っていました。フレデリック自身もアルヌーの馴れ馴れしい態度を嫌いましたが、夫人に近づきたいために、ペルラン相手に彼をかばいました。このような努力が実り、フレデリックはアルヌー家の夕食に招待されました。
 同じころデローリエがパリに来ていました。訴訟の問題に強いデローリエは、父親が渡そうとしなかった亡き母の遺産を七千フラン手に入れ、ようやくパリで暮らせるようになり、フレデリックに会いに来たのでした。しかしフレデリックはデローリエとの旧交を温めることなく、アルヌー夫人へと会いに行きました。
 夕食にはアルヌー夫妻やユソネの他、様々な分野の芸術家がいて、フレデリックは多岐にわたる話や様々な料理に感動を覚えました。アルヌー夫人と久しぶりに言葉を交わしたフレデリックは、帰途、絵の道へ進むことを決めました。
 翌日、フレデリックは、ペルランに絵の手ほどきを受けるために自宅へ招きました。デローリエはセネカルという男を連れてきました。美に関して真の理論を発見するためにあらゆる芸術を探求しているペルランと、芸術はもっぱら大衆の教化を目的とすべきというセネカルは議論を交わしました。

 フレデリックとデローリエの同居が始まり、ユソネ、デュサルディエ、ペルラン、マルチノン、ド・シジー、ルジャンバール、セネカルらがこの部屋を訪れるようになりました。
 フレデリックは相変わらず工芸美術へ通い、夕食に招待されることも増え、夫人との距離はさらに縮まっていきましたが、二年目の学校の試験に落ちてしまいました。それでもアルヌーが夫人を置いて旅行に出かけると聞いたので、帰郷はしませんでした。彼は勉強すると言って母親に金を送らせ、服を買って夫人のもとに行きました。しかし実際は、アルヌーは旅行にでておらず、夫人が病気の母を訪れにシャルトルへ帰省していました。夫人のいないパリでフレデリックは勉強にも手がつかず、無為な三か月を過ごしました。しかしアルヌーとの親交は続け、共に食事をとる仲になりました。そのうちにアルヌー夫人が帰ってきましたが、フレデリックは想いを打ち明けられず、憂鬱な日々を過ごしました。
 夫人への想いを募らせたフレデリックは、ついにデローリエの前で泣き出してしまいました。デローリエはフレデリックを慰めるため、ユソネ、デュサルディエ、ド・シジーらとアルハンブラという大衆ダンス場へ連れて行きました。しかし結局フレデリックとデローリエだけが女をものにできず店を出ました。デローリエは、百フランをかけて店を出て最初に会った女をものにすると言い、最初に目についたクレマンス・ダヴィウという女に話しかけて成功しました。結局フレデリックだけが女をものにできずに帰宅することとなりました。
 フレデリックはアルヌーの別荘へ、夫人の霊名祝日の祝宴へ呼ばれました。帰りはアルヌー夫人と同じ馬車に乗りましたが、夫人はフレデリックが手渡した花束を無下に扱いました。
 翌日からフレデリックは猛勉強にとりかかり、最終試験に合格しました。

 一時帰省のつもりで実家に帰ると、母はその地区の選挙管理人ロックから借金をしていました。ロックは頼みもしないのに金を貸して来て、ある程度までたまると返済を迫って来たようでした。母はロックに土地を譲渡しました。さらに銀行は破産し、預金を失っていました。残される遺産が微々たるものとなったフレデリックは、パリには戻れず、地元に近い代議士のもとで、書記として働くしかなくなりました。そのうちにデローリエはセネカルをパリの家に迎え入れていました。アルヌーの店で揃えた家具に囲まれたセネカルを想像して、フレデリックは陰鬱な気分になりました。
 ロックには元女中の妾との娘ルイーズがいました。フレデリックは隣人の幼い娘であるルイーズに慰められ、母親との田舎暮らしにすっかり慣れました。三年の月日が流れ、アルヌー夫人への想いは忘れかけました。しかしある日、伯父が遺言書がないまま死去したことで、多大な遺産が手に入ることとなりました。とたんにアルヌー夫人への想いが蘇ったフレデリックはパリに戻ることを決めました。ルイーズはフレデリックのことを好いていたようで、別れの際に涙を流しました。

第二部

 フレデリックはパリに戻りました。アルヌー夫妻は以前の家に住んでいませんでした。パリ中を探し回り、フレデリックはアルヌー夫人の家を突き止めました。夫婦には三歳くらいの男の子ができていました。今はアルヌーは陶器の工場を持ち、店をやっているようでした。フレデリックはアルヌー夫人とも再会しましたが、自分の彼女への想いが冷めていることに気づきました。
 デローリエは教授資格試験に落ち、筆頭書記の仕事も辞していましたが、青年弁護士討論会の会合で弁舌をふるい、ある種の名声を博していました。彼はユソネが株式会社として所有している「芸術」という名の文芸協会の新聞を政治新聞にきりかえて提供することを画策し、そのための投資をフレデリックに頼みました。
 再び自分の家を訪れるようになったフレデリックを、アルヌーは愛人であるロザネットの家の仮装パーティーに連れて行きました。フレデリックはユソネやペルランとも再会しました。
 アルヌーの愛人となっていたヴァトナーズが、アルハンブラで歌手をしていたデルマールを連れて訪れました。そのヴァトナーズが若い頃に拾い上げ、今ではパリの高級娼婦となっているロザネットは、デルマールに惹かれているようでした。フレデリックはロザネットに惹かれました。
 それ以来フレデリックは社交界に興味を持ち、莫大な資産を持つ実業家ダンブルーズ夫妻に手紙を書いて、訪問の許可をもらいました。

 フレデリックはデローリエ、セネカル、ド・シジー、デュサルディエ、ペルランを呼んで、新居祝いをしました。デュサルディエ以外は、フレデリックの部屋の趣味をあまりいいものと思わなかったようで、フレデリックは皆との間に溝ができていることを感じました。アルヌーは、地所を売ろうとしたが買い手が見つからず、陶器の工場を建て、建設費が見積もりを上回って苦しい立場にあるようでした。
 翌日フレデリックはアルヌー夫人を訪れました。アルヌー夫人は、夫が苦しい立場にあることをあまり詳しく知らず、不安を募らせていました。フレデリックはアルヌー夫人を慰めようとしました。妻の不安に気づいていないアルヌーは、嘘をつき、愛人のロザネットのもとへ行ってしまいました。
 フレデリックは貞淑なアルヌー夫人と自由なロザネットをしばしば訪れ、二人の間で心が揺れ動きました。心の奥底ではアルヌー夫人を愛しながらも、ロザネットと二人きりになるために、ペルランに彼女の肖像画を書かせ、それに同伴したりしました。しかしロザネットはなかなか自分のものにはなりませんでした。
 家に帰るとデローリエとユソネが待っていました。デローリエは、記事を書いて世間をあっと言わせようとして、新聞をやっているユソネを口説いていました。ユソネは印刷業者への支払いが滞り、抜き差しならない状況になっていたため、フレデリックに融資を頼みに来たのでした。フレデリックは二人にしぶしぶ出資しました。
 フレデリックは母親からの手紙やアルヌー夫人の勧めに従って、ダンブルーズ氏に国璽尚書に推薦してもらうことに成功し、夜会に招待されました。ダンブルーズ氏は、国務院の傍聴官に推薦されるには試験が必要だとフレデリックに伝え、官職につくよりも実業家になることを勧めました。
 ロザネットからの手紙を受け取り家を訪れると、ヴァトナーズがいて、デルマールが二人でロザネットと過ごしてると言いました。ヴァトナーズはデルマールを拾ってやり、売り込むために新聞社を駆けずり回ったこともあり、ロザネットのことも下着のお針子から助けてやった過去がありました。しかし、ロザネットがデルマールの愛人となったので憤慨し、ロザネットに懸命に尽くしているアルヌーに全てを打ち明けるよう、フレデリックをけしかけました。フレデリックがアルヌーの家に行くと、アルヌーが愛人のためにカシミヤのショールを買ったことを夫人が知り、諍いになっていました。アルヌーが出て行くと、フレデリックは内心喜びながら夫人を慰めました。アルヌーは戻って来たものの、なおもロザネットを訪れようとしていました。フレデリックは、妻の近くにいるように彼を諭しました。
 それからフレデリックはアルヌー家の居候のような生活を送るようになり、夫妻が知り合ったころから現状までを知ることとなりました。アルヌー夫人はシャルトルの中産階級の家庭の出で、アルヌーに見初められて結婚しましたが、最近は下品なふるまいや金遣いの荒さが段々と目につくようになり、夫婦関係は冷え切っているようでした。フレデリックはアルヌーの鷹揚な人柄にどことなく惹きつけられていました。
 アルヌーは、陶土会社に監査役のひとりとして関係していましたが、いいかげんな報告書に署名し、代表者がでっちあげた年間収支決算書を調べもせず承認してしまいました。その会社は倒産したため、民事上の責任者であるアルヌーは、損害賠償の保証を命じられ、およそ三万フランの損失をこうむることになりました。
 それでもなおアルヌーは、ロザネットがデルマールに貢ぐためのの金をつぎこまされていました。また、妻に対しては、フレデリックがロザネットの愛人だと嘘をついていたので、夫人に思いを寄せているフレデリックは、必死になってこの嘘を撤回しました。それでもなお、フレデリックはアルヌーからは妙な信頼を得ており、ロザネットのところに行って様子を見てほしいとたのまれ、自分の置かれた立場がやりきれなくなりました。

 デローリエは新聞の企画からユソネを追い払おうとしていました。彼は、持てる者、持たざるもの、これから持たんとする者の三つの党派に、お互いを憎悪するべき論拠を示し、すべての層から期待をよせられるようにするための新聞を作り、パリを意のままにあやつろうとしており、フレデリックの融資を期待していました。フレデリックも乗り気になり、一万五千フランの融資を願い出ましたが、翌日アルヌーから一万六千フランの金がどうしても必要だと言われ、一週間以内に返済することができると聞き、金を渡してしまいました。しかし一週間が過ぎてもアルヌーは金を返してくれなかったため、フレデリックはデローリエに、賭博で金をなくしたと嘘をつき、アルヌーとの付き合いをやめました。デローリエとの友情もとだえ、新聞の融資元を失ったデローリエは、社会主義を信奉しているセネカルに力を貸そうと決めました。
 友を失ったフレデリックは、自己嫌悪から逃れるため、ルネッサンス史を書くことに努めていましたが、ある日アルヌー夫人の訪問を受けました。夫人が署名した千フランの約束手形が四枚あり、裏書人はダンブルーズ氏で、アルヌーはそれを支払えませんでした。シャルトルの持ち家を売れば、近日中に払うことができるというので、それまではなんとか訴訟を起こさないようにしてもらいたいようで、ダンブルーズ氏に掛け合ってくれと頼みに来たのでした。フレデリックは翌日ダンブルーズ氏を訪れ、アルヌー夫人からの頼みを了承させました。ダンブルーズ氏はいくつかの会社を合併し、収益をあげられるフランス石炭協会なるものを設立していました。それは労働者に会社の事業に関心を持たせるため、健康的な家屋や住宅を提供し、品物を原価で供給するという新機軸を打ち出したものでした。保護関税をとりつけて、販路を確保するつもりであり、そこの事務局長にならないかとダンブルーズ氏はフレデリックに勧めました。

 三週間後、ダンブルーズ氏から会えないかとの手紙をもらったものの、アルヌー夫人が一人で工場にいると聞きつけたフレデリックは、そちらに向かうことにしました。アルヌーの工場は小規模で、セネカルがここでの職を紹介され、働いていました。パリで働けると思っていましたセネカルは、田舎に追いやられ、給料が安いことに不満を漏らしました。
 フレデリックはアルヌー夫人と会い、陶器工場を案内されました。その後フレデリックは夫人に想いを伝えましたが、夫人は貞淑を離れた恋に幸福はないので身を引くようにと諭し、聞き入れませんでした。絶望してパリに戻ったフレデリックを待っていたのは、ロザネットからの競馬場への誘いの手紙でした。フレデリックはロザネットと会うことに心を決めました。
 ロザネットはデルマールと別れたようでした。アルヌー夫人も来ていましたが、ロザネットが侮辱したため、帰ってしまいました。フレデリックはロザネットと共にいるのを夫人に見られ、苦々しい思いをしました。呼び出しの誘いに応じなかったダンブルーズ氏にもフレデリックは見られたようでした。競馬場を去ると、二人は様々な馬車が行き交う中をパリの中心部へ進みました。社交界の女を連れて馬車に乗るという憧れが実現しているにも関わらず、フレデリックはアルヌー夫人のことを忘れられず苦しみました。
 フレデリックはレストランにロザネットを連れ込みましたが、そこを訪れてきたド・シジーに、ロザネットはついて行ってしまいました。
 翌日、ペルランは完成した不出来な絵を法外な値段で売りつけようとしてきました。さらに、アルヌーと喧嘩して解雇されたセネカルからは新しい働き口を紹介してほしいと頼まれ、ユソネからも借金の申し出を受けましたが、フレデリックはそれらを全て断りました。
 その後フレデリックは、ド・シジーから夕食の招待を受けましたが、競馬の時にド・シジーはロザネットの家に行けるかどうかを賭けていたことがわかりました。さらに、彼がアルヌー夫人のことも侮辱したため、フレデリックとシジーは喧嘩になり、決闘することになりました。ルジャンバールとデュサルディエがフレデリックの介添人となりました。決闘の日、フレデリックは覚悟を決めていましたが、シジーは怖気付いていました。決闘が始まると、フレデリックが自分をかばって決闘になったと思い込んだアルヌーが駆けつけ、中止となりました。その帰りに、フレデリック、アルヌー、ルジャンバールで食事をとり、アルヌーとルジャンバールが色々な投資に手を出していることが判明しました。
 セネカルが投獄されたことをデュサルディエがフレデリックに知らせてきました。共和制樹立のための革命を目指す秘密結社である家族協会の一員となり、警察に監視されていたセネカルは、焼夷弾製造の秘密計画に科学者としてくわわり、火薬をたずさえて実験に向かうところを逮捕されたようでした。デュサルディエとフレデリックはセネカルの行為に感動し、助けようとしました。図書館にいってセネカルの行方を調べようとすると、金を貸さなかった腹いせをされたようで、ユソネの発行する新聞フランバールに自分のことをこきおろす決闘の記事が書かれていました。ペルランは彼に絵の代金を払わせようとしているのか、画商の店先にペルランの描いたロザネットの肖像画があり、フレデリック・モロー氏所蔵と書かれているのも見つけました。
 フレデリックはダンブルーズ氏の家に出かけました。ダンブルーズ夫妻は、フレデリックがロザネットを愛人にし(競馬場で一緒にいるところを見かけた)、またアルヌー夫人とも関係があるのではないかと思いこんでおり、彼が約束した日に来なかったことで、アルヌーの事業に手を貸しているのではないかと疑いの目で見てきました。さらに家にはユソネが持ち込んだのであろうフランバール紙が置いてあり、逮捕された男セネカルのことが話題に上がると、フレデリックは彼を擁護してしまいました。このことで、冷ややかな目で見られているのだろうと想像したフレデリックは、ダンブルーズ氏のもとには今後行くまいと心に決めました。皆からの頼みを断り、ダンブルーズ家の出入りもやめてしまったため、孤独になったフレデリックは、デュサルディエに頼んでデローリエと仲直りをしました。
 母からの手紙ではルイーズとの結婚話が出ていました。フレデリックが所有していた北仏鉄道株は下落し、収入が減っており、好条件の結婚が必要になっていました。ルイーズの父、ロックは莫大な財産をもっていました。彼はダンブルーズの資産管理を行っており、氏に代わって投資をして、躊躇せずに差し押さえを行い、その後で抵当財産を買うという、法外のことをしていました。ダンブルーズ氏は自分の財産が順調に管理されてると思い込んでいましたが、法外のことをしていたため、結果としてそれが弱みとなり、ロックの頼みを聞き入れなければならない状況になっていました。ロックは娘のルイーズを伯爵夫人にしたがっていたし、ルイーズもフレデリックのことを愛していたため、フレデリックとの結婚を熱望していました。それでダンブルーズ氏にフレデリックが好条件の職にありつくことを頼んでいたのでした。
 デローリエはフレデリックからアルヌーへの借金取り立て状の委任状を持っていました。これを持ってアルヌー家に出向き、夫人にデローリエ博士と名乗り、フレデリックが金を催促する気であると伝えました。彼は夫人を誘惑して失敗し、フレデリックが近々結婚すると伝えました。このことで、夫人はフレデリックに恋をしていることを自覚しました。

 フレデリックは実家に戻り、ルイーズと結婚の約束をしました。
 しかし、フレデリックがアルヌー夫人に想いを寄せていることを知らないルイーズは、アルヌーの店で黒人の彩色立像を買ってくるよう、フレデリックに頼んでいました。
 パリに戻ったフレデリックのもとへ、ヴァトナーズが訪れて来て、ロザネットが会いたがっていることを伝えました。翌日、フレデリックはロザネットに会いに行きました。彼女は自分のためにフレデリックが決闘したと思い込んでいて、いくらかの好意を寄せてきましたが、フレデリックはそっけなく別れました。
 フレデリックはアルヌー夫人には会わないよう召使いに黒人像を買いに行かせ、ルイーズヘ送りました。しかし翌日デローリエの家に向かう途中で夫人とばったり会ってしまい、言いようのない幸福に包まれました。
 セネカルは証拠不十分で釈放されており、出所祝いをデュサルディエの家で行いました。フレデリックは、ロザネットの絵のことを根に持っていたため、その場でペルランを批判しました。しかし、デローリエとデュサルディエは、それを諌めて、絵を買うようにすすめ、結局フレデリックは絵を買うこととなりました。
 ルイーズに送った黒人像は間違っていて、結局アルヌーの店に足を運ぶこととなり、フレデリックは夫人と会いました。フレデリックは夫人に想いをぶつけ、キスをしました。その後夫人が別荘へ行っても、フレデリックは度々そこを訪れました。二人は一線を越えることはありませんでしたが、互いに愛し合い、幸福に身を委ねました。夫人はパリに戻ると、二人は恋心に苦しむようになりました。
 とうとうフレデリックは夫人を連れ込むために家を借り、誘い出しました。その日は改革宴会の暴動の日でした。しかし夫人の息子ウージェーヌが病気になり、夫人は自分の恋愛がウージェーヌの病気を呼び込んだと思い、恋愛を神に捧げ、フレデリックと会うのをやめました。
 翌日、夫人と会えなかったフレデリックは、ロザネットの家に行って一緒に過ごし、夫人のために借りた部屋に連れ込みました。ロザネットが目を覚ますと、フレデリックは枕に顔を埋めて泣いていました。ロザネットがどうしたのか聴くと、幸せすぎるからさと答えました。

第三部

 騒乱の中、フレデリックは外に出ました。動乱のパリを、ユソネ、アルヌー、デュサルディエらが懸命に働いているのに会い、フレデリックも血が騒ぎ、熱狂した民衆に惹きつけられるのを感じました。デローリエは地方委員に任命されて出発しました。
 フレデリックは共和政になったパリを、ロザネットと練り歩きました。ペルラン、ルジャンバール、ヴァトナーズ、ロザネットらは、新体制のもと各々の目的のために動き始めました。
 堅牢な王政の元、財産をなしたダンブルーズ氏は新体制を恐れ、フレデリックの書いた記事を読み、力になってくれそうだったので、今回の革命を支持するふりをしながら四月の憲法制定国民議会の選挙に出馬するように勧めました。フレデリックは演説の原稿を書き、ダンブルーズ氏に見せに行きました。原稿は予想よりも民衆寄りだったので、ダンブルーズ氏は不安を覚えました。フレデリックは、美貌を生かして出馬することにしたデルマールとともに、あらゆる政治的なクラブに出入りしました。クラブではデルマールは多く演説を行いましたが、フレデリックは皆が敵意があるか無教養に思えて演説を躊躇しました。デュサルディエが知識人クラブというのを探してくれ、フレデリックはやっと演説を行いましたが、貴族側の人間だと非難され、傷ついてクラブを抜け出しました。

 ある日、フレデリックはロザネットの家の前で国民衛兵の任務に就いていたアルヌーと鉢合わせました。アルヌーは用事があると言って一日フレデリックに歩哨を頼み、ロザネットと一緒に過ごし、その後歩哨へ戻りました。眠っているアルヌーが持っている銃を見て、フレデリックは引き金を引くだけで恋敵でもあるアルヌーが死んでしまうことを考えました。
 フレデリックはロザネットにアルヌーか自分どちらかを選ばせ、ロザネットはアルヌーのことは愛してないと答えました。そこでフレデリックは旅行を提案し、気まぐれなロザネットはそれについてきました。二人は各地を旅し、幸福な時を過ごしました。ロザネットは自分のことを語り始めました。十五歳のときに、何もかもを売り飛ばして飲みに行ってしまう母親に売られ、ある紳士と関係を持つこととなり、その後、ある男に救い出されたようです。その男は誰かは、ロザネットは言いませんでした。アルヌーとは、ヴァトナーズの紹介で出会いました。今は二十九歳だと言います。
 ある日新聞で、故障者リストにデュサルディエが載っているのを見つけ、フレデリックはパリに帰ろうとしました。ロザネットは騒乱のパリに行くのを嫌がったため、フレデリックは財布をわたし、一人でパリに向かいました。なんとか六月蜂起で破壊されたパリに戻り、デュサルディエと会いました。デュサルディエはヴァトナーズに看病されていました。ルイーズとロックも、フレデリックに会うためにパリに来ていました。
 暴動が終わると、フレデリックはアルヌー夫妻と会い、夫人に対する恋心が再び芽生えました。しかし恋心を忘れようとしていた夫人からはそっけない対応をされました。フレデリックと結婚の約束をしていたルイーズは、自分が帰郷する前にプロポーズをしてくれと頼みましたが、結婚をしたくないフレデリックはまだ時期が早すぎると理由をつけました。そのうちに、フレデリックがロザネットの家で毎日を過ごしているとルイーズは知り、泣き崩れました。
 フレデリックとロザネットは蜜月となりました。一方、アルヌーは、商売も家庭もうまくいかず、夫婦間は冷めきっていました。フレデリックが以前のように来なくなって生活習慣も乱れたため、以前のように訪ねてくるようにアルヌーは頼んできました。フレデリックがしぶしぶアルヌー家に行くと、夫人だけが家にいました。二人はまだお互いに愛し合っていることを確認し、幸せな時を過ごしました。ところがヴァトナーズから借金を取り立てられたロザネットが、金を工面しようとアルヌーのもとに駆け付けてきたため、フレデリックは彼女と一緒に帰るしかなくなりました。怒りを覚えたフレデリックが拳を振り上げようとすると、ロザネットは自分が妊娠していることを告げました。
 妊娠したロザネットは、フレデリックに一生身をまかせることを決意していたようでした。しかし、趣味が悪く、怠け者で、女中に金を借りることもあるロザネットの欠点がフレデリックの目に付くようになりました。一方、ダンブルーズ氏の妻、ダンブルーズ夫人にフレデリックは惹かれていきました。夫人の魅力はその洗練された趣味と話術の中にありました。フレデリックは夫人を通いつめ、不倫関係になることに成功しました。
 ダンブルーズ夫人とフレデリックの関係は半ば公認となり、フレデリックは社交界に出入りするようになりました。官能面でアルヌー夫人やロザネットに劣っていたため、フレデリックはまもなくその恋から冷めて行きましたが、社交界でのし上がるために関係を続けました。
 ダンブルーズ氏は、石炭事業の活性化のため、会社を統合することを目指していました。しかし、世間が独占だと騒ぎ立てるため、対策を必要としていました。デローリエはそれは団体の原則そのものの侵害にあたると主張すれば良いと助言し、ダンブルーズ氏に期待を寄せられました。
 デローリエは連絡を待っていましたが、ダンブルーズ氏は病気になり、そのまま死んでしまいました。ダンブルーズ夫人は一人になっても、全く悲しむ様子はなく、むしろ自分が耐えてきたことを滔々とまくしてました。ダンブルーズ氏が死ぬ前に全財産を渡すと言う遺言書を書かせていたため、夫人には莫大な財産が残されました。夫人はフレデリックに結婚を申し出ました。フレデリックは金のために、それを承諾しましたが、ダンブルーズ氏に対する罪悪感のため、自分が通夜を行うと申し出ました。
 翌日、ダンブルーズ夫人は破産していました。結婚してから五年後に夫が連れてきた隠し子で、姪ということになっていたセシルに全財産を遺贈する遺言書を、夫は結婚前に書いていたのでした。ダンブルーズ夫人が書かせた遺言書は、氏が燃やしてしまったのか、なくなっていました。フレデリックにはそれでもまだ贅沢な暮らしができそうでしたが、一抹の失望を覚えずにはいられませんでした。
 ロザネットは出産しました。そのためフレデリックは数日間ロザネットにつきそうことにしました。デローリエから手紙が届き、保守派と革新派の候補者が名乗りを上げたため、フレデリックは活動するのが遅く、選挙での勝ち目はないことを伝えてきました。
 フレデリックは夜はロザネットのところへ、午後はダンブルーズ夫人のところへ泊まる二重生活を送りました。子どもは田舎にあずけて、毎週ロザネットとともに会いに行きました。アルヌー夫人のことを心の奥底では忘れられないまま、二重生活で得られる快楽に没頭していきました。ダンブルーズ夫人はフレデリックを常にそばに起きたがりましたが、使用人や貧民を蔑む態度がフレデリックの目につくようになっていきました。
 ロザネットは結婚を夢見ているようでした。フレデリックは厄介払いをしたくなっていましたが、誰が彼女の愛人であったのか、詮索せずにはいられず、嫉妬めいた感情に悩まされ続け、憎しみを覚えました。
 ロザネットはヴァトナーズより借用した四千フランの支払いを命じられ、果たされない場合は翌日差し押さえるとの支払い命令を受け取りました。ヴァトナーズがデュサルディエと結婚を夢見ており、ロザネットに貸した金を取り戻そうとしたのでした。デュサルディエはヴァトナーズを愛しておらず、浅ましい行動に嫌気がさしていたようでした。ロザネットはアルヌーに貸した金をとりもどすよう、フレデリックに言いました。フレデリックはアルヌーの家をルジャンバールから聞いて訪ねました。アルヌーは宗教に走ってロザリオの店を始めていましたが、卒中を起こしてみすぼらしくなっていました。フレデリックはアルヌー夫人の姿を見て引き返しました。
 ロザネットはアルヌー相手に訴訟を起こすも負けてしまいました。しかし、ロザネットはアルヌーが経営していた陶土会社の株を持っていたので、詐欺倒産の罪に問うことができるかもしれないとデローリエは言い、ロザネットはこの訴訟に勝ちました。デローリエはロック氏のところへ取り入り、フレデリックは子どもがいて、卑しい女を囲っているとそれとなく伝えました。ルイーズもモロー夫人もこれを聞いて怒りました。
 フレデリックとロザネットの子どもが突然病気になり死んだため、二人は肖像をペルランに書かせました。ペルランによると、アルヌーがルジャンバールの友達のミニョーという男に訴えられ、一万二千フランの大金を用意しないと刑務所に入るといいます。そのため、アルヌー一家はル・アーブルの方面に逃げるようです。フレデリックはそれを聞いて家を飛び出しました。
 フレデリックはダンブルーズ夫人に、デュサルディエが盗みをしたと嘘をついて、一万二千フランを受け取りアルヌーの家に行きましたが、夫妻は留守でした。ある新聞の株を持っているミニョーに、次の株主総会で民主主義の観点から経営者と編集者を一新するために、株を譲り受けたいと申し出て、その株をすぐに金に換え、宗教道具の店の売り物を仕入れたことでアルヌーは訴えられていました。夫妻はもうパリを離れた後だといいます。フレデリックは子どもの遺体がある前で、アルヌー夫人に会えない悲しみにくれました。
 ダンブルーズ夫人は、フレデリックが金を無心した本当の原因を耳に入れると、アルヌー夫人の署名がある不渡り手形を自分の書類の中から見つけ、フレデリックには自分が真実を知ったと打ち明けず、デローリエを紹介させて、姪のセシルのために償還できる債権は清算してやりたいと言い、その協力をたのみました。デローリエは書類の中からアルヌー夫人の署名がある手形を見つけ、以前夫人から受けた侮辱を思い出し、復讐してやろうとして、回収不能の債権を競売に出すようにダンブルーズ夫人に勧めました。
 フレデリックがアルヌー夫人の家の前を通ると、アルヌー家の持ち物が競売に出されているという貼り紙を見つけました。競売吏に聞いたところ、債権者の名は言いませんでしたが、デローリエの秘書となっているセネカルが代理人をつとめていることがわかりました。
フレデリックはこれをロザネットが仕組んだことだと思い込み、ロザネットのもとを去り、ダンブルーズ夫人と結婚することを決意しました。
アルヌー家のものが競売に出される日、ダンブルーズ夫人はフレデリックをわざと競売場をのぞいてみようと言い、中に入りました。ダンブルーズ夫人はフレデリックとアルヌー夫人が話し込んでいるときによく見ていた思い出の小箱を高値で落札し、当てこすりをしました。ダンブルーズ夫人が仕組んだことを見破ったフレデリックは、帰りの馬車に一緒に乗り込まず、夫人のもとも去りました。
翌日、ルイ・ナポレオンがクーデターを起こし、パリ市内は軍が制圧しました。しかし、そのようなことは傷ついたフレデリックにはどうでもよくなっていました。人々が憎しみ合うパリが嫌になり、故郷ヘ帰る途中ルイーズへの想いが膨らみましたが、知事となったデローリエとルイーズが結婚しているのを見てしまい、再びパリへ帰ることになりました。

 フレデリックは旅に出ました。そして旅から戻ると社交界に出入りし、新たな恋愛も経験しましたが、アルヌー夫人の思い出が蘇って、どの恋も味気ないものに思え、欲望も野心もなくなりました。

 そのまま数年が経ち、一八六七年になって突然、書斎にアルヌー夫人が入ってきました。夫婦はブルターニュ地方の辺地に住み、借金を返すために慎ましく暮らしていました。アルヌーは病気がちになり老け込んだと言います。娘は結婚してボルドーにおり、息子はモスタガネムの駐屯部隊に入っているようです。夫人の髪は白くなっていました。
 二人は愛し合っていたこと、今なお愛し合っていることを語り合いました。しかしついに夫人が身をまかせるつもりはなく、フレデリックもそれを察して、激しい欲望を感じるも、踏みとどまりました。夫人は髪の毛のひと房を切り、フレデリックに渡しました。

 数年後、財産を食いつぶしながら慎ましく暮らしているフレデリックは、デローリエと和解し、皆の近況を語り合いました。
 二人は過去を語り合い、一八三七年に、娼家へトルコの女を買いに行き、結局恐れをなして逃げ出した頃の話をして、あの頃が一番良かったと言いました。