フローベール『ボヴァリー夫人』の詳しいあらすじ

フローベール作『ボヴァリー夫人』の詳しいあらすじを紹介するページです。ネタバレ内容を含みますので、ストーリー確認用としてお使いください。


ボヴァリー夫人(字幕版)

※簡単なあらすじはこちら(『ボヴァリー夫人』トップ)

※『ボヴァリー夫人』の登場人物紹介はこちら

※目次を開くとネタバレします!

第一部

シャルル・ボヴァリーの生い立ち

 軍医補の息子として生まれたシャルル・ボヴァリーは、自分を偏愛する母親の手引きによって、司祭の教育を受け、ルーアンの学校を経て医学の大学に進みました。一度放蕩に手を出しましたが、医学試験に一度落ちたことをきっかけに、まじめに勉強して医者になり、トストでの開業に漕ぎつけました。
 母はシャルルのために妻エロイーズを見つけてやりました。四十五歳の未亡人であったエロイーズは、結婚するとシャルルを自分の支配下に置き、シャルルの母と一緒になって、意見や小言を言い続けました。

 ある夜シャルルは、足を骨折したルオーという裕福な百姓に呼び出され、治療に当たりました。ルオーの娘エマはシャルルの治療を手伝いました。
 シャルルはエマに惹かれ、度々訪ねるようになりました。するとエロイーズは、エマのことを調べ上げ、嫉妬するようになりました。妻にうるさく言われたため、シャルルはエマのところへ通うのをやめました。
 ある日、エロイーズの財産管理をしている男が、その財産をさらって姿を消しました。これがきっかけとなり、エロイーズには財産がほとんどないばかりか、実家は抵当で縛られていたことが明らかになりました。シャルルの両親と口論になったエロイーズは倒れ、死んでしまいました。

 足の治療費を持ってきたルオーが、シャルルのことを慰め、自分の家に来るように勧めました。妻がいない生活に慣れ、エマと話す機会が増えると、シャルルはエマに再び惹かれました。彼はルオーに自分の想いを打ち明け、エマと結婚の約束を交わしました。

シャルルとエマの結婚

 喪が明けるのを待ち、二人は盛大な結婚式を挙げ、新しい生活を始めました。シャルルは幸福でした。
 一方、結婚前からまだ見ぬ恋に想いを馳せていたエマは、その恋から来るはずの幸福が来ないので、自分は結婚を間違ったのだと思いました。彼女は十三歳の頃から修道院の塾で教育を受けていましたが、小説や音楽を好み、それらを善しとしない修道院の規律に肌が合わないと感じていました。修道院を出ると父親の元に戻り、世の中にはなにも新しく感じることはないと幻滅していたところへシャルルが現れ、一時は空想していた情熱が自分のものになったと思い込みました。結婚生活が始まり、彼女は本で読んだ至福や情熱や陶酔がどのような意味を持っているのかを知ろうと努めましたが、これが夢に見ていた幸福だとはどうしても思うことができませんでした。

 夫婦の生活が親しさを増すにつれ、エマの夫に対する心には隔たりができていきました。シャルルの話は平凡で、神秘的なものへの手ほどきをしてくれることはなく、それどころか、彼は妻を幸福だと思い込んでおり、エマはその愚鈍さを恨めしく思いました。エマは家の切り盛りはうまくやっており、シャルルはこのような妻を持ったことで鼻を高くしました。時にシャルルの帰りは遅くなり、一人で過ごすことしかできないエマは、なぜ結婚をしたのだろうと思うようになりました。

 九月の終わり頃、シャルルが口のできものを切開したダンデルヴィリエ侯爵から、舞踏会の招待が届きました。エマは、見たこともない食べ物や、女客たちの衣装に胸をはずませながら、子爵と呼ばれる男と踊りました。
 それ以来、エマは舞踏会の追憶を習慣にして日々を過ごし、子爵のいるパリに想いを馳せました。彼女は心の奥底で「何か」を待ちながら、夫人新聞や雑誌を購読し、芝居や競馬、夜会、舞台といった流行を追い、色々と洒落たことをして夫を喜ばせましたが、シャルルが全く野心を持っていないことには苛立ちを覚えました。
 しかし舞踏会から一年が経っても、手紙も人の訪れもないと、エマは音楽もやめ、料理にもこだわらなくなりました。彼女は気まぐれで気難しくなり、田舎の人々を軽蔑し、不道徳なことを良しとするようになりました。
 妻が無気力な状態になり、神経性の病気と診断されると、シャルルは四年間住んだトストを離れ、ヌーシャテル郡のヨンヴィル・ラベーという村に行く決心をしました。トストを発つ時、エマは妊娠していました。

第二部

エマとレオンのプラトニックな恋

 シャルルとエマはヨンヴィルに着くと、旅館『金獅子』へと入りました。
 『金獅子』では、医師であるシャルルに挨拶をするために、薬剤師オメーが女将のルフランソワとともに二人を迎えました。一向は、『金獅子』の常連レオンを呼び、親交を深めました。
 レオンは文学について饒舌に語りました。彼は普段から内気で、婦人相手に二時間も語り合ったことがなく、自分がなぜあれほどエマを相手に上手に話すことができたのかを不思議に感じました。
 オメーは免許がないのに医業を行なっており、シャルルにそれを気付かれても密告されないようにするため、隣人として親切に接しました。

 エマは自分の希望に反して、女の子を生みました。子供はベルトと名付けられました。

 ある日、エマは里子に出している娘に会いに行く途中でレオンと会ったため、自分に同行させました。二人は何気ない会話を楽しみながらも、もっと深い、魂の囁きのようなものを交わしたいという欲望に囚われました。
 レオンは退屈な田舎暮らしの中で、エマのことを思い浮かべることが多くなり、頻繁に訪ねてくるようになりました。
 エマとレオンはお互いに贈り物を与え、オメーとシャルルがトランプ遊びに疲れて眠ると、低い声で囁きあいました。
 レオンは自分の気持ちをどのように打ち明けようか心を砕いていましたが、なかなか決心がつきませんでした。エマは、自分がレオンのことを愛していることにまだ気づいてはいませんでしたが、レオンが自分のことを愛していることに思い当たり、胸が踊りました。
 しかし、エマは敢えてレオンにそっけない態度をとり、家事に専念し、教会に出かけ、女中には厳格になり、里子に出していたベルトを引き取りました。しかし、周囲から身持ちの良さを褒められても、彼女の心の中は苦痛と憎悪に満ちていました。彼女はレオンを愛しており、彼の面影を一人で描いて楽しむために孤独を求めていました。町の司祭ブールニジアンを訪れても、彼女の心が晴れることはありませんでした。エマは自分の憎しみの原因を夫のせいにしました。

 レオンは、貞淑に見えるエマに近づくのが不可能なことのように思え、張り合いのないこの恋を諦めようとして、以前から予定していたパリ行きを決意しました。別れの日、二人は手を握り合うことしかできませんでした。

 翌日からエマは、二度と帰ることのないレオンを想い、悲しみに浸りました。彼女はレオンの思い出に浸ることが生活の中心になり、なぜ彼を愛さなかったのかという後悔に襲われました。
 しかし、時間が経つとその想いも少しずつ消えて行き、彼女は不幸で退屈な日々を過ごすようになりました。イタリア語の勉強や読書を行なってもすぐ辞めてしまい、たまにヒステリックな発作を起こしてシャルルを心配させました。シャルルの母は、エマが宗教を疎かにしていることに苦言を呈し、エマに小説を読ませるのをやめさせるよう、シャルルに助言しました。

ロドルフの誘惑

 ある日、ヨンヴィル近くに土地を持つロドルフ・ブーランジェという裕福な独身男が、体中がムズムズするので血を取ってほしいという農場の男を連れてシャルルを訪れました。シャルルはその男に瀉血を施し、ロドルフと言葉を交わしました。
 ロドルフはエマの外貌に惹かれました。彼はエマのような美しい女が、シャルルのような男に退屈しないはずがないと思い、自分のものにしようと企みました。もうすぐ行われる農業共進会は、エマと近づく絶好の機会でした。

 農業共進会で、ロドルフはエマに話しかけました。彼は田舎に住らしの窒息するような生活について語り、自分の生活に愛情がないことを嘆きました。
 ロドルフは、誰もいない役場の二階の会議室へエマを連れて行くと、世間の道徳を非難し、その世間がどれだけ邪魔をしようと、結びつくべき魂同士はいつか惹かれ合うであろうと言ってエマを口説きました。エマはロドルフに手を握られても、その手を引っ込めることはしませんでした。

 ロドルフは、エマの気持ちを焦らすために、六週間待ってから訪れました。エマが顔色を変えたのを見て、彼は自分の企みが的中したことを感じました。ロドルフが愛の言葉を囁くと、エマはすすり泣きました。
 シャルルが家に帰ると、ロドルフはエマの健康のために乗馬を勧めました。ロドルフの企みに気づかないシャルルは、エマが乗馬に行くことに賛成し、乗馬服を仕立ててやりました。

 翌日、ロドルフは馬に乗ってエマを迎えに来ました。二人は出発し、ロドルフは馬を降りると、エマを森の中を歩かせ、若木が切り倒してある広い場所へと連れて行きました。
 二人は切り倒された幹の上に腰掛けると、再びロドルフはエマに愛を告げました。
 エマは抵抗していたものの、次第にロドルフの抱擁に身をまかせるようになりました。
 エマがヨンヴィルに帰ると、何も知らないシャルルは、ロドルフの勧めに従って、二人が逢引きに使うこととなる馬を購入しました。その夜、エマは自分に恋人があるということに幸福を感じました。

 翌日、二人は森の中の小屋で愛を誓い合いました。エマは、シャルルが家を出た後で、川沿いの崖を歩きながらロドルフの家へと忍んで行くようになりました。
 ロドルフは週三、四回、遅くなってからエマの家を訪れ、二人は夜の闇に紛れたり、シャルルの診察室に閉じこもって逢瀬を重ねました。
 ロドルフは、始めのうちは喜んでエマを迎えていたものの、愛されているという確信を持つと冷淡になり、度々やってくるエマの不用心を指摘するようになりました。
 エマもまた世間の目が心配になっていましたが、ロドルフが冷淡になるほど、ますます強く愛するようになりました。彼女は恋に敗北したということに屈辱を感じ、征服されていることを恐れ、愛情よりも快楽への誘惑に落ちているだけとなりました。

 父親からの愛情のこもった手紙を読んだエマは、遠い昔の楽しかったことを思い出し、なにが自分を不幸にしているのか考え始めました。彼女はベルトのことを執拗に可愛がり、ロドルフに対してもまじめに接するようになりました。ロドルフは、エマがため息をついたり、涙を拭いていることに気づかないふりをしました。
 エマは後悔し始め、自分がもしシャルルを愛すことができたのであれば、この悩みから解放されるのではないかと考え始めました。
 そのような時、オメーは、足の歪みの治療に関する記事を読み、シャルルにその手術を取り入れるように勧めました。夫が名声を得てくれることを願っていたエマもそれに賛成し、シャルルはその気になりました。最初の患者として選ばれたのは、金獅子の馬丁で、足の不自由なイポリットでした。
 手術が終わった夜、夫婦の会話ははずみました。エマは再びシャルルに愛情を感じ始めたように思いました。
 五日後、イポリットが足の痛みに苦しんでいるという知らせが入りました。シャルルはイポリットの元に向かい、手術のときにつけた器具を外すと、足は壊疽を起こしていました。
 有名なヌーシャテルのカニヴェ先生によって、イポリットの足は切断されました。シャルルは家から一歩も出る勇気がなく、今後、方々から攻撃されるであろうことを恐れました。
 エマはそのような夫が腹立たしくて仕方なく、この男を愛そうと努めたことを馬鹿馬鹿しく感じました。エマはシャルルのキスを拒み、その夜ロドルフが庭にやってきたとき、二人はしっかりと抱き合いました。
 彼らは再び愛し始めました。夫への嫌悪のため、エマの愛情はますます強くなり、ロドルフに二人で暮らすことを求めたり、他の女を愛したことがあるということに嫉妬したりするようになりました。
 エマとシャルルは、イポリットに義足を送りました。義足の注文を受けたのは、この村の商人ルウルーでした。それからルウルーは頻繁にエマのところへ足を運ぶようになり、エマはつけで婦人用の品を買いあさるようになりました。
 エマの態度は一変し、シャルルの母親とも対立するようになりました。ある日二人は激しく喧嘩し、エマはロドルフに自分を連れ出してほしいと頼み、駆け落ちを約束させました。
 約束の日の前々日の夜、エマはロドルフに永遠の愛を誓いました。しかし、ロドルフは、駆け落ちによって生じる色々な面倒や費用を被るのは御免だと考え、エマのためを思っているという体裁で手紙を書き、遠いルーアンへ一人で逃げてしまいました。
 その手紙を読んだエマは、混乱して気を失い、そのまま脳炎を起こしてしまいました。シャルルは自分の患者を診ずに必死の看病を行いました。
 エマは家の中に引きこもりました。死にかけた時に受けた聖体拝領で、自分の存在が神様の方へ近づいたような感覚を抱いたことから信仰にすがるようになり、極端な慈善に専心し、貧しい人たちに食べ物を与え、ベルトを乳母から呼び戻しました。しかしそのうちに、彼女はいっさいのことに無関心になりました。
オメーは、そのようなエマに芝居見物を勧め、立場上、芝居を悪いものとみなさなければならないブールニジアン司祭と対立しました。
 芝居が妻の気晴らしにも良いと考えたシャルルは、エマを連れてルーアンへと旅立ちました。

レオンとの再会

 ルーアンに着いた夫婦は、芝居を見始めました。エマは人気俳優の甘美な声に胸がいっぱいになり、身を乗り出して芝居を見物しました。彼女は芝居中の人物に自分を照らし合わせ、叶うことのなかった夢や、自分が愚かしくも自分から飛び込んでいった結婚について考えました。シャルルは話の筋が理解できず、エマに煩がられました。
 芝居が終わり、ぐったりとしたエマに水を運ぼうとしたシャルルは、レオンとばったり会いました。
 レオンが夫婦の元へやってくると、エマはもう芝居に意識を集中することができなくなりました。
 三人は芝居を途中で退席しました。レオンはノルマンディーで扱う事務に慣れるため、二年ほどある大きな法律事務所で勉強しにルーアンに来ているようでした。
 シャルルは、もしエマが途中で退席した芝居の後を見たいのであれば、ルーアンに残っても良いと言って、一人で帰って行きました。

第三部

レオンとの不倫

 レオンはエマのことを忘れていましたが、三年ぶり会うと情熱を取り戻しました。彼は夫妻と別れてから後をつけ、エマが泊まっている宿を突き止めました。
その翌日、レオンは一人になったエマを訪ねました。二人はなかなか核心に迫った話をしませんでしたが、とうとうレオンはエマを愛していたことを告げました。
 エマはレオンのことをやさしく押しのけ、芝居に行こうとしました。レオンはもう一度だけ話をする機会を与えて欲しいと懇願し、翌日の十一時に大聖堂で待ち合わせる約束を取り付けました。
 翌日、エマはレオンと会うと、貞節を守ろうとする気持ちにすがるように、聖堂に向かって祈りを捧げ、時間を稼ぎました。苛立ったレオンはエマを馬車に押し込み、あてもなく馬を走らせるように御者に命じました。二人は町中のあらゆる場所に行き、六時ごろ、エマは一人で馬車を降りました。

 それからエマは、様々な理由をつけて、レオンのいるルーアンへと滞在するようになりました。
 毎週木曜日は、ピアノを習いに行く許可をシャルルが与えたため、エマはルーアンのピアノ教師に支払った受領書を偽造し、朝早くから馬車に乗り込んで街へと繰り出し、レオンと待ち合わせました。二人はお気に入りのホテルに滞在し、蜜月の時を過ごしました。
 レオンはエマの愛らしさに欲望を呼び覚まされました。二人はいつも別れを惜しみ、次の木曜日に会う約束を交わしました。エマは家に帰ると、娘にキスもせず、寝床へ入りました。
 次第にエマは嘘をつくことが癖となり、欲求となり、快楽となっていきました。

借金の返済に追われるエマ

 エマの不倫現場を目撃したルウルーは、これまでつけで渡してきた商品に対する支払いを要求し始めました。エマは、ルウルーに言われるがまま、ある土地に所有している家を売り、一部を返しましたが、膨らんだ借金はそれでも追いつきませんでした。
 支払いに困ったシャルルは、母親に助けを求めました。母親はエマの贅沢に小言を並べたて、エマと喧嘩になりました。
 家の不満を募らせていったエマは、レオンに会うと激しく感情を溢れさせ、夜も家に帰らなくなりました。レオンに対しては、仕事中であろうと呼び出し、一緒にいない間に何をしていたかを逐一報告させました。
 レオンは、エマを恐れるようになりましたが、それと同時に更なる魅力を感じ、まるで自分が情婦であるかのように、エマの言いなりになっていきました。

 ある日レオンがオメーとの付き合いを断り切れず、エマと会えないことがありました。エマは怒り心頭でレオンの臆病さを呪い、それ以来、エマの情熱は薄らいでいきました。しかしその情熱を再び燃え上がらせようとするかのように、彼女はますます貪婪になり、それと同時にますます不幸になりました。
 ある日、エマに借金の取り立ての手紙が届きました。それはルウルーが、土地での評判を下げたくないために、手形を他人の手に渡さないという約束を破って、銀行業者の友人ヴァンサールに譲渡して訴えてもらったものでした。

 エマはルウルーのもとへ駆けつけ、殴りたい衝動にかられながらも、どうにかしてほしいと懇願しました。ルウルーは、かつてエマが売った土地の残金が入り次第支払うという約束を取り付け、さらにレースを一個、後払いで売りつけました。
 エマはシャルルの患者に請求書を書き、ひどい駆け引きをして家の古い品を売り払い、誰彼かまわず金を借り、レオンを質屋に出入りさせました。
 レオンは、そのようなエマに辟易としました。その頃、レオンの母親のところに、息子が家庭を持つ女のために身を持ち崩しかけているという匿名の手紙が届き、彼はエマと手を切ることを決意しました。
 エマもまたレオンに嫌気がさしていましたが、別れを決意することもできず、別の男の幻影を追うようになり、その男との激しい恋の想像により、すっかり疲労するようになりました。
 エマはとうとう差し押さえの書類を受け取りました。再びルウルーのところに駆けつけても、大目に見られることはありませんでした。
 エマはシャルルに知られないように外出させ、差し押さえの調書作成に立ち会い、その翌日、知っている金貸し業者を片端から訪ねまわりました。
 レオンも仕方なくエマに協力しましたが、金を作ることはできませんでした。エマは金を得るため、レオンに事務所で不正を働かせようとすらし始めました。

 エマは金を得るために村中を奔走し、公証人のギヨーマンには体を要求されて逃げ出し、『金獅子』の常連であったビネには逃げられました。最後の手段として彼女が選んだのは、かつての恋人ロドルフのところでした。ギヨーマンに断った体を売るという行為を、彼女はロドルフに対して行う覚悟でした。
 ロドルフは、三年ぶりに訪れてきたエマを見て、忘れかけていた愛を思い出しました。しかしエマが金の話を持ち出した途端に愛情が覚め、金は持っていないと言い放ちました。
 最後の望みを絶たれたエマは悪態をつきながら出ていき、半狂乱のようになってオメーの家に行き、薬の倉庫の中にある砒素を手でつかみ出して食べ始めました。

 エマは家に帰り、心配していたシャルルに自分の書いた手紙を読むようにと言って、寝床に入りました。
 ほどなくエマの体に毒が回り始めました。シャルルは混乱しながら高名な医師を呼びましたが、毒は既に体中を冒しており、エマは死を待つだけとなりました。
 ブールニジアン司祭がやってきて、エマにキリスト像を渡し、塗油を始めました。エマはキリスト像に熱烈な接吻をして、晴れ晴れとした表情を浮かべ、鏡で自分の顔をのぞいて涙を流し、頭を枕の上にがくりと倒しました。

 突然、かつてオメーが瘰癧を治してやると約束した盲人の白痴の乞食が、その約束を果たしてもらいに、歌いながら歩道を歩いてくる音が聞こえ始めました。
 その乞食を知っていたエマは「盲人!」と叫び、乞食の醜悪な顔が、地獄の永遠の闇に立っているかのように感じました。彼女は不気味に、絶望的に笑いながら痙攣し、息果てました。

エマの死後

 オメーは、エマの死の真相をくらますため、エマが砒素と砂糖を間違えたという嘘をヨンヴィル中の人に話しました。
 シャルルは死んだ妻の上に身を投げかけて泣き、葬式を一度拒否し、ブールニジアンが説く「偉大な神」を大声で罵りました。弔問では不気味な好奇心にかられてエマのヴェールを剥がし、恐ろしくなって叫び声を上げ、葬式ではエマと同じ墓穴に入ろうとして、皆に止められました。

 その後もシャルルは、エマの形見を処分しないばかりか、エマが好きな品物を買い、エマが喜ぶような服装を着て過ごしました。そのため彼は、村の皆や母親から見放され、ベルトを溺愛することに執着するようになりました。エマが作った借金がなくなることはありませんでした。

 ある日、シャルルはエマが使っていた紫檀机の扉をあけ、中からレオンやロドルフの手紙を見つけ、一切を知りました。彼は狂人のようになり、外出せず、客にも会わず、診察も断りました。髭は伸び放題でみすぼらしい格好をして、歩きながら声を上げて泣いているのが目撃されました。

 シャルルは最後の金策で馬を売りに出かけると、偶然ロドルフに会いました。ロドルフは始め青くなりましたが、そのうち大胆に厚かましくなり、シャルルを飲みに誘いました。シャルルは怒りのこもった目でロドルフを見ましたが、すぐに悲しげな倦怠の表情へと戻り、「あなたを恨んではいません。」「運命の罪です。」と言いました。
 ロドルフは、シャルルのこのような言葉を卑屈に感じました。

 翌日、シャルルはベンチに腰掛けながら死んでいるところを、ベルトによって発見されました。遺体はカニヴェ先生によって解剖されましたが、何も見つかりませんでした。

 オメーに約束を反故にされた盲人の乞食は、住処に帰り、オメーの薬は効かないと吹聴しました。オメーは、ある事件をその盲人のせいにして新聞に寄稿し、盲人を拘留させました。これをきっかけに、オメーは様々な著作を残し、事業にのめり込み、反宗教主義者として危険な人物になりました。彼は野心に苦しめられるようになり、様々な権力者にすり寄りました。その結果、彼は有力者となり、世論にも味方され、最近レジオン・ドヌール勲章をもらうことに成功しました。