ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』の詳しいあらすじ

ヘルマン・ヘッセ作『車輪の下』の章ごとの詳しいあらすじを紹介するページです。

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第一章

 ハンス・ギーベンラートは、古くて小さな町の歴史の中でも最も聡明な子供でした。
 仲介人で代理店の店主である父親のヨーゼフ・ギーベンラートは平凡な人間で、母親はだいぶ前に死んでいました。
 この小さな町で成績優秀な子供は、州の試験を受けて神学校にはいり、大学に進んで、牧師か教師になっていました。ハンスもまたこの道に進むことを期待されました。ハンスはもともとウサギを飼い、小さい水車を作り、友達のアウグストと遊び、筏で川を下る活発な子供でしたが、神学校に入るために、遊びをやめて猛勉強をしました。
 試験の前日、ハンスはこの町に住む靴屋のフライクおじさんに会いました。フライクおじさんは、もし試験に落ちても恥ではないとハンスに伝えました。
 この町の牧師は、ハンスが落第することなどありえないと言い切りました。

 父親と二人でシュツットガルトに着き、おばさんの家に宿をとりましたが、慣れない都会生活や、おばさんのおしゃべりで、ハンスはなかなか休息をとることができませんでした。
 試験が始まりました。ハンスは初日のラテン語は簡単に思えたものの、翌日のギリシャ語と口頭試験には失敗しました。三日目の算術と宗教は簡単でした。試験に落ちたと思いながら実家に帰ったハンスでしたが、全体で二番の成績で合格していました。ハンスは「そうだとわかっていたら」「完全に一番になれたのに」と悔しがりました。試験に合格したハンスは皆の一週間前から休暇をもらいました。

第二章

 ハンスは釣りや水浴びを楽しみました。牧師に神学校での生活や勉強について聞き、ギリシャ語で書かれた『ルカによる福音書』の文章を読み書きしました。この神学校での学習の準備により、ハンスはギリシャ語に没頭し、休暇中も休むことなく学習するようになりました。さらに校長先生は数学の勉強をハンスに勧めました。ハンスは数学の勉強には興味を抱けませんでしたが、泳ぎの時間を削って数学を習うこととなりました。校長先生にはホメロスを教わりました。試験に合格してからも勉強を行うハンスを、父親は誇りをもって眺めました。

 宗教を科学的に捉えようとする牧師に反対していたフライクおじさんは、休暇中も休みなく勉強するハンスを心配し、彼のために祈りました。

第三章

 マウルブロンの神学校の寄宿舎に連れられ、ハンスは父親と別れました。
 ハンスはヘラスと呼ばれる部屋に配属され、同部屋のヘルマン・ハイルナー、オットー・ハルトナー、カール・ハーメル、エーミール・ルチウスらを知りました。
 同部屋の仲間のなかでも、ハイルナーは、独自の考えを持ち、周りにあるものごとを全て軽蔑していました。彼は奔放であると同時に、憂鬱な芸術家で、自分の悲しみを楽しむ子供でした。

 ある日ハイルナーはオットー・ヴェンガーという少年と喧嘩しました。ハンスたちにとって泣くというのは最も軽蔑する行為でしたが、ハイルナーは人目を憚らずに泣きました。ハンスが興味深げに彼を観察していると、悲しみに暮れたハイルナーはハンスにキスをしました。それ以来、ハンスとハイルナーは固い友情で結ばれることとなりました。ハイルナーは憂鬱に陥ることがあり、そのたびにハンスが話を聞きました。ハンスはハイルナーが自分を必要としていることに喜びながらも、勉強時間が削られることに困りました。

 ある日、ルチウスが練習するヴァイオリンがあまりに下手だったので、ハイルナーは文句をつけ、楽譜台を蹴飛ばしました。これがきっかけとなってハイルナーは罰として監禁され、それ以来皆から孤立するようになりました。ハンスも皆と同じように振る舞いながら、ハイルナーとの友情を取らなかったことに苦しみました。

 クリスマス休暇が来て、ハンスたちは帰省しました。地元の町のものはハンスの顔色が悪いと指摘しました。

第四章

 ヒンディンガーというヘラスの少年が池に溺れて死にました。ハンスはその死に衝撃を受けました。ハイルナーもまた青ざめた顔をしていましたが、それを見たハンスは、彼に手を差し伸べました。しかし皆から孤立し、ハンスにも裏切られたと思っているハイルナーは、それを拒否しました。ハンスのハイルナーに対する罪の意識は募りました。ハイルナーは病気になり病室に寝かされることになりました。

 ヒンディンガーの葬式後一週間が経ち、ハンスは病室にいるハイルナーを訪れ、仲直りを持ちかけました。ハイルナーはそれを承諾しました。やがてハンスはその友情に溺れ、執着するようになり、勉強もしなくなりました。校長先生にハイルナーとの友情を慎むように言われ、彼は再び勉強を試みましたが、以前のように進ませることはできませんでした。やがてハイルナーが皆との確執をさらに深めるようになったため、ハンスも彼とともに孤立し、校長先生からも冷遇されるようになりました。彼は以前の友人としばしば喧嘩をするようになり、そのたびにやりこめられました。

 ある日の授業中、ハンスは指されたのに席を立たず、そのあとで自分でもなぜそのようなことをしたのか分からないと答えました。彼は神経衰弱と診断され、毎日一時間の散歩を命じられ、ハイルナーがその散歩に同行することは禁止されました。ある夜、ハイルナーは故郷に恋人がおり、この冬その娘とキスをしたことをハンスは知りました。ハンスはハイルナーを勇者のように思い、キスのことを考えました。

 ハイルナーは、禁止されていたハンスの散歩に同行していたため、校長先生と争いになった結果、監禁され、散歩の同行を厳禁されました。それに逆らうため、ハイルナーは神学校を出て、夜は村の畑の藁の中で、昼は森の中で数日を過ごしました。ハンスも彼がどこにいるか知らず、学校中は騒然となりました。ハイルナーが見つかり帰ってくると、彼は皆の英雄になっていました。彼は脱走した罪で放校となりました。ハイルナーはそのまま実家に帰り、ハンスに便りを送ることもなく、そのまま行方知れずとなりました(やがてハイルナーは苦悩の後、立派な人物となったようです)。ハンスはハイルナーが失踪することを事前に知っていたのではないかと疑われ、周りから見放されることとなりました。

第五章

 ハンスは無為に過ごし、成績は下がっていく一方でした。助教授のヴィートリヒだけがハンスに優しく接しました。校長先生はハンスの態度に腹を立てました。心を入れ替えるようにという父親からの手紙を読んでも、ハンスは微笑を浮かべるだけでした。ある日ハンスは落としたチョークをとろうと身をかがめて、そのまま起き上がれなくなりました。医者は休養を命じ、ハンスを実家へ帰しました。

 実家に戻されたハンスは森の中で寝転んで過ごしました。容態は一向に良くならず、昔の知り合いも彼のことをかまわなくなっていきました。ハンスは死ぬことを考え、死ぬための縄をつるす枝を決めました。準備が整うと、心の圧迫が減り、気分がよくなりました。彼は幼い頃の夢想をして過ごしました。

 ハンスが頻繁に思い出していたのは、ギーベンラート家が面していたタカ小路という貧しい通りでした。タカ小路は犯罪の巣窟でもありました。幼いころのハンスは、殺人を犯して懲役を受けていたことのあるロッテ・フローミュラーの話を聞き、町でいちばんの悪がしこい子どもであるフィンケンバイン兄弟のルドルフとエーミールとの友達づきあいを楽しみました。また、片足が短いヘルマン・レヒテンハイルは密猟の名手で、ハンスに釣りを教えました。
 ヘルマン・レヒテンハイルは急熱で死に、フィンケンバイン兄弟とはハンスは喧嘩別れをしました。当時のハンスにとってタカ小路にはおとぎ話や奇跡のような、恐ろしいことが起こる場所でした。近所の皮なめし工場では、リーゼという女におとぎ話を教わりました。これらの少年期に懐かしんだ世界をハンスはよく思い出しました。ハンスはタカ小路と皮なめし工場にも行ってみましたが、子供の頃には戻れないとを感じ、この地域も避けるようになりました。

第六章

 秋になり、林檎を絞る時期がやってくると、ハンスは絞り場に行き、フライクおじさんから林檎の絞り汁をもらいました。そこにはハイルブロンから訪れた、フライクおじさんの姪のエンマが来ていました。エンマは十八、九歳の快活な娘でした。
 フライクおじさんが仕事場に行ったので、ハンスはエンマと二人きりになりました。共にリンゴを絞り、残したリンゴの汁をもらったりするうちに、ハンスはエンマに恋をしました。夜になり、ハンスがフライクおじさんの家の前に行くと、エンマが出てきてキスをし、翌日もまた来るようにと言いました。

 翌日、機械工になっている幼馴染のアウグストに話を聞き、ハンスは機械工になる決意を固めました。彼は夜にはエンマのところへ行き、再びキスをしました。疲労を感じるほどの気持ちの高ぶりを覚えたハンスは、家に帰って明け方を迎え、むせび泣きました。

第七章

 ギーベンラート親子が圧搾機で働く日、ハンスは、エンマが実家に帰ったと知りました。最後に会った時、エンマは自分がいつ旅立つかを知っていて、それを言わずにいたのでした。ハンスはエンマにとって数多い男のうちの一人であったことを知り、恋の苦しみを味わいました。
 ハンスは機械工になり、歯車にヤスリをかける仕事を教わりました。早々に手の皮は剥け、非常な疲れを感じましたが、彼は労働者の美しさと誇りを知ることができました。ハンスはアウグストから、職人仲間との飲みに誘われました。彼は酒を飲み、職人らしい話ができることに愉快な気持ちになりましたが、やがて酔いが回り、不快な気持ちになりました。ハンスは林檎の木の下で横になり、惨めな気持ちになり、漠然とした恥や自責の念を感じて泣きました。一時間後、やっとの思いで歩き出したハンスは、川に落ちました。夕食に帰ってこなかったハンスに父親は怒り、家の錠を下ろして待っていましたが、ハンスが帰ってくることはありませんでした。

 葬儀では、フライクおじさんが父親に話しかけ、ハンスの周りにいた皆に手落ちがあったのだと語りました。