ジェーン・オースティン『高慢と偏見』ってどんな作品?登場人物やあらすじを詳しく解説

 『高慢と偏見』(または『自負と偏見』、Pride and Prejudice)は、一八一三年に出版された、イギリスの女流作家ジェーン・オースティン(一七七五年〜一八一七年)の作品です。それより以前の一七九七年、オースティンは『高慢と偏見』の元となった作品『第一印象』を脱稿し、父親が自費出版で出してもらえないかと出版社に依頼しましたが、断られていました。その後、オースティンはいくつかの作品を出版しますが、女性が小説を書くことなどとんでもないことだと考えられていた時代であったため、すべてそれらは匿名で出されました。
 十九世紀になり、女性が小説を書くことが一般にも認められるようになり、オースティンは『第一印象』に変更を加えた『高慢と偏見』を自分の名前で出版し、この作品はようやく世に知られることとなりました。
 当時最先端の国家であるイギリスでさえも、女性の社会進出が行き届いていなかった時代に、『高慢と偏見』のような魅力的な作品が書かれたことは、奇跡のようでもあります。この作品は後にサマセット・モーム(一八七四年~一九六五年。『月と六ペンス』などで知られるイギリスの人気作家)が『世界の十大小説』の一つに選び、その中でオースティンをこのように評しています。

ジェイン・オースティンの小説は、純然たる娯楽小説である。従って、読者を楽しませることに小説家はもっぱら努めなければならない、とこうたまたま信じる読者は、オースティンを他に類のない作家として扱わなければならない。もちろん、偉大という点で一段と優れた作品は、その後いくつか書かれていることはいる。たとえば、『戦争と平和』とか『カラマーゾフの兄弟』とかがそうであるが、これら偉大な作品は、元気な時に細心の注意を払って読むのでなければ、何の利益も得ることができない。ところが、オースティンの小説となると、どんなに疲れて意気のあがらぬ時に読んでも、かならず読む者の心を魅了してくれるのである。

サマセット・モーム『世界の十大小説』

 発表から二百年が経っても、世界中で愛されるこの作品は、これまで幾度となく映像化が行われています。二〇〇九年には、『プライドと偏見』という邦題で映画化され、主演のキーラ・ナイトレイは、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされました。

高慢と偏見〈上〉 (岩波文庫)

『高慢と偏見』の登場人物

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ベネット氏
ロングボーンにある邸宅に住み、五人の若い姉妹を抱える。他の娘より賢いエリザベスのことを気に入っている。

ベネット夫人
ベネット氏の妻。結婚して二十三年になる。貧弱な理解力と乏しい知識と移り気な女で、娘たちを結婚させることと世間話と訪問にしか興味がない。

ジェーン
ベネット家の長女。善良で愛想がよく、器量も良い。ビングリーと惹かれ合う。

エリザベス
主人公。ベネット家の次女。才気があり、人を見る目に長けていることを自負している。

メアリ
ベネット家の三女。器量が悪く、学問と芸事の熱心に勉強している。

キャサリン(キッティ)
ベネット家の四女。士官たちの後を追い廻している。

リディア
ベネット家の五女。十五歳。母のお気に入り。メリトンに駐屯する士官たちと交流する。軽はずみな自惚れ屋。

ビングリー
ベネット家の近所のネザーフィールド荘園に引っ越してきた裕福でハンサムな青年。

ダーシー
ダービシアにあるペムバリーの地所を抱える裕福な青年。ビングリーの友達。

シャーロット・ルーカス
ベネット家の近所に住むルーカス家の長女。不器量な二十七歳。エリザベスと親しい。

ルイザ・ハースト
ビングリーの姉。既婚。

キャロライン・ビングリー
ビングリーの妹。兄の友人であるダーシーに惹かれている。

ウィリアム・コリンズ
ベネット氏の従弟。キャサリン・ダ・バーグ令夫人が後見人になったことにより、教区の牧師になることが決まっている。限定相続という制度によりベネット家の土地を引き継ぐことになっている。

ウィカム
軍団の将校としてメリトンにやって来た美しい顔立ちの青年。父親がダーシーの家の財産管理をしており、ダーシーとは何かしらの因縁がある。

ガードナー氏
ベネット夫人の弟。商売を営み、教養のある紳士。

ガードナー夫人
ガードナー氏の妻。ジェーンやエリザベスと仲が良い。

キャサリン・ダ・バーグ
ダーシーの叔母。コリンズの後見人。

フィッツウィリアム大佐
ダーシーの従兄。三十歳ほどの、美男子ではないが、紳士らしい紳士。

ジョージアナー
ダーシーの妹。十六歳。背が高い。内気ではあるが、ものわかりがよく気取りがないおだやかな娘。

『高慢と偏見』のあらすじ

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 ロングボーンにある、五人の若い姉妹を抱えるベネット家の近所に、裕福で器量の良い青年ビングリーが引っ越してきました。舞踏会が開かれると、快活で愛想のよいビングリーは、たちまちベネット家の皆の好感を得て、長女ジェーンと惹かれ合いました。一方、同じ舞踏会に、ダーシーという男がビングリーに連れられて来ていました。彼はペムバリーという広大な地所を持つ、更に裕福な青年でしたが、人と打ち解けるのが遅く、高慢で不愉快な態度に見えたため、姉妹からの不興を買いました。ダーシーは、才気のある次女のエリザベスに惹かれますが、エリザベスがダーシーに惹かれることは全くありませんでした。
 長女のジェーン、次女のエリザベスの他に、ベネット家には、文学と芸術に熱中しているメアリ、叔父の家のあるメリトンに滞在している士官たちを追い廻しているキャサリンとリディアという姉妹がいました。
 ジェーンはビングリーの家に招待されますが、母親が曇り空の中を敢えて馬で行かせ、そのうちに雨になったので泊まることになりました(これはビングリーとジェーンを近づけようという母親の策略でした)。ところが、雨に打たれたことが影響し、ジェーンは風邪を引いてしまいました。そして姉を心配して様子を見に行ったエリザベスも、ビングリーの家に泊まることとなりました。
 ジェーンはその美貌と奥ゆかしい性格のため、ビングリーの姉妹であるルイザとキャロラインから好かれましたが、エリザベスはその知性の高さが鼻についたのか、高慢だと噂されました。ジェーンはこの滞在により、ビングリーとの絆をさらに深めることとなりましたが、エリザベスはダーシーのことを、自分のことを皮肉の目で見ている高慢な男としか見ることができず、この二人の関係が深まることはありませんでした。ジェーンの病気が快方に向かうと、二人は家に帰りました。

 ベネット氏の従弟にあたるコリンズという青年から手紙が届きました。コリンズは限定相続という制度によって、ベネット氏の財産を継ぐこととなっていましたが、キャサリン・ダ・バーグという令夫人が後見人になり、牧師になることが決まっていました。そして自分の父とベネット氏が不仲であったこと、自分が制度によりロングボーンを相続することを心苦しく思い、償いをさせてほしいと申し出ていました。
 コリンズが訪れてきました。彼は娘のうちの一人を娶ることで、ベネット氏の土地を相続することへの罪滅ぼしをしようと考えていました。コリンズはしばらく滞在した後、エリザベスに結婚を申し込みました。ところがコリンズが何でもないことを大仰に話し、へりくだっていても他人への失礼をわきまえない性格であったため、エリザベスは何らこの男に惹かれることがなく、その求婚を断りました。同じ頃、近所に住むウィリアム・ルーカス卿の娘でありエリザベスとも仲の良いシャーロットがベネット家を訪れ、この話を聞いていました。するとその三日後に、自分の話を聞いてくれるシャーロットにコリンズは求婚し、あっさりと結婚を決めてしまいました。ベネット氏の死後はこの二人に土地の権利が相続されることとなり、ベネット夫人はこの結婚を非常に悔しがりました。

 姉妹たちは家から数マイルの距離にあるメリトンに住むフィリップス叔父叔母の仲介で、その近所に駐屯している士官たちと近づきました。その中にウィカムという、美しい顔立ちの将校に任命された男がいました。ウィカムの父親はダーシーの土地ペムバリーの財産管理をしていたようで、エリザベスはダーシーの過去の話をウィカムから聞きました。ウィカムのことを気に入っていたダーシーの父は、贈与権内にある教会財産を譲り受ける権利を彼に残しました。しかし、その父の死後、ダーシーが他の誰かの手にその教会財産を渡してしまったようです。この話を聞いたエリザベスは、ダーシーに一層悪い印象を持ち、この話をしてくれた好感の持てる美青年のウィカムに、真剣になるほどではないものの、魅力を感じ始めました。
 親交を深めていったジェーンとビングリーでしたが、数日の予定で訪れていたロンドンにビングリーが居を据えるという報せが届き、二人の関係は疎遠になっていきました。ジェーンはロンドンに住むガードナー叔父叔母に招待してもらいましたが、当地でもビングリーと会うことができませんでした。エリザベスは、ダーシーに惹かれているキャロラインが、自分の兄とダーシーの妹を結婚させたがり、ビングリーをロンドンに引き止めてジェーンとの仲を引き裂いたのだろうと思い、怒りにかられました。
 そのうちにエリザベスとウィカムとの真剣ではなかった恋も終わり、一家の娘たちは皆、結婚の候補相手を失いました。

 エリザベスは、シャーロットの父と妹と共に、コリンズとシャーロットの住むハンスフォードへ滞在し、コリンズの後見人で、近所のローズウィングスに住むキャサリン・ダ・バーグとも知り合いになりました。キャサリン夫人は、ダーシーの叔母に当たる人物で、自分の娘とダーシーを結婚させる予定でした。ダーシーと、その従兄にあたるフィッツウィリアム大佐がローズウィングスを訪れていたため、エリザベスは彼らと顔を合せることとなりました。エリザベスとダーシーの会話はいつも続きませんでしたが、ダーシーは荘園を頻繁に訪れてきました。
 ある日エリザベスは、フィッツウィリアム大佐に、ダーシーがある友人が軽率な結婚をしようとしているのを救ってやったと言って喜んでいたという話を聞きました。それがビングリーとジェーンのことだということは明らかでした。何一つ非のないジェーンの幸福を奪い去ったダーシーの行為に、エリザベスは怒りに駆られて涙を流しました。
 エリザベスが頭が痛くなって、ハンスフォードの邸に一人でいると、出し抜けにダーシーが訪ねてきて、エリザベスに愛を告白しました。エリザベスは、自分が断られるとは思っていないようなダーシーのそぶりが癪に障り、姉の結婚を妨げたこと、ウィカムのものになるはずだった財産を他の者へ譲渡してしまったこと、ダーシーの他人の感情を無視するような高慢な性格を非難し、あなたとだけは結婚したくないと答えました。ダーシーは傷ついた様子で去っていきました。

 翌日、ダーシーがやってきて、エリザベスに手紙を渡しました。
 その手紙には、ジェーンがビングリーのことを愛していないと勘違いし、またベネット夫人や末の娘たちに無礼な態度が見られたために、二人の結婚を阻止してしまったこと、直接的に金銭になる法律の仕事を求めていたウィカムの方から、自分の父が与えた牧師の職を破棄したこと、金銭を与えたにも関わらず、法律の勉強をせずに怠惰に過ごしていたこと、前職の牧師が死ぬと、再び牧師の職にありつきたいと言いはじめ、それを断られるとダーシーの悪い噂を流し、さらにはダーシーの妹を誘惑して駆け落ち寸前にまでなったことが書かれていました。
 エリザベスはこの手紙を読み、ダーシーの手紙の内容が嘘だとは思えなくなり、反対に自分が好意を抱いていたウィカムの言葉は嘘ばかりであったとしか思えなくなりました。そして自分の分別があるのを鼻にかけていたことを恥ずかしく思うようになっていきました。

 エリザベスとジェーンがロングボーンの家に帰ると、士官たちの連隊がメリトンからブライトンへ引き上げるということで、キャサリンとリディアは悲しみに暮れていました。しかし大佐の妻のフォースター夫人が、一緒にブライトンに来るように誘ってきたため、リディアは大喜びでそれについて行きました。誘いを受けなかったキャサリンは嫉妬して悔し涙を流しました。

 エリザベスはガードナー叔父叔母と三週間のダービシアへの旅に出ることになりました。旅の途中、ガードナー夫妻はダービシアにあるダーシーの地所ペムバリーを見たいと言いだしました。宿の女中によるとダーシーはロンドンから帰ってきていないということだったので、エリザベスは夫妻に同行して豪華な邸を見て回りました。
 エリザベスが屋敷を出ると、ロンドンにいると聞かされていたダーシーに出会いました。エリザベスは見られたことを恥ずかしく感じました。ダーシーは驚いた様子で、まともに話をすることができませんでしたが、間もなくエリザベスの一行を慇懃に迎え、翌日やってくることになっている妹やビングリーを連れて、エリザベスの滞在先を訪れることを約束しました。
 翌朝、ダーシーは妹のジョージアナーをエリザベスに紹介しました。ジョージアナーは、内気で気取りがないおだやかな娘でした。ガードナー夫妻は、ダーシーの立派な態度に好感を持ちました。エリザベスはビングリーとその姉妹にも久し振りに再会し、ビングリーの口ぶりから、彼がまだジェーンのことを愛しているのではないかと感じました。ダーシーは、ひどい別れ方をしたにも関わらず、以前のような高慢な態度は見られないばかりか、エリザベス一行に丁寧に接し、交際を求めてきました。ダーシーが今なお、自分に好意を抱いているのを感じ、彼を憎む気持ちはエリザベスから完全に消え失せ、感謝と尊敬の念を持つようになりました。

 エリザベスは、ジェーンから手紙を受け取り、リディアがウィカムと出奔したことを知りました。ベネット夫人は病気になって寝込み、ベネット氏は、リディアを探しにロンドンへ行くことになったようでした。
 ダーシーが訪れて来たので、エリザベスは泣きながらこの状況を説明し、ガードナー夫妻とともに、急いでロングボーンに帰りました。
 ベネット氏は二人の捜索を諦めて帰ってきましたが、ロンドンの自宅に戻ったガードナー氏から、二人の消息がつかめたと言う報せが届きました。ウィカムには結婚するつもりはないようでしたが、ベネット氏が金銭を譲渡することを条件に、結婚すると言っているようです。
 ベネット氏はその要求を呑み、二人の結婚が成立しました。結婚式を行うために帰ってきたリディアによると、ロンドンでの婚礼の儀にはダーシーが来たようでした。ダーシーがわざわざ自分からウィカムの結婚式に赴くとは思われなかったエリザベスは、ガードナー夫人に手紙を書き、その理由を聞きました。
 ガードナー夫人から届いた返事によると、ウィカムとリディアを探し出したのはダーシーでした。ダーシーはロンドンに出向き、ウィカムの昔の知り合いを当たって居場所を突き止めました。そして連隊を去る原因となったウィカムの借金を払ってやり、将校の役も手に入れ、リディアの持参金を水増しすることで、結婚するつもりのなかったウィカムを説き伏せたのでした。このことはガードナー氏に伝えられ、ダーシーは二人の婚礼の式に出席することとなりました。
 エリザベスは、ダーシーが行ってくれたことに深く感謝し、自分がダーシーの愛を受け取らなかったことで恩義に報いることができないことを後悔し始めました。

 リディアとウィカムが出発すると、ネザーフィールドにビングリーとダーシーが帰ってきました。そのうちにビングリーは一人で訪ねてくるようになり、とうとうジェーンは婚約の申し出を受けました。
 ビングリーはダーシーを連れてきました。エリザベスはダーシーと二人になる機会を得たので、リディアの結婚をまとめてくれたことに対して、深い感謝の意を述べました。ダーシーはエリザベスを幸福にしたい一心で、このような行為を行ったと言い、再びエリザベスに結婚を申し込みました。エリザベスはその深い愛に感謝し、申し出を受け入れました。
 その後、ビングリーを再びネザーフィールドに訪れさせたのはダーシーであることがわかりました。そしてダーシー自身も、以前エリザベスに結婚を断られてから、それを教訓にして心を入れ替え、高慢さを反省し、変わることができたようでした。二人は結婚し、ダーシーの地所である広大なペムバリーで暮らしました。エリザベスとダーシーの妹のジョージアナーは、深い絆で結ばれました。

管理人のコメント

 サマセット・モームが『世界の十大小説』の中で、「純然たる娯楽小説」と評している通り、読んでいて止まらなくなるような魅力を持った作品です。もちろん長さのある小説なので、それなりに注意深くならなければ多少の理解不足に終わることもあるかと思います。しかし、エリザベスとダーシー、またはビングリーとジェーンの恋愛という本筋は理解しやすく、この時代の作品としては、かなりすんなりと読み進めることができます。
 この作品が時代や国を問わず愛され続けているのは、非常に優れた構成で、普遍的なテーマである恋愛を扱っているためであると思います。物語はそれなりに複雑で、枝分かれもあり、登場人物も多いのですが、それらはすべてエリザベスとダーシーが紆余曲折を経て結ばれるための伏線となっています。

 エリザベスは、高慢で嫌な人間だという第一印象をダーシーに抱きました。その後も、ウィカムものになるはずだった財産を奪ったという話を信じたり、ジェーンとビングリーとの関係を引き裂いたということを知ったりして、ダーシーに対する不快感を強めていきます。
 そんななかでのダーシーの告白は、かなりタイミングの悪い時に行われたものであると言えるでしょう。もちろんダーシーはふられてしまうわけですが、その後に渡された手紙は、ウィカムのことを盲目的に信じ、ダーシーのことを完全に不信の目で見ていたエリザベスの考えを百八十度変えてしまうものでした。
 この手紙によって、全ての真実が明るみに出される様は、無理やこじつけというものが全く感じられず、すべてすんなりと納得することができます。まるで推理小説を読んでいるかのように、鮮やかにすべての伏線が回収されていきます。この構成こそが、この作品の面白さの神髄であると思います。そして、この構成を作り上げたオースティンの才能のおかげで、二百年以上前の異国の人びとの恋愛のしかたや、他人の「高慢」さに腹を立てたり、「偏見」を持ったりすることが、現代と大して変わらないのだということを、私たちは楽しみながら知ることができるのです。