ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』の登場人物、あらすじ、感想

 『不思議の国のアリス』は、1865年に出版されたルイス・キャロルの児童向け小説です。

 数学者としても知られているルイス・キャロルは、1854年に大学を卒業すると、講師としてオックスフォードで働き始めます。そしてその二年後、大学の学寮長として新しく転任してきたヘンリー・リデルと出会い、リデル家の幼い娘たちと親しく付き合います。
 ある日ルイス・キャロルは、そのリデル家の娘たちとピクニックに出かけ、ボートで川をくだります。その間にリデル家の次女アリスを主人公として即興で語り聞かせた話が、現在知られている『不思議の国のアリス』の元になったと言われています。
 アリス・リデルにその話を書き留めておくようにせがまれたルイス・キャロルは、その物語をまとめて装丁し、プレゼントしました。さらにこの作品は、ルイス・キャロルの知人で作家の人物の手に渡り、出版されることとなりました。
 現在では、主に1951年に公開された映画『ふしぎの国のアリス』の影響もあり、アリスは世界中で愛されるキャラクターとなっています。ちなみに、原作と映画では微妙に題名が異なっており、原作では『Alice’s Adventures in Wonderland 』(邦題は『不思議の国のアリス』)、映画では『Alice in Wonderland』、(邦題は『ふしぎの国のアリス』)となっています。

 このページでは『不思議の国のアリス』の登場人物、あらすじ、感想を紹介します。

※ネタバレ内容を含みます。

『不思議の国のアリス』の登場人物、キャラクター

アリス
七歳の少女。姉と共に土手の上に座っている時に見かけた白ウサギの後を追い、不思議の国に迷い込む。
自分の体の大きさが変わる食べ物を食べたり、イモムシや公爵夫人、チェシャ猫といったさまざまな住人たちと出会いながら不思議の国を冒険し、女王さまの主催するクロケー競技とそれに続く裁判に参加する。

白ウサギ
チョッキ姿で人間の言葉を使いながら、アリスの前に現れる。公爵夫人のところへ急いでおり、その後について行ったアリスを不思議の国へと導いていく。
ジャックの裁判では伝令を務める。

ネズミ
アリスの涙の水たまりを泳ぎながら現れる。アリスがネズミとりの上手い猫や犬の話をしたために怒りながら逃げ出していく。

ドードー
アリスの涙の水たまりから出た動物たちを乾かすため、皆が一斉に走り出し、好きな時に止まるというコーカス・レースを行うことを提案する。

ビル
白ウサギの家で大きくなって窓から手足を飛び出したアリスを追い出すため、煙突から家の中に入り込むよう命じられたトカゲ。ジャックの裁判では、陪審員を務める。

イモムシ
水キセルを咥えた、ふてぶてしい態度の青く大きなイモムシ。キノコの端を食べると体が大きくなり、もう一つの端を食べると体が小さくなることをアリスに教える。

サカナ従僕
魚のような顔をした従僕。女王さまから公爵夫人宛てのクロケーの招待状をカエル従僕に招待状を渡す。

カエル従僕
蛙のような顔をした従僕。女王さまから公爵夫人宛てのクロケー招待状をサカナ従僕から預かる。

公爵夫人
とがったあごの不器量な夫人。料理女からありとあらゆるものを投げつけられるが、知らん顔で赤ん坊をあやしている。女王さまのクロケーに行くため、その赤ん坊を放り出す。

赤ん坊
泣き叫び続ける公爵夫人の赤ん坊。女王さまのクロケー競技に招待された公爵夫人に放り出されると、アリスの腕の中で豚になる。

料理女
公爵夫人の家でもうもうたる煙の大鍋をかきまわしながら、ありとあらゆるものを公爵夫人に投げつけている。

チェシャ猫
耳元まで口が裂けるほどのにんまりした笑い顔の、公爵夫人の飼い猫。自在に体(もしくはその一部)を消すことができる。どこに行けば良いのかと聞くアリスに対し、右には三月ウサギ、左には帽子屋が住んでいるが、どちらも狂っていると教える。

三月ウサギ
帽子屋とネムリネズミを招いてお茶会を開いているウサギ。ありもしないワインをアリスにすすめて怒らせる。帽子屋の壊れた時計を直そうと、バターを塗ったり、お茶に放り込んだりしている。

帽子屋
三月ウサギの家でお茶会を開いている。以前は「時間」と友達であったが、パーティーで披露した歌が女王さまから「時間稼ぎ」と評されて「時間」と仲違いしてからはいつも6時で、終わらないお茶会を開いている。
ジャックの裁判では証人として呼び出され、帽子が盗品でないかという疑いをかけられる。

ネムリネズミ
三月ウサギと帽子屋のお茶会にいたネズミ。三月ウサギ、帽子屋、アリスに話をせがまれ、糖蜜の井戸の底にいる三姉妹の話を始める。

庭師
トランプの2、5、7のカードのキャラクター。女王さまの好きな色である赤いバラの代わりに、白いバラを植えてしまい、それらを赤く塗り替える作業を行なっている。

ハートのジャック
ハートの女王さまの付き人。タルトを盗んだ疑いをかけられ、女王さまの裁判にかけられる。

ハートの女王さま
庭園で開かれるハリネズミとフラミンゴを使ったクロケー競技を主催し、アリスをその競技に参加するよう誘う。癪に触るものに手当たり次第処刑を命じている。
タルトを盗んだ疑いをかけられたジャックの裁判に臨み、評決よりも先に首斬りの判決を言い渡し、これを非難したアリスに処刑を命じる。

ハートの王さま
女王さまから処刑を命じられた者たちの罪をいつも帳消しにしてやっている。
ジャックの裁判では、裁判官として参加する。

グリフォン
上半身が鷲、下半身がライオンの怪物。女王さまに命じられ、アリスをニセウミガメのところへ連れて行く。

ニセウミガメ
岩棚の上で悲しそうにたたずむ動物。昔は本物のウミガメで、ウミガメとしての最高の教育を受けていた。グリフォンとともに「イセエビのカドリール」という踊りをアリスに披露する。

姉さん
アリスのそばで挿絵もせりふもない本を読んでいる。結末では、眠るアリスの顔に落ちた枯れ葉を払って起こしてやり、夢の中で起きた出来事を聞く。そして将来子供たちを集め、面白い話を語り聞かせているであろうアリスの将来に思いを馳せる。

ダイナ
アリスの飼い猫。ネズミを獲るのが得意。

『不思議の国のアリス』のあらすじ

※もっと詳しいあらすじはこちら

 本を読む姉の隣に座っていたアリスが退屈を感じていると、人間の言葉を話す白ウサギがそばを通りがかりました。驚いたアリスはその後を追い、巣穴の中に飛び込みました。

 長い間その巣穴を落ち続け、アリスは広間にたどり着きました。その広間のテーブルの上には金の鍵があり、アリスは壁の至る所にあるドアに、その鍵を差し込んでみました。その金の鍵は、素敵な庭に通じる小さなドアに合うことがわかりましたが、アリスにはそのドアは小さすぎて通れそうもありませんでした。

 アリスは「ワタシヲオノミ」と書かれている瓶を見つけ、その瓶の中身を思い切って飲み干しました。するとみるみるうちに体が縮んで行きました。しかしテーブルの上にドアの鍵を置き忘れていたアリスは、その鍵を取ることができなくなってしまいました。
 アリスは次に「ワタシヲオタベ」と書かれたケーキがガラスの箱の中にあるのを見つけ、そのケーキを食べました。すると今度は体が大きくなり、鍵を手に取ることはできたものの、ドアを通ることができなくなってしまいました。

 アリスは泣き始め、その涙は水たまりとなりました。そこへ先ほどの白ウサギが戻ってきて、巨大なアリスに驚き、扇子を放り出して逃げて行きました。アリスがその扇子で仰いでいると、再び体が縮み始め、足を滑らせて自分の涙の水たまりに落ちてしまいました。
 自分と同じように水たまりに落ちたネズミがやってきましたが、アリスはネズミ取りの上手な犬や猫の話をして、そのネズミを怒らせてしまいます。アリスはネズミに許しを請い、水たまりに落ちた他の動物たちと一緒に、岸に上がりました。

 岸にたどり着くと、アリスは動物たちとともにどのように服を乾かすか考え始めました。ドードー鳥は、それぞれが競争のコースに散らばり、好きな時に走って好きな時に止まるというコーカス・レースを提案し、皆がその提案に従って走っていると、服は乾きました。しかしそのレースの勝者が誰だかわからなくなり、ドードーは考え込んだ末、全員が勝者であると言って、アリスにご褒美を出すよう指図しました。アリスはポケットに入っていたボンボンを皆に配りました。
 アリスは、なぜ犬や猫を苦手なのかというネズミの話を聞かずに怒らせ、さらに鳥を捕まえるのが得意な飼い猫のダイナの話をしたため、周りの動物たちは去って行き、一人で取り残されてしまいました。

 寂しくて泣いているアリスのところへ、白ウサギが戻ってきました。白ウサギはアリスのことをメイドと勘違いし、失くした手袋と扇子を見つけてくるように指図しました。アリスは白ウサギの家に入って瓶を見つけ、その中身を飲んでみると、体が再び膨らみ始め、手足が部屋の窓から飛び出してしまいました。
 ウサギたちはトカゲのビルを家に侵入させ、アリスを追い出そうとしました。アリスはビルを蹴り飛ばしました。するとウサギたちは、窓から石を放り投げ始めました。その石はいつの間にかお菓子に変わり、アリスがそれを食べると体が縮みました。ドアから出られるようになったアリスは、押し寄せてくる動物たちから逃れ、森の中へと入りました。

 再び小さくなったアリスは、じゃれついてくる犬から逃げ、キノコの上にいたキセルを咥えたイモムシに元の自分に戻る方法を聞きました。イモムシは、キノコの片一方は大きくなり、もう片一方は小さくなると答えました。アリスはキノコの両端を食べ、消えてしまいそうなほど小さくなったり、ハトに蛇と間違えられそうなほど長く伸びたりしながら自分の大きさを調整しました。
 それから4フィートほどの高さの家を見つけたアリスは、住民を驚かせないように、9インチほどに縮まって、その家に近づきました。
 するとサカナのような顔を押した従僕がやってきて、中にいたカエルのような顔をした従僕に、女王様から公爵令嬢宛のクロケー競技の招待状を渡しました。中に入ることができるのか聞いても、カエル従僕はろくな返答をしなかったため、アリスは勝手に中に入りました。

 家の中では、公爵令嬢が椅子に座って赤ん坊をあやし、料理女は台所の品を公爵令嬢に投げつけていました。公爵令嬢は、ものが当たっても知らんぷりで、赤ん坊は泣き続けていました。かまどの上には、耳元まで口がさけるほどの笑い顔をした猫が座っていました。その猫はチェシャ猫というようでした。
 公爵夫人は赤ん坊をあやしていましたが、そのうちに手荒く放り投げ、女王様とのクロケー試合のための準備を始めるために部屋を出て行きました。
 赤ん坊を預けられたアリスが外に出ると、その赤ん坊はブタに変わり、森の中を走って行きました。
 アリスは、木の枝の上にうずくまっていたチェシャ猫に、どこに行けば良いか聞きました。チェシャ猫は、右には帽子屋、左には三月ウサギが住んでいて、どちらも狂っているとアリスに教えると、そのにんまりとした笑いだけを残して消えて行きました。

 三月ウサギの家に行くと、三月ウサギ、帽子屋、ネムリネズミがお茶会を開いていました。
 帽子屋は、以前コンサートで披露した歌が、女王さまに時間つぶしと言われてしまい、それ以来時間にいくら頼んでも、六時のままのようでした。そのため、彼らはいつでもお茶の時間で、お茶を飲み終わっては隣の席にうつり、新しいお茶を入れているようでした。
 ネムリネズミが始めた話にアリスが質問するたび、三月ウサギと帽子屋が茶々をいれたため、アリスは怒ってその家を飛び出しました。

 ある木の幹についていた戸口を見かけて入ってみると、そこは最初に落ちた大広間でした。アリスは金の鍵でドアを開け、キノコをかじって小さくなり、ようやく外の綺麗な庭に出ることができました。
 庭では、三人のトランプの庭師たちが、間違って植えた白いバラを、女王さまの好きな赤に染めているところでした。そこへハートの王さまと女王さまが、ジャックらの多くのお付きの者たちを従えてやってきました。女王さまは、三人の庭師がバラを赤く染めていたことを知ると、処刑を命じました。

 女王さまはアリスをクロケーに誘いました。そのクロケーは、ボールがハリネズミ、バットはフラミンゴ、アーチは弓なりになった兵士で、ルールはなく、フェアプレーとは程遠いもので、女王さまはことあるごとにプレイヤーに処刑を命じました。いつの間にか現れたチェシャ猫は、王さまに無礼な態度を取り、王さまは女王さまに言いつけて、チェシャ猫の首を斬るように命じてもらいました。しかしチェシャ猫は頭しか姿を現さなかったため、王さまと女王さまと首切り役人は、どのように処刑をすればよいのか議論になりました。アリスの提案で、三人はこの猫の飼い主である公爵夫人を呼んでみましたが、その頃にはチェシャ猫は姿を消していました。
 公爵夫人はアリスと会えたことを喜び、格言を次々と口に出しましたが、女王さまに命じられて去って行きました。

 クロケーに戻されたアリスは、ニセウミガメを知っているかと女王さまに聞かれ、知らないと答えました。すると女王さまはグリフォン(鷲の上半身、ライオンの下半身を持った伝説の怪物)に命じて、アリスをニセウミガメのところへ送り出しました。岩棚の上で悲しそうにしていたニセウミガメは、以前は本物のウミガメで、ウミガメにとっての最高の教育を受けていた過去を語りました。グリフォンがゲームの話をしようと言い出すと、ニセウミガメは、「イセエビのカドリール」という曲に合わせて、イセエビを放り投げながら行うダンスについて語りました。「イセエビのカドリール」を聴かせられたアリスは、頭がその曲でいっぱいになってしまったので、グリフォンとニセウミガメにせがまれた歌を歌うことができませんでした。
 どこからともなく「裁判開始!」と言う声が聞こえると、グリフォンはアリスを法廷に連れて行きました。

 法廷では、ハートのジャックが、女王さまのタルトをくすねた疑いをかけられていました。白ウサギが伝令として起訴状を読み上げ、帽子屋と公爵夫人の料理女が証言台に上がりました。第三の証言者として呼ばれたアリスは、何も知らないと答えました。白ウサギは、誰が書いたのかわからない詩を朗読し、それがジャックの悪巧みによって書かれたものだろうと主張しました。それを聞いた女王さまは、ジャックに処刑を命じました。評決よりも判決を先に行おうとする裁判に対し、アリスは馬鹿げていると言うと、女王さまはアリスにも処刑を命じました。しかしその頃にはアリスの身体が大きくなっており、誰も向かってくるものはいませんでした。しかし間も無くアリスの身体が縮み始め、「あんたたちなんて、ただのトランプじゃない」と言った途端、トランプたちは空中に舞って、アリスに飛びかかりました。

 そのトランプを払い除けようとしていると、アリスはいつの間にか姉の膝の上に寝そべっていて、顔に降りかかった木の葉を振り払ってもらっていることに気付きました。
 アリスは夢の中で起きたことを姉に語り、お茶を飲むために家に帰って行きました。
 姉は、アリスが話した冒険のことを考え、あたかも自分が不思議の国にいるような感覚を覚えました。そして大人になっても、子供時代に経験した面白い話を少年少女たちに語り聞かせているであろうアリスの将来に思いを馳せました。

管理人の感想

 『不思議の国のアリス』は、人間の言葉を使う白ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込んだ主人公アリスの、奇想天外な冒険を描いた作品です。

 白ウサギの後を追って巣穴の底にたどり着いたアリスは、奇妙な人や動物たちに次々と出会います。ふてぶてしい態度のイモムシ、あやしていた子供を放り出してクロケーに行こうとする公爵夫人、その公爵夫人にあらゆるものを投げつける料理女、アリスを煙に巻くような態度を見せながらも、物語の先へと導いていくチェシャ猫、この小説中でも最も支離滅裂な会話を繰り広げる三月ウサギと帽子屋、奇妙な踊りを披露するグリフォンとニセウミガメ、そしてこの世界を牛耳る恐ろしくも愚かな女王さまといった登場人物たちは、この小説を読んでいるこちらの頭がおかしくなってくるような、現実世界の常識とはかけ離れたキャラクターばかりです。

 一方、このようなキャラクターたちとの掛け合いを演じながら冒険を進めていくアリスもまた、彼らに負けず劣らず、しっかりとその個性を発揮しています。いわゆる「異世界探訪もの」にありがちの、新しい世界に戸惑い、受け身の行動を取る他の作品の主人公たちとは異なり、彼女はウサギ穴に入った途端に自分の状況をすんなりと受け入れ、見たこともないような動物たちに対しても、臆さず、積極的に関わりを持ちます。そして理不尽な言動を繰り返す不思議の国の住人に対しても、しっかりと自分の感情を表現します。

 幼い少女の、しかも夢の中の話ですから、アリスがちょっとおかしな女の子として描かれているのは、ある程度当たり前と言ってもいいのかもしれませんが、そのアリスの「濃い」キャラクターのせいでこの不思議の国の世界観が色褪せてしまうことは全くありません。それどころか、彼女がこの世界を積極的に旅することで、まるで出演者たちから面白い話を引き出すテレビ番組の司会者のように、登場人物たちの奇妙な個性を、より顕著に引き立たせることに成功しているようにも思います。

 このような非常に個性豊かな登場人物たちのかけ合いを読んでいるだけで、深入りせずとも楽しめる作品ですが、一方で、この物語に入り込めば入り込むほど、不安な気持ちを掻き立てられるという側面も持った作品でもあると思います。それは、アリスがこの世界へのコミットを求めながら、拒絶され続けるためであると思います。アリス自身はさまざまなキャラクターたちに積極的に話しかけ、自分がどこに行くべきなのか尋ねるのに、動物たちは好き勝手なことばかりを話し、アリスは最終的に女王さまから処刑を命じられ、トランプたちに襲い掛かられます。自分が何であるのかわからなくなってしまったという要旨のことを何度も口にするアリスは、まだ七歳であるためか、それがどれほど恐ろしいことなのかピンときていない印象ですが、将来まで影響するようなトラウマを徐々に植え付けられているようでもあります。そのような孤独感は、想像するだけでゾッとするものです。

 結末でアリスは目を覚まし、この小説がいわゆる夢オチであることが明らかになるわけですが、現実世界でアリスを待ち受けているお姉さんは、とても常識的な人物です。彼女はアリスが夢の中で経験したことを語るのを聞き、アリスがいつまでも子供の頃の素直で優しい心を持ち続け、幼い子供たちを集めては、面白い話を言い聞かせているだろうと、その将来に思いを馳せます。
 それまでアリスが旅してきた異常な世界と、良心的で常識的な姉のいる現実世界はとても対照的です。ここまで読み進めてようやく帰ってきたという安堵感を得ることができる人も多いのではないでしょうか。

 『不思議の国のアリス』の魅力は、このファンタジーともホラーともとれる世界に読者をずるずると引き込んでいくところにあると思います。決して読者がついてくるのを待ってくれる作品ではありませんが、これほどまでに読者を自分の世界に引き込んでいく力を持った作品にお目にかかれることは滅多にありません。英語でなければわからないような表現も多いですが、日本人にはなかなか理解できない部分を差し引いても楽しめる作品だと思います。