イワン・ツルゲーネフ『はつ恋』の詳しい登場人物紹介

イワン・ツルゲーネフ作『はつ恋』の登場人物を詳しく紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。


ツルゲーネフ作品集

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ヴラジーミルの家族

ヴラジーミル・ペトローヴィチ
四十がらみの、白髪の混じった黒髪の男として登場し、セルゲイ・ニコーラエヴィチと店の主人に、自分の初恋の話を読み聞かせる。
十六歳の頃、モスクワの別荘に両親と共に住み始める。父親は自分に無関心であったが、男性の典型として尊敬の念を抱いていた。
別荘のはなれにある貸家に引っ越してきたジナイーダに惹かれ、家に招かれて饗宴に参加したことで熱烈な恋に落ちる。
三週間もの間、他の青年たちに紛れて毎日のようにジナイーダの家に通うが、ジナイーダからは、愛されているように思われるときもあれば、全く相手にされないこともあり、翻弄されるほど恋にはまり込んでいく。
しかしジナイーダが何かに懊悩している様子を見せ、誰かに恋をしているのではないかと思い始めると、苦しむようになる。
苦しみの果てに眠れない夜を過ごして外出し、ジナイーダが暗闇に紛れて誰かと逢引きを行っているところを偶然に知ることとなる。真相を確かめるために翌日の夜の庭に見張りに立つと、父親がジナイーダの家に向っている姿を発見する。
その関係に気づいてからも、身を焼かれるような思いをしながらジナイーダに会い続けるが、母親に父の不倫を告発した無名の手紙が届いたことで、別荘を引き払って町へ帰ることとなる。
別れの日、自分に対して申し訳ない素振りを見せるジナイーダに、一生涯愛し続け、崇拝するということを伝える。
町に引き上げても、しばらくは心の痛みを感じていたが、父親に対しては悪い感情を抱くことはなかった。
ある日、父親の外出に同行することを許可されてついて行き、馬を降りて姿を消した父親をしばらく待っていたが、往来に面した家の中に、父がジナイーダに会っているところを目撃し、「これが恋なのだ」と悟る。
その後ペテルブルクに引っ越し、父の死を経験し、四年間の大学生活を経てぶらぶらしていた。偶然マイダーノフと出会い、ジナイーダが結婚してペテルブルクに滞在していることを知る。その二週間後に暇を見つけて会いに行くが、お産のためにジナイーダが死んだことを告げられることとなり、すぐに会いに行かなかったことを後悔する。その四日後、ある貧しい老婆の死に立ち会って恐ろしさを感じ、父やジナイーダのために祈りたいという気持ちに駆られる。

父(ピョートル・ヴァシーリエヴィチ)
美男子であったが、財産を目当てに十歳上の母と結婚した。故ザセーキン(ザセーキナ公爵夫人の夫)がパリに長らくいた薄っぺらい男で、持参金目当てに結婚し、投機に手を出して破産したことを知っていた。
ヴラジーミルの自由を尊重していたものの、冷淡な優しさを見せてほとんど構うことはなく、近くへは寄せ付ける気配はなかった。
ジナイーダからは、最初の対面では敵意のこもった目で見られていたが、自ら家を訪ねて行ったり、共に乗馬を行ったりして関係を築いていた。
逢引きを繰り返す中、ジナイーダの恋の相手を探っていたヴラジーミルによってその関係を知られることとなる。さらに自分の不倫を告発する無名の手紙が届いたことで妻と口論になり(マレーフスキイが出した手紙であると見破る。)、町に引き上げることとなる。
町に引き上げた後も「いなづま」(エレクトリーク)という名の荒馬に乗って、自分を追ってきたジナイーダと逢引きを繰り返しており、激情の発作に駆られてジナイーダの腕を鞭打つところをヴラジーミルに目撃される。
その数か月後、家族でペテルブルクに引っ越すと脳溢血で死ぬ(四十二歳)。死の直前、モスクワのジナイーダからの手紙を受け取り、妻に金を送るよう泣いて懇願する。発作の起こる日の朝、ヴラジーミルに『女の愛を恐れよ。かの幸を、かの毒を恐れよ』という手紙を残していた。


夫、ヴラジーミルとともにモスクワの別荘に移り住む。夫に対しては、しょっちゅう興奮したり焼き餅を焼きながらも恐れの感情を抱いている。
別荘のはなれの貸家に引っ越してきたザセーキナ公爵夫人からの、自分たちを庇護してほしいという手紙をもらい、家に招くが、彼女の卑しく俗っぽい感じを嫌う。
そのうちに夫がジナイーダの家に出入りしていることに気づき始めると小言を言い、ヴラジーミルがジナイーダの家に出入りすることを嫌がるようになる。
夫の不倫を知らせる無名の手紙が自分あてに届いたため争いとなり、町へと引き払うこととなる。その後ペテルブルクに引っ越すと、ジナイーダに金を送るよう夫から懇願され、夫の死後、まとまった金を送る。

ザセーキナ公爵夫人とジナイーダ

ザセーキナ公爵夫人
ジナイーダの母。ヴラジーミルの別荘の、貸家として使っているはなれに引っ越してきた五十歳ほどの器量の悪く貧しい貴族。夫(ザセーキン公爵)は故人。卑しい金銭問題でしょっちゅう訴訟を起こしており、ヴラジーミルの母に庇護してほしいという手紙を書いたり、ヴラジーミルに対しても、ある請願書の清書を頼んだりする。
娘とヴラジーミルの父との関係に最後まで気づくことはなかった。

ジナイーダ・アレクサンドロヴナ
ザセーキナ公爵夫人の娘。二十一歳。母と共にヴラジーミルの別荘の貸家として使っているはなれに引っ越してくると、たちまち周辺の青年たちを虜にし、踊り騒ぐ生活を始める。
ヴラジーミルが初めて自宅に訪ねてくると、自分に本当のことだけを言うことと、自分の言うことを聞くことを命令する。
しばらくは自分を崇拝する男たちを翻弄することに楽しみを感じていたが、そのうちに一人で散歩したり、何時間も部屋に引きこもり、幸福などどうでもいいと言い始めるようになる。
ヴラジーミルに対しては、髪の毛をむしり取った後でその髪をロケットに入れて持ち歩くと約束したり、高い塀の上から飛び降りるように命令じた後で顔中にキスしたりして翻弄する。
そのうちに生まれ変わったように思慮深い女性へ変わり、その変化がヴラジーミルを困惑させ、ヴラジーミルの父との関係を知られることとなる。
その関係を告発され、ヴラジーミルの一家が町へと引き上げることとなると、ヴラジーミルに長い別れのキスを与える。
その後もヴラジーミルの父を追って逢引きを繰り返しており、言い合いの果てに自ら腕を差し出して鞭打たれ、赤くなった跡に接吻する様子が、ヴラジーミルに目撃される。
破局後、なかなか結婚することはなかったが、ドーリスキイという人物と結婚し、外国へ発つ前に寄ったペテルブルクでお産のために死ぬ。

ジナイーダの崇拝者たち

ベロヴズーロフ
軽騎兵。ジナイーダのためなら火の中にも飛び込みかねない男で「猛獣」と呼ばれている。自分にこれといった取り柄がないと諦めており、しょっちゅうジナイーダに結婚を申し込んでいる。
ジナイーダからは何かと用立てられることが多く、猫を与えたり、馬を探して料金を立て替えたりして、その褒美としてキスを与えられるのを待ち望んでいる。
ジナイーダの家で行われる饗宴では、他の青年たちに嫉妬し、腹立たし気な様子で隅へ引っ込んでいた。特にマレーフスキイに対しては敵意をむき出しにして睨みつけるような態度を取る。その饗宴の中で、もし自分に妻がいて、裏切られたらどうするかと聞かれ、その妻を殺してしまうと答える。その妻が自分だったしたらどうするかとジナイーダに聞かれると、自殺すると答える。
もし自分が恋をしている女王に他の恋人がいたらどうするかという問題では、その男に決闘を申し込むだろうとジナイーダに予想される。
その後行方不明になったことが、ルーシンによってヴラジーミルへ伝えられる。

マレーフスキイ伯爵
ポーランド訛りで、栗色の髪をした美貌の男。如才なく頭の働く美男子。ヴラジーミルからは油断ならない胡散臭い男だという印象を抱かれ、ジナイーダの恋の相手ではないかと疑われる。
もし自分が恋をしている女王に他の恋人がいたらどうするかという問題では、その男に毒入りのお菓子を勧めるだろうとジナイーダに予想される。
ヴラジーミルの母に取り入ることに成功するが、父からは嫌われる。
そのうちに狡猾な性格が災いしてジナイーダからの寵愛を失う。ヴラジーミルのことを子ども扱いしてからかい、ジナイーダから退席を求められるほどとなり、ザセーキナ公爵夫人に取り入ろうとするが、その画策にも失敗する。
ヴラジーミルの父がジナイーダと関係していることに以前から気づいていたようで、告発する無名の手紙をヴラジーミルの母親に出し、二人の関係を壊そうとする。しかし、その筆跡によって自分が手紙を出したことを見破られ、ヴラジーミルの父から怒りをぶつけられる。

ニルマーツキイ
四十がらみのあばた面。髪の毛が縮れ、猫背でガニ股。リューマチを患っている。
もし恋をしている女王に他の恋人がいたらどうするかという問題では、その男に金を借り出すか、貸し出して利息をとるだろうとジナイーダに予想される。

マイダーノフ
背が高く、小さな目で痩せた顔の黒髪の男。ジナイーダの詩的な素質の相手を務め、自作の詩や小説をしばしば披露する。『人殺し』という自作の詩を出版するつもりでいる。冷たい人間だが、ジナイーダに恋をしていると自分で思い込もうとしている。
もし自分が恋をしている女王に他の恋人がいたらどうするかという問題では、その男にあつらえた風刺詩か長詩を作るだろうとジナイーダに予想される。
大学を出たヴラジーミルにペテルブルクの劇場で偶然出会い、ジナイーダが結婚してペテルブルクにいることを伝える。

ルーシン
皮肉屋で毒舌な医者。ジナイーダの悪口ばかり言いながら、ピンを刺されて笑うようにという命令に従うほど愛している。
ヴラジーミルに、ジナイーダの家の空気は危険だという忠告を与える一方で、愛想よく接し、花や草の名前を教える。日に二度くらいジナイーダを訪れるが、長居をせずに帰る。
もし自分が恋をしている女王に他の恋人がいたらどうするかとジナイーダに質問され、その女王を諫めるだろうと答える。
町に引き上げたヴラジーミルと偶然再会すると、ベロヴゾーロフが行方不明になったことを伝え、ジナイーダのような人物の網に再び引っかからないようにという忠告を与える。

その他の登場人物

フョードル
ヴラジーミルの家の下男。

ヴォロージャ
ザセーキナ公爵夫人の息子。ジナイーダの弟。十二歳。普段はペテルブルクに住んでいる。ジナイーダの家を訪れてくると、面倒を見るように命令されたヴラジーミルが相手を務める。

フィリップ
ヴラジーミルの家の食堂の若者。熱烈な詩の愛好者で、ギターの名人。ヴラジーミルの母親に、父の不倫を告発する無名の手紙が届き、夫婦喧嘩が起きたことをヴラジーミルに伝える。

ヴラジーミルの現在の話し相手

セルゲイ・ニコーラエヴィチ
金髪で色白の、まるまると太った男。初恋についてヴラジーミルと語り合う。十八歳の頃にある娘のことを追っていたが、これは二度目の恋で、自分にとっての最初で最期の恋は六歳の頃に乳母に抱いたものであったと語る。

店の主人
現在の妻アンナ・イヴァーノヴナが初恋で、縁談が持ち出されてからすぐにお互いを好きになり、結婚した。