山本周五郎『赤ひげ診療譚』の詳しいネタバレあらすじ

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狂女の話

ネタバレ登場人物

おゆみ
類稀なる美貌の持ち主であったため、幼い頃から手代に悪戯され、その後も男に脅され関係を持ったため、男女の営みを悪いことだと思い込む。男を誘惑して殺すようになったため、小石川養生所に隔離されている。

お杉
奉公でおゆみに仕えている。登と親しくなり、頻繁に会うようになる。(この後の短編にも度々登場します。)

お雪
養生所の台所で働く。森半太郎のことを慕っている。

五平
小石川養生所の栽園の園夫。体が大きく肥えた老人。

吉太郎
小石川養生所の栽園の園夫。痩せて無表情な若者。

次作
小石川養生所の栽園の園夫

久助
同上。

富五郎
同上。

ネタバレあらすじ

 保本登は小石川養生所に呼ばれました。

 津川玄三という医者が彼を出迎えました。登はこの場所に呼ばれただけのつもりでしたが、津川は登とここの仕事を交代し、いずれ出ていくことになっていました。

 登はちぐさという女のことを度々思い出していました。

 診療所では無料で診察をしており、貧民でごったがえしていました。津川は医長の新出去定に登を紹介しました。去定は白茶けた髭をびっしり生やしているため、赤髭と呼ばれていました。今日から登は見習いとしてここで働くことになったと、去定は決めつけるように言いました。

 登は長崎で三年間の遊学を終え、江戸に行って御見目医(藩主やその家族などを担当する医師)の席が与えられることになっていました。そのため小石川養生所で働くことに納得がいきませんでした。

 登は同じ見習いの森半太夫を紹介され(半太夫は津川のことを無視していました)、牢屋のような施設内を案内されました。去定は腕は確かでしたが、あまりに横暴が過ぎるので皆から嫌われていると津川は話しました。

 登はさらに、ここに働いているお雪、お杉、幕府直轄の薬草地栽培に従事する男たちが、それぞれの仕事場で働いている様子を、津川の案内によって知ることとなりました。

 台所の仕事をしているお雪は菜を洗い、薬草地では、薬用に使うえびづる草の酒を作っていました。

 奉公人のお杉は、おゆみという富豪の娘の世話をしていました。おゆみは婚約を破棄されてから狂女となり、男を色仕掛けで連れ込んで簪で殺すそうで、今では親が敷地内に自費で建てた牢屋のような家に閉じ込められていました。去定はこの狂女を治療していました。おゆみの病は先天性のものなので、罪にはならないようです。

 お杉と登は親しくなり、人に隠れて会うようになりました。登はここに連れてこられたことに対する不平をお杉に訴え、ここを出て行くために禁止された酒を飲みました。自分が来た理由は、長崎で得た蘭方医学の筆記と図録を去定が盗るためだと登は思っていました。彼はそれらの資料を全て出すように去定から命令され、それを拒否していたのです。

 やがて津川玄三は登と入れ替わりとなり、小石川養生所を去っていきました。登は見習医にはならずにここから出たいと思っていたので、入所患者の手当てをせず、去定に心酔している森半太夫と度々衝突しました。

 天野まさをという女が、登を訪ねてきました。登は直接その名前を憶えているわけではありませんでしたが、登にとって忘れられない女であるちぐさの姓が天野でした。まさをはちぐさの妹であるに違いありませんでした。登を訪ねてきた目的はわかりませんでしたが、登はうっかり会ってはいけないと思い、取次のものに部屋にいないと伝えるよう言いました。

 ある暗い夜、お杉は登を呼び止めました。お杉はしゃがれた声でおゆみについての話を始めました。おゆみの生母は他に男を作って出奔し、その後殺されていました。おゆみ自身も、際立った美貌のため、九つの頃から手代に脅されて情事を行い、その後も何人かの男に悪戯をされました。これらの事情は、男女のひめごとが罪であるというのに、断ると殺されるという意識をおゆみに植えつけたようです。

 いつの間にかしゃがれ声だったお杉の声音が変わっていました。登はこの女がお杉ではなくおゆみであることに気づきました。おゆみは薬酒を飲ませて幻影し、登を殺そうとしに来たのでした。おゆみは簪を登の左の耳のうしろへ押し当て、自分が男を殺した様子を再現してみせました。登は気を失いました。

 翌日、去定に介抱されて登は目を覚しました。お杉から登の話を聞かされていたおゆみは登を標的にしようと企てていたのでした。おゆみはお杉に薬酒を飲ませて眠らせ、わざとしゃがれ声を出してお杉のふりをし、登にも薬酒を飲ませて近づいたのです。去定は狂って暴れるおゆみを抑え、登を助けました。去定が気づくのがあと少し遅ければ、登はおゆみの標的になって殺されていたようです。

 自分を助け出し、なおかつこのことを誰にも知らせずに処理してくれるという去定に対し、登は「赤髭か、悪くないな。」と心の中で呟きました。