芥川龍之介『犬と笛』ってどんな作品?あらすじや登場人物を詳しく解説

芥川龍之介作『犬と笛』の登場人物、あらすじ、感想を紹介するページです。

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

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『犬と笛』の登場人物

髪長彦(かみながひこ)
大和国葛城山の麓に住む若い木樵(きこり)。顔かたちが女のように優しく、髪も長かったので、髪長彦と呼ばれていた。笛が上手で、山で笛を吹くと鳥や獣が周りに来て、その音色を聴きにくる。

葛城山(かつらぎやま)の足一つの神
青い勾玉を沢山ぶら下げた、足の一本しかない大男。嗅げを髪長彦に与える。

嗅げ
どんな遠い所のことでも嗅ぎだしてくる利口な白犬。

葛城山の手一つの神
黒い勾玉を首へかけた、手の一本しかない大男。飛べを髪長彦に与える。

飛べ
誰でも背中に乗りさえすれば、百里でも千里でも空を飛んで行くことができる黒犬。

葛城山の目一つの神
赤い勾玉を飾りにした、目の一つしかない大男。噛めを髪長彦に与える。

噛め
どんな恐ろしい鬼神でも嚙み殺すことのできる斑犬。

二人の侍
鬼神にさらわれた御姫様を探す。

飛鳥の大臣(あすかのおおきみ)
二人の娘を奪われ、探し出したものに厚い褒美を渡すという御触れを出している。

御姉様(おあねえさま)の御姫様(生駒山の駒姫)
飛鳥の大臣の娘。食蜃人に囚われていた。

御妹様(おいもとご)の御姫様(笠置山の笠姫)
飛鳥の大臣の娘。土蜘蛛に囚われていた。

食蜃人(しょくしんじん)
生駒山の洞穴に住み、姉の御姫様を虜にしている。八岐大蛇を飼っていたことのある悪者。

土蜘蛛
笠置山の洞穴に住み、妹の御姫様を虜にしている。神武天皇が征伐したことのある一寸法師の悪者。

『犬と笛』のあらすじ

 昔、顔かたちが女のように優しく、髪が長かったため、髪長彦と呼ばれている木樵がいました。髪長彦は笛が上手で、山で笛を吹くと鳥や獣がその音色を聴きにきました。ある日、髪長彦が笛を吹いていると、足の一本しかない大男が現れました。大男は、笛の音を聴かせてくれたお礼に何でも好きなものを与えようと髪長彦に言いました。髪長彦は犬が欲しいと言いました。大男は、葛城山の足一つの神だと名乗り、どんな遠いところのことでも嗅ぎ出すことのできる「嗅げ」という白犬を髪長彦に与えました。
 あくる日、髪長彦が、この白犬と山へ行き、笛を鳴らしていると、手の一本しかない大男が現れました。男は葛城山の手一つの神だと名乗り、何でも好きなものを与えようと髪長彦に言いました。髪長彦は、嗅げに負けないような犬が欲しいと言うと、大男は、誰でも背中へ乗せてどこまででも空を飛んでいける「飛べ」という黒犬を髪長彦に与え、明日は自分の弟が来るだろうと言いました。
 あくる日は、目の一つしかない大男が現れ、目一つの神だと名乗り、どんな鬼神でも嚙み殺すことのできる「噛め」という犬を髪長彦に与えました。目一つの神は、自分たちのやった犬は笛がなければ来ないので、それを忘れないようにと言いました。

 それから四、五日後、三匹の犬を連れた髪長彦は、二人の侍に会いました。何をしているのかと聞くと、飛鳥の大臣の御姫様が二人鬼神にさらわれたので、その行方を捜していると言います。その御姫様を捜し出した者には、厚い褒美が出るようです。
 髪長彦は、嗅げに御姫様の行方を嗅ぎ出すように命令しました。嗅げは、御姫様が、生駒山の洞穴に住む悪者の食蜃人の虜になっていると答えました。
 髪長彦は飛べに食蜃人のところへ連れて行けと命令しました。飛べは、髪長彦たちを連れて、生駒山の峯へ真一文字に飛んでいきました。

 山の中腹の洞穴には、御姫様が一人泣いていました。髪長彦が御姫様を連れ出そうとすると、奥の方で酒に酔って寝ている食蜃人が目を覚ましたら、ここにいる皆が殺されてしまうと、お姫様は訴えました。髪長彦は、食蜃人をかみ殺すように噛めに命令しました。噛めは食蜃人を噛み殺し、首をくわえて出てきました。
 それと同時に、谷底から風がまきおこり、その風の中から声が聞こえました。声の主は、食蜃人にいじめられていた生駒山の駒姫だと名乗り、助けてくれた髪長彦にお礼を言いました。
 命拾いをした御姫様は、自分の妹がどのような目にあっているのだろうと言いました。
 髪長彦はその御姫様の行方を嗅げに聞きました。噛めは、御姫様が、笠置山の洞穴に住む悪者の土蜘蛛の虜になっていると答えました。
 髪長彦は土蜘蛛のところへ向かっていけと飛べに命令し、笠置山へと飛び立ちました。

 笠置山へ着くと、悪知恵のある土蜘蛛は、髪長彦たちを御姫様のところへ連れていき、そのまま洞穴の入り口を大きな岩で塞いでしまいました。髪長彦は笛を吹き始めました。すると土蜘蛛はその音色に夢中になり、岩を退け始めました。人が一人通れるくらいになると、髪長彦は、噛めに土蜘蛛を噛み殺させました。
 すると谷底から風が吹き起こり、土蜘蛛にいじめられていた笠置山の笠姫と名乗り、助けてくれた髪長彦にお礼を言いました。

 髪長彦たちは都へ帰りました。二人の御姫様は、自分たちの金の櫛と銀の櫛を、髪長彦の髪にそっとさしました。
 黒犬の背に乗りながら、髪長彦は、御姫様たちが捕らわれていたことを教えてくれた二人の侍を見つけました。髪長彦は、自分の手柄を侍たちに話したくなり、二人の前に降り立ちました。話を聞いた侍たちは髪長彦を妬み、隙を見て笛を抜き取り、二人の御姫様と二匹の犬を連れて、飛べの背に乗って飛び立ってしまいました。
 髪長彦が泣いていると、風の中に声がしました。その声は生駒山の駒姫と笠置山の笠姫と名乗り、笛を取り戻してくると行って二人の侍の飛んで行った方へ向かいました。まもなくその風はその笛を高い空から運んできました。
 その風は、髪長彦の出世を恥ずかしくないようにするために、豪勢な鎧や兜などの衣装を降らせました。

 衣装を身につけた髪長彦は、戻ってきた笛を吹いて黒犬を呼び戻し、飛鳥の大臣様の館へ飛んでいき、自分が御姫様を助けたのだと言いました。自分たちが御姫様を助けたのだと嘘をついて手柄を立てようとしていた二人の侍は、髪長彦の言ったことが嘘だと主張しました。大臣様は二人の御姫様に真実を聞きました。御姫様は髪長彦の髪に自分たちの櫛を挿しておいたことを大臣様に伝え、真実を明るみに出しました。
 二人の侍は犬に追われて逃げ帰りました。髪長彦は褒美をもらった上に、大臣様の婿になりましたが、どちらの御姫様をもらったのかは、はっきりとわかっていません。

作品の概要と管理人のコメント

 『犬と笛』は一九一九年に発表された、児童向けの短編小説です。
 悪者に囚われているお姫様を助け、そのお姫様と結婚するという物語は、古くはギリシア神話から誰もが知っているテレビゲームまで、古今東西共通の定番の物語のようです。そのような物語は、屈強な青年が、傷つきながらも苦労して悪者を倒すというのが一般的ですが、この『犬と笛』の主人公髪長彦は、それらのヒーローたちとは異なり、女のように美しい顔立ちに長い髪を持つ優男です。取柄と言えば笛の音が美しいことと無欲なことぐらいで、とてもお姫様を助けられるような人物には思われません。
 そんな彼が、葛城山の足一つの神、葛城山の手一つの神、葛城山の目一つの神によって「嗅げ」、「飛べ」、「噛め」の三匹の犬を与えられ、導かれるように二人の御姫様を助けます。御姫様を捕らえている食蜃人と土蜘蛛を倒すときも、「噛め」に命令しただけで、自分は些細な傷すら負いません。二人の御姫様を助けた後も、自分の手柄を二人の侍に自慢し、挙句の果てに御姫様と笛と三匹の犬を奪われて泣き出す始末です。それでも今度は、生駒山の駒姫と笠置山の笠姫に助けられ、やっとの思いで手柄を取り戻します。まるで最初から髪長彦が二人の御姫様を手に入れるように仕込まれ、神々がその目的を達するためにあれこれ動いてくれているような印象です。
 古来から自然崇拝が行われ、自然を切り開くというよりは、寄り添うように生きてきた日本人は、自らの鍛錬によって目的を達する生き方よりも、山の神々に導かれる生き方を望むのでしょうか。この作品のような「導かれる」タイプの主人公が登場するのは、日本文学の大きな特徴の一つである気がします。完全オリジナルの作品なのか、他に題材があるのかはわかりませんが、この『犬と笛』は、『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』などの日本の古典に古くから親しんだ芥川龍之介ならではの、非常に日本文学らしい作品であると思います。