太宰治『走れメロス』の登場人物、あらすじ、感想

太宰治作『走れメロス』の登場人物、あらすじ、管理人の感想を紹介するページです。

走れメロス (新潮文庫)

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『走れメロス』の登場人物

※ネタバレ内容を含みます。

メロス
村の牧人。笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。父も母も妻もおらず、十六歳になる妹と二人暮らしをしている。政治はわからないが、邪悪に対しては人一倍敏感。
妹の結婚式の品を買うためにやってきたシラクサで、傍若無人な王に激怒し、城に乗り込んで捕らえられ、磔にすると脅される。命乞いを決してしないと王の前で宣言するが、その前に妹の結婚式を見届けたいと懇願し、セリヌンティウスを人質として、三日間の猶予をもらって村へと走り出す。

ディオニス
シラクサの暴君。人を信じることができなくなり、「悪心をいだいている」という理由で、妹婿、自身の世嗣(よつぎ)、妹、妹の子供、皇后、賢臣を次々と処刑し、派手な暮らしをしているものには人質を差し出させ、命令を拒む市民をことごとく殺している。自分に反抗してきたメロスも磔にしようとするが、妹の結婚式に出るための猶予が欲しいと懇願され、セリヌンティウスを人質に預かってメロスを解放する。

セリヌンティウス
シラクサで石工をするメロスの親友。妹の結婚式を見届けるため、三日間の猶予を希望したメロスにより、人質として王の前に差し出される。深い友情で結ばれたメロスを信じ、帰還を待つ。

メロスの妹
十六歳の内気な娘。村の牧人を婿に迎えることになっている。シラクサから帰ってきたメロスに結婚式を翌日にすると言われ、その言葉に従う。

妹の婿
村の律儀な牧人。シラクサから帰ってきたメロスに、妹との結婚式を翌日にしてほしいと頼まれて難色を示すが、最終的にはその願いを聞き入れる。

フィロストラトス
セリヌンティウスの弟子。シラクサへとたどり着こうとするメロスに、セリヌンティウスが間もなく処刑されることを伝え、メロスを恨みながらも、自分の身を守るために走るのをやめるよう忠告する。

『走れメロス』のあらすじ

※ネタバレ内容を含みます。

 村の牧人であったメロスは、結婚式を間近に控えている妹の花嫁衣装やご馳走を買いに、十里を歩いてシラクサの街へとやってきました。彼はこの町で石工をしている親友セリヌンティウスを訪ねるつもりでいました。通りを歩いていると、この街が以前よりもひっそりとしていることに彼は気付きました。ある老人にその訳を聞くと、王が人を信じることができなくなったと言って、次々に人を殺しているそうです。メロスはそれを聞いて激怒しました。

 メロスは城に入り、捕らえられて王の前に引き出されると、市を暴君の手から救うのだと主張しました。人の心は私欲の塊なので信じることなどできないと言う王は、磔になって泣いて詫びても聞かないとメロスに言いました。
 命乞いを決してするつもりのなかったメロスでしたが、妹に結婚式を挙げさせるために三日間の猶予が欲しいと願い出ました。三日目の日暮れまでにここへ戻ってくるので、それまではこの街に住むセリヌンティウスを人質として預かっておいてくれと、彼は頼みました。王はメロスが帰ってくるわけはないと思い、セリヌンティウスを殺すつもりでその条件をのみました。
 セリヌンティウスは王城に召され、事情を聞くと無言で頷き、メロスを抱きしめました。

 メロスはすぐに出発し、一睡もせずに十里の道を急ぎ、あくる日の午前中に自分の村へ帰りました。そして、すぐ戻らなければならない用事を市に残してきたので、結婚式は明日にすると妹に伝え、ぐっすりと眠りにつきました。

 メロスは夜に目覚めると、花婿の家を訪れ、結婚式を明日にしてくれと頼みました。花婿の家はなかなか承諾してくれませんでしたが、夜明けまで交渉して、その日のうちに式を挙げることに同意してくれました。
 結婚式が始まると、雨が降り出しました。メロスは一生ここにいたいという欲望にかられましたが、一眠りしてから出かけることを決心しました。メロスは妹に人を疑わないことと、嘘をつかないことを約束させ、花婿には自分のものを全てあげると言って、羊小屋でぐっすりと眠りました。

 翌朝メロスは跳ね起き、故郷への未練を振り払い、雨の中、磔にされるために市へと走りました。隣町を過ぎると、昨日の雨で川が氾濫し、橋桁が壊れていました。メロスは濁流の中を泳ぎきる決心をしました。押し流されながらも対岸の樹木の幹にすがりつき、メロスは先を急ぎました。
 太陽は西に傾きかけました。峠を登ると、メロスは山賊の一隊に出くわしました。山賊は王の命令なのか、メロスの命を狙っていました。メロスは山賊のひとりの棍棒を奪い取って三人を殴り倒し、他の山賊がひるむ隙に走って峠を下りました。
 しかし、峠を降りたメロスは立ち上がることができなくなり、膝を折って悔し泣きに涙を流しました。
 精も根も尽き果てたメロスは、ふてくされた気分になり、正義や真実や愛などはくだらないと考え、四肢を投げ出してまどろみ始めました。
 その時、メロスは足元を流れる水に気づき、それを口に含みました。歩けることに気づくと、わずかながら希望が生まれ、自分を疑わずに待っているセリヌンティウスのために再び走ることを決心しました。

 メロスはほとんど裸で、血を噴き出しながら走り続け、はるか向こうにシラクサの塔楼が見える場所までやってきました。
 メロスが走っていると、セリヌンティウスの弟子であるフィロストラトスに話しかけられました。セリヌンティウスは、メロスを信じ続け待っていましたが、まもなく死刑になるだろうとフィロストラトスは伝え、もう走るのをやめるようメロスに助言しました。しかしメロスは間に合う間に合わないのためではなく、何かもっと大きなもののために走り続けました。

 メロスが刑場に辿り着くと、セリヌンティウスは磔の柱に縛られて高々と釣り上げられていくところでした。メロスはかすれた声で叫びながらセリヌンティウスの足元にかじりつきました。セリヌンティウスの縄は解かれました。
 メロスは、途中で一度友を裏切りそうになったこと伝え、自分を殴れと言いました。セリヌンティウスはメロスを力一杯殴りました。セリヌンティウスは、たった一度だけ、メロスを疑ったことを伝え、自分を殴れと言いました。メロスも力一杯セリヌンティウスを殴りました。
 二人は抱き合って泣きました。暴君ディオニスはその様子を背後から見ていましたが、顔を赤らめながら、二人の仲間に入れて欲しいと言いました。

 群衆は王様万歳と叫びました。ひとりの少女がマントを捧げました。セリヌンティウスは、その少女が真っ裸のメロスを群衆に見られるのがたまらなく口惜しいのだと言いました。メロスは赤面しました。

作品の概要と管理人の感想

 『走れメロス』は、一九四〇年発表の短編小説です。国語教育の教材として取り上げられることも多く、非常に知名度の高い作品です。
 信じることの大切さを謳い、原作はもちろん、舞台や映像等、数々の方面で感動を生んできた作品であり、主人公のメロスは、数多くのパロディー化がなされ、日本人なら誰もが知っているヒーローです。しかし、この小説を冷静に読み込めば読み込むほどに、このメロスという人物は、実は暴君ディオニスに引けを取らないほどに、多くの欠点を持っていることに気づくでしょう。

 市民を次々と処刑している暴君に憤慨したメロスは、親友のセリヌンティウスを人質にとらせ、妹の結婚式へと向かいます。二人の美しい友情が初めて書かれた場面として印象的ですが、この危険を伴う行為は、メロスの傍若無人ぶりを示しているとも言えるでしょう。このような寓話的な作品を現実世界に則して考えるのもあまり良くない読み方であるかもしれません。しかし、友を人質にするというのは、かなり無茶な行為であることは間違いありません。

 メロスは妹のもとに帰ると、結婚式を翌日にすると宣言します。肉親はまだしも、妹の結婚相手の肉親にも迷惑をかけかねないこの行為もまた、決して褒められたものではありません。

 結婚式が終わると、メロスはしっかりと睡眠を取り、そのためかはわかりませんが、川の氾濫に遭遇してしまいます。雨が降り出した時点で、このことは予想できたような気もしてしまいます。ここではメロスは無計画さと予測能力の低さを露呈しています。

 そして疲れ果てたメロスは、一歩も動くことができなくなり、親友を裏切りそうになります。物理的に間に合わないのならまだしも、親友が自分のせいで処刑されるのを許容するようなこの心理は、言語道断と言っても良いでしょう。

 這々の体でセリヌンティウスのもとにたどり着いたメロスは、友を裏切りそうになったと言って自分を殴らせます。これまでのことを考えると、セリヌンティウスがメロスを殴るのは理にかなったことと言えるでしょう。
 しかし、セリヌンティウスがメロスを疑うのは当然のことであり、メロスにはセリヌンティウスを殴る資格など全くないように思えます。それでも優しいセリヌンティウスに自分を殴れと言われたメロスは、素直にその言葉に従います。

 傍若無人で無計画で馬鹿正直さを次々と露呈していくメロスの欠点は、現代の社会では許容されるものではなく、大人ほど目に付くものでしょう。しかしそれでもなお、私に関して言えば、ラストのシーンで得られる感動は、何度繰り返し読んでも変わることがありません。むしろメロスの欠点の数々に気づくからこそ、彼がヒーローとして際立つような側面もあるように感じます。そしてあまりのメロスの欠点の多さのために、白々しい結末になってしまいそうなところを、絶妙なバランスで感動まで持っていってくれるのが、この作品の真の魅力であると思います。

 しかしそれでもなお、メロスの欠点ばかりが目につき、このとってつけたような結末に白々しさを感じてしまう人も多いのではないでしょうか。一説によると、このメロスは、友人を宿屋に人質として置きながらも、借金を返しに来なかった太宰治自身を書いていると言われています。もしかすると、ユーモアのセンスに勝れていた太宰治は、メロスが自分自身であることを読者が想定することを予想し、わざと白々しさを感じさせるような結末にして、自分を茶化すための壮大な冗談を書いたのかもしれません。自分という存在をピエロのようにして、読者を楽しませ続けてきた太宰治の作品だからこそ、そのような深読みもできてしまう『走れメロス』は、幾通りもの楽しみ方ができる作品だと思います。