チャールズ・ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』の詳しいあらすじ

チャールズ・ディケンズ作『デイヴィッド・コパフィールド』の詳しいあらすじを紹介するページです。

この長大な小説は、さまざまな登場人物が入り組んでいるため、便宜上、それぞれを分けてあらすじを紹介していきます。
①デイヴィッドの幼少期
②ペゴティーの家族とスティアフォースの事件
③ドーラとデイヴィッドの恋愛
④ミスター・ウィックフィールド、アグネス、ユライア・ヒープの物語
⑤結末

※簡単なあらすじ、登場人物紹介、感想はこちら(『デイヴィッド・コパフィールド』トップ)

※『デイヴィッド・コパフィールド』の詳しい登場人物紹介はこちら

デイヴィッドの幼少期

 父親の死後にブランダストンという町で生まれたデイヴィッド・コパフィールドは、母親のクレアラと手伝い娘のペゴティーに育てられ、幸せな幼少期を過ごしていました。しかし母親がミスター・マードストンという男と結婚してから、一気に境遇が変わりました。

 ミスター・マードストンは厳格な父親となりました。デイヴィッドは、虐待ともとれる厳しいしつけを受けることとなりました。もともと勉強が好きだったデイヴィッドでしたが、鞭を持ちながら教育を行うマードストンを前にすると、記憶したものが全て頭から抜け落ち、何も答えることが出来なくなってしまいました。
 マードストンの姉も、デイヴィッドたちと同居することになりました。彼女は家の中の家事を全て引き受け、姉弟は家の中を支配してしまいました。気が弱かったデイヴィッドの母親は姉弟の言いなりになってしまい、デイヴィッドを守ってやることができませんでした。
 ある日、勉強中にマードストンが鞭を振るおうとしたので、ディヴィッドはマードストンの手に噛みつきました。このことが原因で、デイヴィッドはロンドンにあるセーラム学園へ送られ、親元を離されて寄宿生活をすることとなりました。

 セーラム学園の環境はあまり良いものとは言えず、校長先生のクリークルは生徒に鞭を振るうのをいつも楽しみにしていました。

 デイヴィッドはここで、大事な出会いを二つ経験します。同じ学校の生徒であるスティアフォースとトラドルズです。

 スティアフォースはデイヴィッドよりも六歳年上の、ハンサムで物知りな少年で、皆に一目置かれた存在でした。校長先生も彼に鞭を振るうことはありませんでした。スティアフォースはデイヴィッドのことを可愛がりました。デイヴィッドもまた、スティアフォースを慕い、子分のような存在になりました。

 トラドルズはいつも貧乏くじをひいてしまう少年で、校長先生にいつも鞭でたたかれていました。

 この二人との出会いが、デイヴィッドの後の人生に大きく関わってくることとなります。

 学校生活に徐々に慣れたデイヴィッドでしたが、ある日母親が死んだことを知らされました。孤児となったデイヴィッドは、学校をやめる事となりました。ミスター・マードストンは、自らが株を持っている「マードストン=グリンビー商会」へデイヴィッドを入れ、注文の委託業務を行っていたミスター・ミコーバーにデイヴィッドの下宿先の提供を頼みました。ミスター・ミコーバーは、妻と四人の子供を持ち、多くの債務を抱えていました。そのため債務者監獄に入ることとなり、家族も監獄へと移り住むこととなりました。この家族を好きになったデイヴィッドも、家族とともに監獄に住み、ミコーバー家との親交を深めました。
 やがてミスター・ミコーバーは借金に対する投獄措置の法律の改正を求める請願書を下院に提出し、釈放されました。自由の身となったミコーバー一家は、親せきを頼ってプリマスへと旅立っていきました。
 孤独になったデイヴィッドは、仕事にはなかなかなじめず、伯母のミス・ベッツィーを頼って、ドーヴァーまで歩いていく決心をしました。

 ミス・ベッツィーは、デイヴィッドがまだ生まれる前に、母親を訪ねてきたことがありました。ベッツィーは女の子が生まれることを望んでいましたが、デイヴィッドを見て失望し、そのまま家に帰っていきました。その時の迫力のある態度に、デイヴィッドの母親は怯え、物心ついたデイヴィッドにそのことを語りました。話を聞いていたデイヴィッドもまた、ベッツィーのことを恐ろしい人物だと思っていましたが、他に頼れるものがいない中、ベッツィーを頼ることが、貧しく惨めな生活から抜けだすための唯一の方法でした。

 デイヴィッドは荷物を全て掠奪され、ぼろぼろになりながらドーヴァーのベッツィーの家を探し当てました。
 ベッツィーはデイヴィッドの訪問に驚きますが、親切に対応し、ミスター・マードストンと交渉して、デイヴィッドの後見人になり、トロットウッドという養子名を与えました。

 ベッツィーは使用人のジャネットと遠縁のミスター・ディックと暮らしていました。
 ミスター・ディックは、実の兄によって精神病院に入れられそうなところをベッツィーに引き取られ、彼女と一緒に暮らしていました。頭脳にやや欠陥があり、チャールズ一世の頭が自分に移植されていると思い込んでいました。回想録を書いていましたが、チャールズ一世が頭の中に現れるたびに、作業を中断しなければなりませんでした。デイヴィッドはミスター・ディックと仲良しになり、毎日凧揚げをして遊びました。

 やがてベッツィーは、カンタベリーの学校へデイヴィッドを入学させました。

ペゴティーの家族とスティアフォースの事件

 ペゴティーは、デイヴィッドが生まれる前から、デイヴィッドの母親の使用人をしていました。デイヴィッドが生まれると、彼のことを非常に可愛がり、母親とマードストンが結婚の準備を進めているときにも、実家に連れて帰り、面倒を見ていました。

 ペゴティーの一家は、ヤーマスという海辺の町で漁師をしていました。彼らは身分は高くはないものの、海岸に打ち寄せられた廃船を家にして、身を寄せ合ってつつましやかに暮らしていました。

 一家は、ミスター・ペゴティー、ハム・ペゴティー、ミス・ガミッジ、エミリーの四人で成り立っていました。

 ミスター・ペゴティーは、ペゴティーの兄で、家族をまとめ上げていました。

 ミス・ガミッジは未亡人で、その亡き夫というのは、ミスター・ペゴティーと同じ漁船に乗っていた相棒で、貧困によって亡くなりました。ミス・ガミッジは死んだ夫のことを思っていつもくよくよと泣き言を言っていました。

 優しい性格のハム・ペゴティーはミスター・ペゴティーの甥で、父親を海で亡くしていました。

 エミリーはミスター・ペゴティーの姪で、彼女もまた父親を海で亡くし、母親もいませんでした。

 エミリーはデイヴィッドと初めて会った時にはまだ小さな少女でしたが、貧しい漁師たちを助けるために立派なレディーになることを夢見ていました。海辺を軽やかに舞うエミリーにデイヴィッドは恋をしました。

 デイヴィッドがセーラム学園に通うようになると、ミスター・ペゴティーとハムが訪ねてきました。デイヴィッドは尊敬する先輩であるスティアフォースを彼らに紹介しました。

 やがてデイヴィッドの母親が死ぬと、ペゴティーは運送屋のミスター・バーキスと結婚し、ヤーマスの自宅の近くに住み始めました。

 カンタベリーの学校を卒業し、ロンドンへ着いたデイヴィッドは、宿で偶然スティアフォースに出会います。彼はオクスフォード大学の学生になっていました。デイヴィッドは彼の家に招待され、再び交流を深める事となります。
 スティアフォースの家には、スティアフォースの母親、遠縁のミス・ダートル、召使のリティマーが暮らしていました。デイヴィッドは彼らに温かい歓迎を受けた後、スティアフォースと旅行し、ヤーマスのペゴティーの一家に会うことにしました。

 ヤーマスに着くと、デイヴィッドはまず母親の葬儀を行ってくれたミスター・オーマーの店に行きました。そこでエミリーがこの店で年季奉公をしていることを知りました。
 ペゴティーの家に着き、デイヴィッドはペゴティーとの感動の再会を果たしました。彼女は元気に暮らしていましたが、夫のバーキスは、リューマチで寝込んでいました。
 ミスター・ペゴティーの家に行くと、ハムとエミリーが結婚を決めていました。ハムは二年前に一度断られたものの、粘り強く愛し続け、ついにデイヴィッドが訪問したその日に、恋愛を成就させたのでした。
 デイヴィッドとスティアフォースは、彼らの結婚を祝福しました。スティアフォースはハンサムな顔立ちと持ち前の話術で、すっかり彼らと打ち解け、そのまま二週間以上もヤーマスに滞在しました。彼はミスター・ペゴティーのために船を一艘買ってやり、「リトル・エミリー号」と名付けました。
 その間に、デイヴィッドはスティアフォースの召使いであるリティマーもここを訪れていることを知りました。
 スティアフォースにはミス・モウチャーという、美容関係の仕事をしている小人の女性が訪ねてきました。スティアフォースは、ミス・モウチャーに髪の手入れをさせ、ペゴティーたちのことを噂します。そして、エミリーがハムのようなおっとりした性格の男と結婚するのは、一生を棒に振るようなものだと評しました。

 エミリーにはマーサという級友が訪ねてきます。マーサは落ちぶれた女で、彼らの家に入ることすら許されませんでした。エミリーとハムは、マーサをペゴティーの家に連れていき、金を渡しました。マーサは自分のことを誰も知らないロンドンへと旅立っていきました。このことで感情がたかぶったエミリーは、ハムには別の人を好きになった方が幸せになれるのではないかと泣き出しました。ハムはエミリーをなだめ、エミリーを落ち着かせました。
 その翌日デイヴィッドとスティアフォースは帰路につきました。

 その後ローマ法博士会で働いていたデイヴィッドはスティアフォースからの訪問を受けました。彼はヤーマスに滞在し、ペゴティーからの手紙を預かってきていました。その手紙によると、ミスター・バーキスの容態が悪く、息を引き取りそうとのことでした。デイヴィッドは、短い休暇を願い出て、ミスター・バーキスを見舞いました。
 デイヴィッドはヤーマスへ着き、バーキスの死を看取りました。その後一週間で葬式を行い、バーキスの容態が悪かったために延ばされていたエミリーとハムの結婚式が葬式の二週間後に行われるとのことでした。

 しかし葬式が終わると、エミリーはスティアフォースと駆け落ちをしてしまいました。

 失意のハムとミスター・ペゴティーは一晩話し合い、ハムはペゴティーのところに住みながら今の仕事を続け、ミスターペゴティーはエミリーを探しに旅立つことを決めました。ふさぎの虫だったミス・ガミッジはミスター・ペゴティーの留守を預かって、エミリーの帰りを待つ役割を与えられました。

 スティアフォースと召使のリティマーは、ミス・モウチャーに、エミリーとデイヴィッドがお互い気があるのではないかと嘘をつき、エミリーに助言を与えるためにという口実で、内密にミス・モウチャーに手紙を届けさせて会う機会を作っていたのでした。デイヴィッドを訪れたミス・モウチャーは、知らず知らずとは言え、駆け落ちの片棒を担がされる結果になったことに心を痛め、二人の情報が入ったらデイヴィッドに知らせることを約束し、去っていきました。

 ミスター・ペゴティーはスティアフォースの生家に行き、スティアフォースの母親と、同居している親せきのミス・ダートルに、エミリーの結婚を許可するように談判しましたが、身分違いであったため許されませんでした。その後ミスター・ペゴティーは海を渡り、フランス、イタリア、スイスと旅を続けましたが、エミリーを見つけることはできませんでした。

 デイヴィッドがドーラと結婚して一年が経った頃、スティアフォースの家を通りがかった彼を、ミス・ダートルが呼び止めました。ミス・ダートルは、スティアフォースとエミリーについて外国を回っていたリティマーから、彼らの消息についての話を聞いていました。エミリーは行くさきざきで注目を惹きつけていましたようですが、ときどき癇癪を起こすことがありました。それに辟易したスティアフォースは、品位のある申し分のない身分の者をエミリーの結婚相手に世話をして、エミリーのもとを逃げ出しました。エミリーは怒り狂ったため、監禁されましたが、窓の格子を力づくでもぎ取って外に出て、消息を絶ったようでした。
 デイヴィッドはロンドンに滞在しているミスター・ペゴティーを訪ね、リティマーから聞いた話を伝えました。そしてもしエミリーがこのロンドンで生きているとすれば、それを探し出せる人間は、落ちぶれてロンドンをうろつきまわっているマーサしかいないという結論に至りました。
 デイヴィッドとミスター・ペゴティーはマーサを探し出しだし、エミリーを探し出してほしいと頼みました。

 その数か月後、マーサはデイヴィッドを呼び、自分の下宿へと招きました。そこにはエミリーがいたのですが、居場所を嗅ぎつけていたローザ・ダートルが一足先にこの下宿に入り込み、中にいるエミリーに家庭を壊された恨みをぶつけました。ローザは、エミリーの潜伏先を常に見つけ出し、身の上を言いふらして貶めると脅しました。エミリーは必死に許しを乞いましたが、ついに気絶してしまいました。ローザが去ると同時に、マーサによって呼ばれていたミスター・ペゴティーが現れ、気絶したエミリーを抱いて外へ連れ出しました。

 翌日ミスター・ペゴティーがデイヴィッドを訪ね、エミリーから聞いた話を伝えました。エミリーはリティマーの監禁から逃れた後、暴風雨の中を海沿いに進み、倒れていたところを漁師の娘に拾われました。一時期現地の言葉を忘れるほどの病気になりましたが、やがて快方に向かい、フランスへとわたりました。
 フランスでは港にある旅館で旅をする女性たちを接待する仕事をしていましたが、そこにリティマーが再び現れたため、逃げ出してイギリスへと帰ってきました。彼女は家に帰ろうとしましたが、自分にそうする資格がないのではないかと思い、どうしてもその願いを果たすことができませんでした。そしてロンドンへ行き、上品に見える女性に騙されて危うい目に合いそうになったところをマーサに助け出されたといいます。ミスター・ペゴティーは、エミリーをつれてオーストラリアに行って人生をやりなおすつもりだといいました。以降、ミスター・ペゴティーはエミリーに付き添い、他の人と会えないエミリーと周りの人物の連絡係を務めました。
 ハムの家にはペゴティーが引っ越してきて共に住むこととなりました。ハムは自分が愛を押し付けてしまったことをエミリーに対して申し訳なく思っていて、ほかの人を嫁にもらったと嘘をつき、エミリーの自責の念を和らげてやろうとすらしていました。
 ミス・ガミッジはミスター・ペゴティーとエミリーと共にオーストラリアへ旅立つこととなりました。

 旅立ちの数日前、エミリーはハムに向けて贖罪の手紙を出しました。彼女がオーストラリアへ発つ前にその手紙をハムに見せたいと思ったデイヴィッドは、嵐の中、ハムのいるヤーマスへと向かいました。ヤーマスに着くと、ハムはどうしても人手が必要な船の修理のために出張していました。嵐はさらにひどくなり、ハムを心配して待つデイヴィッドに、難破船が来ているという知らせが入りました。デイヴィッドが浜にその船を見に行くと、いまにも波に飲まれそうな船のマストの柱に、数人の乗組員がつかまっているのを見えました。嵐は荒れ狂い、一人の船員以外、皆波に飲み込まれてしまいました。そこへハムが現れ、残された一人を救出に向かいました。しかしあと少しで船にたどり着きそうになったところで、今までにない大きな波に襲われ、ハムは死んでしまいました。宿に残ったデイヴィッドを昔から知っている漁師が訪ね、波にさらわれた船員の遺体が揚がったので見に来てくれと頼みに来ました。デイヴィッドがそれを見に行くと、その遺体はスティアフォースのものでした。

 デイヴィッドはスティアフォースの母親とローザ・ダートルにこのことを伝えに行きます。するとローザは狂ったようになってスティアフォースの母親に怒り狂い、散々甘やかしたがゆえに、その高慢な血を受け継いだスティアフォースは命を落とすこととなったと責め立てました。彼女はスティアフォースのことを愛していたことを告白し、嘆きました。ローザから罵倒されたスティアフォースの母親は気絶してしまいました。ローザはそれを見て我に返り、看病を始めました。

 デイヴィッドはミスター・ペゴティーのもとに帰り、ハムが死んだことを隠しながら、彼らを見送りました。船には、ミスター・ペゴティーの計らいで同行することになったマーサも乗り込んでいました。デイヴィッドは、自分の周りの人々の幸福をしっかりと考えているミスター・ペゴティーを尊敬し、心から慕いました。出航の時、甲板に立つ美しいエミリーの姿をデイヴィッドは見つけました。エミリーはこちらに気づき、さようならと手を振りました。

ドーラとデイヴィッドの恋愛

 学生生活を終え、偶然再会したスティアフォースとのヤーマスへの旅を終えたデイヴィッドに、代訴人にならないかとの手紙がベッツィーから届きました。それはロンドンにある聖ポール大聖堂構内の近くにあるローマ法博士会で開かれる、遺言や結婚に関する訴訟や、船舶の争訟を扱う仕事でした。

 デイヴィッドはベッツィーがあらかじめ話をつけてくれていた、ローマ法博士会にあるスペンロウ・アンド・ジョーキンズ法律事務所に入り、経営者のひとりミスター・スペンロウに紹介され、仮契約として働くことになりました。
 やがてデイヴィッドはテムズ河沿いのアパートに住み、年季契約で正式にローマ法博士会で働くこととなりました。

 デイヴィッドはミスター・スペンロウの家に招待されました。ローマ法博士会について自画自賛するミスター・スペンロウの話を聞きながら家に向かい、娘のドーラ・スペンロウを紹介されると、デイヴィッドはひと目で恋に落ちました。
 ミスター・スペンロウの家には、デイヴィッドを以前虐待していたマードストンの姉が済んでいました。偶然にもミスター・スペンロウとミスター・マードストンが知り合いであり、ミスター・スペンロウはマードストンの姉に、母親のいないドーラの保護者になってもらうように頼んだのでした。マードストンの姉は、昔の家のごたごたを他人に話すのはやめて、過去のことはなかったように生活しようとデイヴィッドに話しました。ドーラに悪い噂を立てられたくなかったデイヴィッドはマードストンの姉の提案を呑みました。

 それ以来、デイヴィッドはドーラの白日夢を見るほどに恋い焦がれるようになりました。

 そして、ドーラの誕生日に行われる野外パーティーに呼ばれたデイヴィッドは、彼女の大親友であったミス・ミルズの協力でドーラに告白し、婚約に成功しました。

 喜びの絶頂にあるデイヴィッドでしたが、ベッツィーが投資に失敗して破産したことを知らされました。それにより、後見人のデイヴィッドにも裕福な暮らしができないことになり、彼は思い悩みました。
 現実的なことを知らないドーラは、デイヴィッドに破産したということを知らされても、なぜ働かなくてはいけないのか理解できず、ただただ恐れるあまりでした。

 ある日マードストンの姉がデイヴィッドからドーラに宛てた手紙を発見し、ミスター・スペンロウに知らせてしまいました。ミスター・スペンロウはデイヴィッドとドーラの結婚を認めず、彼女のことを忘れるよう、デイヴィッドに忠告しました。しかしその翌日、ミスター・スペンロウは馬車から転落して死んでしまいました。

 ドーラはパトニーに住む叔母のミス・ラヴィニアとミス・クラリッサに引き取られ、デイヴィッドは彼女に会うことができなくなってしまいました。
しばらく憂鬱に沈んでいたデイヴィッドでしたが、ドーラの二人の叔母に手紙を書き、なんとか彼女と会うことに成功しました。二人の叔母は、デイヴィッドとドーラの関係をゆっくりと見ながら結婚するにふさわしいかどうか判断してくれることになりました。

 やがてデイヴィッドは速記の技術をあげ、朝刊紙に議会の討論の模様を報道するメンバーに選ばれるようになりました。さらに応募してみた文章が採用され、物書きとしての活動を始めるようになり、安定した収入を得られるようになりました。

 そして二十一歳になって法律上大人になったデイヴィッドは、ドーラとの結婚をようやく許されました。

 ドーラは、デイヴィッドの大叔母のベッツィーや、デイヴィッドの幼馴染のアグネスと懇意になりました。
 無知な二人の新婚生活は思うようには進みませんでした。雇う女中は家の金を使いこみ、外出すると店先では粗悪品をつかまされました。ドーラは数字に弱く、家計簿をつけることができず、料理もできませんでした。
 さらに雇ったボーイがドーラの時計を金に換え、酒場の給仕が家に強盗にはいる計画を立てていたことを知り、デイヴィッドは自分たちが周囲の食いものにされていることに恥ずかしさを覚えました。彼はなんとかドーラを教育しようとしますが、すぐに拗ねてしまうので、まったくの無駄になってしまうのでした。
 デイヴィッドは心からドーラを愛しながらも、アグネスのことを思いだすことが多くなっていました。

 デイヴィッドは作家として成功しますが、そのうちにドーラの体調がすぐれなくなり、歩くことができなくなりました。やがて彼女は徐々に弱っていき、飼い犬のジップと共に死んでしまいました。
 ドーラは死ぬ間際、アグネスを呼んで何かを話し込んでいたようでした。

ミスター・ウィックフィールド、アグネス、ユライア・ヒープの物語

 ベッツィーに学校に通うことを提案され、カンタベリーにやってきたデイヴィッドが初めて入ったのが、ミスター・ウィックフィールドが経営する法律事務所でした。
 ミスター・ウィックフィールドは、デイヴィッドに学校と下宿先を紹介しますが、下宿先に良い場所が見つからなかったので、デイヴィッドを自宅に住まわせました。

 ミスター・ウィックフィールドの家には、娘のアグネスと、使用人のユライア・ヒープが同居していました。ミスター・ウィックフィールドはアグネスのことを溺愛していました。

 ユライア・ヒープは、くねくねと体を動かしながら話す気味の悪い男でした。墓堀りであった父親が死に、ミスター・ウィックフィールドの好意で年季契約で同居していました。法律の勉強中で、年季契約が済んだら一人前の弁護士になることを夢見ていました。卑しい身分であったため、デイヴィッドに対しても卑しい態度をとり、それが却って気に障る人物でした。

 ミスター・ウィックフィールドに連れられて、デイヴィッドは新しい学校に行き、新しい先生であるドクター・ストロングに紹介されました。

 ドクター・ストロングには美しくて若い妻のアニーがいました。アニーの実家はみな貧乏で、ドクター・ストロングはアニーのいとこであるジャック・モールドンの就職先の紹介をミスター・ウィックフィールドに頼んでいました。ミスター・ウィックフィールドは、ジャック・モールドンを士官候補生にし、インドへ駐屯する道を紹介しました。

 ミスター・ウィックフィールドがジャック・モールドンをインドに遣ったのは、アニーが良心の呵責を感じながらも、ジャック・モールドンと惹かれあっていたことを知っていたためでした。ドクター・ストロングは二人の関係に全く気付きませんでしたが、ミスター・ウィックフィールドはそれを察知して、ジャック・モールドンを遠方へと送ったのでした。

 そのうちにデイヴィッドはユライア・ヒープの自宅へと招かれました。ユライア・ヒープの母親もまた自分のことを卑下する性格でした。戸を開け放しにしていたため、そこを偶然ミスター・ミコーバーが通りかかり、デイヴィッドとミスター・ミコーバーは再開しました。ミスター・ミコーバーとユライア・ヒープはすぐに仲良くなりました。デイヴィッドはミスター・ミコーバーの家にも招かれますが、その日のもらった手紙で、彼らが破産していたことを知りました。しかし持ち前の楽観性で酒を飲みながらのどかな喜びをたたえている表情のミスター・ミコーバーを見かけ、デイヴィッドはいつものことかと安心しました。

 デイヴィッドは学生時代をこのように過ごし、卒業すると彼らに別れを告げて、ロンドンへと旅立ちました。

 ロンドンでローマ法博士会の職に就いたデイヴィッドは、スティアフォースと酒を飲み泥酔しているところを、偶然芝居を見に来ていたアグネスに見られました。
 アグネスはロンドンで父親の代理人の家に滞在しており、デイヴィッドを招待しました。アグネスは、泥酔したデイヴィッドと行動を共にしていたスティアフォースにあまりよい印象を抱かなかった様子で、スティアフォースとの付き合いは危険だとデイヴィッドに忠告しました。
 彼女によるとユライア・ヒープがミスター・ウィックフィールドの共同経営者になるつもりでいるらしく、すっかりミスター・ウィックフィールドのことを支配してしまっているそうでした。嘆き悲しむアグネスを見て、デイヴィッドは怒りにかられました。

 また、この晩餐で、デイヴィッドはセーラム学園の同級生であるトラドルズに偶然再会し、その後彼の家を訪ねます。トラドルズは、法律の勉強をしながら出版関係の仕事もしていました。まだ貧乏でしたが、新聞社にも脈がありそうで、副牧師の娘ソフィーと婚約もしていました。トラドルズとの会話が進むにつれ、下にいる大家が、偶然にもミコーバー夫妻であることがわかりました。デイヴィッドはミスター・ミコーバーを呼び、再会を喜びました。ミスター・ミコーバーは、穀物の委託販売に手を染めていました。夫妻には子供が一人増えそうな兆候があるようでした。

 デイヴィッドははトラドルズとミコーバー夫妻を家に招待することにしました。自宅での酒宴は盛り上がりましたが、その時に預かったミスター・ミコーバーからの手紙で、デイヴィッドは彼が破産したことを知りました。さらにミスター・ミコーバーの家の下宿人であるトラドルズの所有物も指し押させられてしまいました。

 その後、ミスター・ミコーバーは度重なる家賃滞納で再び差し押さえにあって、モーティマーと名を変えて人目を忍んで生活することになりました。

 ベッツィーに破産したことを知らせれたデイヴィッドは、偶然再会したアグネスに事情を打ち明け、学生時代の恩師であるストロング先生が引退し、自身が打ち込んでいる辞書の作成のために秘書を探していることを知りました。デイヴィッドはストロング先生に頼み、働かせてもらうことになりました。
 またデイヴィッドは、トラドルズに相談し、身を立てるために速記述に打ち込みました。

 その後ユライア・ヒープは、ミスター・ウィックフィールドと共同経営をすることになりました。事務所の名前もウィックフィールド=ヒープ事務所となり、事務所を乗っ取るようなかたちになりました。ユライアは、何度も破産した挙句に新聞に売り込みのための広告をだしたミスター・ミコーバーを、私設秘書として雇うことにしていました。
 ヒープはさらにアグネスのことも手に入れようとしていました。デイヴィッドがアグネスに会いに行っても、ヒープの母親は監視の目を緩めず、常に見張られました。デイヴィッドは隙を見て、父親がユライアに支配されても、自分を犠牲にしてヒープと結婚するのは駄目だと、アグネスに助言します。

 アグネスがストロング先生の家に二週間の滞在予定でやってくると、ユライア・ヒープもついてきました。ヒープは過去に、ジャック・モールドンにこき使われていたことがあり、またアニーのほうも卑しいヒープのことを相手にしなかったため、二人に恨みを持っていました。彼は、アニーとジャック・モールドンをここから追い出すために、二人が惹かれ合っていた事をストロング先生に話してしまいました。何も気づいていなかったストロング先生は傷つきますが、アニーのことを追い出すことはせず、アニー気晴らしになるようにと、母親のミセス・マークラムを呼びました。

 やがてデイヴィッドは結婚してストロング先生のところの仕事を辞めますが、たまにお茶に呼ばれ、交友は続きました。ある日ミセス・マークラムは、ストロング先生が遺言状を書いているところに出くわします。ストロング先生は法律関係の人と、アニーに全財産を譲渡するという内容を話していました。この話を聞いたアニーは、自分を心から大事にしてくれる先生に感謝し、自分が先生を不幸にしていたかもしれないことを悔います。彼女は先生の前にひざまずき、まだ何も知らない頃に先生に結婚を申し込まれ喪失を感じたことや、先生が裕福だからこそ勧められた結婚であったのではないかと疑い、惨めな気持ちになって、ジャック・モールドンに惹かれてしまったこともあったと告白しました。彼女は今まで不義がなかったことと、先生への愛は永遠に続くことを誓いました。

 ある日ミスター・ミコーバーから、話を聞いてほしいという手紙がデイヴィッドに届きました。トラドルズとともに会いに行くと、彼はユライア・ヒープにかなりの恨みを持っている様子でした。

 ミスター・ミコーバーは、デイヴィッド、トラドルズ、ミス・ベッツィー、ミスター・ディックを事務所に招き、ヒープを呼び出して、彼の悪事に関する文書を読み上げました。トラドルズとは事前にこの日のことについて打ち合わせていた様子で、トラドルズはミスター・ウィックフィールドの代理人を務め、ミスター・ミコーバーの暴露を聞き遂げると宣言しました。

 ミスター・ミコーバーは事務所で働き始めましたが、給料が少なく、家族を養うために金銭の前借りをヒープに願い出ました。それからヒープはウィックフィールドを騙すために、ミコーバーとの信頼関係を結ぼうとしました。しかしミコーバーは十二ヶ月の間、自ら調査を行ない、ヒープの悪事をつきとめたのでした。

 ミスター・ウィックフィールドの事務能力や記憶力が弱まってきたことを機に、ヒープは事務所の業務全般を故意に複雑にし、重要書類にウィックフィールドの署名をもらい、多大なウィックフィールドへの委託金を抜き取る権限を自分に移行させました。それを本来弁済する必要のない返済済みの金の弁済に当て、それがウィックフィールドの悪巧みによってされたものであると装い、彼に弱みを作りました。

 さらにヒープはミスター・ウィックフィールドの筆跡を真似て署名をしたり、証文を偽造してウィックフィールドの財産を搾り取ろうと画策します。その証文には、ミスター・ミコーバーが真正なることを証明すると書かれていましたが、彼はそのようなことを証明したことはありませんでした。偽の帳簿は、ミコーバーが金庫から取り出して、今はトラドルズが保管していました。

 さらにヒープは親子を支配するために、共同経営における分担の権利の放棄と、家財一切の担保承諾証書までも譲渡するようにウィックフィールドに説いていました。

 これらの事実は、ミコーバー家がヒープの前の家を使っていたため、ミセス・ミコーバーが焼け焦げた手帳を見つけことから発覚したのでした。大部分は破損していましたが、そこにはウィックフィールドの署名を真似たものが残っていたのです。

 ベッツィーはウィックフィールドに投資し、財産を使い果たされたと思いこんでいましたが、アグネスのためにそれを黙っていました。それがヒープの責任によってなされたものであるとわかり、彼女は賠償を求めました。

 トラドルズはヒープに、帳簿と書類を全て提出させるよう求めました。ヒープがそれを拒否すると、トラドルズは警察を呼ぼうとしました。するとヒープの母親が泣き出し、証拠となる書類を提出しました。ヒープは悪態をつきながら去って行きました。

 ユライア・ヒープの告発を終えたミスター・ミコーバーは、デイヴィッドたちを自宅に招きました。そこでデイヴィッドはミコーバーの家族が絆を取り戻す瞬間に立ち会いました。結果として職を失うこととなったミスター・ミコーバーに、ベッツィーは、エミリーたちと同じ便でオーストラリアに移住することを勧め、資金を貸してやる約束をしました。ミコーバー夫妻はすぐに乗り気になり、オーストラリア行きを決意しました。

結末

 ドーラを失なったデイヴィッドは旅に出る事にしました。スティアフォースとハムは亡くなり、ミスター・ペゴティーの家族とミスター・ミコーバーの家族がオーストラリアに旅立ったため、デイヴィッドは孤独を深め、鬱状態になっていました。しかしスイスの宿でアグネスからの手紙をもらったデイヴィッドは、その手紙によって元気を取り戻し、再び筆を取り始めます。本国でのデイヴィッドの名声は高まっていました。

 デイヴィッドは外国に住み続ける中で、自分がアグネスからの愛を知らず知らずはねつけてきていたことに思い当たり、もしかしたらアグネスと歩むことになっていたかもしれない未来について考えました。彼は自分もアグネスのことを愛していることに気づきますが、自分が彼女との人生を始めるのにふさわしい人間であると思うことが全くできませんでした。そしてこの想いを、自分の欠点を自覚するための手段に変えようとしながら生活を続けていきます。

 旅を始めてから三年が経ち、デイヴィッドはロンドンへと帰りました。まず訪れたのはトラドルズでした。彼はまだ貧乏な様子でしたが、弁護士になり、気立てのいい娘であるソフィーと、長年の婚約を成就させて結婚していました。

 デイヴィッドは、生家の医師を務めていたチリップ先生にコーヒー店で偶然遭遇し、マードストン姉弟のことを聞きました。それによると、マードストンは再び金持ちの娘と結婚したようでしたが、デイヴィッドの母親に強要したような厳格すぎる宗教を、この妻にも押し付け、廃人同然にしてしまったそうでした。

 そしてデイヴィッドはドーヴァーに家を再建していたベッツィー、ミスター・ディックとその家政婦になっていたペゴティーとの再会を果たしました。ベッツィーにアグネスのことを聞いたところ、アグネスには結婚できる機会が何度となくありましたが、すべて断っていると言いました。

 デイヴィッドはカンタベリーへ行き、アグネスを訪ねました。二人は再会を喜びました。デイヴィッドはアグネスのことを愛していましたが、自分にとって手の届かない存在のように感じ、これまでと同じように、自分を常に善き方向へと導いてほしいと頼むだけで去っていきました。

 デイヴィッド旅に出ている間、作家としての名声があがったため、たくさんの手紙が届いていました。その中に、クリークル先生からのものがありました。それによると、先生は校長をやめて治安判事になっていました。彼は刑務所を牛耳っていて、囚人を人々の前で悔悛させる、独房制度をデイヴィッドに見せたいと言ってきました。
 デイヴィッドはトラドルズを連れて、その刑務所を訪れました。その刑務所で、二十七号として捕らえられているのが、ユライア・ヒープでした。彼はイングランド銀行相手に詐欺を働き、大金を得ようとした罪で服役していました。

 その隣には、リティマーが二十八号として捕らえられていました。彼は勤め口から二百五十ポンドを海外に持ち逃げしようとする罪で捕まりました。リティマーを捕まえたのはミス・モウチャーでした。ミス・モウチャーはリティマーに殴られてもしがみつき、法廷でもしっかりと、証言したようでした。ヒープとリティマーの二人は、あたかも悔悛したかのように人々の前で告白して、模範囚となっていましたが、彼らのようなものは決して反省などしないことをデイヴィッドは知っていました。

 帰国して二ヶ月以上が経ち、クリスマスの時期になりました。デイヴィッドはアグネスを愛し続けていましたが、彼女を傷つけるかもしれないと思い、また分別ある大人としての諦観のために、告白をすることができませんでした。
しかしアグネスがもしも自分の気持ちに気付いていて、自分を傷つけないようにしているのだとしたら、これは打破しなくてはならないと彼は思いました。
 凍てつく厳寒の冬の日のこと、デイヴィッドはアグネスを訪ね、アグネスに好きな人がいるのであれば、自分に話してほしいと頼みました。アグネスは泣きだし、もし自分に秘密があるとしても、それは以前からあったもので、デイヴィッドには打ち明けられないと言いました。デイヴィッドはこの時まで、全くアグネスに自分の恋心を打ち明けるつもりはありませんでした。しかし、アグネスが「自分の(恋心の)秘密は、ずっと以前からあったものだ」という言葉に勇気を得て、自分の想いを全て打ち明けました。アグネスは、嬉し涙を流しながら、最初からずっとデイヴィッドのことが好きだった、と言いました。

 その二週間後、二人は結婚式を挙げました。アグネスはドーラのことを語りました。生前ドーラは、自分の死後、座り手のいなくなる自分の椅子に座ってほしいとアグネスに頼んでいたそうでした。

 その十年後、富も名声も大きくし、三人の子供に恵まれていたデイヴィッドを、ミスター・ペゴティーが訪れました。彼はオーストラリアで羊飼いや牧畜をやり、成功を収め、四週間の予定で、イギリスに帰って来たのでした。デイヴィッドは彼から、移住した者たちの現在を知りました。

 エミリーは、移住してしばらくは、テントの蔭で毎晩祈りを捧げていました。今は現地にいる子供たちや病人の面倒を見たり、結婚式を手伝ったりしていますが、自分が結婚する気はないようでした。
 ミスター・ペゴティーもエミリーも、ハムの死をすでに知っていました。
 マーサは二年前に、農場の男と結婚しました。
 ミス・ガミッジは、船のコックに求婚されましたが、それを断ってミスター・ペゴティーの仕事を手伝っていました。
 ミスター・ペゴティーが持ってきた新聞によると、ミスター・ミコーバーは町の治安判事になって成功し、殊勲を祝う晩餐会が開かれたようでした。その新聞には移民として現地で博士になり、子供をもうけたメル先生のことも載っていました。ミスター・ミコーバーは新聞への投書の常連になっていて、その中で、デイヴィッドへの友情を書いた記事も載せていました、
 ミスター・ペゴティーは、ハムの墓に行き、エミリーのために、そこにあった土と一本の草を持っていきました。

 結末では、それぞれの登場人物のその後が描かれます。
 ベッツィーは八十歳を過ぎても元気にしっかりと歩きます。
 ペゴティーは、そのそばに寄り添っています。彼女はデイヴィッドが幼少期に好きだったクロコダイルの本を常に大事に持ち歩き、デイヴィッドの子供達に見せています。
 ミスター・ディックは、大凧を作って子供達と遊んでいます。
 スティアフォースのお母さんは、息子の死を受け入れられないまま呆けてしまったようです。その面倒を献身的に診ているローザは、まだスティアフォースを忘れられない様子で、激情的な一面を見せます。
 ジュリア・ミルズは、スコットランド人の大金持ちの年寄りと結婚しましたが、喧嘩が絶えず、心の中は空虚に満たされています。
 ストロング夫妻は、辞書作りを楽しく続けています。ミセス・マークラムは零落した立場に追いやられています。
 トラドルズは、二人の息子ができ、自分の人生が幸福に恵まれていることを喜びながら生活しています。ソフィーの母親ミセス・クルーラーは亡くなっていますが、姉妹のうち何人かは結婚し、美人の姉だけが出戻っています。
 そしてアグネスは、ずっとデイヴィッドに寄り添い、天上の光のように、彼の人生を照らし出してくれています。デイヴィッドは、自分の命が尽きる時にも、アグネスにはそばに付き添っていてほしいと、この物語を締めくくります。