スタンダール『赤と黒』の詳しい登場人物紹介

スタンダール『赤と黒』の登場人物を詳しく紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

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※『赤と黒』(第一部)の詳しいあらすじはこちら

※『赤と黒』(第二部)の詳しいあらすじはこちら

主な登場人物

ジュリヤン・ソレル
ヴェリエール(フランス東部にあるとされる架空の町)の小川のほとりにある製材所の息子。一見弱々しく小柄な青年で、品のある顔立ちをしている。
十四歳のころに、イタリア遠征から戻った一人の竜騎兵を見て、軍人に夢中になる。レジオン・ドヌール勲章を持つ軍医正に気に入られ、ラテン語を教わるとともにイタリア遠征の話を聞き、ナポレオンを崇拝する。また上流社会に強い憧れを抱くようになり、ヴェリエールを出てパリの女と関係を持つことを夢見ている。
老軍医正の残してくれたルソーの告白録、ナポレオン軍の戦況報告書、セント・ヘレナ日記が愛読書で、読書ばかりして力仕事が得意でないため、父や兄からいつも殴られている。
ヴェリエールに建てられた教会のことで、治安判事が急進王党派の助任司祭と反目し、あやうくその立場を失いかけたことがきっかけで、権力と給料の高い司祭職に就くことを公言し、ナポレオンの話をするのを辞め、敬虔なふりをして町の司祭シェラン神父から神学を教わるようになる。ラテン語の新約聖書をまったく信用していないに関わらず、全て暗誦している。
シェラン神父が町の司祭を辞めることになると、その後釜となる予定で町長レーナル氏の家に呼ばれ、ナポレオンを崇拝していることを隠しながら家庭教師として雇われることとなる。
レーナル氏の家に入って間もなく、聖書を暗誦したことで町中で神童として有名になり、世俗のことばかりが話題になる上流社会への嫌悪を一層強く募らせながら、レーナル家の子供たちに教育を施す。
はじめのうち、自分の貧しさに同情を寄せるレーナル夫人を、上流社会の女として嫌っていたが、別荘地ヴェルジーで滞在を始めると徐々に心を開くようになり、読書で覚えた上流社会の恋愛をしなければならないという義務感から手を握ったことをきっかけに、夫人との距離を縮めていく。
やがて友人のフーケが情婦に対してとった大胆な行動を聞き、レーナル夫人を誘惑しなければならないという思いに囚われ、ある夜、彼女の部屋へと忍び、関係を持ち始め、やがて本当に夫人のことを愛するようになる。
国王のヴェリエール訪問の聖クレマンの遺骨参拝における宗教上の儀式のためにシェラン神父に呼ばれ、ヴェリエールに帰る。自分に恋をするようになったレーナル夫人の希望により警備隊に加わるが、材木屋の倅が警備隊になったことを町中の自由主義者から非難される。
もともと自分に想いを寄せていたエリザにより、レーナル夫人との関係がヴァルノに知られ、そのヴァルノから自分たちの関係をあばく匿名の手紙が届くと、レーナル氏や世間の目を欺くため、ヴェリエールの街に一度戻る。
ヴェリエールでは、自分を家庭教師に引き抜こうとするヴァルノを始めとする人々からさまざまな招待を受け、流行児となるが、上流社会への嫌悪をより一層募らせる。
ヴェリエールにレーナル家の人々が戻り、自分たちの醜聞で町中がもちきりになると、シェラン神父に町を出ていくよう促され、レーナル夫人との別れを決心する。
シェラン神父の勧めにより、ブザンソンの神学校に入り、まもなく横柄な態度のために、他の生徒からの軽蔑と嘲笑を受けるようになる。そのため偽善的に、信仰深く、目立たないように振舞うが、他の身分の低い生徒たちとはあまりに異なっていたために憎悪を買い、辛い日々を過ごす。
やがて優秀な成績と謙虚な態度が校長のピラール神父に認められ、新約と旧約聖書の復習教師に任命される。しかしピラール神父の敵対勢力で新学校長の座を狙っているフリレール神父の企みで主席の座を落とされると、この一部始終によってパリ近郊の司祭職に就くことになったピラール神父により、ラ・モール氏の秘書として呼び寄せられる。
パリへと行く直前、ヴェリエールを訪れてレーナル夫人の家に忍び込み、改心しようとていた夫人を口説き落とし、その次の夜まで屋敷に忍び込んだ後でヴェリエールを後にする。
パリに着き、ラ・モール侯爵の秘書としての仕事を始めると、家を訪れる人々を観察するうちに、パリの上流社会においても数多くの欺瞞や偽善がはびこり、誰もが他人を陥れていることに気付くようになる。
ラ・モール侯爵の娘のマチルドに対しては、その高慢な態度に嫌悪を抱き、晩餐で向かい合わせになるように座らされても退屈を感じていた。
知識があまりに偏っているがために、始めはラ・モール侯爵の失望を買っていたが、そのうちに頭の良さや自尊心の高さを買われ、打ち解けた態度を示されるようになる。自分でも丁重に扱ってくれるラ・モール侯爵に愛着を抱くようになり、マチルドに対しても、他のパリの女に見られる気取りがないのを見て、打ち解けて話すようになり、ナポレオン崇拝についても語るようになる。
そのうちに情愛のような態度を見せるマチルドが自分を愛しているのかと思案するようになり、彼女を自分のものにして逃げ出そうという考えに取りつかれるようになる。
マチルドからの恋文を受け取ると有頂天になり、社会全体を敵に回して彼女を誘惑することを決心する。しばらくはマチルドが自分を破滅させようとしているのではないかという疑いを抱いていたが、彼女の指示どおり夜中に部屋を訪れ、一夜を共に過ごしたことでその疑いが晴れると、自尊心の満足を覚える。マチルドのことを愛してはいなかったが、その翌日から冷淡になった彼女に動揺し、やがて狂おしい恋心を抱くようになり、その恋心や嫉妬心を表したために、却って軽蔑されることとなる。しかし、より酷い仕打ちを受けると、これ以上不幸になることはないと考え、梯子を使ってマチルドの部屋まで登っていき、その勇気に感動した彼女と再び一夜を過ごし、無上の幸福を味わう。しかし、再び自分に身を任せたことを後悔し始めたマチルドに徹底的に罵倒されて傷つき、再び恋心を募らせることとなる。
ラ・モール侯爵に依頼されて密議の内容を暗記し、その秘密を修道会警察組織の頭目になっていたカスタネード神父に探られそうになりながら、マインツのとある公爵に報告し、その公爵にストラスブールでの滞在を命じられる。
ストラスブールで、以前ロンドンで知り合ったロシア人コラゾフ公爵に出会い、恋愛の指南を受け、マチルドに気を持たせるために未亡人のフェルヴァック夫人に言い寄ることを決める。
コラゾフにもらったお手本の手紙を参考に、フェルヴァック夫人に手紙を送り続け、やがて彼女の晩餐会に呼ばれるようになると、そのサロンで人気を博し、フェルヴァック夫人からの手紙を貰うようになる。
この策が功を奏し、マチルドが自分の愛情なしには生きられないと言ってひれ伏すと、ようやく手に入れた幸福に負けそうになりながら、マチルドに冷淡に接することを忘れず、彼女の気持ちをつなぎとめる。
そのうちにマチルドが妊娠すると、ラ・モール侯爵に家を追い出され、ピラール神父の司祭館に隠れながらマチルドと会うようになる。
マチルドの自分たちの結婚を認めさせようという働きかけにより、ラ・モール侯爵からジュリヤン・ド・ラ・ヴェルネー従男爵という名前を与えられ、軽騎兵中尉としてストラスブールの連隊に入隊にすることになる。
自身の輝かしい未来を思い描くようになったのもつかの間、ラ・モール侯爵から照会を求められたレーナル夫人が、告解師に言われるがままに出世のためにその家の主たる婦人を誘惑するという内容の手紙をよこしたため、これがラ・モール侯爵の怒りを買い、マチルドとの結婚を拒絶される。
連隊から戻り、このことを知ると、マチルドを置き去りにしてヴェリエールへ向かい、教会で祈りを捧げているレーナル夫人に発砲し、復讐する。
まもなく逮捕され、ブザンソンの牢獄に入れられると、出世のことを考えなくなり、自分は計画的に犯罪を犯したので、死刑に値すると主張し続ける。マチルドが自分の釈放ために献身的に尽くしていることに何の感動も感じないことに両親の呵責を覚える一方で、レーナル夫人の傷が致命傷でなかったことを喜び、彼女との思い出を懐かしく思い出しながら日々を送る。
公判になると、自分が卑しい身分を抜け出そうとした百姓で、計画的な殺人を犯したため、死刑に値すると語り聴衆の同情を誘うが、ヴァルノらの陪審員により、死刑を宣告される。
その後マチルドに控訴を勧められるが断り、ヴェリエールを逃げ出してきたレーナル夫人との残された日々を楽しみに過ごし、彼女にマチルドが産んだ自分の子供を世話するという誓いを立てさせる。死刑執行が決まると、ヴェルジーで過ごした楽しい日々の思い出をまざまざまと思い出しながら、斬首される。
遺体は、マチルドとフーケにより、自分の希望通りジュラ山脈の高い山の洞窟の中に葬られる。

レーナル氏
ヴェリエールの町長。五十歳ちかくの、いくつも勲章を持つ急進王党派。融通の効かない能無しという印象を与えるが、金の話をするとき以外は愛想がよく、頭の良い紳士だと思われている。
釘製造工場の経営によって財産を作り上げた。一八一五年の王政復古によって町長になり、美しい眺望を持つ丘沿いの散歩道を、大きな石垣で補強したことがある。自分の地所を増やし、石垣でそれを囲うほどに隣近所から尊敬されるものだと思いこんでおり、以前ソレルの製材所があった場所を買い取ったこともある。
町の司祭シェラン神父とのいさかいにより、彼が職を離れると、神学を学んでいたジュリヤンをその後釜にするつもりで月三百フランで雇い、子供たちの家庭教師を任せようとソレル氏に交渉する。
ソレル氏に給金を釣り上げられながらも、ジュリヤンを自分の家に招き入れると、家庭の雰囲気にそぐわない知人と会わないこと、自分の与えた給金を父親に渡さないことを約束させる。
まもなく聖書の言葉をすべて暗誦することのできるジュリヤンが町で評判になったため、ヴァルノらの町の有力者に引き抜かれないよう、給金を釣り上げて雇い続ける。
ジュリヤンと妻が関係を持ったことにしばらく気づかないでいたが、ヴァルノが匿名の手紙でその関係を暴くと、ジュリヤンを一時的にヴェリエールに戻す。しかし遺産を相続するために妻とは別れようとはしなかった。
ジュリヤンが発った後、妻と彼との関係が町中で取り沙汰されるようになったため、妻に対する疑いを深める。
町長を退いた後、ジュリヤンによって妻の殺害未遂を起こされる。撃たれたにも関わらず、逮捕された彼のところへ行こうとする妻に反対するが、証人として喚問されることをしないことを条件に、ブザンソン行きを許す。

レーナル夫人
レーナル氏の妻。三人の男の子を抱える三十歳前後の母親。ブザンソンに住む大金持ちの叔母の跡取り。ブザンソンの聖心修道院で反イエズス会派の修道女に育てられた。
背の高い、ヴェリエールきっての美人。夫との関係に満足し、子供のことにしか気を使わない素朴で貞淑な妻であり、ヴァルノに言い寄られて撥ねつけたことがあった。
ジュリヤンが家庭教師としてやってくると、まもなく彼の貧しさを知り、本気で心を痛め、同情を寄せるようになる。しかし金を恵もうとしてはねつけられたことで、それまで金銭や名誉のことばかりを口にする自分の周囲の男とジュリヤンが異なる心を持つことを知り、その気位の高い高潔な心に共感する。やがて小間使いのエリザがジュリヤンに結婚を申し込もうとして断られたことに幸福を感じたことで、自分がジュリヤンに恋をしているのではないかと考えるようになる。
別荘地のヴェルジー滞在中に、自分を誘惑しなければならないと考え始めたジュリヤンに手を握られる。それまで恋をしたことがなかったため、自分の心の変化を咎めることなく幸福感に浸っていたが、ジュリヤンが持っていた箱に入っているナポレオンの肖像画が恋人のものではないかと思い込んで嫉妬を感じ始めたことや、腕に唇を押し当てられたことがきっかけとなり、罪の意識に苦しみ始めるようになる。一度ジュリヤンに冷静な対応をとろうと決心するが、彼にほかの好条件の家庭教師の口があるのではないかという夫の言葉により、不安に駆られるようになる。
ある夜、自分の部屋にジュリヤンが訪れてくると、その行動に本気で腹を立てるが、彼が自分の足元に跪いたことで拒むことができなくなり、それ以来彼の虜となる。
国王のヴェリエール通過では、ジュリヤンの警備隊の制服姿を見たいという欲望に駆られ、警備隊の一員にするが、これが町中の自由主義者たちの反感を買い、彼との関係を噂されるようになる。
その後末の子が熱を出し、重態に陥ると、神からの罰が自分にくだったのだと思い込み、自責の念にとらわれる。
小間使いのエリザの密告によって自分たちの関係を知ったヴァルノが、家庭の様子を書いた匿名の手紙を送ってくると、ジュリヤンにも匿名の手紙を作らせて、自分にも同じような手紙が届いたと夫に信じ込ませ、夫と世間の目を欺きながらジュリヤンを手元に置き続けることに成功する。しかし抜き差しならないほどに町中に自分たちの関係が噂されるようになると、ついにジュリヤンとの別れを決意する。
ジュリヤンがブザンソンに旅立ってからは、毎日のように手紙を書いて過ごしていたが、その手紙が届く前に破棄されていたことで、返事を受け取ることができないまま、惨めな日々をすごしていた。しかし自分と悲しみを分かち合ってくれたシェラン神父の助けを借りて自分の罪深さに気づき、徐々に落ち着いた生活を取り戻す。
その後友人のデルヴィル夫人に言い含められて改心し、ブザンソンの大聖堂の告解室をしばしば訪れるようになる。聖体行列の日に、ブザンソンの大聖堂の見張りを頼まれていたジュリヤンと顔を合せ、気絶する。
その後、神学校を出たジュリヤンが夜中に突然自分の部屋を訪れてくると、改心したことを伝え、必死に抵抗するが、ジュリヤンがパリへ発つことを聞くと、その情熱に抗う事をやめて身を任せる。今生の別れとなるであろうジュリヤンに愛情の限りをつくし、夫に見つかるかもしれないという危険を冒しながら、その翌日もジュリヤンを家に隠し、その日の夜までお互いのことを語り合う。
ジュリヤンと別れた後、死を願いながら生活していたが、ラ・モール侯爵によってジュリヤンに関する問い合わせを求められると、告解師に強要され、ジュリヤンが雇い主の婦人を誘惑するという罪深い行状について書き送る。
これがもとで、マチルドとの結婚を阻まれたジュリヤンにより発砲を受けて倒れるが、その傷が致命傷でなかったため、彼の手にかかって死ぬことができなかったことに落胆する。
ジュリヤンが牢獄に入ると、彼が酷い扱いを受けないよう、エリザを通じて牢番を買収し、新聞で陪審員たちの名前が知れるとブザンソンに行き、三十六人の陪審員に直筆の手紙を書き、ジュリヤンの助命を願う。
ジュリヤンに死刑が宣告されると、死刑囚の監房を訪れ、頻繁に会うようになるが、間もなくこれが夫に知られることとなり、ヴェリエールへと帰される。
しかしその後ヴェリエールを逃げ出して再びジュリヤンの元を訪れ、有力な叔母の力を利用して、頻繁に会うようになる。国王に助命を願うことも考えるが、ジュリヤンが死刑を受け入れていることを悟り、処刑の日まで彼のそばで過ごすことを決める。
自分から命を縮めることはしないというジュリヤンとの約束を忠実に守ろうとしたものの、彼の処刑から三日後に、子供たちを抱きしめながら息を引き取る。

ソレル氏
欲深いジュリヤンの父親。現在のレーナル氏の庭の一部に製材小屋を持っていた。その土地を移ってほしいとレーナル氏に頼みこまれて六千フランの大金で売りつけ、小川のほとりにある今の製材所に移り住む。字が読めないため、ひ弱なジュリヤンが働かず、読書ばかりしていることを気に入らず、いつも殴っていた。
ジュリヤンを自分の家の家庭教師にしたいというレーナル氏からの要望を聞くと、彼の住むことになる部屋を見せてもらい、着物に使うための金を要求し、釣り上げた給金を月初日に先払いで払わせる約束を取り付け、ようやく息子を送り出す。
やがてレーナル夫人を撃った罪でジュリヤンが逮捕されると、牢獄を訪れて説教を始める。しかしジュリヤンが小金を貯めていたと言いはじめると、もしキリスト教徒として死にたいのなら、自分に対する養育費や教育費といった負債を払わなければならないと言って金銭を要求する。

ヴァルノ
ヴェリエール貧民収容所の所長。裕福な家庭の生まれではなかったが、レーナル氏に拾い上げられ、無作法で活動的な性格が功を奏して出世した。背の高い、体格のがっちりした美男子だが、ずうずうしく下劣な男で、六年間にわたってレナール夫人に言い寄っていた。
貧民収容所に宛てられる援助金を搾取し、裕福な生活を送っており、ノルマンディー産の駿馬を持っている。
シェラン神父がパリから来た自由主義者アペール氏を収容所の視察に同行したため、これに激怒し、神父に職を離れさせる。
レーナル氏の家の家庭教師となったジュリヤンを知ると、彼の家庭教師でありながら身だしなみに気をつけすぎていることに反感を覚える。
ヴェルジーの別荘に移ったジュリヤンとレーナル夫人の関係をエリザから聞き、怒りを覚えるが、ジュリヤンを家の家庭教師に迎えたいという妻の意向を汲んで、二人の関係をあばく匿名の手紙をレーナル氏に向けて書き、レーナル氏と争うことを決め、高い給金をジュリヤンに提示するが、断られる。
レーナル氏の後釜として市長になることを目指し、ジュリヤンがパリで勲章をもらったという噂を聞きつけて訪れ、ラ・モール侯爵の党の新任知事の一人となる。その後、ヴェリエールの市長の男爵になる。
ジュリヤンがレーナル夫人を撃って逮捕されると、陪審員に選ばれて公判に参加する。ジュリヤンの無罪を主張していたフリレール氏に、知事の任命辞令をちらつかせて主張を曲げさせ、犯行が計画的な殺人で死刑に値するという判決を下す。

シェラン神父
ジュリヤンにラテン語を教えていたヴェリエールの八十歳になる神父。牢獄、施療病院、貧民収容所を、好きな時に見舞う権利を持っていた。
五十六年にわたってヴェリエールの司祭を勤めていたが、自由主義者アペール氏に、町の監獄や施療病院の視察を許可したため、レナールやヴァルノといさかいになり、司祭の職を辞め、その土地で相続した畑から得る収入で暮らしていくと宣言する。
レーナル家の家庭教師になったジュリヤンの心の奥に潜む出世欲を見抜いており、彼が司祭職に向かないであろうことを心配する。
免職後、国王のヴェリエールにある聖クレマンの遺骨参拝のためにジュリヤンとともに儀式の世話をする役割を引き受ける。
ジュリヤンがヴェリエールを発った後、彼との関係が町中に知れ渡ったレーナル夫人とともに悲しみを分かち合い、彼女が落ち着いた生活を取り戻す手助けをする。そしてパリに旅立とうとするジュリヤンがヴェリエールに帰郷すると、彼がレナール夫人に会おうとしているのを止め、誰にも会わないようにヴェリエールを去るよう命じる。
やがてジュリヤンが従男爵として富を手に入れるようになると、貧しい人に分け与えるための金として、五百フランを受け取る。
その後ジュリヤンが逮捕されたことを知って牢獄に駆けつけ、その運命を嘆く。

デルヴィル夫人
レーナル夫人の聖心修道院での同窓生で、毎年ヴェルジーで親しく付き合っている。夫人を誘惑しようとするジュリヤンを警戒し、気を付けるようにとレーナル夫人に忠告する。
レーナル夫人がジュリヤンの誘惑に負けたことを見抜くと、これ以上の介入が手遅れだと感じ、ヴェルジーを去っていく。
その後、ジュリヤンと別れたレーナル夫人を改心させ、ブザンソンの教会へと頻繁に連れて行く。
ジュリヤンがレーナル夫人を撃って逮捕されると、公判を訪れ、感動した姿を見せる。

エリザ
レーナル夫人の小間使い。家庭教師にやってきたジュリヤンに恋をし、シェラン司祭に彼との結婚を宣言する。しかし、ジュリヤンが自分と結婚する気がないことを知ると、レーナル夫人にこれを泣きながら打ち明ける。
やがて、ジュリヤンとレーナル夫人の関係を知ると、二人を憎むようになり、ある用事でヴェリエールに行った時に、二人の関係をヴァルノに密告する。
レーナル夫人がジュリヤンとの関係を隠すために作り上げた口実のため、ヴァルノにしょっちゅう会いに行っているのだとレーナル氏に思い込まれ、一時レーナル家を出され、ヴァルノによってある貴族の家に入れられていたが、再びジュリヤンに説得を受けたレーナル夫人によって呼び戻される。
ジュリヤンの逮捕後、彼がひどい扱いをうけることを心配したレーナル夫人に依頼され、牢番のノワールに金を渡す。

フーケ
ヴェリエールが見渡せる山の中に住むジュリヤンの古くからの友人の薪商人。大柄な人の良い自由主義者。ジュリヤンからの訪問を受けるたびに儲けになる商売に彼を誘うが、断られる。結婚しそうになって失恋したことが何度もあり、その時の経験をジュリヤンに語り、彼がレーナル夫人を誘惑するきっかけを作る。
神学校に入ったジュリヤンを訪れ、レーナル夫人が時折ブザンソンに告解に訪れにくることを伝え、自由主義の機関誌を頼まれて調達する。またジュリヤンの親元からだと称して狩猟で捕らえた鹿と猪を神学校に送る。
ジュリヤンがパリに旅立つことを知ると、将来彼が政府の一員になっても、スキャンダルで新聞に載るのが落ちだと言って、自分の商売に彼を誘う。
ジュリヤンが逮捕されると、同じ目的を持っていたマチルドの散財ぶりを苦々しく思いながら、有り金をはたいて脱獄させようと考え、薪の顧客であるフリレール神父に、ジュリヤンを助けるための取り計らいを頼み、彼のために告解師を探し出してやる。
ジュリヤンの処刑後、その遺体を買い取り、マチルドとともにジュラ山脈の山の上の洞窟に葬る。

ピラール神父
ブザンソンの神学校の校長。ジャンセニスト。イエズス会と対立している。
フリレール神父との訴訟沙汰を起こしたラ・モール侯爵のために運動したことをきっかけに、彼と懇意になっていた。
三十年来の親友であるシェラン神父の紹介状をもってやってきたジュリヤンを預かり、その威厳で彼を圧倒する。常に厳しい態度でジュリヤンに接していたが、彼の俗人に反感を起こさせる部分を心配し、清い行いをするように忠告を与える。
自分に敵対するフリレール神父が任命した試験官の謀略で、ジュリヤンが主席の座を落とされたため、その一部始終をラ・モール侯爵に報せたところ、パリ近郊の最上の司祭職の席を用意され、神学校長を辞職する。その際に新約と旧約聖書の復習教師にジュリヤンを任命する。
パリへと移ると、司祭職として、自分の管区を受け持つようになる。ラ・モール侯爵から秘書にならないかという誘いを受けるが、それを断り、代わりにジュリヤンを秘書の座につかせてはどうかと提案する。
ラ・モール邸のサロンにも出入りするようになるが、欺瞞や悪徳に満ちた上流社会を苦々しい気持ちで見るようになり、秘書となったジュリヤンを多くのジャンセニストのところへ連れて行く。
マチルドの妊娠についてジュリヤンからの相談を受けると、二人の結婚を許すことが神の前ではふさわしいとラ・モール侯爵に説き、自分の司祭館にジュリヤンを匿い、そこでマチルドと会うことを許す。
ラ・モール侯爵がジュリヤンを貴族にして軽騎兵隊に入れると、彼のもとの身分が公にならないようにするため、侯爵にフリレール神父との仲直りを勧め、さらにジュリヤンの父と兄弟たちには、自分の名で年に五百フランの年金を仕送りすることを決める。

カスタネード神父
神学校の副校長。対立するピラール神父の愛弟子であるジュリヤンのもとへスパイを送り込んでアマンダ・ビネから届けられた手紙を盗みだし、彼を貶めようとする。
その後北部国境の修道会警察組織の頭目になり、急進王党派の書類を持つ使者を道中にある宿屋で突き止めようとして、その宿屋の主人を買収し、客に阿片を盛った酒を飲ませ、荷物を探ろうとする。しかしジュリヤンがその使者であると気づくことなく、取り逃がす。

フリレール神父
ブザンソンの副司教で、十年間、ピラール神父の神学校長の座を狙っている。十二年前、貧乏に苦しみながらブザンソンにたどり着き、今では県屈指の裕福な地主の一人となっている。立身出世をするうちに、ある地所のことでラ・モール侯爵と裁判沙汰を起こし、そのラ・モール侯爵と協力していたピラール神父と対立する。ピラール神父の愛弟子であるジュリヤンを、自分が任命した試験官を使って主席の座から落としたことが原因でピラール神父が神学校長を辞職すると、彼と訴訟問題を起こす。
やがてジュリヤンが逮捕されると、フーケやマチルドからジュリヤンの釈放の依頼を受ける。特にマチルドが、自分を司教の座に押し上げる力を持っているフェルヴァック夫人の叔父の有力な司教と繋がりがあったため、これを利用できると考え、陪審員に働きかけることを約束する。
しかしその後、ヴァルノに知事の任命辞令をちらつかされ、死刑判決を覆すことができないと悟ると、その座についた方が得策と考え、マチルドを裏切る。

ラ・モール侯爵
貴族院議員で、この地方随一の金持ち。痩せた子男で、目は鋭く、金髪の鬘をつけている。先祖ボニファス・ド・ラ・モールは、宮仕えをしており、政治的な陰謀で、一五七四年四月三十日に斬首されている。
二十二歳の頃、一七九〇年の革命政府による弾圧で、悲惨な亡命生活を送った経験がある。
自由主義的な憲章を廃止する案を宮廷派に進言したことで、近いうちに大臣になる予定になっている。
ある地所のことでフリレール神父と裁判沙汰を起こしたことがあり、その時にシェラン神父の紹介で協力を仰ぐことになったピラール神父を知り、懇意になる。それまでの連絡を取り合っていた通信費をピラール神父が受け取ろうとしなかったため、代わりにその金を愛弟子であるジュリヤンに、親戚と称して送り、ピラール神父には、パリ近郊で最上の司祭職を用意する。
ピラール神父を呼び寄せると、自分の秘書にならないかと持ち掛けるが、断られ、代わりに秘書にしてはどうかという提案を受けたジュリヤンを呼び寄せる。
始め、上流社会の作法を何も知らないジュリヤンに失望していたものの、やがてブルターニュとノルマンディーの領地の管理、フリレールとの訴訟に関する通信の仕事を任すようになる。
痛風の発作で寝ている時に、ジュリヤンがボーヴォワジ従男爵と決闘になったことがきっかけで、ジュリヤンが自分の親友の私生児であるという噂が社交界に広まると、青い燕尾服を与え、その服を着ている間は、彼を同等の身分として丁重に扱うようになる。
そのうちに、ジュリヤンの頭の良さや自尊心に感服するようになり、彼をロンドンに遣わせている間に勲章を用意してやる。
ジュリヤンを急進王党派の密議に連れて行き、各人の演説をまとめたものを暗記させ、マインツのさる重職にある公爵のところへ送り込み、密議の内容を報告させる。
やがてマチルドがジュリヤンとの子を妊娠すると、激怒してジュリヤンを家から追い出す。しかし彼が死ぬことになったら公然と未亡人を名乗るというマチルドの覚悟に負け、自分とは縁を切るという条件のもとで、不自由のないような地所と、その地所から上がる収益をジュリヤンに与える。しかししびれを切らしたマチルドに、ピラール神父のところでの結婚式に立ち会ってほしいと頼まれると、娘の肩書を立派なものにするため、ジュリヤンを従男爵にし、軽騎兵中尉としてストラスブールの連隊に入隊させる。
しかしジュリヤンについての照会をレーナル夫人に求めたところ、彼が雇われた家の婦人を誘惑し、それを出世のために利用する男であるという返事を受け取り、二人の結婚を断固拒否するという考えに至り、ジュリヤンを遠い外国に送るよう命令を下し、姿を消す。

ノルベール・ド・ラ・モール伯爵
ラ・モール侯爵の息子。スペイン遠征にも行ったことのある、才気も勇気もある軽騎兵中隊長。未来の貴族院議員。
父親の秘書として家にやって来たジュリヤンに丁重に接し、乗馬を教えたり、舞踏会に誘ったりする。
しかし、マチルドがジュリヤンに熱を上げるようになると、ジュリヤンのことを警戒し、冷淡な態度を取るようになる。

マチルド
ラ・モール侯爵の娘。十九歳。金髪の綺麗な目をした才気のある美しい娘。
父親の秘書としてやってきたジュリヤンが、落馬した話を恥とせず進んでしたことで興味を抱き、彼が自宅での晩餐が退屈で仕方ないとピラール神父に訴えるのを偶然聞き、むやみに上流階級に取り入る人ではないと考え、敬意を抱くようになる。
母親とともに一時期南仏の避暑地に滞在する。パリに戻ると、社交界で注目を集め、クロワズノワ侯爵らの結婚相手の候補たちに追いまわされるが、自分よりも才気のない男たちに退屈を感じ、人間の見どころは死刑の宣告くらいのものだと考えるようになる。
一方、自分を軽蔑の目で見るジュリヤンに対しては、上流社会の男たちのような退屈さを感じることなく、やがて彼の気位の高いところに惹かれ、身分違いの彼に恋心を抱くことこそが英雄的であると考えるようになる。
やがて自分がジュリヤンに恋心を抱いていることに気づくと、熱をあげ始める。その好意を計りかねたジュリヤンが、上流社会を恐れて旅に出ることを知ると取り乱して恋文を送り、夜中に部屋の前の庭に出て来るように言いつける。ジュリヤンがその言葉にしたがって夜中に自分の部屋を訪れると、身を任せるが、自尊心の強さから自分の軽はずみな行動を後悔するようになり、冷淡な態度を取るようになる。しかし恋心を募らせたジュリヤンが、図書室にある古剣で自分を刺そうとしたことがきっかけとなり、再び彼こそが自分の主人にふさわしいと考えるようになる。ジュリヤンが自分の過去の恋愛話に激しく嫉妬するのを見て激しい快感を覚え、やがて恋心を再び喚起させられるようになるが、その恋心に打ち勝つため、ジュリヤンに対して酷い扱いをするようになる。しかしその酷い扱いを受け、これ以上不幸になることはないと考えたジュリヤンが、自分の部屋に梯子を使って登ってくると、その大胆な行動に感動して部屋に抱き入れ、服従を誓う。しかし間もなく、再び後悔の念に襲われ、ジュリヤンに取り澄ました態度をとるようになり、もう好きではないと言い放ち、弁解しようとする彼を徹底的に罵倒する。
ジュリヤンがラ・モール侯爵から依頼された任務のためにストラスブールに滞在すると、彼のことをすっかり忘れ、クロワズノワ公爵との結婚を承諾する。しかしパリに戻ったジュリヤンが、フェルヴァック夫人に言い寄る素振りを見せると、嫉妬の念に苦しむようになる。
やがてジュリヤンに屈し、彼の愛情なしには生きられないと言って目の前で泣き崩れる。その後は愛情表現を自制するジュリヤンに本気に恋をするようになり、妊娠し、これをラ・モール侯爵に手紙で知らせ、ジュリヤンが死ぬことになったら未亡人として生き、堕胎をすることはないと宣言する。
ラ・モール侯爵との話し合いがはかどらないまま、ひと月ほどピラール神父の司祭館でジュリヤンと会い続けるが、公然とジュリヤンと会うことができるようになる望みを抱くようになり、もし許してくれなければパリを去るという文面とともに、ピラール神父のところで開く結婚式に立ち会ってほしいという手紙をラ・モール侯爵に送る。
ラ・モール侯爵がジュリヤンを軽騎兵連隊に入れる決意をすると、喜んでジュリヤンを送り出すが、まもなくレーナル夫人からの照会の返事で、ジュリヤンが貶められ、父親が自分たちの結婚を許さなくなると、これをジュリヤンに伝える。
ジュリヤンが復讐のためにレーナル夫人を撃って逮捕されると、田舎娘のふりをして訪れ、ブザンソンの有力者であるフリレール神父に自分の身分を明かし、釈放に力を貸してほしいと頼み込む。
しかしフリレール神父の裏切りにあい、ジュリヤンに死刑判決が下されたため、新しい弁護士を連れてきて、ジュリヤンを控訴させようとして断られる。
ジュリヤンにはほかの結婚相手を勧められ、さらにレーナル夫人が彼を訪れるようになると、激しく嫉妬し、自分への情けなさにふさぎ込むようになる。
ジュリヤンが処刑されると、フーケが買い取った遺体の首を持って葬儀に参加し、自らその首を埋める。ジュラ山脈の高い山の洞窟に遺体を葬ると、大理石でその洞窟を飾らせる。

クロワズノワ侯爵
パリ有数の名門貴族で、やがて年収十万フランを得ることになっている近衛兵隊長。ラ・モール侯爵から、マチルドとの結婚を望まれている。物腰が良く、パリで最も愛される男の一人。
自分を立派な社会的地位に持っていくためにマチルドとの結婚を望み、ラ・モール邸のサロンで常に彼女のことを取り囲んでいるが、当人からは、結婚しても退屈な人生を送ることになるであろうと思われている。
マチルドがジュリヤンに熱を上げるようになると、ジュリヤンに冷淡に対応するようになる。
逮捕されたジュリヤンを追って失踪したマチルドについて気の障る発言をしたタレール氏と決闘になり、二十四歳にもならない若さで息を引き取る。

フェルヴァック夫人。
美しい外国人の未亡人。元夫は元帥。操の固い貞女と思われているが、実は偽善的で、根に持ったことを忘れずにいる性質。ジュリヤンがマチルドに気を持たせるために言い寄ろうと決めた相手。
自分の大伯父に青綬章(コルドン・ブルー)を受勲させることを熱望し、その大伯父の義理の息子であるラ・モール侯爵と協力するため、ラ・モール邸を頻繁に訪れる。
マチルドに気を持たせるために自分に近づこうと考えたジュリヤンからの何通もの手紙を受け取り、始めはその手紙がなかったもののように振舞っていたが、そのうちにサロンへの招待状を送るようになる。
ジュリヤンがレーナル夫人を撃って逮捕されると、フランスの聖職者の任免権を握る叔父にジュリヤンの助命のための手紙を書いてもらってほしいというマチルドからの手紙を受け取り、フリレール神父と書信を取り交わす。

その他の登場人物

軍医正
レジオン・ドヌール勲章を持つ、ナポレオンのイタリア遠征にも参加したもと軍医正。生前ジュリヤンを気に入り、ソレル氏に日当を払い、ラテン語と歴史(主にナポレオン時代のイタリア遠征の話)を教えていた。死ぬときにはレジオン・ドヌール勲章と恩給の未払いの分で、三、四十冊の本をジュリヤンに残す。

アドルフ
レーナル夫妻の上の息子。

スタニスラス=グザヴィエ
レーナル家の末っ子。レーナル夫人がジュリヤンとの不倫関係の罪を意識し始めた頃に熱を出し、彼女を激しい自責の念で苦しめることとなる。

マスロン神父
ヴェリエールの助任司祭。シェラン神父らの司祭を監視するために、数年前にブザンソンから派遣されてきた。
ジュリヤンがレーナル夫人を撃って逮捕されると、彼のために葡萄酒を施そうとする。

アペール
ラ・モール侯爵からの紹介状を持ってヴェリエールを訪れた自由主義者。シェラン神父とともに、牢獄、施療病院、貧民収容所を視察する。

シャルコ・ド・モージロン
ヴェリエールのある郡の郡長。
ヴァルノに依頼され、ヴェルジーから一時帰省したジュリヤンを訪れ、新しい家庭教師の職につくことを勧める。

モワロ
ヴェリエールきっての信心家。自分をヴェリエールの主席助役に据えようというレーナル氏の動きにより、国王のヴェリエール訪問の際の警備隊の指揮をとる役割を負わされるが、臆病者であったため落馬する。
レーナル夫人を撃って逮捕されたジュリヤンの公判に陪審員として参加し、他の陪審員らとともに死刑の判決を下す。

ショラン
ヴェリエールの宝くじ事務所長の座を与えてくれるようラ・モール侯爵に請願書を出した老人。前代の宝くじ事務所長に扶養手当を出していた男を差し置いてその職に任命される。
レーナル夫人を撃って逮捕されたジュリヤンの公判に陪審員として参加し、他の陪審員らとともに死刑の判決を下す。

アグドの司教
ラ・モール侯爵の甥。ジュリヤンよりも六歳か七歳年上なだけでありながら司教の座につき、国王のヴェリエール滞在時に聖クレマンの遺骨を見せる役割を引き受ける。
ラ・モール侯爵のサロンに出入りする客の一人で、ジュリヤンが伝令を務めた密議に参加し、パリと教会が手を切るべきだと主張する。

ファルコス
レーナル氏の幼馴染。ボナパルト派のヴェリエールの紙問屋。
印刷会社を買い取り、新聞の発行を企てたが、修道会からの反発を受けて発行停止になり、印刷業者の鑑札を取り上げられ、十年ぶりにレーナルに手紙を書くが、助けを得られずに絶交する。
パリに向かうジュリヤンと同じ乗合馬車に乗り、サン=ジローのナポレオン批判に対し、ナポレオンの治世十三年ほどフランスが偉大になったことはなかったのだと主張する。

ジェロニモ
品のよい態度と愛嬌を持つ歌手。ナポリ大使館からの伝令としてレーナル氏を訪れ、自分が歌手として成り上がったいきさつを語る。
ラ・モール侯爵が出席した密議の内容を届けようと宿屋に泊まったジュリヤンに偶然出会い、その宿屋の主人が旅人を足止めして悪さを働こうとしていることを報告する。しかし、修道会警察組織の頭のカスタネード神父と結託した宿屋の亭主が盛った阿片入りの酒を飲み、仮死状態で発見される。

アマンダ・ビネ
ブザンソンのカフェの女給。ヴェリエールからでてきたばかりで自分の店を訪れてきたジュリヤンを気に入り、会う約束をしようとする。

シャ=ベルナール神父
大聖堂の式典係長。神学校では説教法を教えている。ジュリヤンに好意を持ち、大聖堂の飾りつけを頼む。

司教
パリに住む七十五歳の愛想の良い老人。大革命時代に亡命生活を送っていた。魚が好き。
ピラール神父の神学校校長の辞職を伝えにきたジュリヤンと話し、その知識の豊富さに舌を巻き、タキトゥス全集を渡し、もし大人しくしていれば、自分の管区でいちばんの司祭職を与えようと約束する。

シャゼル
ジュリヤンの入学した神学校で抜群に優秀だった生徒。ジュリヤンとは始め敬遠し合っていたが、フーケが親戚からだと称して鹿と猪を神学校に送ると、ジュリヤンをれっきとした家柄の男だと思い込み、進んで交際を求めるようになる。

サン=ジロー
レーナル氏が所有する家屋の入札を安値で落札させた男。音楽、絵、本を愛し、特に主義主張もなく暮らしていたが、さまざまな団体に金を出すのを拒んだところ、悪口を言われるようになり、後ろ盾欲しさに自由主義者の仲間に入る。やがて虚栄と偽善に満ちた田舎の暮らしにやりきれなくなり、パリで孤独な生活を送ろうと考えるようになる。
パリに向かう道中、ジュリヤンと同じ乗合馬車に乗り、もう一人の同乗者であったファルコスとナポレオンについての議論を闘わす。

ラ・モール侯爵夫人
金髪の背の高い女性で、信心深く気位の高い横柄な性格。
一時期マチルドとともに、母親のいる南仏の避暑地イエールを訪れる。
夫には常に賛同することにしているため、ラ・モール侯爵が好意を示したジュリヤンの才能を褒めあげるようになる。

ダンボー
ラ・モール侯爵夫人の親友のアカデミー会員の甥で文学志望。侯爵の秘書になれる予定だったもののジュリヤンにその座を奪われたため、嫉妬しながらも、その分け前を預かろうと図書室に自分の机を持ち込んで叱責を受ける。
ジュリヤンがフェルヴァック夫人に言い寄る様子を見せると、自分が邪魔されずに再びラ・モール邸に出入りすることができるようになると考え、ジュリヤンの動静を探る役を進んで買って出る。

ル・ブールギニョン男爵
ラ・モール邸のサロンの常連。二十年ラ・モール邸に通ったことで知事になった。

デクーリ
王政復古で財を成した実業家。ラ・モール邸のサロンによくやってくる。

サンクレール
アカデミー会員になるためにラ・モール邸にやってくる自由主義者。

バトン男爵
ラ・モール邸のサロンを訪れた、自分の才気を見せつけるために、演説のような話し方をする男。

シャルヴェ男爵
当代随一の切れ者。政治の話では人を食った話をする。

バラン氏
道徳的な振る舞いをして苦労しながら社交会に顔を出せるようになった醜男。金持ちの女と結婚し、六万フランの年収がある。

タレール伯爵
軍資金を国王に貸し付けて財産を得たユダヤ人の一人息子、周囲に焚き付けられ、マチルドに求婚する意思を固めている。
ジュリヤンの逮捕後、マチルドの失踪について気の障る発言をしてクロワズノワ侯爵と決闘になり、息の根を止める。

ケーリュス伯爵
ラ・モール邸でマチルドを取り囲む男たちの一人。馬を趣味にしていて、いつも厩舎で暮らしている。笑わないため、友達の間で畏怖されている。ジュリヤンに熱を上げるマチルドに苦言を呈す。

リュス伯爵
ラ・モール邸でのマチルドの取り巻きの一人。伯父は国王側近の高官。

トリー男爵
選挙で不正を行い、注目を浴びるようになった。ラ・モール邸のサロンを訪れるが、すぐに逃げ出していく。
舞踏会では卒中を起こして運び出される。

C・ド・ボーヴォワジ従男爵
外交官。自分の雇っていた馭者が侮辱したジュリヤンと決闘になり、腕に銃弾を撃ち込む。その後ジュリヤンのことを調べ上げ、自分の決闘相手が身分の低い男であることを隠すため、ジュリヤンがラ・モール侯爵の親友の私生児であるという噂を流す。その後ジュリヤンのオペラ仲間となる。

リエヴァン
ジュリヤンのパリにおける剣術仲間。ジュリヤンがボーヴォワジ従男爵と決闘になったときに介添人の役を務める。

コラゾフ公爵
ジュリヤンがイギリス出張の時に、ロンドンでの上流社会の作法について手ほどきを授けたロシア人。
ラ・モール侯爵の密書を運ぶ任務によりストラスブールに滞在することになったジュリヤンと偶然再会し、彼が恋に身をやつしていることを知り、目的の女に気を持たせるための指南を与える。

アルタミラ伯爵
陰謀を企てて自国で死刑を宣告され、パリに亡命した。実利を重んじる男。フェルヴァック夫人と親しい。
マチルドに気をもたせるためにフェルヴァック夫人に恋をしているふりをしていたジュリヤンの相談を受け、以前彼女に言いよっていたドン・ディエゴ・ブストスの所へ彼を連れて行く。

ドン・ディエゴ・ブストス
以前フェルヴァック夫人に言い寄っていたスペイン人。フェルヴァック夫人に言い寄ろうとするジュリヤンに、彼女の性質を教え、近づくための指南を授ける。

ノワルー
ヴェリエールの腹黒い牢番。逮捕されたジュリヤンの見張りに就くが、レーナル夫人からの買収により、しっかりとした待遇を与える。さらにジュリヤン本人からも買収されることを期待し、レーナル夫人が無事だったことを報告する。

フェリックス・ヴァノー
ジュリヤンの控訴のためにマチルドによって連れて来られた弁護士。一七九六年のイタリア遠征軍の元大尉。ジュリヤンの控訴したくないという考えに理解を示す。