ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』の登場人物、あらすじ、感想

 『マクベス』は、シェイクスピアの四大悲劇(他の三作品は『ハムレット』、『オセロー』、『リア王』)のうち最後の作品です。最初の上演のはっきりとした記録は残っていませんが、少なくとも、一六一一年には上演が行われた記録が残っています。出版は、シェイクスピアの死後の一六二三年と言われています。

 この作品の主人公マクベスは、一〇四〇年から一〇五七年までの十七年間、スコットランド王として君臨した実在の人物です。史実によると、彼は作品で描かれているのと同じように、前王のダンカン一世を殺して王になり、後にダンカン一世の長男マルコムに復讐されて死を遂げています。ただし、私欲のために国を滅ぼしていく作中の描かれ方とは異なり、在位中は、立派な統治を行なっていたようです。

 主人公のマクベスに加え、文学史上稀に見る悪妻マクベス夫人や、禍々しい雰囲気を纏う三人の魔女たちなどの名脇役が登場するこの作品は、現代に至るまで、演劇のみならず、オペラ、映画、漫画など、さまざまなメディアで表現され続けています。

 このページでは、『マクベス』の登場人物、あらすじ、感想を紹介していきます。

『マクベス』の登場人物

マクベス
スコットランドの武将。グラミス(スコットランド東部の町)の領主。コーダ(スコットランド北部の町)の領主になり、いずれ王となるという魔女たちの予言を聞き、妻と共謀して王ダンカンを殺す。

マクベス夫人
魔女たちの予言について書かれたマクベスからの手紙を読み、ダンカンを殺すようそそのかす。

ダンカン
スコットランドの王。反乱軍を撃破したマクベスにコーダの領主の座を与えるが、その後刺殺される。

マルコム
ダンカンの息子。父の死を知り、イングランドへと逃れる。

ドヌルベイン
ダンカンの息子。マルコムの弟。父の死を知り、アイルランドへと逃れる。

バンクォー
スコットランドの武将。マクベスと共に反乱軍とノルウェイ軍に立ち向かい、自国に大勝をもたらす。

フリーアンス
バンクォーの息子。

マクダフ
スコットランドの武将。ファイフ(スコットランド東部の町)の領主。

レノクスロスアンガスメンティースケイスネス
スコットランドの武将。

シュワード
イングランドの武将。

三人の魔女
マクベスに、グラミスの領主、コーダの領主、そしていずれ王になる者という予言を残す。

ヘカティー
死の女神。三人の魔女の支配者。

『マクベス』のあらすじ

※もっと詳しい幕ごと、場ごとのあらすじはこちら

第一幕

 反乱軍およびノルウェイ軍との戦争中にあったスコットランド軍の陣営では、国王ダンカンが戦況の報告を待ち受けていました。そこへ戦場から戻ってきたある隊長が、敵軍を撃退したという知らせをもたらしました。戦闘で勇猛果敢に戦ったのは、武将のマクベスとバンクォーでした。その知らせを聞いたダンカンは喜び、マクベスとバンクォーへの信頼を深めました。

 陣営に戻る途中のマクベスとバンクォーを、三人の魔女たちが待ち構えていました。魔女たちは、マクベスを、グラミスの領主、コーダの領主、そしていずれ王になる者と呼び、バンクォーに対しては、その子孫が王になるという予言を残しました。グラミスの地を既に治めていたマクベスは、自分がこの後コーダの領主になり、さらに王にまで上りつめるとはどのようなことなのかを考えました。

 そこへ、今回の戦闘でスコットランドを裏切ったコーダの領主が捕まり、マクベスが新たにその座に就くという知らせがもたらされました。マクベスは、魔女の予言が当たったことに驚き、自分が王になるのではないかという希望を抱くようになりました。

 マクベスはフォレス(王室の城があった町)の城に戻り、ダンカンからの感謝の言葉を受けました。しかし、ダンカンが次の世継ぎを息子のマルコムに定めたことを宣言したため、マクベスは、マルコムが自分の行く手に立ちはだかっていると考えました。

 一行は、インヴァネス(スコットランド北部の町)にあるマクベスの居城へと向かいました。

 マクベスは、妻に手紙を送り、三人の魔女から聞いた予言を伝えました。その手紙を読んだマクベス夫人は、その予言を真実にするために、夫の帰りを待ち受け、ダンカンに酒を飲ませた上で殺害する計画を告げました。マクベスは葛藤しながらも、暗殺の実行を心に決めました。

 マクベス夫妻は、王の一行を出迎え、宴会が始まりました。

第二幕

 ダンカン、その息子マルコムとドヌルベイン、さらに二人の護衛を酔わせて眠らせたマクベス夫人は、中庭で夫を待ちました。そこへダンカンを殺したマクベスが取り乱しながら現れました。夫人は、二人の護衛に罪を着せるため、凶器となった短剣を部屋に戻すように言いました。しかしマクベスはもう一度部屋に戻ることを拒否したため、夫人は自分で短剣を部屋に戻しに行き、眠っている護衛たちに血糊を塗りつけました。

 マクベス夫妻が部屋に戻っていくと、中庭に貴族マクダフとレノクスが現れました。マクベスは夜着を羽織って現れ、二人をダンカンの部屋に案内しました。部屋に入ったマクダフは、殺されているダンカンを発見しました。マクベスと夫人は、王の死を初めて知ったかのように振る舞い、証言を集めるために一同を広場へと集めました。
 父の死を知ったマルコムとドヌルベインは、身の危険を感じ、国を出ることを決めました。

 マクベスは、血糊のついた二人の護衛を処刑し、逃げたマルコムとドヌルベインに、黒幕としての罪を着せました。魔女の予言通り王になることとなった彼は、戴冠式のため、スコーン(スコットランド戴冠の地)へと旅立ちました。

第三幕

 戴冠式のため、フォレスの城に着いたバンクォーは、マクベスが王を殺したことに気づいていました。マクベスは、国のために忠誠を誓うバンクォーの勇気と、彼の子孫が王になるという魔女たちの予言を恐れ、彼を息子のフリーアンスともども殺すことを決意しました。

 しかし、マクベスによって呼び寄せられた三人の刺客は、バンクォーを殺したものの、フリーアンスを取り逃してしまい、その知らせを聞いたマクベスは、不安の発作に襲われました。さらに酒宴の席でバンクォーの亡霊が座っているのを見て取り乱したマクベスは、落ち着きを取り戻すことができなくなり、その場を取り繕えないと感じたマクベス夫人は、皆を帰らせました。

 レノクスらの貴族は、ファイフ(スコットランド南東部の町)の領主マクダフが、マルコムを追ってイングランドへと向かい、その地の武将たちに決起を促そうとしており、マクベスはそれに対抗して戦闘の準備を始めているという噂を話し合いました。

第四幕

 不安を拭えないマクベスは、予言が真実なのかを聞くために魔女たちの元を訪れました。すると魔女たちは、三人の幻影を呼び出し、その幻影たちは、それぞれ、「ファイフの領主マクダフに気を付けろ」「女の産み落とした者の中には、マクベスを倒すものはいない」「バーナムの大森林がダンシネインの丘に攻め上って来ない限りマクベスは滅ばない」(バーナムはスコットランド中東部の町。ダンシネインはその付近にある標高三百メートルほどの丘)と語りました。

 マクベスは、これらの言葉を聞いて安心しました。しかし魔女たちは、八人の王の影と、バンクォーの亡霊がその後に続いている光景をマクベスに見せました。そして彼女たちは、それらの王は、すべてバンクォーの子孫たちで、彼らが王になるのは真実だと言いました。

 そこへ現れたレノクスにより、マクダフがマルコムのもとへ寝返ったことが知らされると、マクベスは激怒し、刺客たちにマクダフの城を急襲させ、残る妻子を暗殺させました。

 一方、イングランドに着いたマクダフは、マクベスと一戦を交えて王座を奪い返すようマルコムを説得しようとしていました。マルコムははじめ、マクダフを試すために、自分には国を治める資格がないように振る舞いましたが、やがてマクダフが信頼に足る人物だと分かると、イングランド王に借り受けた百戦錬磨の名将シュアードの兵を出征させたので、自分たちも共に戦おうと誓いました。

 そこへスコットランドの武将ロスがやってきて、マクダフの一家が皆殺しに遭ったことを伝えました。マクダフはその知らせに嘆き悲しみ、マクベスに仇を取ることを誓いました。

第五幕

 自分が犯した罪の重さに耐えきれなくなったマクベス夫人は、毎夜、眠ったまま起き上がり、手を洗うような仕草を見せては、血の匂いが取れないとため息をつき、夫と共に犯した罪について口走るようになりました。
 真実を知った医者は、夫人を治すには医者よりも聖職者が必要なのだと言いました。

 スコットランドの武将たちは、マクベスを攻めることを決意し、バーナムの森に向けて進軍を始めました。そこへイングランドからやってきたマルコム、マクダフ、シュアードらが合流してくると、こちらの兵力を隠すため、木の枝を頭上にかざして進軍するように全軍に命じました。

 ダンシネインの城内に立てこもっていたマクベスは、自国の武将たちが寝返ったことを知りました。さらに、マクベス夫人が狂気のあまり自殺したという知らせがもたらされると、彼は「消えろ、消えろ、つかの間の燈し火!人の生涯は動き回る影にすぎぬ。」とつぶやきます。

 そこへ、頭上に枝を掲げて進軍してきたマルコムらの兵を見た使者が、バーナムの森が動いていると報告しました。「バーナムの森がダンシネインにやってくるまでは恐れるな」という予言に護符の効果がなくなったことを悟ったマクベスは、自分の死を予感し、最後の一戦に挑むべく部屋を出て行きました。

 城が開け渡されると、マクベスは、攻め入ってきた武将たちと戦い、マクダフと相対することとなりました。マクベスが、女が産み落とした人間には自分を倒せないだろうと言うと、マクダフは、自分が母親の胎内から引きずり出された子供だったという事実を明かしました。魔女たちに陥れられたことを悟ったマクベスは、戦って死ぬことを決心し、盾を捨ててマクダフに挑みかかり、激しい戦いの末、命を落としました。

 戦闘の終結を告げるトランペットが鳴り響き、武将たちは新しくスコットランド王になったマルコムを祝しました。マルコムは、軍功のあった武将たちに礼を言い、スコーンの戴冠式に漏れなく参列するようにと命じました。

管理人の感想

 『マクベス』は、魔女たちの予言にそそのかされたマクベスが、王ダンカンを暗殺してその座を奪うも、その奸計を周囲のものに見破られ、破滅していく物語です。

 作中では、三人の魔女を始め、ヘカティー(「死の女神」と言われるギリシア神話の女神)、幽霊、幻影などの架空のキャラクターが重要な役割を果たします。同じシェイクスピアの作品『ハムレット』や、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』、エミリー・ブロンテの『嵐が丘』など、イギリスの文学には、このような架空のキャラクターや幽霊などが登場する作品が多いように思います。『不思議の国のアリス』、『指輪物語』、『ハリー・ポッター』などもそうですね。好みは分かれるところだと思いますが、このような超自然的な力が表現され得ることも、文学の魅力の一つであると思います。

 余談ですが、魔女と聞いて喚起されるイメージが、この作品が書かれた約四百年前も今も変わらないことには驚かされます。霧の中から自分たちの姿を現し、ヒキガエル、沼ヘビのぶつ切り、いもりの目玉、とかげの脚、狼の牙、虎のはらわたといったおぞましいものを大釜で茹でながら呪文を唱える姿は、現代の映像作品でも描かれる魔女の姿そのままです。

 なんとも不気味な雰囲気を纏う彼女たちは、マクベスを標的にし、破滅へと追いやります。そのやり口も、ただ単純に騙すのではなく、時に喜ばせ、不安になると安心させ、そして最後に恐怖と絶望のどん底に陥れるという、なんとも残酷なものです。その言動を見ていると、彼女たちは、マクベスが破滅へと陥る様を見るのを純粋に楽しんでいるようにも感じられます。

 マクベスは、能動的には何も行動できず、夫人の言うことに流されてようやくダンカンを殺し、その後は保身のことばかりを考えて罪を重ね続けます。そしてその後も自分の犯した罪の重さに恐れ慄きながらも、その罪を悔い改めようという様子は微塵も感じられません。
 このようなマクベスの弱く卑劣な精神は、魔女の予言に惑わされずに国のために忠誠を尽くし続けるバンクォーや、イングランド王に決起を促すために国を逃れたマクダフ、そして最終的に反撃の狼煙をあげるマルコムの強靭で高潔な精神とは、大きな隔たりがあるように感じます。

 しかし、バンクォー、マクダフ、マルコムらの武将たちには、普通の人々が共感できるところはあまりないように思います。彼らは一途に国のことを思い、そこに私利私欲を挟む余地を与えません。なんとも見上げた心ですが、そんな彼らよりも、自分が犯した卑劣な行いのために苦悩するマクベスの方が、普通の人間がごく一般的に持っている感覚に近く、共感を誘いやすいのではないかと思います。

 魔女たちがなぜ数ある武将たちのうち、マクベスを標的にしたのかは明言されていませんが、彼の精神の脆さにつけ込んだというのが、妥当な考え方のように思われます。しかし、マクベスの精神が脆かったことは、彼が心からの悪人であったということとイコールではありません。この作品の恐ろしいところは、マクベスが、中途半端にしか悪になりきれない人物であったにもかかわらず、理不尽な魔女たちによって破滅させられたというところにあると思います。

 それどころか、マクベスははじめから悪い心を抱えていたとは限らず、もともとバンクォーらと同じような高潔な精神を持っていたものの、魔女たちの予言という「呪い」によって、その精神を削ぎ取られたのかもしれないという読み方すらできてしまうのではないかと思います。

 そのように考えると、マクベスが魔女たちの標的にされた理由は結局分からず、「そのような運命であったから」だとしか言いようがないようでもあります。たとえ魔女たちにとって、マクベスに狙いを定めるだけの理由があったとしても、それが理解し得るものでない限り、我々は彼の破滅を「運命」と片付けることしかできないのです。

 『マクベス』は、一見、私欲のために王を殺したマクベスの、自業自得の物語のようでもありますが、我々と同じような普通の精神を持った人間が、運悪く魔女たちの操り人形にされてしまった物語としても読むことができると思います。そのように読むことで、理不尽な力によって破滅に追いやられたマクベスの恐怖や絶望が、より際立って感じられるようになるのではないでしょうか。