『カラマーゾフの兄弟』のエピローグでは、ドミートリイの有罪が決定した裁判を終えた登場人物たちの「その後」が描かれます。
アレクセイは囚人病棟に送り込まれたドミートリイを訪れ、譫妄が悪化したイワンが提案していた脱走計画について語り合います。そのドミートリイをめぐるカテリーナとグルーシェニカの対立も、それまでのいがみ合いとは異なった形へと変化しています。
最終盤では、命を落としたイリューシャの葬式でのスネギリョフ二等大尉やコーリャの悲しみが描かれ、旅立ちを決意したアレクセイは、少年たちに対して名演説を行います。
エピローグというと、「おまけ」のようなイメージがつきものですが、『カラマーゾフの兄弟』に関しては、フョードル殺害とドミートリイの裁判という大きな出来事のあとで、それぞれの思惑を変化させるようになった登場人物が再び複雑に絡み合い、そう簡単には締め括らせてはくれません。しかし、ここまで来たらもう投げ出すという手はありません。全てを読破した時、大きな達成感とともに、また本編とは異なった種類の感動を与えてくれる作品だと思います。
このページでは、『カラマーゾフの兄弟』のエピローグのあらすじを紹介します。
※ネタバレです。目次を開いてもネタバレします。
※全体の簡単なあらすじはこちら(『カラマーゾフの兄弟』トップページ)
ドミートリイの脱走計画
ドミートリイは、判決後二日目に神経性の熱病にかかり、囚人病棟に送り込まれました。アレクセイとグルーシェニカはその病院をしばしば訪れました。しかし、カテリーナが見舞いに来てくれなければ苦しむだろうと考えていたドミートリイは、思いつめた表情を見せるようになりました。
公判後五日目の朝、アレクセイは、譫妄を悪化させたイワンの看護を自宅で行うようになったカテリーナを訪ねました。
イワンは以前から、ドミートリイとグルーシェニカを国外に逃がす計画をカテリーナに話しており、そのことでカテリーナと喧嘩もしていました。彼は、カテリーナがドミートリイを愛しているのだと思い込みながら、もしも自分が死んだら、彼女一人でドミートリイを逃がすようにと頼みました。この自己犠牲にカテリーナは心を打たれながらも、怒りを抑えられず、イワンを傷つけるために喧嘩を演じ、さらに法廷ではドミートリイの有罪を叫んだのだと自分で思い込んでいました。そのため、彼女は自分がイワンの譫妄の原因なのではないかと考え、激しく苦悩しました。
今ではイワンが自分の大切な人だと気づいたカテリーナは、ドミートリイが脱走に同意するだろうと憎らしげに語り、彼に脱走するように説得してほしいと、アレクセイに頼みました。
アレクセイは、ドミートリイが今ではカテリーナへの罪を理解し、彼女に来てもらわなければ不幸になると言っていることを伝え、見舞いへ行って欲しいとカテリーナに懇願しました。
その後アレクセイはドミートリイのところへ行き、カテリーナがきっと来るだろうと伝えました。するとドミートリイは衝撃を受けた様子を見せました。
二人は脱走について話し合いました。ドミートリイは、流刑になればグルーシェニカと会えなくなることを知りながら、脱走するかどうかを悩んでいました。アレクセイは、無実のドミートリイが流刑という十字架を背負うのはあまりに重すぎるので、その十字架を背負わないことで、かえって自己を復活させるのに役立つかもしれないという自論を述べ、脱走したとしても自分は決して非難しないだろうと伝えました。
ドミートリイは、おそらく脱走をすることになるだろうと考えながらも、ロシアを愛する自分がアメリカに渡ったとしても、待っているのは懲役に劣らない辛い生活であり、骨の髄までまでロシアの女であるグルーシェニカは、母国を想って泣くだろうと予想していました。そのため、彼はアメリカに着いたら、インディアンのいる人里離れたところでグルーシェニカと畑仕事を行い、英語を身につけ、アメリカ市民としてロシアに戻ることを決めたのだと言いました。
そこへカテリーナが姿を現し、ドミートリイの胸に飛び込みました。ドミートリイは感極まりながら、自分を赦してくれるのかと聞きました。カテリーナは、お互いに赦そうと赦すまいと、ドミートリイを愛していることを伝えに来たのだと言いました。二人は今はお互いに別の人を愛していることを知りながら、永久にお互いのことを愛し続けることを誓いました。
カテリーナが帰ろうとすると、そこへグルーシェニカが訪れました。二人がすれ違うとき、カテリーナは自分を赦してほしいと囁きました。
グルーシェニカは、憎悪をこめながら、ドミートリイを救うならば赦すと言いました。
アレクセイは、ドミートリイに頼まれてカテリーナの後を追いました。カテリーナは、イリューシャの葬式には行くことはできないだろうとアレクセイに伝えました。
イリューシャの葬式
アレクセイは遅刻して、公判の二日後に息を引き取ったイリューシャの葬式に着きました。コーリャたちは、イリューシャの頼み通り、スネギリョフに付き添っていました。
アレクセイからドミートリイの話を聞いたコーリャは、真実のために無実の犠牲となって滅びるドミートリイに尊敬の念を抱きました。
イリューシャに花をかけてやったスネギリョフは、棺から離れようとせず、イリューシャと語り合った石のそばに葬ると言い張りました。そして遺体を教会まで運び始めると、放心したようにその後をついて行き、讃美歌を聞くと大声でしゃくりあげ、棺から離れずに何度もイリューシャに接吻しました。
しかし棺を墓に運び出す頃には、スネギリョフは物思いに沈み、逆らわなくなりました。墓はカテリーナが金を出した高価なものでした。スネギリョフは墓穴に身を乗り出し、少年たちに引き戻されました。
そして墓に土がかぶされ、パンが撒かれると、彼はのろのろと家に向かって歩き出し、再び墓の方に走り始めて少年たちに制止され、家に戻ると、妻とニーノチカとともに張り裂けるように泣き始めました。
アレクセイは、彼らの気の済むまで泣かせようと、少年たちを連れて外へと出ると、誰よりも激しく泣いていたコーリャと二人で今夜家を訪れ、母親とニーノチカの相手をしようと約束しました。
アレクセイは、少年たちを連れて、イリューシャとスネギリョフが語り合った石のところへやって来ると、これからしばらく二人の兄に付き添い、その後長い間この町を立ち去るつもりであることを伝えました。そして、子供の頃に作られたすばらしい思い出以上に、大切なものは何一つないのだから、父親を侮辱されて立ち上がり、皆から石を投げられていたのに、これほどまで愛されるようになった、親切で勇敢な少年であったイリューシャのことを自分達が愛したということを忘れないことを誓い合おうと少年たちに提案し、そのようにすれば、自分がどれほど善良だったかを思い出し、悪い人間になることを踏みとどまることができるかもしれないと語りました。
少年たちは、このアレクセイの言葉に涙を流しました。
コーリャは、自分たちが蘇り、イリューシャとも会える日が来るという宗教の言葉が本当かと聞きました。
アレクセイは、必ず自分たちはよみがえり、再会して、それまでのことをお互いに楽しく語り合うだろうと答えました。
アレクセイと少年たちは、手を繋ぎながらイリューシャの追善供養に行きました。コーリャは、カラマーゾフ万歳と感激して絶叫し、ほかの少年たちも彼に合わせて叫びました。