フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の詳しい登場人物一覧

フョードル・ドストエフスキー作『カラマーゾフの兄弟』の登場人物を詳しく紹介するページです。ネタバレ内容を含みます。

※もっと簡単な登場人物紹介、あらすじ、感想はこちら(『カラマーゾフの兄弟』トップページ)

※『カラマーゾフの兄弟』の詳しいあらすじはこちら
第一部  第二部  第三部  第四部  エピローグ

主要な登場人物

フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフ
スコトプリゴーニエフスク市(家畜を追い込む町という意味)の住民。金儲けにしか能のない、常識のない、女にだらしのない俗物。
生涯に二度にわたる結婚を行う。最初の妻アデライーダとは、愛情がなかったにもかかわらず、持参金付きの貴族というだけで駆け落ち事件を起こし、長男ドミートリイをもうける。間もなくアデライーダといがみ合うようになり、彼女の財産を横領しようと企て、激しく争うようになる。ドミートリイを残してアデライーダが出ていくと、そのいきさつを周囲に触れ回り、彼女が貧しい教師とともにペテルブルクにいることを突き止めると、酒を飲んで騒ぎだし、ペテルブルクへ行く準備を始めるが、その日の夜中に彼女が死んだという知らせを受け取る。
その後もドミートリイには関心を払わず、グリゴーリイに世話を任せっきりにして放蕩を繰り返し、アデライーダの従兄のピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフが引き取りたいという申し出たのをあっさりと承諾する。
アデライーダの死後、夜遊びをしていた一団とともに、茂みの中にリザヴェータ・スメルジャーシチャヤを見かけ、彼女を女として扱えるかどうかの議論になり、大いに扱えると宣言する。その五、六か月後、リザヴェータのお腹が大きくなっていることに町の皆が気づき、その子供の父親であるという噂が立つようになる。リザヴェータが自分の家の庭でお産をすると、自分が父親であることを否定しながらもスメルジャコフという苗字をつけ、グリゴーリイが育てることに同意する。
またドミートリイを追い払った後、十六歳のソフィヤ・イワーノヴナの清純な容姿に惹かれて駆け落ちを持ち掛け、二度目の結婚を行い、イワンとアレクセイをもうけるが、自宅に女たちを集めて乱痴気騒ぎを行う。それが原因でソフィヤがヒステリーの発作によって息を引き取ると、再びイワンとアレクセイ忘れたかのように放蕩を繰り返し、ソフィヤの養母がイワンとアレクセイの養育を引き受けようとすると、その同意書にサインする。
またグリゴーリイに育てさせていたスメルジャコフが、フォークに刺した食べ物を光にかざしてから食べると言った異常な潔癖を見せ始めると、彼をコックにしようと考えて、数年間のモスクワへの修行に出す。
その後数年間をロシア南部とオデッサで過ごし、そこでユダヤ人と交流を持ち、金を溜め込むための才覚を身につける。そして町へと帰って来ると、町にあるいくつかの飲み屋の経営者になり、かなりの額の金を稼ぐようになるが、その一方で酒に溺れるようになる。さらに高利貸しでも儲けるようになり、その際に商売上の付き合いを結んだグルーシェニカに惚れ込むようになる。
やがて成人になったドミートリイが財産についての話し合いをしに来ると、ほんの少しの金を与えておけば満足することを見抜き、時折金を与えるだけで搾取を繰り返し、息子の取り分であった金を使いきる。
ドミートリイが帰郷すると、その財産問題が表面化したため、スネギリョフ二等大尉に、グルーシェニカの手元にある息子の手形を引き取らせ、その手形を使ってドミートリイを刑務所に入れるための訴訟を起こしてほしいと頼み込む。さらに、ドミートリイがグルーシェニカに惚れ込んでいることが分かると、金でグルーシェニカをものにしようと、三千ルーブルを用意していた。
これらの問題を解決するため、イワンやアレクセイを呼んでゾシマ長老のもとでの会談を開くが、長老の僧庵では無礼な態度をとり、遅れてきたドミートリイと言い争いになり、あわや決闘という騒ぎを引き起こす。この騒ぎのために、その後に予定されていた修道院長との食事会に行くのを一度は断ったものの、名誉挽回ができないのなら、いっそ恥知らずと言われることをしてやろうと考え、修道院長の食事に姿を現して修道院への悪口を言い放ち、アレクセイのことを引き取ると宣言して修道院をあとにする。
その後イワン、アレクセイと神や不死があるのかという議論をしている最中に、自宅を見張っていてグルーシェニカが家の中に入っていったと思い込んだドミートリイに殴り込まれ、暴行を受ける。
その翌日アレクセイの訪問を受け、グルーシェニカを狙っているドミートリイや、カテリーナを手に入れるためにグルーシェニカとドミートリイの関係を結婚させようと考えているイワンに対する苦言を並べ立てる。その一方で、さらに放蕩を行うための金を作るために、イワンを領地チェルマーシニャへ行かせ、その土地の売却のための交渉を行わせようと考える。
イワンが去った後、癲癇の発作を起こしたふりをして倒れたスメルジャコフのために医者を呼びにやり、グルーシェニカが訪れてくるのを待ちわびるうちに、部屋に忍び込んできたスメルジャコフに頭を打ち割られて殺害される。死んだ時には十万ルーブルもの大金が残されていたことがわかる。

ドミートリイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ(ミーチャ)
フョードルと最初の妻アデライーダの子。三歳の頃に母親が家を出ていくと、父親から忘れ去られ、召使のグリゴーリイによって世話をされる。四歳の頃、パリからやってきた母親の従兄にあたるピョートル・ミウーソフに一時引き取られるも、まもなくミウーソフがパリに行くこととなり、モスクワのある婦人のもとに託される。その婦人が亡くなると、何度か養育者を変えながら大人になる。中学を終えず、陸軍の幼年学校に入り、コーカサスで軍務につき、将校に昇進したものの、決闘で兵卒に降格する。金づかいが荒く、放蕩を繰り返し、自分に財産があるのだと思っており、この頃多くの借金を抱えることになる。
成年に達した後、父のことを知り、財産についての話し合いをしに行くが、フョードルとは剃りが合わず、自分の領地の収益や価値を聞き出すことができないまま、その収益を受け取る方法についての協定を結ぶとすぐに立ち去っていく。その時に少しの金で大人しくなることをフョードルに見抜かれ、知らない間に搾取を繰り返されており、四年ほど経った後には、自分の財産の取り分がほとんどが失くなっていた。
国境警備隊の砲兵大隊の少尉補だった時、上官の中佐の娘アガーフィヤ・イワーノヴナと仲良くなる。中佐の二番目の娘であるカテリーナがモスクワの貴族女学校を卒業して町に帰ってくるが、彼女には見向きもせずに放蕩を繰り返していた。その頃フョードルに今後は何も要求しないという権利放棄書を送り、その代わりに要求した六千ルーブルを送金されていたため、経済的な窮状に立たされていたアガーフィヤに、カテリーナを自分のところへ差し向けるのと引き換えに援助を申し出る。その話を聞いたカテリーナが自分のところを訪れて来ると、五千ルーブルの五分利つき無記名債権を手渡し、玄関を開けて最敬礼をして彼女を送り出す。
その後あるモスクワの裕福な将軍夫人に引き取られたカテリーナから金を返済され、その三日後に手紙で結婚を申し込まれ、婚約することとなる。
その後フョードルとの財産問題に決着をつけるために同じ町の近くに住み始める。フョードルが自分を刑務所に入れるために自分名義の手形を預けていたグルーシェニカを殴るつもりで訪問したものの、その肉体の曲線美に魅了され、アガーフィヤに渡すためにカテリーナから託された三千ルーブルのうちの半分を彼女と共にモークロエで使い果たす。残りの千五百ルーブルは袋に縫い込んで首から下げて持ち歩いていたものの、カテリーナと別れるために三千ルーブルを返さなければならないと考えながら、グルーシェニカとの結婚を熱望するようになり、フョードルとはより一層対立を深めていく。
フョードルの提案で行われたゾシマ長老の僧庵での会合では、父の使いで来たスメルジャコフに誤った時間を聞かされ、遅刻して現れる。グルーシェニカのことで自分を刑務所へ入れようとしていたフョードルの卑劣さをゾシマ長老に訴え、あわや決闘となるところで長老から赦すようにと忠告されて跪拝を受けると、両手で顔を覆って部屋から飛び出していく。
その後グルーシェニカが来ないかとフョードルのいる家を見張り始め、そこでカテリーナのところへ向かう途中のアレクセイをつかまえ、カテリーナに返すための三千ルーブルをフョードルに無心し、その金をカテリーナに返して二度と自分が会うことはないと伝えてほしい頼む。アレクセイが入って行ったフョードルの家に向かうグルーシェニカの後ろ姿を見かけたような気がして殴り込みを行い、フョードルに暴力を振るう。
その後カテリーナのもとを訪れたアレクセイから、カテリーナとグルーシェニカのいさかいのことを聞き、カテリーナが以前自分に身をまかせようとしたことをグルーシェニカに語ったことを非難され、自分を卑劣漢だと言いながら、二度と会うことはないだろうとアレクセイに別れを告げる。
その後カテリーナに返すための三千ルーブルを捻出するため、サムソーノフに金の用立てを申し出るが断られ、父親と森の売買で折り合わないでいるゴルストキンに頼むことを勧められる。しかし苦労して探し出したゴルストキンは酔い潰れており、金の無心ができないまま一晩を無駄にして町へと戻る。
その後、以前の恋人であったムッシャローウィチのことを待ちわびるグルーシェニカの家に寄り、これから金勘定をするという彼女のでっちあげた嘘を信じてサムソーノフの家まで送り届けると、ペルホーチンのところでピストルを担保に十ルーブル借り、ホフラコワ夫人のところで三千ルーブルを借りようと考える。しかしホフラコワ夫人には金鉱で金を稼ぐことを勧められ、融資を拒否される。
その後、サムソーノフの家にいると思っていたグルーシェニカの行方が分からなくなり、彼女の女中フェーニャに事情を聞いても答えなかったため、机の上にあった銅の杵を持って外へと飛び出してフョードルの家に行き、窓枠にノックをしてグルーシェニカが来ていないことを確かめる。窓から顔を出した父親の顔に憎悪を感じながら、その場から逃げ出すが、グリゴーリイに見つかり追われたため、塀の上から銅の杵を振り下ろして殴り倒す。
再びグルーシェニカの家に行き、彼女がムッシャローウィチの元へ走ったことを聞き出すと、袋に縫い付けていた千五百ルーブルをちぎり取り、札束を鷲掴みにしてペルホーチンの元へ戻り、その金でピストルを受け取り、シャンパンや食料品を買い集め、自殺を考えながらモークロエへと旅立つ。
モークロエのトリフォンの宿屋に入ると、ムッシャローウィチらと一緒にいたグルーシェニカを見つけ、仲間入りさせてほしいと頼み、ムッシャローウィチと、その連れであるヴルブレフスキーとカードで賭けを行う。二人のポーランド人たちのいかさまによって二百ルーブルを負けると、二人を隣の部屋に連れて行き、自分の持っている金を三千ルーブルと豪語し、それと引き換えに永久にこの場を去ってくれるよう提案する。
やがて争いになった二人のポーランド人を部屋から追い出し、グルーシェニカの愛を勝ち取るが、グリゴーリイのことを殺したと思い込んでおり、自分に残された最後の時間を彼女とともに過ごすことを決めるが、そこへ踏み込んできた予審調査官ネリュードフに、父親殺しの容疑者であることを言い渡される。
尋問では、グリゴーリイを殴り倒したことを含むこれまでの経緯を正直に語りながら、フョードルを殺したことは否定する。しかし三千ルーブルを必要としていた理由や、モークロエで散財した金の出どころについては自分の名誉を守るために口を割ろうとせず、ネリュードフやイッポリートに問い詰められてようやくカテリーナに返すつもりであった千五百ルーブルを首から下げていたことを告白する。
尋問が終わると、極度の疲れの中で眠りに落ち、貧乏な上に焼け出されて凍えている百姓の母親と子供の夢を見て、その親子が二度と泣いたりせぬように何かしてやらなければならないと考える。そしてグルーシェニカの声を聞いたような気がして生きたいという欲求を取り戻し、感動して起き上がると、刑務所に拘置するという起訴状の内容を甘んじて受け入れることを宣言する。
その後二ヶ月間の刑務所生活の中で、人間はみなすべての人に対して罪があり、たとえ父親を殺していなくとも、その罪のある皆の代わりに自分が罪を受けなければならないのだという考えに至り、生きて認識し、自分が存在していることを自分自身に証明したいという熱烈な欲求を抱くようになる。グルーシェニカの訪問を度々受けるものの、ムッシャローウィチに金を貸している彼女に嫉妬し、争いを繰り返す。また今回の事件のことで評論を書こうとしているラキーチンの訪問も頻繁に受け、その無神論的な考えに反感を抱く。
イワンが自分を犯人だと思っていることには心を痛めていたが、公判の前日、アレクセイが自分のことを犯人であるとは一度も信じたことはないというのを聞くと、幸福な表情を浮かべる。
公判でも、グリゴーリイを殴ったことを認めながら、父親の血に関しては無実であると主張するが、カテリーナの裏切りやイッポリートの論告により、アレクセイやイワンらの有利な証言や、フェチュコーウィチの見事な弁論にも関わらず、情状酌量なしの有罪を宣告される。
判決後二日目に神経性の熱病にかかり、囚人病棟に送り込まれる。カテリーナに嫉妬するグルーシェニカと喧嘩の絶えない日々を送る一方で、自分がカテリーナに対して犯した罪をしっかりと理解するようになり、彼女が来てくれなければ苦しむだろうということを予感し、連れてきてほしいとアレクセイに頼み込む。
また、流刑になればグルーシェニカに会えなくなることを知りながら、イワンやカテリーナが持ち掛けてきた脱走計画に乗るかどうかで悩みこむ。しかし、脱走について非難することはないというアレクセイの言葉を聞き、グルーシェニカと共に脱走し、アメリカのインディアンのいる人里離れたところで畑仕事をして、いつかアメリカ市民としてロシアに戻ることを決心する。
カテリーナの訪問を受けると、彼女に対する自分の罪への赦しを乞い、お互いへの永遠の愛を誓う。

イワン・フョードロウィチ・カラマーゾフ
フョードルと二番目の妻ソフィヤ・イワーノヴナの子。ドミートリイの弟。母親の死後まもなく父親に忘れられ、グリゴーリイのもとに預けられる。その後母の養母によって引き取られるも、まもなくその養母も死に、その養母の筆頭相続人であったポレノフに養育される。
幼い頃から人並外れて成績優秀で、十三歳くらいのころにポレノフの家族と別れてモスクワの中学に入り、ポレノフの友人の教育家の全寮制学校に入る。その後大学に入るが、死んだポレノフの残した金の払い戻しが遅れたため、家庭教師や記事の売り込みで自分の生活費を稼ぎながら、父親の手を借りることなく勉強する。やがて書いた記事のうちの一つがは人目を惹くようになり、広範な人々に名を知られるようになる。
その後、教会裁判に関する論文を新聞に発表する。国家の中に教会が一定の地位を求めるのではなく、教会こそが国家として機能すれば、そのようにすれば死刑や流刑がなくなる代わりに、犯罪者は破門されるため、「法には背いたが教会には背いていない」などと考えて反省をしなくなることもなくなり、本当の人間再生が可能になるという内容の論文は、あらゆる層から喝采を浴びることとなる。それは最終的には識者から悪ふざけだと評されることとなったが、大きく世に知られる存在となる。
その後、カテリーナから結婚を申し込まれたドミートリイの代理として返事をするためにモスクワに差し向けられ、カテリーナに恋をするようになる。
父を相手に訴訟を考えていたドミートリイの頼みによって帰郷し、フョードルの家に住み始める。
ゾシマ長老の僧庵での会合では、長老に促されて自分の論文の内容を語り、また、ミウーソフによって、無神論者にとってあらゆるエゴイズムは許されるべきであるいう主張をしていたことを暴露されると、内面の混乱をゾシマ長老に見抜かれ、その心の解決が実現されるようにと祝福を与えられる。
フョードルとドミートリイのことを軽蔑しており、二人の暴力沙汰が起きると、「毒蛇が毒蛇を喰らうだけだ」と言い放つ。
長らくカテリーナに惹かれながら、彼女がドミートリイの幸福のための手段になるということに賛同していたが、やがて彼女がドミートリイへの復讐のために自分を身近に置いていることを悟るようになり、町を出て行くことを宣言する。その後、飲み屋にやってきたアレクセイを呼び止め、神はいるかどうかという議論を持ちかけ、子供たちが虐待され続けている神このの創った世界を認めないと主張し、この無神論を展開するために創作した『大審問官』と題された叙事詩を披露する。
アレクセイに別れを告げた後、フョードルに家に向かってスメルジャコフに会い、彼がフョードルとの間に取り決めておいた、グルーシェニカが来た時のノックのアイズをドミートリイに伝えてしまったことや、スメルジャコフが明日癲癇の発作に襲われるだろうというのを聞く。その後父親に会い、モスクワへと発つことを伝え、チェルマーシニャに寄って領地の売却の商談をまとめてほしいと頼まれる。
チェルマーシニャへ向かうつもりであったものの、途中で気が変わり、これまでのことと縁を切り、新しい世界へ入っていくことを決めてモスクワへ向かう。
上京して四日目に父の死を知って町に戻り、ある官吏の未亡人の持ち物である屋敷に住居を借り、耳の遠い老婆に面倒を見られて生活し、再びカテリーナへの激しい情熱に囚われる。
ドミートリイのことを犯人だと思い込んでいたものの、犯人が兄ではないと主張するアレクセイの言葉や、事件の前に父親の死を期待していたことを思い出したことにより、もしスメルジャコフが犯人であるとすると、犯行を焚きつけたのは自分であると考え、真相を確かめるために二度にわたってスメルジャコフと対面する。
しかし父親を殺して金を奪おうとすることが書かれたドミートリイの手紙をカテリーナから見せられると、兄が犯人であることを確信し、自分が父親の死の原因ではなかったことに安心する。
しかしその後ひと月ほど経つと、カテリーナがドミートリイを愛しているように見え、身体の変調を感じるようになる。ドミートリイを憎んでいたにもかかわらず、自分も彼と同じような人殺しなのではないかと考え、公判の十日ほど前に彼を訪れ、父親の遺産の三万ルーブルを費やした脱走計画について話す。
この頃から譫妄症によって悪魔の姿が見えるようになり、ドミートリイ公判の前日、アレクセイから自分が人殺しであるという考えに煩悶していることを悟られ、「犯人はあなたではない」と言われると、自分のところへ悪魔の幻覚が現れるのをアレクセイが知っているのだと思い込み、絶交を宣言する。
その後、スメルジャコフのところへ向かい、彼が、自分の「すべては許される」という言葉に従ってフョードルを殺した経緯の全貌を打ち明けられ、フョードルから奪った三千ルーブルを渡される。
翌日の法廷でスメルジャコフを連れて出廷し、真実を証言することを違うものの、家に帰ると、自分で創り出した悪魔の幻覚に自分の考えのすべてを見透かされて怒り狂い、発狂する。その直後にアレクセイの訪問を受け、スメルジャコフが首を吊って死んだことを知ると、自分を訪れるようになった悪魔に中傷されたとアレクセイに訴え、だんだんと意識を失っていく。
法廷には遅れて出廷し、スメルジャコフから預かった三千ルーブルを証拠として取り出して、犯行をそそのかしたのは自分であると証言する。そしてその三千ルーブルが父親のものであったという証拠はないが、この法廷にいる悪魔だけは証言できるだろうと言って、腕を掴んできた廷吏を床に叩きつけ、気が狂ったようなことを叫びながら警備によって取り押さえられる。
ドミートリイの公判後、意識不明となり、カテリーナの家に運ばれる。

アレクセイ・フョードロウィチ・カラマーゾフ(アリョーシャ)
フョードルの三男。ソフィヤ・イワーノヴナの子。ドミートリイとイワンの弟(ドミートリイとは異母兄弟)。四歳で死別した母が、狂ったようになりながら自分を抱きしめ、聖像の前に差し出している記憶をしっかりと残している。母親の死後、イワンと同じように父親に忘れ去られ、グリゴーリイのもとに預けられる。その後母の養母によって引き取られるも、まもなくその養母も死に、その養母の筆頭相続人であったポレノフに養育される。ポレノフの死後、二年を県立中学で過ごしている間に、ポレノフの親戚に当たる二人の婦人の家に引き取られる。中学がまだ一年残っている時、母の墓を探すために父の元へ向かうことを決める。
活発ではないものの、人間を愛しており、侮辱を受けても気にしない性格で、学生の頃から人に好かれていた。その一方で激しい羞恥心と純粋な心を持っており、周囲の者に揶揄われることがよくある。金に対しては無頓着。
イワンよりも一年ほど前にフョードルの町に帰り、ゾシマ長老に心酔し、十九歳で修道院での暮らしを始める。
ドミートリイとフョードルの財産問題を話し会うための修道院の会合に参加し、その途中で幼馴染のリーズと再会する。その会合の後、修道院を出て行き、二人の兄に寄り添うようにとゾシマ長老から命じられる。
その後、リーズから渡された手紙に従ってカテリーナに会うために町へ向かう途中でドミートリイに捕まり、カテリーナに返すための金を父親に無心してほしいと頼まれる。
フョードルの家でイワンやスメルジャコフとともに神や不死があるかといった議論を行った後、フョードルが母親のことを語るのを聞き、その母親そっくりの発作を起こしてヒステリックな涙を流す。
その発作が治まった頃、グルーシェニカが来ないかと見張っていたドミートリイの殴り込みをイワンとともに制止し、暴力を受けたフョードルの介抱を行う。
その後カテリーナの家に行き、二度と会うことはないというドミートリイの意志を伝え、その家を訪れていたグルーシェニカとカテリーナの争いを目撃する。そして死に瀕しているゾシマ長老に付き添うことを心に誓いながら修道院に帰ると、リーズからの恋文を読み、心に安らぎを得て眠りにつく。
その翌朝、約束した人たちのところへ行くようにとゾシマ長老に促され、後ろ髪を引かれる思いで修道院を出て行き、前日の暴力沙汰によって横になっていたフョードルを訪れる。その後、父へ敵意を向けるドミートリイを探しだそうとした途中で、虐められていた少年イリューシャに出会い、見ず知らずの彼がなぜ自分に敵意を向けているのかを聞こうと試みる。
その後ホフラコワ夫人の家でリーズに会い、学業を修めるための試験に合格したら結婚を申し込むことを約束する。
カテリーナがドミートリイのことを決して見捨てないと語ると、彼女がドミートリイのことを偽りの気持ちで愛し、イワンのことを愛しているが故に苦しめていることを直感的に感じとる。その後カテリーナから、ドミートリイが暴力を働いたスネギリョフという二等大尉の話を聞き、イリューシャがその息子であることに気づく。スネギリョフを助けるため、カテリーナから託された二百ルーブルを届けるが、名誉を重んじたスネギリョフに受け取りを断られる。
その後ドミートリイを探すために父の家の隣家にあるあずまやに入り、そこへ入ってきたスメルジャコフにイワンの居場所を聞いてその飲み屋へと向かい、イワンの無神論が展開された『大審問官』と題された叙事詩を聞く。
イワンの絶望を悟りながら別れを告げた後、死に瀕するゾシマ長老のもとへ向かい、長老の生前最後の説教を聞く。
ゾシマ長老が死後すぐに腐臭を放ち始めたことで、反対派が市民を巻き込んで騒ぎになったことに深い侮辱と憤りを感じて動揺する。修道院へ向かう途中でラキーチンに話しかけられ、自分を堕落させようと考える彼の誘いに乗ってグルーシェニカの元を訪れる。しかしそれまで恐れの対象であったグルーシェニカが、長老の死を知って自分に対する憐れみの情を示したため、静謐な心を取り戻す。
グルーシェニカがモークロエに旅立つと、庵室に入ってまどろみ、自分達とともにガラリヤのカナの婚礼を楽しむキリストを夢に見て、歓喜の涙を流しながら目を覚ます。
フョードルの死やドミートリイの逮捕を経て、修道院を出ると、ある町人の家に家具付きの部屋を借りて住み始める。病床についたイリューシャのために、かつて彼を虐めていたスムーロフたちを導いて仲直りさせる。またイワンに恋をするようになったリーズから婚約を断られる。
イリューシャに会うことを決めたコーリャとの初体面を果たし、彼が科学のみを信じる社会主義者であると公言するのを聞き、その素晴らしい天性が歪められてしまっていることを懸念する。
その後、グルーシェニカの家に向かい、翌日の裁判について語り合い、ドミートリイが何か自分の知らない秘密を持っているのかもしれないと取り乱す彼女に、兄の秘密を知ることができれば、それを伝えると約束する。
その後ホフラコワ夫人の家に行き、事件について話し合った後、自分との結婚を断ったリーズの所へ行き、彼女が恋をするようになったイワンへの手紙を預かる。
刑務所に収容され、イワンからの疑惑に苦しむドミートリイに対しては、彼が父親殺しの犯人だと思ったことはないと断言し、慰謝を与える。
その後、スメルジャコフをそそのかして父親を殺させたのではないかという思いに苛まれていたイワンに向けて、「犯人はあなたではない」と伝える。しかし悪魔の幻覚が見えるようになっていたイワンに、その悪魔の対話の内容を知っていると思われ、絶交を言い渡される。その夜、マリヤ・コンドラーチエヴナの訪問を受け、スメルジャコフが自殺したことを知り、これをイワンに伝える。
公判では、ドミートリイが直情的な人間であっても、高潔で誇り高く、寛大な心の持ち主であると主張し、証拠はないものの兄の表情から父を殺したのは彼ではないと考えるに至ったことを語る。ふいに事件の日に修道院に帰る途中、ドミートリイが自分には名誉を挽回する手段があると言いながら胸の上をたたいていたことを思い出し、そこに例の千五百ルーブルが入っていたのではないかと語り、これがドミートリイにとって有利な証言となる。
公判後、意識不明になったイワンの意思を継いで、ドミートリイの脱走計画についてカテリーナと打ち合わせる。また、ドミートリイがカテリーナへの罪を悔恨し、会うことを望むようになったため、彼のところへ行ってほしいとカテリーナに懇願する。そして囚人病棟へ行き、無実の罪を負うべきかどうかで悩むドミートリイに、イワンやカテリーナの勧める通りに脱走をするように説得する。
その後イリューシャの葬儀に参列し、彼が父親と語り合った石のそばで、この町を立ち去るつもりであると語り、イリューシャとお互いのことを、決して忘れないでいようという約束を少年たちと誓い合う。

スメルジャコフ
二十四歳ほどの人嫌いで寡黙な男。傲慢で、あらゆる人間を軽蔑している。
白痴の宿なし娘リザヴェータ・スメルジャーシチャヤがフョードルの家の庭で産み落とした子供。父親はフョードルであるという噂がある。お産の直後に母親が死んだため、グリゴーリイとマルファによって引き取られる。少年時代には猫を縛り首にして葬式をするのが好きだった。グリゴーリイから宗教史を教わるが、感謝の念を知らず、小馬鹿にしたような態度をとったことで体罰を喰らい、その一週間後に持病である癲癇の発作が始まる。
やがて異常に潔癖な性格が現れ始め、フォークに刺した食べ物を光にかざしてから食べるようになったため、それを見たフョードルによってコックにすることが決められ、モスクワに勉強に出される。
フョードルの家に帰ると、隣家の娘マリヤ・コンドラーチエヴナを手ごめにする。その後家にやってきたイワンを崇拝する。また、近所の少年イリューシャをそそのかし、むく犬のジューチカにピンの入ったパンを食べさせる。
グルーシェニカが来た時のノックの合図をフョードルと取り決めていたものの、彼女を家に通さないよう、ドミートリからは脅されていた。またフョードルがグルーシェニカのために取ってあった三千ルーブルを封筒に入れるのを実際に見ていたただ一人の人物で、その隠し場所が部屋の隅の聖像画の後ろに隠してあることを知っており、ドミートリイにはそれが枕の下にあると嘘をついていた。
食卓にフョードル、アレクセイ、イワン、グリゴーリイが集まると、突然、信仰を捨てたものがキリスト教の名において罪人となることの矛盾点を展開し、グリゴーリイを憤慨させる。
その後ドミートリイから脅され、フョードルとの間に取り決めておいたグルーシェニカが来た時のノックの合図の方法を教える。そしてこのことをイワンに打ち明けた後、翌日になれば、自分は癲癇の発作をおこすだろうと予言する。
イワンが父親の死を望んでおり、もしフョードルを手にかけても養ってもらえると思い込んでいたため、イワンがチェルマーシニャへ旅立ったことを、父親を殺してほしいということをそそのかしているのだと解釈する。
その夜になると癲癇の発作を起こす演技をして倒れ、ドミートリイがフョードルを殺害することを待っていたが、グリゴーリイが殴り倒されただけであることを知り、テーブルの上にあった鋳物の文鎮を脳天に打ち下ろしてフョードルを殺害する。そしてグルーシェニカのために取ってあった三千ルーブルを奪い去り、中身を確かめようとした人の犯行に見せかけるために、その場に封筒だけを捨て、金を庭にある林檎の木の洞に入れておく。
その後、しばらく癲癇の発作を起こし続けるふりをしてマルファを起こし、その翌朝、病院に運ばれる前に激しい本物の発作を起こして重態となる。
病気から回復した後、マリヤ・コンドラーチエヴナの婚約者という形で、彼女が新しく住み始めた掘建小屋のような家に住み始める。二度にわたるイワンの訪問を受け、癲癇の発作が本物で、自分が犯人ではないことをきっぱりと明言しながらも、イワンが父親の死を願っていたということを思い出させる。
公判の前日、再びイワンの訪問を受けると、イワンの「すべては許される」という言葉にしたがってフョードルを殺したことを打ち明ける。
イワンが自分のことを訴え出ると宣言すると、そのような証言は誰も信用しないだろうと言って、奪った三千ルーブルを手渡し、去り行くイワンに「さようなら」と声をかける。
その後、「だれにも罪を着せぬため、自己の意思によって生命を断つ」と遺書を遺し、首を吊って自殺する。

カテリーナ・イワーノヴナ(カテリーナ・ヴェルホフツェワ)
金持ちの貴族で、中佐の娘。気位の高い無類の美人。首都の貴族女学校を卒業し、父親と軍務に就いていたドミートリイのいる町に帰ってくる。上流社会の人々の歓待を受けるが、ドミートリイからは見向きもされなかった。
父親の中佐が公金を利子付きで貸し付けていたが、その返済が滞ったために支払い能力がなくなり、辞職せざるをえなくなった後で、その官金の引継ぎ命令を出されて自殺を図りそうになると、自分と引き換えにドミートリイが支払いをしてくれるということを姉のアガーフィヤから聞き、自分の身を差し出すつもりでドミートリイを訪れ、五千ルーブルの五分利つき無記名債権を受けとる。その時に見返りを求めずに金を出し、最敬礼をして送り出したドミートリイのことを愛するようになる。
その後アガーフィヤとともにモスクワへ移り住むと、親しい二人の姪を天然痘で亡くしていた親類のある将軍夫人に喜んで迎えられ、自分のために遺言状を書き改めてもらったうえに、八万ルーブルを渡されたため、その中からドミートリイが支払った分を郵便で返済し、その三日後に彼に手紙で結婚を申し込む。その返事としてドミートリイの代わりに差し向けられたイワンから想いを寄せられることになるが、ドミートリイに固執し、婚約を果たす。
その後ドミートリイのいる町に住み始め、恋敵となったグルーシェニカを呼び、彼女が他の男を愛しているためにドミートリイとは結婚するつもりがないことを聞き出して満足する。しかしアレクセイが訪ねてきた後、グルーシェニカが心変わりをするかもしれないと言い始めたため、怒り狂い、彼女を追い出す。
その後ドミートリイが酔いにまかせて書いた、父親を殺して三千ルーブルを奪い、金を返すという手紙を受け取る。そして再びホフラコワ夫人の家でイワンとアレクセイに会い、これからはドミートリイのことを見捨てず、遠くから見守り続けることを公言するが、本心ではイワンを愛しているにも関わらず、ドミートリイへの偽りの愛を公言し、自らを苦しめているだけであることをアレクセイに指摘される。イワンに別れを告げられた後、ドミートリイが暴力を働いたスネギリョフのために用意した金を届けてほしいとアレクセイに二百ルーブルを託すと、熱を出してうわごとを言うようになる。
ドミートリイの逮捕後、アレクセイとイワンと三人で三千ルーブルを出しあい、ドミートリイのために学識のある弁護士を立ててやる。また一人で二千ルーブルを出して、モスクワの医者を呼び、ドミートリイが錯乱状態にあったという結論を出させようとし、その医者にイリューシャの病気も診るように依頼する。スメルジャコフが犯人ではないかと思いこみ、その犯行をそそのかしたのだと苦悩するイワンに同情し、ドミートリイから受け取った金を返すために父親を殺すつもりであるという内容の手紙を見せる。
法廷ではドミートリイを救うために、彼の婚約者であったことをはっきりと述べ、かつて自分をさしだす覚悟で三千ルーブルよりも多額のお金を借り、その時にドミートリイが何もせずに最敬礼を行ったことを告白する。
しかしその後、発狂するイワンが自分を主犯であると証言するのを見て、本当に愛しているのは彼であることを悟り、はじめから憎み、軽蔑していたドミートリイを破滅させようと考え、父親を殺して三千ルーブルを手に入れるつもりであるというドミートリイの手紙を裁判長に提出する。
公判後、意識を失ったイワンの譫妄が自分の裏切りによるものではないかと苦しみ、自分の家に移させ、ワルヴィンスキーやヘルツェンシトゥーベも治療に携わらせる。
また公判前からイワンと話し合っていたドミートリイの脱走計画についてアレクセイと打ち合わせる。そしてアレクセイの説得により、ドミートリイのもとを訪れ、今は違う人を愛していても、お互いに永遠に愛することを誓い合う。イリューシャの死後、葬式には行くことができず、花を届ける。

グルーシェニカ(アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ・スヴェトロワ)
二十二歳の栗色の髪としなやかな体つきの、あどけない表情の女。
聖職者の家族の出であると噂のある孤児。ラキーチンの従妹。十七歳のころに愛情の全てを捧げたポーランド人将校ムッシャローウィチに捨てられ、十八歳の頃にサムソーノフに連れてこられ、町の目抜き通りにある商人の未亡人モロゾワの屋敷の木造の離れを借りて暮らし、飲み屋のいかがわしい仕事で給金を稼いでいた。何人もの求婚者がいたものの、ムッシャローウィチに対する貞節を守るため、サムソーノフの他に誰の手に渡ることもなかった。高利で金を貸す手腕に長け、いち早く自分の財産を作り上げた。この時に商売相手であったフョードルと、そのフョードルが刑務所に入れようと画策していたドミートリイの両方を魅了することとなり、二人の争いの原因となる。
以前からアレクセイに目をつけており、彼を連れてきたら金を渡すと親戚のラキーチンに約束していた。
その後、妻に先立たれたムッシャローウィチが手紙をよこすようになると、再び身を委ねようかと考え、カテリーナに呼び出されると、このことをドミートリイに伝えると約束する。しかしそこへアレクセイが訪ねてくると、自分が不意にドミートリイを好きになって誘惑を始めるかもしれないと言い始め、カテリーナを侮辱する。
ムッシャローウィチが来ることが決まると、ドミートリイを欺いて逃亡を企む。ゾシマ長老を亡くしたアレクセイのことを憐れみ、自分がムッシャローウィチを赦しているのかどうかという葛藤を語る。しかしムッシャローウィチからの遣いがやってくると、アレクセイとラキーチンを帰して馬車に乗り込み、モークロエに向けて旅立つ。
モークロエにたどり着くと、ムッシャローウィチに再会し、ヴルブレフスキー、マクシーモフ、カルガーノフと共にトリフォンの宿屋に入る。しかし以前と変わってしまったムッシャローウィチにすぐに幻滅することとなり、ドミートリイが訪れてくると、自分たちの輪の中に入れる。
ムッシャローウィチがヴルブレフスキーと協力してドミートリイ相手にカードでいかさまを働いたことや、二人がドミートリイの差し出した金を受け取りそうになったことを知ると、これまでムッシャローウィチを待ち続けていた五年間を後悔しながら激怒する。ムッシャローウィチとヴルブレフスキーを部屋から追い出し、百姓たちに酒をふるまうドミートリイのことを愛し始める。
フョードル殺害の現場検証を終えたネリュードフや検事イッポリート宿に入り込んでくると、ドミートリイが自分のために人を殺したのだと言って、自分も裁いてほしいと懇願する。ドミートリイの尋問中、マクシーモフを慰めながら別の部屋で過ごし、尋問では、ドミートリイに金がないとこぼしていたことや、フョードルを殺そうとしていたことを正直に告白しながらも、ドミートリイの言葉を信じてほしいとネリュードフらに懇願し、連行が決まると、どこまでもついていくという意思を示す。
その後モロゾワの家に戻り、意識不明になるほどの長い熱病に悩まされる。回復後、家に居着いたマクシーモフを話し相手にしながら過ごし、借金を申し入れに来たムッシャローウィチとヴルブレフスキーに金を貸してやる。ドミートリイを頻繁に訪れながら、カテリーナに対して深く嫉妬するようになる。
公判の前日、訪れてきたアレクセイと語り合い、スメルジャコフが犯人に違いないと断定する。またドミートリイ脱走の計画を立てるイワンが訪ねに来ていることを口を滑らせてアレクセイに伝える。
公判では、ドミートリイが犯人ではないと確信していると証言し、ぞんざいな態度で、カテリーナがドミートリイを破滅させたのだと言い放ち、また自分がラキーチンと従妹であることを暴露する。そしてドミートリイを裏切ったカテリーナに憎悪の目を向け、有罪が決まると嗚咽をもらす。
以来、カテリーナを憎みながら監獄へ通い、ドミートリイへの差し入れを行う。アレクセイの懇願を受けて監獄を訪れて来たカテリーナとすれ違い、赦しを乞われるが、憎悪を込めながらドミートリイを救うならば赦すと言い放つ。

ゾシマ長老
六十五、六歳。ロシア各地から懺悔のために人々が訪れてくる町の修道院の長老。何度も奇蹟を起こしたことがあり、ほとんどの修道僧から聖人であると見なされている。病気のために死期が噂されるようになっており、その死後は何かしらの奇蹟が訪れるだろうと信じられている。
あらゆる人間の悩みを聞いていたため、訪れてくるものを見ただけで、その人がどのような相談を持ち掛けてくるのかを察知できる。
遠い北国のそれほど名門ではない貴族の家の生まれ。幼名はジノーヴィイ。父は二歳の時に他界したが、不自由ない資産が残る。八歳ほど上に結核で死んだ兄マルケルがいた。
八年間ペテルブルクの士官学校に入り、その間に母親を亡くす。士官学校では礼儀や社交を身に着けながら、享楽的な生活を送る。四年ほど連隊に勤めた後、駐屯地のK市に勤め、社交界に入る。そこである美しい令嬢に想いを寄せるが、二か月間の出張の間にその令嬢は結婚しており、復讐のために理由をこじつけてその令嬢の夫と決闘を決める。しかし決闘の前日に従卒のアファナーシイに腹を立て、血だらけになるまで殴りつけたことで、自分を卑しい恥ずべき人間だと感じるようになる。その翌日アファナーシイに謝罪して決闘の場所に向かい、相手が発砲するのを待ってから銃を投げ捨て、赦しを乞い、その後修道院に入る決意を表明する。その行動に心を打たれたある紳士が自分のもとを訪れるようになり、やがてその紳士が、十四年前に熱烈な恋をした婦人を殺したことで罪の意識に苛まれていることを知ると、皆の前でその罪を告白するように忠告する。その紳士が葛藤の末、自宅でのパーティーでその罪を大衆の前で告白し、心の平穏を取り戻したものの、その後間もなく死ぬと、町を離れ、その五か月後に修道僧としての道に踏み込む。
やがてフョードルのいる町の修道院に落ち着き、晩年を迎えた頃に自分の前に現れたアレクセイの精神が兄マルケルに酷似していたため、自分のこれまでの人生についての回想と洞察を行うためにアレクセイが現れたのだと考え、彼に修道院の僧庵で暮らす許可を与える。足の悪くなったリーズには祝福を与え、回復をもたらしていた。
フョードルの立案を受け、修道院の僧庵で、フョードルとドミートリイの財産問題についての話し合いの場を設ける。その話し合いで、教会が国家となり犯罪者を破門させるというイワンの考えに反論し、教会が犯罪者を破門しない現行のやり方でも、犯罪者はキリスト教から良心への懲罰を受けることはできると主張する。不死への信仰がなくなれば、無神論者にとってあらゆるエゴイズムが許されるであろうと主張するイワンの心の混沌を見抜き、心の解決が与えられるようにと祝福を与える。またフョードルとの決裂が決定的となったドミートリイの恐ろしい運命を予感し、彼に跪拝し、すべてを赦すようにという忠告を与え、自分の死後はこの修道院を出ていき、二人の兄に付き添うようアレクセイに命じる。
自分の死が近いことを悟ると、懺悔と聖餐式、塗油式を行い、最後の力をふりしぼって集まった僧たちに説教を行う。アレクセイには約束した人たちのところへ行くようにと促す。
再びアレクセイが戻ると、彼の人生には多くの不幸がもたらされるが、その不幸によって幸福になり、人生を祝福するようになるだろうと予言を与え、アレクセイの精神が兄マルケルに似ていたため、自分に懐かしいものを与えたのだと語る。そして自身の生い立ちと、そこにいた神父らに法話や説教を与えると、大地にひれ伏して接吻し、嬉しそうに祈りながら息を引き取る。
死後、まもなく強烈な腐臭を放ったことで、反対派を勢いづかせ、神の裁きが下った結果であると噂される。

グリゴーリイ・ワシーリエヴィチ・クトゥゾフ
フョードルの召使。マルファ・イグナーチエヴナの夫。子供好きで、フョードルに見放されたドミートリイ、イワン、アリョーシャの幼い頃の面倒をしっかりと見ていた。
フョードルの最初の妻アデライーダのことを憎んでいた一方で、二番目の妻ソフィヤに対しては憐憫の情を示し、自宅で乱痴気騒ぎを繰り返していたフョードルに盾つき、ソフィヤの死後は墓を自費で建てる。一時町を離れていたフョードルが帰ると、その面倒を見ながら、成りあがる過程で危険な目にあった時に、いくども彼を救ったことがある。決して非難をせず、放蕩にふけることもないため、フョードルに安心感を与え、好ましく思われている。
リザヴェータ・スメルジャーシチャヤが妊娠し、父親がフョードルであるという噂が立つと、時には喧嘩や口論までして主人のためにその中傷を否定し、父親が脱獄囚の、「ねじ釘のカルプ」の仕業であると断言する。
妻のマルファのとの間に生まれた六本指の赤ん坊が生後二週間で死に、その赤ん坊を葬ったその日に、家の庭でリザヴェータが産み落とした子供スメルジャコフを神の御子であると考え、マルファとともに育てることを決意する。その後もスメルジャコフと同じ離れに暮らしながら、フョードルに仕え続ける。
フョードル殺害の日は、殴り込みに来たドミートリイを制止しようとして突き飛ばされ、これが原因となって体調を崩し、マルファの作った薬種によって寝込んでいた。ふいに目を覚まして庭に出たところで、フョードルの家から逃げ出すドミートリイを発見して追いすがろうとしたところを、銅の杵で殴られて倒れる。
目を覚まし、人事不詳になりながら塀の脇から這ってきたところを起きてきたマルファに発見され、一命をとりとめ、マルファに警察署長のところへはしるよう命じる。
尋問では、ドミートリイを発見した時にフョードルの部屋の扉が開いていたのを見たと証言し、ドミートリイがそこから逃げ出したのだろうと語る。
法廷では、フョードルへの深い敬意を語りながらも、ドミートリイの幼少時代の不幸な境遇や、父親に騙されていたことなどのカラマーゾフ家の内情を細かく語る。そして事件の日にフョードルの家のドアが開いていたことを証言するが、その晩純粋なアルコールに漬けた薬酒をコップ一杯も飲んだことをフェチュコーウィチに指摘され、「天国の扉が開いていた」のも見えそうだと評される。

スネギリョフ
もとロシア歩兵二等大尉。四十五、六歳の小柄で痩せこけた、赤茶けた髪の男。仕事がなく、貧困に苦しみながら、頭のおかしくなった妻アリーナと、娘のワルワーラ・ニコラーエヴナとニーナ・ニコラーエヴナ、息子のイリューシャを養っている。
グルーシェニカの手元にあるドミートリイの手形を引き取らせ、その手形を使ってドミートリイを刑務所に入れるための訴訟を起こしてほしいという依頼をフョードルから受けたことがきっかけで、ドミートリイに飲み屋から広場まで引きずりだされたことがある。
そのことを知ったアレクセイが、カテリーナから託された二百ルーブルを渡しに訪れてくるが、名誉を守るため、その金を踏みにじる。
イリューシャが病気になると、半狂乱になり、イリューシャが傷つけた犬ジューチカのかわりの犬を注文するも、かえって息子を傷つける結果となる。
その後、カテリーナからの二百ルーブルを受け取り、アレクセイの手引きによって病床のイリューシャと仲直りした少年たちを迎え入れ、ジューチカを連れてきたコーリャの行いを喜ぶ。
ドミートリイの裁判では、泥酔して証言台に立ち、死にかけているイリューシャのことを語り、泣き出して連れ出され、ドミートリイを糾弾しようとする検事の思惑を外す。
イリューシャが息を引き取ると、棺から離れようとせず、自分たちが語り合った石のそばに葬ると言い張り、賛美歌を聞いて大声でしゃくりあげる。墓に土がかぶされ、「雀が来るように」というイリューシャの希望通りにパンを撒くと、のろのろと家に向かって歩き出し、再び墓の方に走り始めて少年たちに制止され、家に戻ると、妻とニーノチカとともに張り裂けるように泣き始める。

イリューシャ
スネギリョフの息子。九歳。中学の予備クラスに入るといじめを受け、そのいじめから救ってくれたコーリャを崇拝していたが、行き過ぎた愛情を嫌うコーリャから冷淡に応じられるようになり、新たに親しくなったスメルジャコフとともに、ピンをパンの中に詰めて、むく犬のジューチカにやるという悪戯を行う。このことでコーリャから絶交を言い渡されると、どの犬にもピンを入れたパンをばらまくと言い始める。同じ頃、父親とドミートリイの暴力事件が起こり、父親のためにドミートリイにすがりながら赦しを乞う。
これらのことが原因で癇癪を起しやすい性格になり、再び他の少年たちと喧嘩を始めるようになり、コーリャの太ももをペンナイフで刺すという事件を起こす。またカラマーゾフにも敵意を向けるようになり、アレクセイの指に噛みつき、怪我を負わせる。
その後容態が悪くなって病床につくと、自分がジューチカをひどい目に合わせたためにその報いを受けたのだと考えるようになる。またアレクセイの手引きによって他の少年たちと仲直りを果たし、ジューチカを探し出したコーリャとも仲直りを果たす。
カテリーナの依頼によりモスクワから訪れた医者の診察を受けるが、自分が死ぬことを予期し、父親に自分のことを忘れないでほしいという言葉を残し、ドミートリイの公判の二日後に息を引き取る。

コーリャ・クラソートキン(ニコライ・イワノフ・クラソートキン)
十三歳。クラソートキナ夫人の一人息子。悪戯好きであるものの、勇敢で抜け目がなく、節度のある頭の良い少年。背の低いことを気にしている。母親の行き過ぎた愛情を嫌い、亡き父の蔵書を読み漁るうちに無鉄砲な悪戯を行うようになる。
中学に入学したてでいじめを受けていたイリューシャをかばったことで、崇拝を受けるようになるが、彼のむら気のある性格を鍛えるつもりで、冷淡に応じるようになる。イリューシャがスメルジャコフとともにピンを詰めたパンをむく犬のジューチカにやったことを聞くと、こらしめるつもりで絶交を言い渡すが、このことで癇癪を起しやすくなったイリューシャからペンナイフで太ももを刺される。
休暇中に出かけた親戚の家の近所に住む数人の少年と仲良くなり、彼らに見くびられないよう、二ルーブルを賭けて、レールの間にうつ伏せに寝て、汽車が頭上を通り過ぎる間、身動きせずに寝ていて見せると宣言を実行し、町中で向こう見ずという評判となる。
しかしその話を聞いた母親がヒステリーの発作を起こすと、二度と同じようなことはしないと誓いう。
その後、ジューチカを探し出し、ペレズヴォンと名付けて飼いならし芸を教える。また他の少年たちとイリューシャを仲直りさせたアレクセイに興味を持ち始め、スムーロフによってアレクセイを紹介された後、ジューチカをイリューシャのもとに返す。
自分が信じるのが数学と自然科学だけで、歴史やラテン語は無意味だと豪語し、自身が社会主義者であると宣言し、下層階級を奴隷状態にとどめておくために、金持ちや上流階級にだけ奉仕してきたのだと教会を批判したことで、アレクセイと議論になる。しかし、やがて自分の利己的な自負心や虚栄心によって受け売りの教養をひけらかそうとしていたことを告白し、そのような思想のために不幸にならないようにとアレクセイから忠告を与えられ、その言葉に感銘を覚える。
イリューシャが息を引き取ると、父親についていてあげてほしいという彼の望み通り、スネギリョフに付き添う。葬儀では誰よりも激しく泣き、その夜イリューシャの母親と姉の様子を見に来ようと、アレクセイと約束する。その後イリューシャとお互いのことを決して忘れないでいようというアレクセイの言葉に感激し、カラマーゾフ万歳と叫ぶ。

ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ
フョードルの最初の妻アデライーダの従兄。教養が高く、都会的で、パリ暮らしをしていた自由思想家の無神論者。アデライーダの死後、ドミートリイが父親に忘れ去られていることを知ると、フョードルに憤り、子供の養育を引き受けたいと言い渡す。
しかしその後まもなくパリに行くこととなり、モスクワのある婦人へとドミートリイを託し、二月革命が始まると、ドミートリイのことをすっこりと忘れる。
やがてパリから戻り、フョードルと同じ町の郊外に暮らすようになる。修道院とは土地問題、伐採権や漁業権で以前から揉めていた。
フョードルとドミートリイがゾシマ長老のところで財産問題について話し合いをする件に興味を抱き、修道院と自分との間の問題についてゾシマ長老と話し合いたいという口実を儲け、会合に参加する。
ゾシマ長老に卑劣な態度をとるフョードルに憤り、金輪際の交際を断るが、その後フョードルに腹を立てた自分が恥ずかしくなり、修道院と係争中の伐採権や漁業権を放棄して、訴訟も取り下げようと決心する。
ドミートリイの逮捕後、審理に召喚されたものの、パリに移っていたために公判の出席を見送る。

ホフラコワ夫人
三十三歳の未亡人。ハルキウ県の地主。小児麻痺で足が不自由になったリーズを連れ、ゾシマ長老に会いに来る。
来世という考えを確信できないことで心を乱されているが、ゾシマ長老から身近な人を愛することにより、神の存在や不滅の魂に確信を持つことができるようになるだろうと説かれ、涙を流す。
その場にいた町の老婆から、イルクーツクに赴任したまま音沙汰のない息子の法要を行うべきか聞かれたゾシマ長老が法要を禁じたことを覚えており、その息子が生きていると言う知らせが届くと、ゾシマ長老の死に際して起きる奇蹟であると考える。
町にある持ち家にカテリーナを呼ぶことがあり、彼女が熱を出すと面倒を見る。その間二人きりになったアレクセイとリーズが結婚を誓い合うのを盗み聞きし、アレクセイがリーズに対する同情から慰みを語っているに過ぎないと思い込み、今後の出入りを禁じ、自分たちも町を離れることを宣言する。カテリーナに返済するための金に窮したドミートリイの来訪を受けて金の融資を頼まれ、金鉱で働くことを勧める。
ゾシマ長老の死後、僧庵に入ることのできない自分に替わってラキーチンを送り込み、三十分ごとに起きたことを手紙で報告させ、ゾシマ長老の遺体の腐臭のことを知ると失望し、裏切られたと考える。
その後、ペルホーチンの突然の訪問を受け、ドミートリイに三千ルーブルを渡したかどうかを聞かれると、始めは夜遅くの訪問に腹を立てながらも、やがて美青年で頭の切れるペルホーチンに魅了され、どのような事実が明らかになるか、分かり次第教えて欲しいと頼む。
ドミートリイの逮捕後、頻繁に訪れるようになったペルホーチンのために着飾るようになる。一方、自分に恋をするようになったラキーチンの訪問も受けるようになるが、彼に手を握りしめられた時に腫れだした片足のために、体の具合を悪くする。
やがてペルホーチンを敵視するようになったラキーチンの来訪を断ったために逆恨みを受け、自分とドミートリイが関係していたという根も葉もない記事が出回るようになる。ラキーチンに
フョードルの殺害事件に関しては、グルーシェニカのために皆が破滅させられたのだと思い込んでいる。
やがてイワンに恋をするようになったリーズがヒステリーの発作を起こすようになったので、アレクセイに彼女を任せ、何が原因で悩んでいるのか聞き出してほしいと頼む。
ドミートリイの公判には召喚されたものの、病気のために不参加となる。

リーズ(リーザ)
ホフラコワ夫人の娘。十四歳。小児麻痺で足が不自由になり、車いすに乗っていたが、母親とともにゾシマ長老を訪れ、祈りを与えられてから病態が快方に向かっている。
ゾシマ長老の修道院で再会した幼馴染のアレクセイのことを以前から慕っており、恋文をカテリーナに託して渡してもらい、結婚を誓い合う仲となる。
フョードル殺害の事件後、自由に歩けるようになるが、自分の中にある残酷な側面に苦しむようになると共に、その考えに共感を示したイワンに恋をするようになり、アレクセイとの結婚の約束を断り、そのことがきっかけで苦しむようになる。それでもアレクセイが自分のことを愛し、一生にわたって付き添うと宣言すると、自分を救ってほしいと懇願する。しかしその直後、イワンに宛てた手紙をアレクセイに託し、その行為を恥じ、自分の指をドアに挟んで押しつぶす。
イリューシャの死後、カテリーナとともに花を届ける。

ラキーチン
アレクセイの友人の神学生。僧侶の倅でありながら無神論者。嫉妬深く、どこでも情報源を掴む。不正直な人間であるが、それを自覚していない。グルーシェニカとは親戚にあたるが、それを周囲には隠している。フョードルとドミートリイの財産問題を話し合うための会合に参加し、ゾシマ長老のドミートリイに対する跪拝を目撃し、その行為が自分の死後に人々から褒めそやされるための意味ありげな行為であるという批判をアレクセイに話す。カテリーナに惚れこんでおり、その婚約者ドミートリイが譲ろうとしているイワンに嫉妬している。そのためカラマーゾフのことを詳しく調べており、一家に起きるであろう恐ろしい犯罪を予見する。
ゾシマ長老が死の床につくと、また僧庵に入ることのできないホフラコワ夫人に依頼されて中に入り、そこで起きていることを三十分ごとに手紙で報告する。
以前からアレクセイを連れてきたら二十五ルーブルをあげるとグルーシェニカに言われており、長老の死に傷つくアレクセイを堕落させるためにグルーシェニカの元へ連れて行く。しかしその場で、金目当てでアレクセイを連れてきたことをグルーシェニカに暴露され、恥辱を受けたことに腹を立てる。
財産目当てでホフラコワ夫人に熱を上げるようになるが、汚い格好で彼女の家を訪れ、ペルホーチンと争うようになったために家の出入りを禁じられ、その逆恨みで、ホフラコワ夫人とドミートリイが関係をもっていたという根も葉もない記事を書く。
その後、ミハイル・マカーロウィチの家に出入りし、署長令嬢たちと親しくつき合い、家庭教師を任されるようになる。『故ゾシマ長老の生涯』というパンフレットや、逮捕されたドミートリイの事件を農奴制に対応すべき制度を持たないロシアの無秩序と結びつけた論文を書き、文壇に認められるようになる。
ドミートリイの法廷では自分の論文の内容を得意になって語り続けるが、グルーシェニカのところへアレクセイを連れ行き、その場で二十五ルーブルを受け取ったことをフェチュコーウィチに暴露され、面目を潰す。またグルーシェニカのことをサムソーノフの妾と表現する失態を犯した後、彼女の従兄であることが暴露される。
公判後、自身が展開していた唯物論のため、ドミートリイに面会を断られるようになる。

イッポリート・キリーロウィチ
検事補。三十五、六歳の、体格の悪い、自尊心が強く癇癪持ちでありながら、堅実な知性を備えた気立の良い人間。太った不妊症の女と結婚している。以前はドミートリイと親交があった。ミハイル・マカールイチの家でブリッジをしているときにフョードル死亡を発見したマルファの訪問を受け、現場の検証を行い、モークロエへ向かう。
尋問では、なぜ三千ルーブルを必要としていたのか、フョードルの部屋の出入り口が閉じていたか、などの質問を浴びせ、ドミートリイがフョードルの部屋の出入り口が閉じていたと証言すると、開いていたドアから彼が逃げ出したという証言があることや、金の出どころを頑なに喋らないことを挙げて追い詰める。
ドミートリイの裁判を担当し、論告を行う。始めにカラマーゾフ家の人々の性格描写を行い、ドミートリイのことを時として高潔な理想に燃えることがあるにも関わらず、同時に飲酒や放蕩に身を落とし暴力事件を起こすこともある、善と悪の混合物であると評し、その存在自体が母なるロシアと同じくらい広大なカラマーゾフ的天性なのだと論じ、このような人間が千五百ルーブルをお守り袋に入れて持ち歩けるはずがないと主張する。また、ドミートリイが父親に憎しみを抱いており、動機が十分にあったこと、スメルジャコフが癲癇で、グリゴーリイが寝ていたために犯行を行うための絶好の機会であったことなどから、ドミートリイが正常な知的能力をそなえており、父親への嫉妬のためにスメルジャコフに教わったノックを用いて窓を開けさせ、犯行を犯したのであると結論づける。一方、スメルジャコフに関しては、自分の庇護者であると思っていたイワンが旅立ってしまった不安感から癲癇の発作を起こしたのであり、仮病ということは考えづらく、また金の入っていた封筒が床に落ちていたことや、遺書に自分が犯人であると明言がされていなかったことなどから、犯人であるという可能性を否定する。また犯行を行った後のドミートリイが、三千ルーブルのうちの半分を宿屋のどこかに隠し、半分をお守り袋に入れて身に着けていたという嘘を思いついたのだと推察する。これらの論告は傍聴席の人々を感心させるが、その後のフェチュコーウィチの弁論が熱狂的な指示を受けることとなり、再度反駁を試みるも、誇張された表現だとして裁判長からたしなめられる。
敗色が濃くなる中、ドミートリイに恨みを持つ農民の陪審員たちが情状酌量なしの有罪を宣言し、裁判に勝つ。
その論告の六か月後に結核でこの世を去る。

フェチュコーウィチ
ペテルブルクで活動する弁護士。四十歳前後の痩せた男。被告が無実であると予感させる事件の弁護しかしない。ロシア全土に反響を呼んだドミートリイの裁判の名誉のために弁護士を引き、町にやってくるとすぐに驚くほど事件に精通する。
法廷では、まずドミートリイに不利な証言をするグリゴーリイ、ラキーチン、トリフォン、ムッシャローウィチらの面目を潰し、さらし者にして退廷させる。
また弁護が始まると、フョードルの部屋に落ちていた封筒に本当に三千ルーブルが入っていたということを誰も知らないこと、ドミートリイが千五百ルーブルをお守り袋に入れていたというのが嘘であるという証拠がないこと、スメルジャコフが癲癇の発作の合間に殺人を行った可能性が示唆されたことなどから、ドミートリイは父親の家に忍び込んだものの、グルーシェニカがいないことを確認して逃げ去ったのであり、本当の犯人は金に目がくらんだスメルジャコフであろうと結論付ける。
また、グルーシェニカを奪い取るために、ドミートリイと金銭上の争いを起こし牢に入れようと画策したフョードルを、父親としての資格のない人物と見なし、理性的にこの事件を判断するべきであることを主張する。ドミートリイに対しては愛と慈悲を持って無罪にすることで、彼の野蛮ではあるが高潔な心に真の更生が訪れるであろうと訴え、そのような人間の救済を目的とした判断を下すことが、ロシアの前進へとつながるのだと主張し、場内から熱狂的な拍手を受ける。
しかし、ドミートリイに恨みを持つ百姓の陪審員たちにより、裁判に負ける。

その他の登場人物

マルファ・イグナーチエヴナ
グリゴーリイの意志に従いながら生活する献身的な妻。フョードルの召使い。
グリゴーリイとの間に生まれた六本指の赤ん坊が生後二週間で死に、その赤ん坊を葬ったその日に、家の庭でリザヴェータ・スメルジャーシチャヤが子供を産み落としているのを発見し、その子供スメルジャコフを夫とともに育てることを決意する。
殴り込みに来たドミートリイに突き飛ばされたグリゴーリイの介抱を行って薬酒を作り、さらに癲癇を起こしたふりをして倒れたスメルジャコフを、近所の人を呼んで穴蔵から運び出す。
スメルジャコフの癲癇の悲鳴を聞いて目を覚まし、グリゴーリイが庭で倒れ、部屋の中でフョードルが死んでいるのを発見する。
その後、マリヤ・コンドラーチエヴナの家に駆けつけて助けを求め、グリゴーリイの指図で警察署長ミハイル・マカールイチのところへ駆けつける。

ピョートル・フォミーチ・カルガーノフ
ミウーソフの甥。アレクセイの友人。長身で頑丈な体格の、色白の二十歳くらいの美青年。寡黙でぼんやりしているように見える。大学を受ける準備中をしている。
修道院で行われたフョードルとドミートリイの財産問題の話し合いに、ミウーソフに連れてこられて参加する。
その時にイワンに突き飛ばされたマクシーモフに興味を持ち、行動をともにすることを決め、一度田舎に連れて行き、その後、町に戻る途中で訪れたモークロエの宿屋で、ムッシャローウィチのもとへ逃げてきたグルーシェニカや、そのグルーシェニカを追ってやってきたドミートリイに出会う。ムッシャローウィチとヴルブレフスキーのカード賭博のいかさまを見抜き、この低俗な騒ぎに幻滅する様子を見せる。
その後、尋問されたドミートリイが着ていた服を没収されると、自分の服を寄付する。証人として尋問されると、証言することに嫌悪を示し、この事件について何一つ知らないし、知りたくもないと証言する。そして連行され行くドミートリイを見て、この世は生きるに値するのだろうかと考えながら悲しみに打ちひしがれ、両手で顔を覆って泣き始める。

マクシーモフ
六十歳ほどの気弱な地主。フョードルとドミートリイのゾシマ長老との会合の後、修道院長との食事会に参加し、フョードルと修道院のいさかいを目撃する。その後フョードルに連れて行ってほしいと頼み込むが、イワンに馬車への同乗を拒否され、突き飛ばされる。
その後カルガーノフと行動を共にし、訪れたモークロエの宿屋で、ムッシャローウィチとともに逃げてきたグルーシェニカや、そのグルーシェニカを追ってやってきたドミートリイに出会う。
ドミートリイ逮捕のために、ネリュードフやイッポリートが宿屋に入ってくると、泣きそうになりながらグルーシェニカに寄り添い、取り乱しながら尋問に呼ばれ、ドミートリイの持っていた金を二万ルーブルと証言し、すぐに放免される。
その後カルガーノフに捨てられ、グルーシェニカのそばを離れずそのまま家に居つき、病気で弱りながら、グルーシェニカのよき話し相手となる。
ドミートリイの公判には召喚されたものの、病気のために不参加となる。

アデライーダ・イワーノヴナ・ミウーソフ
フョードルの最初の妻。有名な名門の貴族の娘で、器量が良く利発であったが、気の違いからフョードルと駆け落ち事件を起こし、その直後にフョードルに対して軽蔑以外の感情を持っていないことに気づく。フョードルとの間にドミートリイを産むも、間もなく夫といがみ合うようになり、ドミートリイを置いて、ある貧しい教師とともに逃げ、ペテルブルクで暮らしている間に死去する。

ソフィヤ・イワーノヴナ
フョードルの二度目の妻。イワンとアレクセイの母親。幼い頃に孤児になり、ある名門の老夫人の裕福な家で養育された。十六歳の分別のない頃にフョードルに駆け落ちを持ち掛けられ、それを了承する。フョードルとの間にイワンとアレクセイを産むも、夫が自宅に他の女を呼んで乱痴気騒ぎを繰り返したためにヒステリーを起こし、アレクセイが四歳の時に息を引き取る。

ソフィヤの養母
ソフィヤの死後、一時イワンとアレクセイを引き取る。

エフィム・ペトローヴィチ・ポレノフ
ソフィヤの養母の筆頭相続人。ソフィヤの養母が死ぬと、その養母が養育していたイワンとアレクセイを預かり、それぞれに残されていた千ルーブルを貯金し、二千ルーブルにまで増やし、死去する。

パイーシイ神父
ゾシマ長老を敬愛する病身の神父。有名な学者として知られている。アレクセイが俗界の誘惑に惑わされないようにと、病床に臥すゾシマ長老から託されていた。
修道院長の食事会に参加し、フョードルの修道院批判を受けるも、頑なに沈黙を守る。
ゾシマ長老の死後、遺体を湯で洗い、悲しみに沈むアレクセイを慰める。また長老と対立していたフェラポント神父が現れ、悪霊退散を唱え始めると、その行為を非難する。騒ぎのあともゾシマ長老の庵室で福音書を読み上げる。

イォシフ神父
図書係の司祭修道士。修道院長の食事会に参加し、修道院批判を行ったフョードルに憤慨する。
ゾシマ長老の臨終の言葉を聞き、その死後、福音書の朗読を行う。

ポルフィーリイ
ゾシマ長老の修道院の見習い僧。病床に臥すゾシマ長老を看取る。

セミョーン・イワーノウィチ・カチャーリニコフ
町の治安判事。

中佐
アガーフィヤとカテリーナの父親。官金をある男やもめの老人に利子付きで貸し付けていたが、その返済が滞ったために四千五百ルーブルもの公金がなくなるという事件が起き、辞表をだすこととなる。しかし引継ぎに来た新任の少佐にその官金の引継ぎができなくなり、病気になって部屋にこもる。二時間以内にその官金を提出せよという命令がくだると、自殺を図り、アガーフィヤに止められる。
ドミートリイがカテリーナに渡した五千ルーブル債権の売却により、その官金を支払うが、その後まもなく病床につき、ひと月ほど後に息を引き取る。

アガーフィヤ・イワーノヴナ
中佐の娘。カテリーナの姉。二度も縁談を断った快活な娘。父親の部下であったドミートリイと仲良くなる。父が公金を利子付きで貸し付けていたが、その返済が滞ったために支払い能力がなくなり、辞職せざるをえなくなったことをドミートリイに伝えると、カテリーナを差し出すのであれば四千ルーブルを出してもよいと言われ、激怒して去っていく。
ドミートリイがカテリーナに支払った五千ルーブルによってその窮地を脱するが、間もなく父親が死に、カテリーナとともにモスクワに移り住む。

クジマ・サムソーノフ
商人。百姓の町長。病気で廃人のような生活を送っている。家族持ちの息子二人がいる他、年取った姉と、未婚の娘と共に暮らしている。
孤児であったグルーシェニカを町に連れ帰り、その素行を監視させるために、親戚のモロゾワのところに囲いながら、妾として生活させていた。
自分の死期が近いことを悟ると、ドミートリイではなくフョードルを選ぶように、さらに結婚前にある程度の財産を分けさせるようにとグルーシェニカに忠告を与えていた。
ドミートリイが金を無心しに訪れると、憎悪の気持ちにかられてその申し出を断り、フョードルと森の取引でもめているゴルストキンのところへ行けば金を融通してくれるかもしれないと提案し、敢えてゴルストキンの嫌がる「セッター」というあだ名を教えて送り出し、ドミートリイを貶めようと試みる。
ドミートリイの裁判の一週間後に息を引き取る。死の直前、二人の息子とその妻子に対し、グルーシェニカと縁を切ることを宣言する。

モロゾワ
サムソーノフの親戚の女商人。老齢で、二人の姪とひっそりと暮らしている。パトロンでもあるサムソーノフに気に入られたい一心でグルーシェニカを自宅の離れに住まわしている。

フェーニャ(フェドーシャ・マルコヴナ)
グルーシェニカの小間使い。グルーシェニカがムッシャローウィチの元へ駆けつけると、そのことを知りながら、ドミートリイにその居場所を聞かれてもしらを切りとおす。しかしグルーシェニカがモークロエに旅立ったことを知ったドミートリイが再び訪れてくると、恐れのあまり、グルーシェニカがドミートリイを愛していたことがあったことを忘れないようにと言い残して、ムッシャローウィチのもとへ走ったことを白状する。ドミートリイがモークロエへ向かうために馬車に乗り込むと、グルーシェニカを殺さないでほしいと懇願する。その後ペルホーチンの訪問を受け、ドミートリイが血だらけでグルーシェニカのあとを追っていったことを伝える。
ムッシャローウィチを捨てたグルーシェニカがマクシーモフを連れて家に戻ってくると、再び世話をするようになる。

リザヴェータ・スメルジャーシチャヤ
白痴の小柄な女。母親は早くに他界し、町人の下男であった父親は宿なしで病身で酒に溺れており、その父親からいつも折檻を受けていた。父親が死ぬと、孤児として街中で愛される存在となる。
夏も冬も麻の肌着に裸足で過ごしており、地べたで眠るため、いつでも土や泥に塗れていた。話すことができず、衣服を着せてもらっても教会の入り口あたりで全て脱いでしまい、小銭をもらっても刑務所か教会の募金箱に入れてしまっていた
夜遊びをしていたフョードルから女として扱えると宣言された数か月後にお腹が大きくなり、フョードルが父親ではないかと噂される。
以来、街の皆からより一層の同情を寄せられるようになり、コンドラーチエワという裕福な商家の未亡人に引き取られるが、臨月になるとフョードルの庭に現れ、後にスメルジャコフと名付けられる子供を産み落とす。産後マルファに介抱をされるが、その明け方息を引き取る。

フェラポント神父
長老制度の反対者で、三日に一斤半のパンだけで生活している七十五歳の立派な体格をした修道僧。斎戒と無言の行を固く守っており、その神がかり的な生活で精霊と話をしているという噂が流れ、大勢の修道僧の尊敬を集めている。修道院の僧庵に暮らしながら、ゾシマ長老のことを敵視している。
修道院にはびこる悪魔や精霊の姿を見ることができると断言し、オブドールスクから来た神父を魅了する。
ゾシマ長老の死後、遺体が強烈な腐臭を放ち始めると、僧庵に現れ、悪霊退散を唱えながら十字を切り、悪魔が見えるようになった修道僧に薬を与えたり、甘いものを口にしていたゾシマ長老の行動を思い上がったものとし、そのような行動のために死に恥を晒したのだと評す。パイーシイ神父に追い出されて表階段に出ると、大地に倒れ、泣きながら主の勝利を宣言する。

アリーナ・ペトローヴナ
スネギリョフの妻。四十三、四歳の、足が悪く、頭のおかしくなった狂女。
イリューシャが病気になると、ひっきりなしに愚痴をこぼして考え込むようになり、静かに泣く。
アレクセイによってイリューシャと仲直りした子供たちが見舞いに来るようになると、はじめは嫌っていたものの、そのうちに彼らの快活な声に気がまぎれ、特にスムーロフを気に入る。またコーリャがジューチカを連れてくると、その行いを喜ぶ。
イリューシャが息を引き取ると、夫が彼のためにかけてやった花を欲しがり、棺を少年たちが運び出すとヒステリックに泣き始める。

ワルワーラ・ニコラーエヴナ
スネギリョフの娘。二十歳ほどの、不器量な赤毛の女学生。ペテルブルクで家庭教師をして稼いだ十六ルーブルを家族の生活費に当てなければならなくなり、ペテルブルクの学校に戻れなくなっていた。スネギリョフがカテリーナからの金を受け取ると、ペテルブルクへ講義を聴きに戻る。

ニーナ・ニコラーエヴナ
スネギリョフの娘。イリューシャの姉。二十歳くらいの両足が麻痺した、美しく善良そうな目を持つ女性。
イリューシャが息を引き取ると、悲しみに沈み、両親とともに泣き崩れる。

スムーロフ
裕福な官吏の息子。十一歳。二歳年上のコーリャを崇拝している。コーリャがいがみ合うようになったイリューシャに石を投げつけて虐めていた少年の一人。その後アレクセイの手引きによって病床につくイリューシャと仲直りし、そのイリューシャを訪れることを決意したコーリャとアレクセイを会わせる。

ヘルツェンシトゥーベ
良心的で敬虔な立派な人柄の、七十歳になるドイツ人の医師。貧しい病人や百姓を自ら無料で診察し、町中の人々に尊敬されている。リーズの主治医で、アリーナ・ペトローヴナやニーナ・ニコラーエヴナの診察を行ったことがあり、スメルジャコフの癲癇の発作も診たことがある。
ドミートリイの公判には鑑定のために出廷し、被告の知的能力に異常があると言いながら、少年時代に与えられたくるみのお礼を、青年になってから伝えにきたことを引き合いに出し、彼が感受性の強い心の立派な少年で、不幸な境遇ゆえに自分を見失ったのだと主張する。
ドミートリイの公判後、ワルヴィンスキーとともに意識不明になったイワンの治療に携わる。

マリヤ・コンドラーチエヴナ
マルファのところへいつもスープをもらいにくる隣家のそばかすだらけの若い娘。スメルジャコフに手ごめにされている。
フョードルが死亡していることを発見したマルファに助けを求められ、家に来ていたフォマーとともにグリゴーリイを離れへと運ぶ。
フョードル殺害の事件後、母親とともに新しい掘っ立て小屋のような家に住み、瀕死のスメルジャコフを婚約者という形で住まわせる。
スメルジャコフが首を吊っているのを発見し、これをアレクセイに伝える。

フォマー
放浪癖のある男。フョードルが殺された時にマリヤ・コンドラーチエヴナの家を訪れており、怪我をしたグリゴーリイを離れへと運ぶ。

ミハイル
平民の出で、深い信仰をもつ心のしっかりとした修道士。ゾシマ長老の臨終の言葉を聞く。

アンフィーム
貧しい農民出身の、文盲で寡黙なおどおどとしたところのある修道僧。ゾシマ長老に目をかけられている。四十年前にゾシマ長老の修道僧の苦行の旅に同行し、一緒にロシア全土を回ったことがある。ゾシマ長老の臨終の言葉を聞く。

マルケル
ゾシマ長老の兄。十七歳の時からすぐれた哲学者としてモスクワから追放された政治犯の家に出入りするようになり、神を信じることをやめ、復活祭前の大斎期にも精進しようとしなかった。しかし大斎期の六週間目になると、結核にかかり、まだ元気なうちに聖餐を受けるよう母から説得されたことで、自分の死期が近いことを悟る。その後精進を始め、聖像の燈明を許し、神に向かって祈るようになると、感動を込めて人生を祝福するようになる。そして弟のジノーヴィイ(ゾシマ長老)に素晴らしい言葉の数々を語り、復活祭の三週間後に幸福に浸りながら息を引き取る。

アファナーシイ
ゾシマ長老の士官時代の従卒。ゾシマ長老に血だらけになるほど殴られたことがある。

イリインスキー神父
ゴルストキンを自分の村に泊めていた神父。ドミートリイにゴルストキンのもとへ案内するように頼みこまれ、居場所を教え、ゴルストキンがセッターと呼ばれることを嫌っていることを教える。
その後ドミートリイが金の無心をしにゴルストキンを訪れたことを、従属関係にあったフョードルに伝えようかと思案する。

ゴルストキン
フョードルと森の売買でもめていた商人。セッターというあだ名で呼ばれることをひどく嫌っている。カテリーナに返済するための三千ルーブルを無心する相手を探すドミートリイに一杯食わせるためにサムソーノフが教えた男。
イリインスキー神父の村に滞在し、酔い潰れて寝ている時にドミートリイの訪問を受けるが、その翌日に目を覚ましても支離滅裂なことを話し、金の無心を諦めさせる。

ピョートル・イリイチ・ペルホーチン
ドミートリイと飲み屋で知り合った武器マニアの官吏。美青年。
ピストルを担保に十ルーブルを貸したドミートリイが、血だらけになりながら札束を手に持って来たため、誰かと喧嘩したのだと思い込み、フロックを脱がせ、手や顔を洗わせる。
その後ドミートリイが自分のピストルを使って自殺するのではないかと考え、プロトニコフの店での散財をやめさせ、きちんとした値段を掛け合ってやる。ドミートリイが出発していくと、彼が父親を殺すと公言していたことを聞き、グルーシェニカの借りていたモロゾワの屋敷へ行く。そこでドミートリイが杵を持ってグルーシェニカを追っていき、帰ってきた時には血だらけであったことをフェーニャから聞くと、ホフラコワ夫人の家に行く。ホフラコワ夫人がドミートリイに三千ルーブルを渡していないことを聞くと、彼がフョードルを殺しに行ったのだろうと考え、警察署長ミハイル・マカールイチのところへと向かう。
その後、ホフラコワ夫人の家に頻繁に通い、彼女に恋をするラキーチンとの争いに勝ち、出世の足掛かりをつかむ。

ミーシャ
ペルホーチンの小僧。グリゴーリイを殴り倒したドミートリイが訪れてくると、ペルホーチンの命令でプロトニコフの店に行き、ドミートリイがモークロエに旅立つための酒や食事を用意させる。

チモフェイ
グルーシェニカをモークロエへと送った馭者。

アンドレイ
馭者。モークロエに行こうとするドミートリイの依頼を受けたものの、グルーシェニカを殺さないでほしいとフェーニャが懇願するのを見て、気が咎めながら馬車を用意する。

トリフォン・ボリースイチ
モークロエの宿の亭主。欲深い性格で、以前ドミートリイとグルーシェニカが豪遊した時に金を巻き上げたことがある。ムッシャローウィチのもとへ逃げてきたグルーシェニカを入れ、そのグルーシェニカを追ってやってきたドミートリイに彼女の居場所を教える。
ドミートリイを追ってきた分署長のマヴリーキイ・マヴリーキエウィチがやってくると、ドミートリイのピストルのケースを運び出し、捜査に協力する。
証人として尋問されると、ひと月前のドミートリイの散財が三千ルーブル以下であったことはありえないと証言する。
法廷でも、ひと月前にドミートリイがモークロエで豪遊した時に使った金が三千ルーブルで、千五百ルーブルを取り分けておいたことなど嘘であると断言し、実際にその金を計算して見せる。しかし、ドミートリイが酔っ払って落とした百ルーブルを百姓から届けられ、それを自分のものにしたことがフェチュコーウィチによって明るみに出され、信用を失う。
公判の後、ドミートリイが自分の宿のどこかに千五百ルーブルを隠したというイッポリートの話を信じ込み、自分の宿を壊して捜索を始める。

パン・ムッシャローウィチ
小柄なポーランド人。退職の十二等官で、獣医としてシベリヤに勤務していた。グルーシェニカの以前の恋人。四十近い貫禄のある男。
十六歳の頃のグルーシェニカを捨てて他の女と結婚するが、その妻に先立たれ、再び金目当てでグルーシェニカに近づこうと手紙を書く。ヴルブレフスキーとともにグルーシェニカを迎え、トリフォンの宿屋に入る。
ドミートリイが宿屋を訪れてくると、ヴルブレフスキーとともにいかさまを行い、二百ルーブルを巻き上げるが、その後三千ルーブルで去ってほしいと買収されそうになったことで争いになり、部屋から追い出される。ネリュードフに尋問されると、ドミートリイが自分を買収しようとしたものの、頭金が七百ルーブルしかなかったことを語り、いかさまで設けた二百ルーブルに関してはほとんど言及されないまま放免される。
その後、ドミートリイから巻き上げた二百ルーブルを使い果たし、グルーシェニカに借金を申し込み、金を借りながら生活し、病気になる。
法廷では、ヴルブレフスキーとともにドミートリイに不利な証言を行おうとするが、カードでいかさまを行おうとしていたことをフェチュコーウィチに指摘され、傍聴席からの失笑を買う。

パン・ヴルブレフスキー
若く小生意気な態度の長身のポーランド人。開業の歯医者。ムッシャローウィチとともに、グルーシェニカを迎え、モークロエの宿屋に入る。
ドミートリイが宿屋を訪れてくると、ムッシャローウィチとともにいかさまを行い、二百ルーブルを巻き上げるが、争いになって部屋から追い出される。ネリュードフに尋問されるが、いかさまで設けた二百ルーブルに関してはほとんど言及されないまま放免される。
その後、ドミートリイから巻き上げた二百ルーブルを使い果たし、グルーシェニカに借金を申し込み、金を借りながら生活する。
法廷では、ムッシャローウィチとともにドミートリイに不利な証言を行おうとするが、カードでいかさまを行おうとしていたことをフェチュコーウィチに指摘される。

マリヤ、ステパニーダ
ドミートリイがモークロエで呼んだ百姓の女たち

ミハイル・マカールイチ・マカーロフ
郡の警察署長。長身の太った老人。七等文官に転じた男やもめの退役中佐。この町に来て三年しかならないものの、社交界での地位を確立している。すでに未亡人となっている娘と、気立も器量も良い二人の孫がいる。
イッポリート・キリーロウィチと、ワルヴィンスキーとブリッジをしているところに、フョードル死亡を発見したマルファの訪問を受け、現場の検証を行う。
その後モークロエの宿屋で、尋問されるドミートリイのところへ飛び出したグルーシェニカを落ち着かせ、尋問部屋へと案内する。その際にグルーシェニカを怒鳴りつけたことを気にしていて、刑務所では好意的に振る舞う。ドミートリイが犯人であることを疑わなかったが、彼が善良な心の持ち主であることに気づき、憐憫の情を覚える。
その後ラキーチンの訪問を毎日のように受け、家庭教師を任せるようになる。

マヴリーキイ・マヴリーキチ・シメルツォフ
分署長。町に俸給を取りに来た時にフョードル殺害の報を受け、ドミートリイを探すためにモークロエに派遣される。古い知人のトリフォンにだけ仕事の秘密をある程度打ち明け、ドミートリイのいる宿屋で監視を行う。
尋問後、連行されるドミートリイを、もう一台の荷馬車で護衛する。

ニコライ・パルフェーノウィチ・ネリュードフ
二ヶ月前にペテルブルクからやってきた小柄で若い予審調査官。マカーロフの孫娘のオリガに惹かれている。立派な家柄の悪戯好きの無邪気な青年であるが、職務の遂行の際はものものしい態度を見せる。
イッポリートの心理分析や非凡な弁舌を尊敬している。ミハイル・マカールイチの家を訪れている時に、フョードル死亡を発見したマルファの訪問を受け、現場の検証を行う。
その後、モークロエに行ったドミートリイのところへ向かい、父親殺しの容疑者であることを言い渡す。
ドミートリイの尋問を行い、フョードルがグルーシェニカのために用意していた三千ルーブルが、遺産の未払いとして自分の金だと認識していたという動機があったことなどを聞き出す。
しかし、ドミートリイが大金の出どころを話そうとせず、ようやくその証言を聞き出しても、証拠が不十分であったことから、彼を刑務所に拘置するという起訴状を読み上げ、刑務所へと連行する。

ワルヴィンスキー
郡会医。ペテルブルク医科大学を優等で卒業し、この町に赴任してきたばかりの青年。
ミハイル・マカールイチの家でブリッジをしているときにフョードル死亡の報告を受け、現場の検証を行う。スメルジャコフの癲癇の発作のふりを見抜けず、生命の危険があると断定する。
公判では、ヘルツェンシトゥーベやモスクワの医者の意見に反し、ドミートリイの精神は事件の時も現在ももまったく正常であると主張する。
ドミートリイの公判後、意識不明になったイワンの治療に携わり、また判決後に熱病に罹ったドミートリイのことも診察する。

モスクワの医者
カテリーナがドミートリイの事件の時の心神喪失を証明するために呼んだ医者。
来訪して数日で町の患者を何人も診察し、ヘルツェンシトゥーベの診察を批判する。またイリューシャの死期が近いことをスネギリョフに伝える。
公判では、ドミートリイの精神状態を、極度な異常状態にあると主張し、犯行当時心神喪失状態にあったために、もし犯行に及んだのが彼だったとしても、ほとんど我知らずにやってしまっただろうと断言する。

クラソートキナ夫人(アンナ・フョードロヴナ)
官吏の未亡人。十四年前の十八歳の頃に夫を亡くし、依頼コーリャを女手一つで育てている。三十歳そこそこで、器量もよく、明るく正直な性格。コーリャが中学校に入ると、しっかりとした教育を授け、彼がからかわれないよう、教師やその妻と親交を結ぶ。コーリャの言いなりのようになりながらも、彼が愛してくれないのではないかという思いに耐えられず、冷淡さを責めるようなこともある。
コーリャが列車を頭上に通したことを聞き、ヒステリーの発作を起こす。

ダルダネーロフ
コーリャの中学校の教師。中年の独身者で、何年もクラソートキナ夫人に想いを寄せており、プロポーズをしかけたこともある。その息子のコーリャのことも愛しており、彼が線路に横たわって列車が頭上を通る間に寝ているという事件を起こすと、それをもみ消してやる。
以来コーリャが無口で謙虚な少年になったことでクラソートキナ夫人が不安の表情を表すようになると、再び期待を抱くようになる。

ドクトル夫人
クラソートキナ未亡人の、土間を隔てて独立した貸し家の住人。行方知れずになった医者の妻で、二人の子供を抱える。カテリーナがお産をすることになり、彼女を施設に預けるため、二人の子供をコーリャに預け、クラソートキナ夫人ともに家を出る。

コースチャ
ドクトル夫人の幼い息子。コーリャのことを崇拝している。

ナースチャ
ドクトル夫人の八歳になる娘。コーリャのことを崇拝している。

カテリーナ
ドクトル夫人の召使い。ある夜中、朝までに子供が生まれることをドクトル夫人に宣言する。

アガーフィヤ
クラソートキナ夫人の女中の中年女。

コルバスニコフ
最近結婚した古典語の教師。

カルタショフ
十一歳くらいの内気な少年。以前、コーリャの持っている本を盗み見て、トロイの創始者が誰であるかを知ったことがあり、皆の前でその知識を披露するが、何のためにその人たちがどのように創ったのか、また都市を創るとはどのようなことなのかとコーリャに問い詰められて答えられず、皆の笑いものになる。
犯人がスメルジャコフであるという公判の真実を聞き、真実のために無実の犠牲となって滅びるドミートリイに尊敬の念を抱くコーリャに同意する。