レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』の詳しいあらすじ

目次

第二編

冬の終わり、キティは結核に似た病気になり、外国へ療養へ行くことが決まりました。
ドリーは女の子を一人産みました。相変わらず子育てに追われ、夫との仲はそれほど改善したわけでもなく、一番の親友であるキティが旅立ってしまうことは、ドリーにとっては痛手でした。
ドリーは、心を開こうとしないキティに、リョーヴィンから結婚の申し込みをされたのかと聞きました。キティは涙を流し、他の人々が誰かの嫁に行くものとして自分を品評しているようにしか見えなくなっていると言いました。キティが今ではリョーヴィンを愛し、ヴロンスキーを憎んでいるのを、ドリーははっきりと理解しました。

 アンナは、リディア伯爵夫人のいる敬虔で精神的なグループを避け、従兄の妻であるベッツィ・トヴェルスコイ公爵夫人のいる華やかな社交界への出入りをするようになりました。ヴロンスキーとは頻繁に会うようになり、その度にわくわくするような喜びを覚えました。
 社交界では、ヴロンスキーがアンナのあとをつけまわし、アンナもまたモスクワから戻ってから変わったことが噂されました。
 ヴロンスキーに惹かれていることを自覚するようになったアンナでしたが、もし自分のことを本当に愛しているのであれば、自分を追うのはやめて安らぎを与えてほしいとヴロンスキーに頼みました。しかしヴロンスキーは、アンナが自分の生活の全てであり、安らぎなどは与えることはできないと言いました。アンナがどれだけ理性的になろうとしても、眼差しは愛情に満ちているのをヴロンスキーは見破りました。
 アンナとヴロンスキーの噂が社交界に広まるにつれ、カレーニンは、二人が近づき始めていることに徐々に気づきました。これまで官界の仕事のことばかり考えていたカレーニンは、妻がどのような思いを抱いているかという精神的な問題を考えたことがありませんでした。そのため、このような疑惑に対してどのようにすればいいのかわからず、考え尽くしました。彼は自分ではヴロンスキーの行動を不躾だと思っていたわけではありませんでしたが、仕事の邪魔になる無意味な心配事が増えるのを防ぐために、不注意によって世間から軽口を叩かれていると妻に注意を与えました。しかし、夫に愛などというものが理解できるわけないと思ったアンナは、相手にしませんでした。それ以来、アンナは社交界に相変わらず出入りして、ヴロンスキーに会いましたが、カレーニンはそれに対してどうすることもできませんでした。
 アンナはとうとう過ちを犯しました。彼女は自分を罪深いものだと思い、羞恥と恐怖と同時に喜びも感じ、複雑な感情にとらわれました。

 リョーヴィンはモスクワを出て三ヶ月経っても、気持ちを落ち着けることができませんでした。彼はキティが結婚したというニュースが自分を癒してくれると考え、それを待ち焦がれました。
 健康が悪化した兄ニコライが、治療する気がないという手紙がマーシャから届きました。リョーヴィンは、ニコライを訪れ、医師の診察を受けた上で外国の温泉へ行くように説き伏せました。
 リョーヴィンは、農村経営に関する著述を始め、労働者の性質もその気候や土壌と同じように絶対的飼料であるという意見を展開しました。彼は土地の支配人の扱いに苦心し、自分で小作人を指導しながら、孤独で充実した生活を送りました。

 オブロンスキーが自分の森を売るついでに、狩をするために訪れてきました。リョーヴィンは久々の来客に喜びました。
 二人はキティのことを長らく話題に出しませんでしたが、堪え切れなくなったリョーヴィンが、彼女は結婚したのか聞きました。オブロンスキーは、キティが結婚せず体を悪くして外国へ転地したことを伝えました。リョーヴィンはキティを気の毒に思うと同時に、自分と同じ苦しみを彼女が味わっていることに心地よさを感じました。
 リョーヴィンは、オブロンスキーが騙されて、自分の森を安値で売られようとしていることに気づきました。買い手がこれよりも値段を下げてこないよう牽制してやったリョーヴィンは、貴族が世間を知らないために貧困化していることを憂いました。
 ヴロンスキーの母親は、息子とアンナとの恋を、息子の未来に磨きをかけるものとして、初めのうちは喜んでいました。しかしヴロンスキーがアンナに会える今の連隊にとどまるために、軍隊内の昇進を断ったと聞き、それまでの意見を改め、ヴロンスキーの兄を通してモスクワに帰ってくるように言いました。母や兄が自分の恋の問題に干渉しようとしてくることに、ヴロンスキーは敵意を覚えました。
 ヴロンスキーは馬に熱中し、競馬の騎手も務めていました。彼は障害物競馬に出場する登録をすませ、血統のいいイギリス種の雌馬を買いました。
競馬の当日、ヴロンスキーは、親友のヤーシュヴィンに会いました。ヴロンスキーはアンナとのことをあまり人には話しませんでしたが、あらゆる愛情を軽蔑しているにもかかわらず、自分の情熱をただ一人理解してくれそうなヤーシュヴィンにだけは、自分の恋を語ってもいいと思っていました。まだその恋を語ったわけではありませんでしたが、ヤーシュヴィンはすべてを理解している様子でした。

 その頃アンナは、夏になると訪れる別荘に、例年通りセリョージャとともに滞在していました。
 ヴロンスキーはたびたびその別荘を訪れました。近頃は二人とも、セリョージャを恋の障害だと思うようになっていました。セリョージャは、自分の母親とヴロンスキーのあいだに重大な関係があるのをかぎつけているようでした。
 競馬の出場前に、ヴロンスキーがその別荘に着くと、セリョージャは散歩に出ていませんでした。アンナは何故か戸惑っている様子でした。ヴロンスキーがその理由を聞くと、アンナは妊娠したことを告げました。ヴロンスキーは、奇妙な嫌悪の念にとらわれましたが、一刻も早くこの不自然な状態を打破しないとならないと感じ、カレーニンを捨てるようにアンナに決心を促しました。アンナはセリョージャのことが頭に残り、決心をしかねました。

 カレーニンは自分の感情に蓋をして、無意識に忙しく働いていましたが、心の奥底では妻の不貞を承知しており、そのために不幸でした。競馬の当日もカレーニンは忙しく働いていました。心配したリディア伯爵夫人が送った医者の診察を受けると、カレーニンの健康状態は思わしくありませんでした。カレーニンは、陛下が顕官を従えてくるはずの競馬場へと行かなければなりませんでした。一緒に競馬に行くアンナを迎えに行こうと、カレーニンは別荘を訪れました。アンナは虚偽と欺瞞の心で、夫を温かく迎えましたが、内心は夫に対する嫌悪の心に満たされました。
 アンナが自分との話に応じてくれなかったことに不満を覚えていたカレーニンは、自分の家族に対する感情を封印し、息子にも冷淡な態度をとるようになりました。そのためセリョージャは以前よりもよそよそしくカレーニンに接するようになりました。結局、カレーニンとアンナは別々に競馬場へ向かいました。

 ヴロンスキーのレースが始まると、アンナは脇目も振らずにそちらを見続けました。ヴロンスキーは先頭に立ち、勝利を確信しましたが、その瞬間、自分でもなぜか分からない下手な動きをして馬の背骨を折り、落馬しました。その様子を見たアンナは混乱して立ち上がり、どこかへ行こうとしました。カレーニンがそばにより、手を差し出しましたが、アンナは嫌悪の情を示し、顔も見ずに、ほっといてくれと叫びました。
 アンナは激しく胸を震わせて泣き出しそうになりました。ヴロンスキーの様子を伝えるとベッツィが囁いたことで、アンナはようやく落ち着きを取り戻し、夫と腕を組んで馬車に乗り込みました。
 カレーニンは、妻の取り乱したことを注意しました。夫の話をほとんど聞かず、ヴロンスキーが無事なのかということだけを考えていたアンナは、自分がヴロンスキーの情婦であることを打ち明け、激しく泣き崩れました。
 馬車を降りると、カレーニンは、自分の名誉を守る方法を講ずるまで、外面的な体面を保って欲しいと妻に言い、帰っていきました。
 アンナは、ベッツィからヴロンスキーが無事であることを知らされ、夫に全てを打ち明けたことで、そちらの問題が片付いたと思いました。

 キティと母親のシチェルバツキー公爵夫人は、ドイツの温泉場に落ち着き、新しい交際を始めました。間も無くキティは退屈を感じましたが、マドモワゼル・ワーレンカと呼ばれているロシアの娘に興味を抱きました。ワーレンカは、マダム・シュタールと呼ばれる病身のロシアの貴婦人の面倒を見るために、この温泉場を訪れていました。
 温泉場にはリョーヴィンの兄のニコライと、マーシャも訪れていました。キティはそれがリョーヴィンの兄だと知り、彼らからは遠ざかるように過ごしました。
 キティはワーレンカの飾り気がなくて優しい雰囲気と、温泉場にいる人々を助けて生活する様子に惹かれ、母親に頼んで、ワーレンカと近づく許しを得ました。キティの母親の公爵夫人は、ワーレンカに話しかけ、二人を近づけてやりました。

 マダム・シュタールは、夫と別れた後で初めての子供を産みましたが、その赤ん坊はすぐに死んでしまいました。いつも病身で、すぐ感激する性質であったため、この知らせが夫人の生命に関わると思った周りの人々は、宮廷のコックの娘であったワーレンカをもらい、死んだ子供の代わりにしました。その後ワーレンカが実の子ではないと知ったマダム・シュタールでしたが、引き続き彼女を養育しました。マダム・シュタールは、長いこと外国で家に閉じこもり、ワーレンカはつねに彼女に付き従いました。
 キティはますますワーレンカに魅せられました。ワーレンカは過去に愛し合った男がいましたが、その相手は母親に結婚を反対され、ほかの娘と結婚してしまったといいます。
 キティは、その男に対して腹をたてることはないのかとワーレンカに聞きました。ワーレンカはその男が愛してくれたと信じているので、腹をたてることはないと答えました。
 キティはもし相手が自分勝手な男だったらどうかと聞きました。ワーレンカはそれがキティ自身の話なのだと悟り、そのような自分勝手な相手に未練を感じることはないと答え、自分が受けた侮辱と羞恥を忘れることができないで苦しんでいるのキティに、そのようなことは重大ではないと答えました。キティはシュタール夫人とも知り合いになりました。シュタール夫人は敬虔なキリスト教の信者で、キティは彼女と話をすることで、自分にも新しい世界が開けたことを知りました。自分のことを忘れて、他人を愛しむことで、人は幸せで美しくなることを悟ったキティは、シュタール夫人にもらったフランス語の聖書を読み、社交界を避け、病める人々、とくに画家ペトロフとその妻アンナ・パーヴロヴナの貧しい一家と親しくなりました。母親の公爵夫人は、キティのそのような行いに反対はしませんでしたが、キティのそのような行動が行き過ぎになると、注意を与えるようになりました。
 そのうちに、アンナ・パーヴロヴナが自分になにか不満を抱いているようにキティは感じました。それはおそらく肺病のペトロフが、自分を訪れてくるキティに対して感動を示すことが原因のようでした。そしてこのことは、自分が入り込もうとしていた新しい世界への魅力をキティから奪いました。

 湯治の日程が終わる頃になり、父親のシチェルバツキー公爵が訪れてきました。父は、昔からシュタール夫人を知っており、彼女の敬虔主義的(ピエチスト)なところを昔から冷笑していました。父親が自分の新生活を面白おかしい目で眺めているのを感じ、キティは不快な気分になり、夫人を崇拝する心持ちがすっかりなくなってしまいました。
 ワーレンカが温泉場から去っていくペトロフの家へ手伝いに行くと聞き、キティは付いて行こうとしましたが、ワーレンカはそれを断りました。その理由を尋ねると、キティが来始めたことにより、ペトロフが予定の日になってもこの温泉場を離れたがらなくなり、夫婦喧嘩が持ち上がったようでした。それを聞いたキティは、自分の行いが偽善であったがために、夫婦喧嘩の元になったのだと思い、激情の発作に襲われました。
 彼女は、自分がワーレンカのようになりたいと思って行ったことは、全て自己欺瞞から来ているものだったのだと悟り、偽善や虚栄心からしか善行を行うことができない自分に気づきました。彼女はワーレンカとは和解しましたが、一刻も早くこの温泉場を離れたくなり、ドリーのいるエルグショーヴォ村に帰ることにしました。その頃にはすっかり病気も良くなり、モスクワでのヴロンスキーとのできごとも思い出になってしまいました。