レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』の詳しいあらすじ

目次

第四編

 カレーニンとアンナは同じ家の中で他人のように暮らしました。アンナはヴロンスキーと会い続け、カレーニンはそれを承知していました。三人とも苦しんでいましたが、その苦しみが一時的なものとして過ぎ去っていくことを期待していました。
 ヴロンスキーは大佐に昇進し、連隊を出て一人暮らしをしていました。彼はある外国の王子の接待役を命じられました。ロシアのあらゆる歓楽を経験したがる王子の姿勢を、昔の自分のように感じたヴロンスキーは、付き添いを苦痛に感じました。
 アンナは、ヴロンスキーが王子の付き添いとして享受した歓楽に激しく嫉妬しました。ヴロンスキーは、しばしばアンナを襲うようになった嫉妬の発作に戦慄を覚え、自分の愛が冷めていくのを感じていました。苦しみぬいたアンナは、死を意識するようになり、何の根拠もなく自分は死ぬことになるだろうと言い始めました。
 カレーニンは、ヴロンスキーを家に呼ばないという条件を破った妻への怒りを感じ、離婚して息子を取り上げるという威嚇を実行に移そうと考え、アンナの非を責めました。アンナも反抗し、モスクワへ引っ越して離婚の手続きをとると宣言しましたが、カレーニンがセリョージャを連れて行くと言い始めると、それだけはやめてほしいと懇願しました。
 カレーニンは弁護士を訪れ、息子をアンナに渡さずに離婚の手続きをとる方法を相談し始めました。
 カレーニンが演説を行って組織された異民族統治問題についての委員会により、目覚ましい早さで現地へ調査団が派遣され、異民族の生活状態は研究されました。これはカレーニンの業績となりました。しかし、政敵の人びとが、これらの本思想を歪めるほどに熱心に政策を実行するという術策を弄し、その結果、混乱がもたらされました。カレーニンは方々から攻撃を受けて立場が不安定になり、自分から現地へと実地検分を行うことを決心しました。
 遠方の県に向かう途中、カレーニンはモスクワに寄り、偶然オブロンスキーに会いました。オブロンスキーは翌日の晩餐にカレーニンを招待しました。カレーニンは、妻の兄であるオブロンスキーとの付き合いを辞めざるを得ないと思っていましたが、オブロンスキーの善意に満ちた懇願により、晩餐へと向かうことにしました。
 その晩餐には、ドイツ、プロシア、フランス、イギリスを回ってきたリョーヴィンも招待されていました。リョーヴィンは海外生活で死についてより深く考え、人間の営みは、死について考えることをしないためのちっぽけな行いに過ぎないという境地に達していました。
 晩餐でリョーヴィンは、キティに再会しました。二人はお互いの姿を認め、幸福になりました。
 アンナの潔白を信じていたドリーは、カレーニンに本当のことを尋ねました。カレーニンは、妻が自分を裏切ったことを伝えました。ドリーは、自分がオブロンスキーに裏切られた時に、アンナによって救われたことを語り、離婚は踏みとどまるように説得しましたが、カレーニンはそれを聞き入れられませんでした。
 キティとリョーヴィンは、皆の話に全く興味を持たず、二人きりで幸福に過ごしました。リョーヴィンは、以前自分の結婚の申し込みを断ったのは、永遠にと言う意味なのか、一時的にという意味だったのかを聞きました。キティが一時的なことだったと言うと、リョーヴィンはキティに結婚を再び申込みました。キティもまたリョーヴィンのことを愛しており、二人は婚約することとなりました。
 リョーヴィンは幸せに満ち溢れ、コズヌイシェフの出席する会議へと出席すると、ホテルへと帰っても眠れずに、朝を迎えると街を歩き、かつてないほど生き生きとした自分を感じました。十二時になると、彼はシチェルバツキー家へと馬車を走らせました。この結婚を知った両親は大賛成で、一家は幸福に包まれました。
 リョーヴィンとキティは、結婚が近づくにつれ、幸福の度合いを増していきました。リョーヴィンは自分がもう純潔ではないことと、信仰をもたないことを告白しました。キティは傷つきながらも、それを許しました。リョーヴィンは以前にも増して、妻の高潔さに自分が値しないものと評価するようになり、それにより一層幸福を感じるようになりました。

 カレーニンはホテルの一室へ帰ると、死にかけているので帰ってきてほしいというアンナからの電報を受け取りました。カレーニンはそれが嘘ではないかと思いましたが、もしそれが真実だったときに行かなければ、世間から後ろ指を刺されると考え、ペテルブルクに帰りました。妻の死が自分の今の面倒ごとを取り除いてくれるという考えを、カレーニンは払う事ができませんでした。
 自宅へ戻ると、妻は女の子を産み、瀕死の状態でした。ヴロンスキーが訪ねてきており、ここにいることを許してほしいと懇願しました。アンナは人事不省になり、自分がもうすぐ死ぬであろうこと、ヴロンスキーを好きになったのは、自分の中にいるもう一人の女であること、死ぬ前にカレーニンの許しが欲しいことを興奮した様子で伝えました。それを聞いたカレーニンは、急にアンナに対する愛を感じ、彼女を許すことで幸福感に浸りました。彼は崇高な気持ちになり、涙を流しながらヴロンスキーのことも許し、妻と一緒にいることが自分の義務であると考えました。
 ヴロンスキーは、みじめな存在だと思っていたカレーニンが、急に自分よりも崇高な存在になったので、屈辱を感じました。彼はその屈辱感からピストル自殺を図りました。しかし、弾は急所を外れ、ヴロンスキーはその場に倒れ込みました。

 アンナは生死の境をさまよいました。カレーニンは妻に対する同情の気持ちから、セリョージャのことも可愛がり、さらにはアンナとヴロンスキーの赤ん坊すら気にかけるようになりました。しかし、意識を取り戻したアンナが自分を恐れている様子に見え、社交界の皆が自分を嘲笑しているのを感じた彼は、世間が自分をこの安らかな幸福の中に留めておかないことに気づきました。

 撃った弾は心臓はそれていましたが、ヴロンスキーも数日間生死の境をさまよいました。目を覚ましたとき、ヴロンスキーは、悔い改めたアンナとカレーニンの間に決して入らないことを決意しましたが、アンナへの愛惜の気持ちを拭い去ることができませんでした。
 セルプホフスコイがタシケントへの赴任を勧めてくれたので、ヴロンスキーはすぐにその申し出を受けました。最後に一度だけアンナに会いたいと思い、ベッツィにその願いを取り次いでもらいましたが、その申し入れはアンナによって拒絶されました。

 オブロンスキーはアンナとカレーニンを訪れ、双方に離婚を勧めました。カレーニンはアンナがヴロンスキーとの関係を解消してくれることを望んでいましたが、世間はそれを望んでいないように感じました。宗教の掟によれば、夫が生きている間は結婚することはできないので、離婚をすればヴロンスキーとともに非合法の罪深い関係に陥るアンナは破滅し、子供に会うこともできなくなります。しかし、カレーニンはオブロンスキーの助言に従って、離婚の許しを与えることを決意しました。
 しかしその翌朝、カレーニンが離婚に同意したという報せを受け取ると、ヴロンスキーはカレーニンの家に車を飛ばしました。再会した二人は、お互いが強い愛で結ばれていることを再び確信しました。ヴロンスキーはタシケント行きを断ると、すぐに退官しました。アンナはカレーニンの寛大さにすがることを嫌がったため、離婚に応じることはありませんでしたが、夫と子供を置いて、外国への旅へ出かけました。