レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』の詳しいあらすじ

レフ・トルストイ作『アンナ・カレーニナ』の章ごとの詳しいあらすじを紹介するページです。

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アンナ・カレーニナ (吹替版)

目次

第一編

 ステバン・アルカージッチ・オブロンスキーは、かつての家庭教師であったフランス人と関係したことを妻のドリーに知られました。ドリーは部屋を飛び出したまま夫の顔を見ようとはしませんでした。

 オブロンスキーは、妹アンナの夫で、某省の幹部であるアレクセイ・カレーニンの世話で、三年前から役所の長官という地位を占めていました。もともとモスクワとペテルブルクの有力者に顔が効いたオブロンスキーは、善良で快活な態度に誠実さと寛大さを持ち併せ、更に美しい風貌をしていたので、関わる全ての人から愛情と尊敬を受けていました。
 三十四歳になった彼は、もはや一つ若いだけの妻に魅力を感じることができず、フランス人の家庭教師と関係を持った後も、罪の意識を持つことはできませんでした。
 妹のアンナが訪れてくるという知らせを受けたオブロンスキーは、アンナによって夫婦の和解がもたらされることを期待しました。

 ドリーは、夫に復讐しなければならないと考えていましたが、いまだに夫のことを愛しており、里では五人の子供の面倒を見ることもできないので、出ていくことは不可能だと感じていました。

 オブロンスキーの部屋をコンスタンチン・リョーヴィンが訪ねました。リョーヴィンは田舎に土地を持つオブロンスキーの友人で、今朝モスクワに到着したばかりでした。都会と田舎で対照的な生活を送る二人は、お互いの仕事を認めながらも軽蔑していました。
 リョーヴィンは、オブロンスキーの義妹のキティに恋をしており、結婚の申し込みをオブロンスキーに相談しに来たのでした。リョーヴィンの恋心を察知していたオブロンスキーは、キティがスケートをしている動物園へ行くように勧め、その後で一緒に晩餐を取ることを約束しました。

 リョーヴィン家と、ドリーとキティの家柄であるシチェルバツキー家はともにモスクワの古い貴族で、親密な関係にありました。リョーヴィンは、故人であるキティの兄と一緒に大学に入学しました。そのうちにリョーヴィンは、社交界で毎日のように顔を合わせるキティに恋をしましたが、この恋を成就させるのは不可能だと考えて、田舎に帰ってしまったのでした。ところが二ヶ月が過ぎても、その恋心が冷めるどころか、キティを妻にできるかどうかという問題を解決しない限り生きてはいけないと思うようになり、モスクワへ戻ることを決心したのでした。
 その日の朝モスクワに着くと、リョーヴィンは、まず異父兄のコズヌイシェフのところへ行き、兄弟と喧嘩別れをしている実兄のニコライが来ていることを知りました。
 それからオブロンスキーにキティの居場所を聞いたリョーヴィンは、動物園のスケート場へ行き、キティと再会しました。危なげな滑り方と、自分に向けた微笑みにより、彼はキティに改めて魅惑されました。
 リョーヴィンは、キティに結婚を申し込むことについてどう思うかとオブロンスキーに尋ねました。オブロンスキーは、彼らが結婚することに依存はありませんでしたが、ヴロンスキーという人物が、リョーヴィンのライバルになり得ると言いました。ヴロンスキーは、伯爵の一人息子で、金持ちで美男子で侍従武官、ペテルブルク社交界の貴公子連の中でも選り抜きの青年でした。リョーヴィンがモスクワを発ってすぐ、ヴロンスキーが現れ、キティに恋をしている様子を見せたようです。その話を聞いたリョーヴィンは、オブロンスキーに相談を始めたことを後悔し始めました。

 シチェルバツキー公爵家の令嬢キティは十八歳でした。その冬初めて社交界に出て大成功を収め、モスクワの舞踏会にいる青年たちのほとんどを虜にしました。キティの父親のシチェルバツキー公爵はリョーヴィンとキティの結婚に賛成で、これ以上の良縁はないと思っていましたが、その妻の公爵夫人は、リョーヴィンの過激なものの見方や、家畜や百姓相手の田舎での生活を嫌っていました。それに対してヴロンスキーは、金持ちで家柄もよく、侍従武官としての出世街道を歩んでいたため、公爵夫人のお気に入りでした。
 夫人はキティがヴロンスキーに夢中になっていることを知っていましたが、リョーヴィンが再び現れたため、余計な心配ごとがまた増えたのでした。

 その日の夜会は、リョーヴィンとヴロンスキーが現れることになっていたので、キティは自分の運命が決まるのが今日であるかのように思い、心臓の高鳴りを覚えました。リョーヴィンと亡き兄の友情のことを思い出すと満ち足りた気分になり、キティはリョーヴィンからの愛を嬉しく感じました。しかしリョーヴィンとの将来は、ぼんやりとしか考えられませんでした。一方、ヴロンスキーとの将来は輝かしい幸福がはっきりと見えましたが、彼からの愛は、何か真実でないものがあるようにも感じられました。
 リョーヴィンはキティのもとを訪れ、結婚の申し込みをしました。キティは幸福で満ち溢れましたが、すぐにヴロンスキーのことを思い出し、その求婚を断りました。ヴロンスキーが入ってくると、来週催される盛大な舞踏会のことを話し始め、キティを誘いました。それに答えたキティの幸福そうな笑顔をリョーヴィンは見て、席を立ちました。

 ヴロンスキーの母親は、結婚後も未亡人になってからも社交界の花型で数々のロマンスを作った人物で、ヴロンスキー自身は家庭生活というものを味わったことがありませんでした。彼はモスクワへ来てキティに出会い、初めて愛される喜びを知り、その清らかな愛が自分を善良にしてくれるように感じてはいましたが、結婚という想像をすることはまだできていませんでした。しかもキティを惑わせておいて、結婚を考えていないということに罪の意識を持つことすらなかったので、快い感覚だけを抱いて家に帰るのでした。

 翌日ヴロンスキーが鉄道の停車場に母親を迎えに行くと、妹のアンナを迎えに来ているオブロンスキーに会いました。
 オブロンスキーは、昨日リョーヴィンがキティに結婚の申し込みをして断られたのであろうということをヴロンスキーに話しました。ヴロンスキーはその話を聞き、自分が勝利者であると確信しました。
 列車で到着した母親に会いに車に入ろうとすると、ヴロンスキーはある貴婦人とすれ違いました。ヴロンスキーはその相手の愛らしい表情の中に優しい感情を見出し、その貴婦人を振り返ってみました。そしてその女性がオブロンスキーの妹のアンナ・カレーニナであると気づいたヴロンスキーは、挨拶をしに行きました。八歳になる息子と初めて離れてやってきたアンナは、ヴロンスキーの母と列車の中で出会い、話をしながらモスクワへやってきたようです。
 一向が駅を出ようとすると、線路番がバックしてきた列車に気づかずに轢かれたということを知りました。アンナは不吉な兆候だと言ってそれを恐れました。ヴロンスキーはその遺体に取りすがる妻のところへ行き、金を恵んでやりました。

 オブロンスキーは、自分が浮気したことをアンナに話し、妻のドリーとの仲を取り持って欲しいと相談しました。
 アンナはオブロンスキーの家に着くと、心からの愛情と同情をもってドリーに接し、オブロンスキーのような男は、どれだけ他の女に眼を向けることがあっても、自分の妻をどこまでも神聖なものとして考えているものだと慰めました。アンナに慰められたドリーは気が軽くなり、夫婦には和解が成立しました。キティとアンナは一目会っただけでお互いを気に入り、二人は次の舞踏会について話しました。時たま沈みがちになるアンナの瞳をキティは認め、自分にはおよびもつかない詩的で崇高な世界があるように感じました。
 アンナはヴロンスキーとの結婚が決まりそうなキティに祝福の言葉を述べました。

 夜十時くらいになって、ヴロンスキーが訪れてきました。アンナは奇妙な不安を覚えました。ヴロンスキーは翌日の晩餐会のことでオブロンスキーと話をしに少し寄っただけで、家には入らずに去って行きました。

 キティは母親と一緒に舞踏会に行き、ヴロンスキーの姿を認めました。ヴロンスキーはアンナのそばに行き、会釈をしましたが、アンナはそれに気づかないふりをしました。ヴロンスキーはキティを踊りに誘わず、アンナに話しかけました。二人の会話は取り止めのないものでしたが、アンナは感情を表に出すまいと努めながらも、嬉しそうに微笑み、ヴロンスキーにはアンナにひれ伏すような服従と畏怖の色が、キティの目には見て取れました。
 キティは他の男と踊りながらも、二人の様子を観察し、自分の不幸が確定的になったことを悟りました。

 キティに結婚を断られたリョーヴィンは、自分がなんの役にも立たない人間だと思いながら、実兄のニコライのもとへ向かいました。
 ニコライは、大学を卒業して一年間は、女を遠ざけ、宗教の中に自分の情熱的な性格の助けを求めて生き、周囲から笑われていました。しかし、その後急に彼が忌まわしい人々に近づき、遊蕩生活に入り、数々の問題を起こすようになると、誰も彼のことを相手にしなくなりました。母親の遺産の分け前を払わなかったコズヌイシェフとは対立していて、訴訟を起こしたこともありました。ニコライはこの世の中のことは、何もかも悪く、汚らわしいと言っていました。気落ちしていたリョーヴィンは、ニコライのその言葉が本当なのではないかと思い始めました。
 リョーヴィンは、ニコライの家に入り、三年ぶりの再会を果たしました。ニコライは、二年前からマーシャという娼婦と暮らしていました。彼は病的に痩せ、共産主義に傾倒し、労働者に渡るべき資本が資本家に吸い取られている現実を変革するために錠前屋の生産協同組合を作ろうとしていました。酒をやめられないニコライは、そのうちに酔いつぶれて寝てしまいました。
 その翌朝、リョーヴィンはモスクワを発ち、夜には家にたどり着きました。彼は結婚による幸福を期待せず、現在をおろそかにしないこと、情欲に溺れないこと、兄ニコライが困ったらいつでも救いの手を差し伸べられるようにすることを誓いました。再び田舎での生活を始め、ばあやのアガーフィアが自分のふさいでいる気持ちを理解してくれるのを知ると、彼は万事がうまくいくだろうと考え始めました。

 舞踏会のあと、アンナは、ヴロンスキーに会うのを避けるため、予定より早く帰る支度を始めました。ドリーはアンナがいつもよりもいらいらしているのに気づきました。アンナは、キティの恋をまとめようとしていたものの、自分がヴロンスキーを惹きつけてしまう結果になってしまったことを涙ながらに話しました。
 列車に乗りこんだアンナは、夫と息子のいる生活に戻れることに安堵しました。ヴロンスキーの恋に酔ったような従順な顔つきを思い出し、本を読むことができなったアンナは、途中の駅で外の空気を吸いに、雪の降るプラットフォームに降りました。
 アンナが戻ろうとすると、そこにはヴロンスキーがいました。ヴロンスキーは、アンナを追って同じ列車に乗り込んだと言いました。それはアンナが恐れながらも望んでいた言葉でした。アンナは、自分のことを忘れるようにと言いましたが、その言葉が却って二人の距離をさらに縮めてしまったことに気づくと、幸福と恐ろしさを感じました。車内に戻ったアンナは、眠れずに一夜を明かしました。

 ペテルブルクに戻ると、夫のカレーニンが迎えに来ていました。アンナは夫の眼差しに、なにかしら不愉快な感情を覚えました。
 ヴロンスキーもまた、列車の中で眠らずに、自分のすべてのエネルギーがアンナに向かっていくという感情を味わい、幸福を感じました。ペテルブルクに着くと、彼は夫と一緒にいるアンナに話しかけました。アンナの目に一瞬だけ幸福の色が浮かんだのを、ヴロンスキーは見逃しませんでした。
家に帰ると、アンナは息子のセリョージャにも、夫と同じような幻滅に近い感じを受けました。友人のリディア伯爵夫人が訪ねてきても、いつも怒ってばかりいる夫人の欠点ばかりが目につきました。
 それでも午後になるとアンナはしっかりした自分を取り戻し、昨日のヴロンスキーとの一件は、社交界ではありふれたできごとであり、夫に話すまでもないと考えるようになりました。
 夫はアンナのそばに腰掛け、役所で新しい法案を通したことを話しました。アンナは改めて夫のことをいい人だと思いましたが、いつも夫に向ける生き生きとした表情はありませんでした。

 ヴロンスキーはペテルブルクのかつての友人たちに会いました。情欲に身を委ね、その他一切のものを冷笑している人々の中に戻り、彼は気楽なペテルブルクの生活に戻ってきたことを実感しました。
 ヴロンスキーは彼らと言葉を交わすと、アンナに会える可能性のある社交界に出入りする準備を始めました。