レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』の詳しいあらすじ

目次

第三編

 コズヌイシェフは、頭を休めるためにリョーヴィンを訪れました。リョーヴィンはコズヌイシャフの到着を喜びましたが、コズヌイシェフが、田舎暮らしを労働の後の休息で、堕落を防ぐための薬であるという考えでいたので、田舎暮らしが生活の場であるリョーヴィンは、その兄の態度に不愉快を感じました。
 リョーヴィンは、自分自身が農民の一部と考えていたので、農民を理解するとは、人間を理解するのと同じことでした。そのため、彼は農民を理解しているとはっきりいうことはできませんでした。一方、コズヌイシェフは、自分と異なる階級の人々として農民を愛し、理解しているのでした。
 コズヌイシェフは、この地方にある病院や学校などの公共施設が不足していることを聞き、リョーヴィンが地方自治体の仕事を辞めてしまったことを非難しました。しかし、リョーヴィンは、百姓たちが学校に子供を生かせたがらず、病院も大して利用しないことを知り、どんな活動であっても、それが個人的な利害に基づいていなければ、強固なものにはならないことを実感していました。リョーヴィンは、コズヌイシェフが心からではなく、理性的に判断して善行を行おうとしているのを感じました。二人は議論になりましたが、リョーヴィンは言い負かされました。

 リョーヴィンはその前年から、みずから農民に加わり、農作業を行うようになっていました。コズヌイシェフとの議論の翌日も、リョーヴィンは草刈りを行って、汗だくになり、さっぱりとした気分になりました。仕事の終わり頃になると、リョーヴィンははっきりと労働の喜びを感じ、コズヌイシェフよりも百姓たちに親近感を感じるようになりました。
 仕事を終えて家に帰ると、コズヌイシェフがオブロンスキーからの手紙を受け取っていました。その手紙によると、田舎の持ち村に移ったドリーが何もかもがうまくいっていないらしいので、相談に乗ってやってほしいという内容のものでした。リョーヴィンは、ドリーを訪れることにしました。

 ドリーは経費節約のため、幼いころに慣れ親しみ、結婚のときに持参した土地であるエルグショーヴォ村へ、六人の子供達を連れて訪れていました。オブロンスキーはペテルブルクに残り、役所勤めを続けました。オブロンスキーは妻がそこを訪れる前に、その屋敷を訪れ、家具類を揃えて準備しましたが、ドリーがそこを訪れてみると、雨漏りがあり、足りないものばかりが目につきました。この村でドリーは子供たちを聖餐式に連れていき、水浴びを行い、田舎の人びとと慣れ親しみました。
 リョーヴィンが訪ねてきていました。ドリーはリョーヴィンの到着に喜び、子供達もすぐに彼に懐きました。ドリーはキティが間もなく来ることをリョーヴィンに話しました。
 リョーヴィンがキティに結婚の申し込みをしていたことを察していたドリーは、おそらく自分でもなんと言っていいかわからないまま、キティがその申し込みを断ったのではないかと推測し、それはリョーヴィンを愛していなかったという証明にはならないと伝えました。ドリーはキティを救ってほしいと願い、リョーヴィンの方にも忘れかけていたキティへの想いが蘇ってきたように感じました。しかし、リョーヴィンは、二人のことは全て終わったことだとドリーに伝え、キティが訪れてきても自分は会うことはないと言って、エルグショーヴォ村を去りました。

 リョーヴィンは、姉の持ち村の農民たちが農事や草刈りの報告で不正を行っていることを見抜き、彼らの不正を正しに行きました。百姓たちは健康で陽気で、不正を行った者たちも、それを忘れたかのように快く彼に挨拶をしました。リョーヴィンは彼らの生活を羨ましく感じ、百姓の妻を貰う事すら考えました。一晩中眠らずに草場に佇み、夜が明けて村の方へ歩き出すと、箱馬車の窓の中に優雅な令嬢を見かけました。それはキティでした。
 キティを見たリョーヴィンは、百姓の妻をもらおうなどと考えていたことを一切忘れてしまいました。彼はキティを愛していることを思い出し、農民たちとの満ち足りた労働の生活へと行くことはできないと感じました。

 アンナがヴロンスキーとのことを告白して泣き出すと、カレーニンは苦痛を感じましたが、最近ずっと苦しんでいた嫉妬の疑いから解放されたのを感じました。彼は妻を堕落した女だと考え、妻と子供への一切の関心を忘れ、それ以外のことを考えられるようになったことを喜びました。そしてどのようにすれば世間体よく自分の名誉ある生活を続けられるかを考え始めました。臆病な彼は決闘をすることはできませんでした。離婚をするにも、法的な証拠がなく、洗練された立場である彼には、証拠を暴いたとしても、社会的な信用を失うことになりそうでした。妻に対する無関心にも関わらず、ヴロンスキーとアンナが一緒になることも望んではいませんでした。妻に対する嫉妬は消えても、罪に対する報いを受けさせたいという思いは残りました。ヴロンスキーが考えた唯一の方法は、この醜聞を世間から隠し、妻をヴロンスキーから別れさせて手元に置くことでした。
 彼は、その意思を伝える内容の手紙をアンナに送ると、現在の勤務上の関心ごとを考え始めました。

 アンナはその後もヴロンスキーに会いましたが、羞恥の心から、夫との間に起こったことを打ち明けることはできませんでした。家から追い出されたらどのように暮らしていけばいいのだろうと考え、ヴロンスキーも自分を愛していないような気がして、敵意すら感じるようにもなりました。さらに皆がこの問題を知っているように思い、恐怖を感じました。
 小間使いがやってきて、セリョージャが置いてある桃をこっそり食べたことを伝えました。とたんにアンナは今まで忘れていた息子への愛を思い出し、セリョージャとともに家を出ることを決意し、モスクワへ発つという手紙を夫に出しました。
 荷物を運び出している最中に、カレーニンからの手紙が届きました。夫の手元に置いておかれるという手紙の内容は、アンナの想像しうる最も恐ろしい生活でした。アンナは、夫の道徳的な正しさを憎み、愛の自由を味わうことなく、罪深い女としてとどまるであろう自分の不幸を嘆き、泣きだしました。
 アンナは急に引っ越しをとりやめることにして、ヴロンスキーに会えるかもしれないベッツィの家へ向かいました。その日はアンナの属しているグループと敵対関係にある人々が多く来ることになっていました。アンナはヴロンスキーがベッツィの家に行かないと言っていたことを忘れていたので、ヴロンスキーに会うことができませんでした。そこでアンナは、自分とヴロンスキーの関係と同じような状況にあるにも関わらず、その関係を心から楽しんでいる男女に会いました。ヴロンスキーとの関係に苦しんでいるアンナは、自分が善い人間なのか、悪い人間なのかわからなくなりました。
 アンナは、夫の政敵でありながら愛想よく振舞ってくる人々と気楽な時を過ごした後、ヴロンスキーに会うために、手紙で指定した待ち合わせの場所へ向かいました。

 その頃、ヴロンスキーは、アンナとの関係をよしとしない母親からの収入が途絶え、金を捻出しなければならない状況に陥っていました。彼は未だにアンナを愛していましたが、妊娠を聞かされてから、金のない自分にアンナを連れ出すことができるのかと疑問に感じました。
 また、一週間ほど前に、彼の少年時代からの友人であるセルプホフスコイが、将官になって中央アジアからペテルブルクへと帰ってきたのを見て、ヴロンスキーはもともと高かった名誉心が刺激され、アンナを連れ出すために今退職するのは得策でないと考えました。セルプホフスコイは、ヴロンスキーがアンナと関係していることを既に知っており、結婚せずに女に明け暮れるのは出世への遠回りだと暗に伝え、自分たちの隊にくるように言いました。ヴロンスキーは、自分を有為な人間だと認めてくれたセルプホフスコイからの友情を感じました。
 アンナは夫に全てを打ち明けたことをヴロンスキーに伝え、夫から来た手紙を見せました。彼女はヴロンスキーがその手紙を見て、何もかもを捨てて自分と一緒に行こうと言ってくれることを望んでいました。しかし、ヴロンスキーの眼差しからははっきりとしたものが感じられず、アンナは自分の期待が裏切られたと感じ、状況が変化することはないだろうということを悟りました。
 アンナは自分たちの関係をはっきりさせるために、夫のところへ向かい、自分は罪深い女であるが、もうなに一つ改めることはできないと伝えました。カレーニンは怒りにかられ、自分たちの関係が社交界に知れ渡るまでは、夫婦の関係はこれまで通りでなければならないと主張しました。そしてヴロンスキーと会わないようにすること、社交界で非難されないような行動をとることを要求しました。

 リョーヴィンは、百姓たちが自分のことを愛していること知っていましたが、それでも彼らは呑気に暮らすことばかりを考え、リョーヴィンが気を取られている農事経営を理解することはありませんでした。そのような百姓の態度を見ているうちに、リョーヴィンのほうも農事経営に嫌気がさすようになってきました。
三十キロ離れたところには、自分が未だに恋をしているキティが滞在していることを知っていましたが、会いに行こうとはしませんでした。
 彼は自分が嫌になり、以前から誘ってくれていた、親友のスヴィヤジュスキーのもとを訪ねて行きました。
 スヴィヤジュスキーは郡の貴族団長を勤める地方自治体の活動家で、完璧な農事経営を行っていました。スヴィヤジュスキーは、農奴制主義者の地主と話をしていました。地主は、農奴解放によって地主の権力が下がったため、百姓に対しては鞭になるような方法で管理しないとならないという意見でした。一方、スヴィヤジュスキーは、合理的な農事経営には、百姓たちの教養が要ると主張しました。
 リョーヴィンは二人の意見を参考にして、収益を得るために大事なことは、百姓たちが仕事の成功に興味をかきたてられる方法を発見し、収益のうちの半分を労働力にあてることだと考えるようになりました。リョーヴィンは幻滅していた農事経営に、新しい考え方を見出し、この考えを実現するためにすぐに帰宅することを決めました。

 自分の領地に帰ったリョーヴィンは、自分が百姓たちの仲間となり、一緒に農事経営の計画に参与するという計画を農民に話しました。農民は猜疑心が強く、利益の配分を預かれるというリョーヴィンの意見をあまり信用しませんでしたが、何人かは、リョーヴィンの領地の担当を行うことが決まりました。リョーヴィンはその仕事に熱中しました。そしてそれが軌道に乗り出すと、リョーヴィンは革新的な農事経営の著述を完成させるために、実地で何が行われるかを観察しに、外国へ行く計画を立て始めました。

 リョーヴィンの家の中のものを売った時の自分の取り分を貰いに、ニコライが訪れました。兄は以前よりもさらに痩せ、死期が迫っているようでした。彼はマーシャのことは追い出してしまったようでしたが、モスクワで就職の口を得たようでした。ニコライには自分の死が迫っていることを知っていましたが、決してそのことを口に出そうとはしませんでした。
 リョーヴィンは自分の農事経営の計画をニコライに話しました。しかし、生産性を上げるために利益を配分するというその方法が共産主義と同じことだと批判され、腹を立てました。二人は口論となりましたが、別れ際には、もう兄に会えないのだと悟り、リョーヴィンは涙を流しました。
 リョーヴィンは死というものについて初めて深く考え、いつか必ず訪れるその時までは、自分の仕事にしがみついて生きていかなければならないと思いました。